真・恋姫†無双~神獣と黒き御遣い~   作:ポチ&タマ

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 半年どころか今月内の更新でした。感想パワーのおかげです。
 バレンタインということで物語をプレゼント。

※サーナイトの過去話はシリアスな話となっています。
※後書きにポケモンの生態を載せました。


【回想】サーナイトとの出会い その1

 とある地方のとある街。ビルや民家が立ち並ぶその街はポケモントレーナーにとって利便性が高く、街の人々からも住みやすい街として親しまれていた。

 そんな平和な街の一角に佇む一棟のビル。

 一見どこにでもあるビジネスビルであり、事実若いポケモントレーナー向けの服やアクセサリーなどファッションを開発している会社である。

 しかし、それは表の顔。その裏で行われている、えげつないビジネスを知るものはごく一部の人間のみ。

 そう。血と悲鳴と嘲笑の声が響き渡る、死のビジネス。

 その命の散り様を楽しむ、禁断の賭け事。

 人とボケモンを戦わせ、その死に様で観客を楽しませるエンターテインメントだ。

 

 コロッセオを彷彿とさせるすり鉢状の地下闘技場。観客席には通常の娯楽では満足出来ない、特殊な趣味を持った人々(セレブたち)がひしめき、雑談を交えながらショーが始まるのを待っている。

 

 ふと周囲の明かりが消え、コロッセオの一角にスポットが集中する。

 そこにはタキシードに身を包み、シルクハットを被った一人の男。

 パピヨンマスクのような仮面を被った男は、手にしたステッキを大仰に振るい声高だかに叫ぶ。

 

「レディース&ジェントルマン! 肉が裂け、血潮が飛び、断末魔が轟くこの死の闘技場にようこそおいで下さいました! 今宵も最高のショーをお送りすることをお約束しましょう!」

 

 男の声に観客席から大きな拍手が湧き起こる。

 

「拍手喝采痛み入ります。さてさて、今回のカードも見ものですぞ! 方や人間の身でありながらポケモンを相手に、十二戦全勝という信じがたい記録を伸ばし続けているミラクルボーイ! ユウジィっ!」

 

 手にしたステッキの切っ先をコロッセオの入り口へと向けると、重い音を立てながら門が迫り上がる。

 

 槍を手にした係員にせっつかれるようにして現れたのは、一人の青年。

 上半身は裸でズボンのみを履いている。無骨な首輪がその立場を雄弁に物語っていた。

 身長は一八〇センチ程で、一見すると痩せ細った印象があるが、よく見ると彫刻のように鍛え抜かれた筋肉を纏っているのが分かる。

 背中や胸などには、大小様々な古傷が刻まれており、これまでの熾烈な戦いが見て取れる。

 罪人のように手枷を嵌められた青年、ユウジは係員に錠を外してもらうと、一振りの簡素な剣を受け取り、気だるげに肩に担ぐ。

 

「そんな彼の前に立ちはだかるは、災いポケモンのアブソォォォルっ!」

 

 向かいにある門から現れたのは、一匹のポケモン。

 白雪のような純白の毛は悪環境の中においても汚れ一つなく、その気高さを物語っているかのよう。

 忌わしそうに周囲を見回したアブソルは小さく鼻を鳴らすと、ユウジに視線を向けた。

 

「今宵を生き延びるのはユウジか! それともアブソルか! 今、命を懸けた戦いが始まります!」

 

 タキシードの男の声に観客席から歓声が沸き起こる。

 その様子を冷めた目で眺めていたユウジは、警戒した様子で隙を伺うアブソルに声を掛けた。

 

「──まったく。お互いツイてねえよなぁ、本当に」

 

 友に向けるような柔らかな声音。敵意や殺意の欠片も感じさせないのほほんとした表情。

 これから殺し合うとは思えない気さくな雰囲気に、一瞬キョトンとした顔をするアブソルだが、人間の言葉など聞く価値もないと言いたげに睨む。

 

「グルルル……」

 

「はぁ、しゃあない……」

 

 殺意を漲らせたアブソルは、額から生えた鋭い刃で喉を掻っ切ろうと狙う。

 その殺意を肌で敏感に感じ取ったユウジは、小さく溜息をつくと剣先を地面に向けた。

 

「始めるますかね」

 

 先手を仕掛けたのはアブソルだった。

 体を沈み込まさせてグッと四肢に力を込めると、一瞬にしてユウジの視界から消える。

 残像すら残さぬ超高速移動。その圧倒的な速さから世間では“でんこうせっか”という名で知られている技だ。

 予備動作の少なさと電光石火の名に恥じない速度から、必ず先制が取れる上に高い確率で命中するという。

 バトルフィールドを囲うようにして観戦している観客たちも、アブソルの姿が一瞬で掻き消えたように見えた。

 そんな中。

 

「おっと危ね」

 

 ひょいっと頭を下げるユウジ。丁度首があった場所を銀閃が走り抜けた。

 大分離れた場所に音もなく着地するアブソル。避けられるとは思っていなかったのか、驚きのあまりポカンと口を開けていた。

 しかし、その表情はすぐに怒りのものへと切り替わる。

 

「シャー……ッ」

 

 勢いよく駆け出すアブソル。あまりの速さにアブソルが三匹、四匹、五匹と分身しているように見える。

 無論、数が増えたわけではない。“ふぇいんと”が生み出す残像だ。

 しかし、ユウジを中心に四方八方へと駆け回る様からは、まるで本当に分身しているかのように見える。

 

「あー、攻撃ではなく移動に重きを置いた『でんこうせっか』か。それも連続な上に次の動作までの流れがスムーズ。素晴らしい練度だ。それに流石のスピード。そしてそこからの──」

 

「シャッ!」

 

「『つじぎり』な」

 

 縦横無尽に駆け回るアブソルは、すり抜け側に額の刃を振るい、幾重もの斬撃を放つが──。

 

「……ッ」

 

 当たらない。まったく当たらない。

 体捌きだけで全ての斬撃を紙一重で避けている。異動範囲も僅か半歩のみ。

 空を切る鋭い音がユウジの周囲を取り囲むが、その刃は掠りもしない。

 功を焦ったのか真正面から斬り掛かろうとするアブソル。

 瞬時に軌道を見切ったユウジは、タイミングを合わせて軽く跳躍した。

 

「いよっと!」

 

 空中で体を捻り半回転すると、アブソルの刃を両手で挟みながらその背中に飛び乗る。

 そして両足をアブソルの首に絡ませると、そのまま締め上げた。

 とある地方で三角絞めと呼ぼれている技ににている。両足で頸動脈を締めて、相手を落とす技であるが、首を振るって振り落とそうとするアブソルを見るにボケモンが相手でも有効らしい。

 脳へ酸素が行き渡らなくなってきたのか、傍目から見ても徐々に抵抗力が落ちていく。

 そして、ついに力尽きたアブソルは、横倒れになる形で地に体を着けた。

 

「すまねぇな……」

 

 動けないアブソルの首筋を一撫でしたユウジは、立ち上がり手にしていた剣を地に突き刺した。

 待っていましたと言わんばかりに大仰な振る舞いで声を上げる司会者。

 

「此度の戦いを制したのは、ユウジだぁぁぁ! なんとこれで十三連勝! 人間の身でありながらどこまで生き延びることが出来るのか見物ですな!」

 

 観客席から嘲笑の声が上がるが、ユウジは涼し気な顔のまま。それを一瞥した司会者は定番の行事を執り行なうべく、声を大にする。

 

「さてさて、古来より敗者に与えられるものは死と相場が決まっております! これよりアブソルの公開処刑を開催致しますぞ!」

 

「おいおい、そんなこと俺がさせるとても思ってんのか?」

 

 その言葉にユウジは鋭い視線を投げかける。殺気を漲らせて司会者を睥睨するユウジ。

 アブソルとの戦いでは一度も振るわれることがなかった剣が、場合によっては役割を果たすかもしれない。

 

「またワガママかね。いい加減、その偽善者面はやめたまえ」

 

 司会者の男はマイクの電源を一旦切ると、呆れ果てた目でユウジを見据えた。

 

「九回だ。これまで九回もキミのワガママを聞いてあげたのだ。血に飢えたお客様方を毎度説得するのも苦労するのだよ?」

 

 地下闘技場を統べ、ユウジたちの主でもある男は、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「それに、キミの懇願を聞き入れたとしても、どうせすぐに同じ運命を辿るだろう。これまでキミが助けてきた九匹たちのようにね」

 

「テメェ……」

 

「おっと、動かないでくれたまえよ。不審な動きをしたら即座にスイッチを押すからね。キミも死にたくはないだろう?」

 

「チッ」

 

 これ見よがしに手にしているステッキの取っ手に親指を乗せる男。

 そこには小さな突起があり、ユウジの生殺与奪の権利を握っているのは明確だった。

 

「まあ、キミには期待しているのだし、次回のカードは二一で手を打とうではないか」

 

「はっ、端からそのつもりだったくせに、よく言うぜ」

 

 男の提案を飲み込み殺気を収めるユウジ。

 それまで切っていたマイクのスイッチを入れ直し、大仰な振る舞いでアブソルの処刑の撤退と引き換えに、次回は二対一で望むことを説明した。

 拍手で応える観客たち。彼らにとってポケモンも人間も関係ないのだろう。

 血潮が飛び、目の前で命が潰えるその瞬間が見られればそれでいいのだ。

 

「ちっ、クズどもが……」

 

 歓声を上げる観客や、優雅に一礼して回る司会者を一瞥したユウジは、すぐに意識をアブソルへと向けた。

 

「大丈夫かアブソル」

 

「グルル……」

 

 横這いになったまま動けないでいるアブソルに手を差し伸べるが、警戒心の籠もった唸り声を上げる。

 

「人間に生かされるなんて屈辱、ってか? まあ、こんなところに放り込まれて訳も分からず殺し合いなんてさせられれば、そう思うのも当然だよな」

 

 屈み込み徐ろに手を伸ばすと、アブソルは手の甲に噛み付いた。

 鋭い牙が半ばまで肉に埋まり、血が滴る。

 唸り声を上げながら手に噛み付いて離さないアブソルに目を細めながら、反対の手で優しく頭を撫でた。

 

「死のうと生きようと、コイツらを喜ばせるだけだろうが、それでも生きていれば何とかなるもんだ」

 

 やけに手慣れたその手付き。毛先を指先で梳くようにしながら、柔らかく手のひら全体で撫で下ろしていく。

 目を細めるアブソル。その懐かしい感覚に、かつての記憶が掘り起こされる。

 

 仲間外れにされて群れから追い出された己を見つけ、温かく迎えてくれて。いつしか生涯最高の相棒と呼んでくれるようになり、己が最も信を寄せたトレーナー(主人)

 仲間たちと一緒に焚き火を囲いながら、トレーナー(主人)の毛繕いを堪能した夏の夜。

 己より遥か高みに立つ強者を、トレーナー(主人)と一緒に戦い抜いた、血湧き肉躍る一時。

 安心感。信頼感。

 もう二度と抱くことはないだろうと思っていた感覚が頭を撫でる人間の手から伝わってきた。

 

 思わず噛み付いていた手を離してしまうアブソル。どこか呆然としたその姿に怪訝に思いながらも、掛けるべき言葉を口にする。

 

「お前さんに打ち勝った俺が掛けていい言葉じゃないが……こんなところで死ぬなよアブソル。泥水啜ろうと生き延びる気概を持て」

 

 人の悪意なんかに負けんじゃねぇぞ。

 こんなクソみたいな場所なんかで死ぬんじゃねぇぞ。

 クソッタレた運命なんかに、負けんじゃねぇぞ。

 

 まるで赤子を寝かしつけるような優しい手と声。

 疲労と、久しく感じることがなかった安堵感に、アブソルの意識が微睡んでいく。

 揺り籠に揺られるかのような安心感に包まれながら。

 

 

 

 1

 

 

 

 係員に再び枷を付けさせられたユウジは、連行されるように部屋へと戻される。

 まるで犯罪者を相手にしているかのような対応だが、当の本人は胸を張り、毅然とした足取りで道を進む。

 石畳の通路を進むと、居住エリアに辿り着く。

 そこは等間隔で扉がずらりと並んでいるエリア。

 扉は木製で中の様子が見えるように鉄格子が取り付けられていた。

 各部屋からは怒声や呻き声などが聞こえる。

 部屋、というよりは牢屋と表した方が適切かもしれない。

 

「ただいま、と」

 

 扉が閉まり施錠する音を背に、ユウジは帰宅を意味する言葉を口にする。

 同居人はいない。三畳一間の空間には藁が敷かれた天然ベッドと薄汚れたシーツ、便所代わりの壷、傷んだ空の木箱があるだけだ。

 寂れた牢屋とも言える様相を呈しているが、それでもユウジは「ただいま」と言い続けるだろう。

 いつか地獄のような場所から出て、愛する家族たちを迎えに行くために。

 

「さて、始めますかね」

 

 シーツの端を裂き、嚙まれた傷を縛ったユウジはズボンを脱いでパンツ一丁になると、徐ろに筋トレを始めた。

 先のアブソルとの戦いでは、あまり肉体を酷使しなかった為、まだまだ体力に余裕がある。

 こういう日は残った時間を筋トレなどに充てて、鍛錬に費やすのが日課だ。

 その場に伏せると五本の指のみで体幹を支え、鋭い呼気とともに体を持ち上げ、降ろす。

 片手指立て伏せ。何度も行っているのだろう。石畳の床の所々には指の跡がくっきりと残っている。

 

「ふッ! ふッ! ふッ! ふッ」

 

 ユウジは戦闘奴隷である。

 いや、ユウジだけではない。この施設に収容されているポケモンや人間たちは、すべて奴隷の烙印が押された者たちだ。

 その身分を示す首輪が、腕立てをする度にカチャカチャと音を鳴らして存在感を示している。

 

 ここは人間の悪意を煮詰めたような場所だ、とユウジは感じていた。

 野生のポケモンを群れ単位で捕獲し、仲間たちで殺し合わせる。

 トレーナーのポケモンであろうと関係ない。トレーナーを人質に取ることでポケモンを脅し、鹵獲。

 そうやってポケモンとトレーナーを確保し、人間には逃走防止用の爆弾を首に付け、ポケモンには言うことを聞かないとトレーナーを殺すと脅して奴隷として酷使しているのだ。 

 人間とポケモンを戦わせ、その戦いぶりや死に様で娯楽を覚える。裕福な人間たちの暇潰しの娯楽として──。

 

「ふッ! ふッ! ふッ! ふッ」

 

 テンポよく体を動かしながら、ユウジは鋭い視線を扉の方へ向ける。

 扉の向こう側にいるであろう飼い主へ、憎悪の刃を研ぎ澄ませながら。

 そう遠くない未来、彼の者をその手で始末するために。

 

「ん?」

 

 ふと指立て伏せを止めるユウジ。

 何かが倒れる音が聞こえた気がしたのだ。

 もちろん部屋にはユウジ以外誰も居ない。

 ワッカネズミ一匹通れる隙間も無いはずだが、ユウジの直感は『誰か居る』と囁いている。

 その直感を頼りに、隅っこに放置してある木箱へ歩み寄ったユウジは、埃まみれの蓋をそっと外した。

 

「ラルトス? 何でここに……」

 

 そこに居たのは、一匹のポケモン。

 

 緑色のおかっぱ髪で隠れた瞳と、頭部の中心から生えた赤い角。

 白いワンピースを彷彿とさせる下半身。

 人間で当てはめれば三歳児程度の小さな体躯。

 

【きもちポケモン】と呼ばれるラルトスが、箱の中で蹲っていた。

 

「──っ! 死にかけじゃねぇか……!」

 

 持ち上げてみると、恐ろしいほどに軽い。満足に食事が出来ていない証拠だ。

 その上、体温も著しく低下している。辛うじて胸が上下に動いたいるが、いつ止まっても可笑しくない状態だった。

 

「取りあえず、コイツでなんとか暖をとって……」

 

 シーツでラルトスを包んだユウジは藁の布団に寝かせると、自身も横になり添い寝をする。

 なるべく体温が伝わるように体を密着させて、包み込むようにその小さな体を抱き寄せた。

 

「死ぬんじゃねぇぞ……」

 

 何故ラルトスがこんなところに居るのか分からないが、施設の人間に見つかればどのような扱いを受けるかは明確だ。

 これまでユウジと戦ったポケモンたちは屈強な者ばかりで、ラルトスのような低レベルなポケモンはいなかった。

 だからこそ、この小さな命は守らなければならない。

 たとえそれが自己満足であろうと、散っていった同胞たちの分まで。




 あまりシリアスな物語は書かないけど、プロット上書かざるを得ない。
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