『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』   作:三途リバー

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西美濃について知識不足のため、位置関係等ガバガバかと思いますが生温かい目で読んでいただけると幸いです。
三人衆+不破以外の西美濃に自信ニキ、情報お待ちしております。因みに筆者の専門は奥州、特に伊達です。


2024/02/28 追記
地理関係について大きな矛盾があったため、一部内容を大きく変更いたしました。大変失礼いたしました。


Hole in my heart!

 

墨俣にて齋藤飛騨守を討ち取り、豊久ら織田軍はその勢いのまま北上した。誰もが織田軍はその場で駐留し、築城作業へ従事すると見る中、豊久は電光石火の勢いで最寄の城へ攻め寄り、齋藤傘下勢力の混乱を突いたのだ。

まさか攻められると思ってもみなかった城側は碌な備えをする間もなく陥落し、城将は首を刎ねられる。その首を掲げて進軍し、時には野戦で、時には城攻めで手柄首を増やしながら北上すること暫く。

 

「うむ。城将が腹ば召すなら追い討ちはせんど」

 

「かたじけなし。……島津殿、恥を忍んで今ひとつお頼み申す。我が愚娘、何卒織田上総介様にお引き立てのほど…何卒、何卒お願いしたく存じまする」

 

「壬月、良かが?」

 

「いきなり領主として認められはせんだろうが、仕官については私とこの中書より口添えしよう。そこから先は娘御の器量次第」

 

「ありがたや。これで、なんの未練もなく腹を切れまする」

 

「介錯はおいがさぱっとするち、安心しちくい」

 

 

 

 

「………ねぇひよ、これで何個目だっけ」

 

「えー…5個目の城だね、ころちゃん。無血開城は2個目で、城主の首も5つめ」

 

その勢いはあまりにも破竹過ぎた。

15日のうちに5個めの落城。3日にひとつの勢いで城を落とし、首を奪り、齋藤の勢力圏を削っていっている。

しかも酷いのが、豊穣の地とされ織田が長らく狙っていた西美濃には目もくれず、ただひたすらに稲葉山を目指して攻め上がっていることだ。

自分達は眼中に無いとばかりに悠々と北上していく織田勢の不気味さに西美濃国衆は戦慄。急襲案も持ち上がったが、そのあまりの強さと齋藤氏の対応の後手後手さを目の当たりにし、『あれ、これもしかして乗り換え時だったりする?』と態度を揺らがせている。有り体に言えば日和見である。

 

「いくら豊久さまのお考えが当たったとは言え、ここまで呆気ないことある…?」

 

「うーん…でもまぁ、美濃八千騎って自慢するくらいの兵力のうち、4000近くを1回の戦で討ち取ったのはやっぱり大きいよ。今切腹する大沢さんだって、墨俣とその後の戦を目の当たりにして抵抗は無意味って悟ったんだろうし」

 

今や丸に十字の紋を見ただけで城は開き、城主が降伏を申し出て腹を切る。これには単にその武功だけでなく、降兵には決して危害を加えず、捕虜も丁重に遇する姿勢が一役買っていた。降伏する先として、ある種の信頼を得たと言える。

 

「えぇ…なにそれ…怖……」

 

「ころちゃんも一緒にここまで来たじゃない!?」

 

「いやまぁ、確かにね?私ら川並衆も豊久さまの熱に浮かされて突っ走って来ちゃったよ?私たちを認めてくれた最高の大将の為にーって不休で頑張ったよ?でもいくらなんでも美濃の半分まで来れるとは思わないじゃん!?」

 

転子にとっての戦とは、その場その場で行われる一回限りの軍勢の激突、もしくは中長期的な睨み合いを指す。少なくとも今まではそうだった。戦略規模での考えを持たない…持つ必要がなかった転子にとって、今回の豊久の美濃攻めは全くの新体験なのだ。

 

「正直それは私も同じだぞ」

 

「し、柴田さま!!」

 

「なんだ、今更畏まるな。壬月で良い」

 

転子とひよ子の背筋が伸びるが、当の壬月は朗らかに笑うのみ。

どうやら切腹の検分を終えたらしい。

 

「あれは戦馬鹿だ。類稀なる戦馬鹿だ。常人の物差しでは測れん。とんでもない戦をやらかすし、その上タチが悪いことに周囲にその熱を伝播させていく。かく言う私も、年甲斐もなく無心で斧を振るうたわ。理屈も道理も頭から抜け落ち、ただ奴の背中と声だけが頭の中から離れない…お主もそうであろう?」

 

「…」

 

こくり、と赤い顔をした転子が頷く。荒事が苦手なひよ子は首を傾げているが、壬月と転子、道は違えど共に戦場に生きてきた2人の中には通じる物があるのだ。

 

「久遠さまは『狂奔』…人を戦に駆り立てる力と仰られた。まさに言い得て妙。我ら3000足らず、ものの見事に奴の熱に浮かされてここまで来てしまった。まったく、大したタラシだ」

 

溜息を吐くその横顔がどこか嬉しそうだったのを、転子は確かに見て取った。やはり、()()である。

 

「だが流石にやり過ぎたな。この兵数で維持できる占領地はここらが限度…というかとうに限界を超えている。奪った城に馬鹿のような少ない人数しか割かぬからなんとかやりくりできていただけだ。そろそろ稲葉山の馬鹿共も本腰の救援を送ってくるだろう」

 

占領すれども統治せず、とはよく言ったもので、豊久は最低限の人数だけを奪った城に配置し、更に北を目指した。墨俣での完勝が喧伝され、齋藤に大打撃を与えたからこそ為せる荒業だったが、半月も経てば流石に向こうも多少の態勢は立て直してくる。兵数的にも時間的にも、これ以上の侵攻は不可能だった。

 

「清須には落城の度伝令を走らせ、こちらの現状は事細かに報告している。麦穂ならば手早く援兵をまとめ、墨俣に本陣を敷いてこちらへ主力を回してくれるだろう」

 

「じゃあ、私たちはようやく一息ですね」

 

「うむ。まぁ我らが御大将がそんな理屈で止まるかどうかは分からんが…取り敢えず出来る限り首根っこを捕まえ、殿と麦穂を待つことだな。……これは久方ぶりに麦穂の本気の雷が来るかな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、尾張国清須。

島津豊久快進撃の報をほぼ3日おきに受ける久遠達の様子と言えば。

 

「麦穂、すまぬ。我が間違っていた」

 

「いえ、仰らないで下さい…私もまさか、これ程までとは……」

 

戦勝報告を受けたとは思えぬ疲労困憊ぶりである。墨俣の一戦にて大勝利、と聞いたところまでは良かったのだ。2人とも思わず腰を浮かす程に興奮し、それ見た事か、我らの見立ては間違いないと息巻いていたのも束の間。

 

『尚、豊久様よりご伝言!我ら総勢2500、このまま稲葉山を目指して進軍!御館様におかれましては、本軍を率いご出馬されたし!』

 

『『は??????』』

 

何言ってんだあいつと使者を問いただす間もなく、第二報。

 

『御味方勝利!大勝利にございます!島津豊久様、齋藤勢の城を陥としご入城!』

 

そこからはもう、戦勝・落城祭りである。

 

「いや確かに言った!稲葉山が欲しいとは言った!!だが今そこまで手を伸ばす余裕はない!!!!」

 

「私もまさか中書どのが本気だとは思いませんでした…家中の反対勢力への当て付け、一種の法螺かと…」

 

呑気に島津豊久天人伝説を練り上げている場合ではない。今川やその他の敵対勢力、尾張国内の治安維持の為の人手は残しつつ稲葉山攻めの兵力、それ自体はなせずとも豊久が占領した地域に置く代官や兵の手配、彼らの撤兵支援など計算すべき事が山ほどある。

 

「くそ、結果的に西美濃と稲葉山の連絡が途絶して三人衆がなびき始めてるのが逆に腹立つな、最適解すぎて!これまで我らがせっせと仕掛けていた調略は一体…」

 

安藤、氏家、稲葉の三人を筆頭に、利に聡い西美濃の国衆にはこれまでも引き抜きをかけていた。────義龍という圧倒的存在が健在であったことと、直接の合戦で終始織田側が不利だったことから効果はあまりなかったが。

 

「ここまで行ったら竹中とも鉾を交えず通過してくれ……下手に何か事を起こすと縁戚の安藤を刺激しかねん……でもあやつ無意識だろうからなぁ!そういうこと考えてないんだろうなぁ!!」

 

「あ、竹中とは既に墨俣でまみえたそうです」

 

「ぐぁぁぁあぁぁぁ!!!」

 

不幸中の幸いなのは、織田に幾度も苦杯を舐めさせた今孔明…竹中半兵衛が墨俣での戦を静観していたこと。不幸中の大不幸は彼女が豊久打倒に燃え始めたことである。

 

「2万5000石の大名と言うから一通りは任せられると思うたがアレだな!!あやつ馬鹿だな!!!」

 

「まぁ過ぎたことを言っても仕方ありません……どうにか2000…いや3000は纏めて中書どのの撤兵支援と、占領地の慰撫に充てなければ」

 

「占領地の統治が問題過ぎる!城主の死亡は仕方ないとはいえ、その側近も討死するか開城後に落ちさせているのだろう?即時統治出来る人材がおらん!いっその事林か金森あたりを代官として送り込むか?いやそうすると清須と長島のことが…ぐむぅ……」

 

「2人とも、一服して頭を休めたら?」

 

うんうんと唸る2人の前に、ことりと湯呑みが置かれた。

 

「結菜…すまぬ、貰おう。……あ"ー、沁みる…」

 

「ちょ、やめてよおばさんくさい!」

 

「ここ半月で5歳は老けた気がする…」

 

実際、それ程までに問題は深刻だった。久遠は豊久に小言を言いたくて堪らないし、麦穂は麦穂であなたまで一緒になって何をやっているのですかと壬月を絞らねば気が済まない。

 

「どこかにおらぬものか…齋藤の旧領に置いても波風が立たず、もしもの時にもある程度腕が経つ者…」

 

「人心を掴めて、勝ちに乗る織田の将も齋藤の旧民も従えられる代官ですか?そんな都合の良い人物……」

 

「はぁ、まったくあの野蛮人も人の故郷で好き勝手やってくれるものね…」

 

「「…………」」

 

「え、何ちょっと。なんで2人して私を見てるのよ。ちょ、ちょっと目が怖いんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。大沢どのもお腹を召しましたか」

 

急使の報せに淡々と相槌をうちながらも、詩乃の視線は絵図より離れることはなかった。

 

()()()()()()()。我らも出陣します。長井さまにも連絡を」

 

織田勢の進軍が破竹であったのは事実だ。豊久の武力も本物である。だが彼が陥とした最後の一城、大沢正秀が納める鵜沼城は訳が違った。

 

「城兵に損害を出さず、織田勢を油断させるため一身の名誉を捨て手早く割腹……はぁ、稲葉山に大沢どの程の柱石が残っていれば、彼の人も斯様な最期を迎えることはなかったでしょうに」

 

墨俣の戦いを傍観した後、詩乃はすぐさま自領の菩提山城へと撤退。主君、龍興への献策は無駄と見て道三時代からの盟友にして先達、大沢正秀に連絡を取った。

 

恐らく織田勢は、それを率いるあの武者は齋藤にトドメを刺さんと時を置かずに北上してくる。今の稲葉山城に、この電撃侵攻を食い止めるだけの力は残っていない。飾りとは言え家老である飛騨守の討死の影響もあり、西美濃及び中美濃への救援は暫くないだろう。このままでは良いように齋藤氏の領土は切り取られ、いずれやって来る織田信長本人に蹂躙されてしまう。

そこで貴方の力が…否、貴方の死が必要なのだ、と。

 

「流石にここまで少ないとは思いませんでしたが、それでも織田勢は多少なりとも占領地に兵を置いてきている。当初は2500ほどいた軍も、今や1500を僅かに上回るかどうかといったところでしょう。単純に数が減ったうえ戦線は伸び切り、補給線の構築もせず、本軍とは遠く離れて敵国の中に居座る孤軍…それが今の島津軍です」

 

正秀の降伏・開城によって島津豊久を鵜沼へ足止めし、城主の死と引き換えに落ち延びさせた兵でもって騙し討ちの形で織田勢を囲む。守るのは疲労が蓄積した僅か1500の遠征軍、攻めるのは勝手知ったる自城の兵。

 

しかも鵜沼に最も近い関城城主は道三の末弟、長井道利である。要職に就きながらも龍興嫌いは公然の秘密といった変人だが、それゆえ冷遇されている誌乃との関係は悪くない。ことが起きた際には援軍として馳せ参じる旨、既に確約を得ている。

 

万一手こずり、島津豊久を一気に討ち取ることが出来ずとも、時間を稼げば占領された土地の齋藤残党が蜂起し、数の少ない在城兵を打ち殺して城を奪還するだろう。そうすればいよいよ織田勢は包囲の中である。

 

(あなたが墨俣を餌にするならば、私は鵜沼を餌にあなたを釣ってみせましょう。あなたが完全包囲をもって敵を撃滅するのであれば、私は奪われた地すらも包囲の一角とし、大網をもってあなたを絞め殺しましょう)

 

詩乃を突き動かすのは、齋藤家への忠義などではない。道三や義龍への恩義、故郷を守るという使命感ですらない。

ただ、島津豊久を倒したい。

竹中半兵衛詩乃重治の全霊をもって、あの武士(さぶらい)の首級を奪りたい。あの男を超えることで、自身の才を証明したい。

 

「范可どのも長良川ではこのような気持ちだったのでしょうか…ふふ、少々不謹慎でしたね」

 

今生初めての胸の高まりに突き動かされ、詩乃は笑う。

最早、あの男を超えねば詩乃は生きていけない。超えなければ始まらない。それ程までに魅せられた。

 

目覚めた伏龍は最早止まらない。鬼との邂逅まで、あと僅か。

 





長井道利……道三の弟だったり庶子だったり出生が諸説ありすぎる齋藤家家臣。道三と義龍が対立した際は早々に義龍に付き、「You、実の弟2人殺してついでに父親も殺して実権握っちゃいなyo」と進言(意訳)した張本人らしい。あまりにもストレートなヤベー奴だったため義龍から危険視され、厚遇されず龍興の代には一層扱いがひどくなった。なんなら武力衝突を起こしていたらしく、信長の美濃侵攻に際して『和睦』した形跡が残っている。蝮の血族ってこんなんばっかか?

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