『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』   作:三途リバー

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ちょっと信じられないくらい筆が進まない…タスケテ…タスケテ…


夜にフラレても

 

墨俣合戦にて、多大なる戦功を挙げた豊久。久遠はそんな豊久を満面の笑み…ついでに全力の飛び蹴りをもって出迎えた。

 

「はははは見事な戦働きではないかこの考え無しの猪突馬鹿めが!!!!」

 

「なんがぁ、機嫌悪かの」

 

だが、流石に関ヶ原後の病み上がりとは訳が違う。なんなくそれを躱し、尚も青筋を浮かべながら殴りかかろうとしてくる久遠の頭を押さえ付けながら、豊久は涼しい顔である。

 

「だ、れ、の、せ、い、だ、と!前しか見ずに奥へ奥へと攻め込みおってからに!種々の調整で地獄を見たわ!!」

 

「そいでんすぐに兵子ば用意しやったではなかか。えらかど、久遠。ぬしゃえらか大将じゃ」

 

「貴様というやつはぁ…!!」

 

煽りではなく本心で言っているのがタチが悪い。

 

この一月近く、兵糧と兵力の計算、家中の反対意見の封殺に全力を傾け、並行して鬼に関する治安政策も練るという生活を送っていた久遠。朝起きたらまた厄介事が増えてはいないかと、床を上げるのも億劫になりかけていたのだ。それで起きたら案の定落とした城と領土が増えている。計算のし直しである。卓袱台のひとつやふたつ、返さねばやっていられない。

 

そんな彼女が、全く反省をしていないどころか誇らしげに帰ってきた功労者(バカ)に怒鳴り散らすのを誰が咎められようか。

 

「まぁまぁ久遠さま。まずは家中に、戦功第一たる中書どののお披露目を。元はと言えば客将として迎えるに値するかというお話でしたでしょう?」

 

「ええい、止めるな麦穂!貴様とてどれだけの苦労があったか知らぬ訳ではあるまい!」

 

「勿論分かっております。なので、その辺のことは後ほどたっっっっっっぷりと時間を取る事にいたしましょう。まずは論功行賞を。……あぁ、私どもは先に少々お話がございますので、久遠さまは息を落ち着けられてからおいでくださいませ」

 

「な、ちょ、待て、ちくと待てい!歩ける、歩けるから襟ば掴むな!引き摺っな!」

 

穏やかな雰囲気を纏わせながらその実久遠以上に嚇怒し(ブチギレ)ている麦穂に引き摺られ、豊久が清須城の奥の間へと消えていく。

久遠と共に残されたのはひよ子と新参の転子、そして降者の詩乃だった。

 

「あ、あれが米五郎左どの……戦場にて相対したこともありますが、あれほど苛烈な御方とは…」

 

「麦穂さま、普段は凄いお淑やかで大人なんだけど…怒るとその……ね?」

 

呆気にとられて主が引きずられていった方を見ていると、息を荒げた久遠が声をかけてくる。

 

「ハァ、ハァ……麦穂は豊久(バカ)めの事となると、なんとなく子供っぽく…いや、年相応になる気がするな。まぁ今は良い。猿は見知っていようが、そこな2人には改めて名乗ろう。尾張国主、織田三郎久遠信長である」

 

それまで固まっていた転子が、弾かれたように平伏した。それを見た残りの2人も慌てて倣う。

 

「は、はひっ、蜂須賀転子正勝と申しますっ!墨俣ではとよ…島津さまに同陣させていただきました!」

 

「うむ、報せは受けている。鵜沼に至るまでよう豊久を扶けてくれた。その方ら川並衆の働きぶり、海道中に轟いたであろう」

 

「もももっ、勿体なきお言葉にて…!」

 

豊久との気安いやり取りで忘れられがちだが、久遠は織田家の当主。本来であればひよ子や転子が直接言葉を交わすどころか、御目見得すら許されない身分である。

そんな雲の上の人物より賞賛を賜った転子は頭を下げたまま、ガクガクと震えている。

 

「猿も大義であった。豊久より、築城・兵站管理にて多大なる功ありと聞いておる。これからも彼奴の傍に侍り、励め」

 

「お頭が…!っ、はい!!どこまでも豊久さまに付いていく所存ですっ!」

 

歓喜と共に答えたひよ子の目には、涙が浮かんでいた。

今まで誰にも認められなかった己の仕事・能力を豊久は最大限評価し、それを功名として久遠へと上申してくれている。これを幸せと言わずなんと言うのか、ひよ子は知らない。一生を賭けてこの方に、と心を決めるのには充分すぎる理由である。

 

「で……その方が」

 

「お初にお目にかかります。元齋藤家家臣、竹中半兵衛詩乃重治と申しまする。豊久さまに命を救われ、我が全てを彼の御方に捧げるとお誓い申しあげた次第。何卒、よろしくお引き回しのほどを」

 

「はは、お初とな。我は貴様の顔、新加納で穴が開くほど見詰めていたぞ。それこそその顔が夢に出るほどにな」

 

一瞬にして、空気が張り詰めた。

 

抜き身の刀を付き合わせるかのように、久遠の力強い瞳と詩乃の怜悧な視線が交錯する。周囲の者が唾を飲み込む音が響き渡る程に静かで、それでいて激しい鍔迫り合いが起きていた。

 

「まぁ勝敗は戦の常。今更どうこう言うつもりは無い。齋藤より織田へ帰順するというのも、歓迎しよう。その軍略は間違いなく天下一品であろうしの」

 

「過分なお言葉、痛みいります」

 

「だがその方の言を聞くに、我に全ての才を捧げてくれる…そういう訳ではないらしいな」

 

「は。()()()が上総介さまのお傍を離れぬ限り、間接的に献策などさせていただくことになろうかと」

 

「ちょっ、詩乃ちゃん…!?」

 

ひよ子も転子も薄々勘づいてはいたが、詩乃の土壇場での度胸は尋常のものではない。普段は人見知りで人並みに恐怖心もあるが、ここぞという時の腹の据え具合はこちらが薄ら寒くなるほどだ。

それは破竹の豊久を相手に1歩も引かず、策破れて尚真正面から受けて立ったことからも証明されている。

 

一秒が永遠かと思うほどに重く張り詰めた時の中、充ち満ちた気が弾け、決壊する────直前。

 

「くく……はははは!まったく、とんだ大物を豊久に攫われたわ」

 

久遠の大笑によって、その空気は霧散した。

 

「謀士気取りのひ弱な痩せ武士と聞いていたが、ちゃんちゃらおかしいな。美濃の阿呆どもは貴様の何を見ていたのだ?」

 

「はて、今となっては評価名分など詮無きこと。豊久さまが我が腕を取り、美濃一国以上の価値と仰って下さった…それだけで救われましたから」

 

「なんだ早速惚気か、アレも罪作りよの」

 

詩乃が豪気なら久遠は大器。

密かに引き抜きを画策していた人材を掠め取られた悔しさも、自身を主と仰がぬ不敬を気にする様子も見せぬその涼しさこそ、うつけと蔑まれる一方で熱狂的な支持を集める久遠の長所である。

 

「さて、我は2人を追いかける。そなたらへの褒賞は追って遣わす。突貫だが、島津衆には城下に屋敷を用意した。案内させるゆえ、取り敢えずはゆるりと羽を休めよ」

 

笑いながら久遠が去っていったのを見送ると、ひよ子と転子が盛大に息を吐く。

 

「はぁ〜〜〜〜……寿命が縮んだよ…」

 

「詩乃ってアレだよね、結構豊久さまと感性似通ってるよね…怖いもの知らずというか糞度胸というか…」

 

「それはまぁ…似ているからこそ、価値感を一に出来ると感じたからこそ私は豊久さまに惹かれたのですから」

 

「むー…なんか良いなぁ、分かりあってる相棒みたいで」

 

「……そうありたいと思います。えぇ、心の底から」

 

クスクスと笑う詩乃に、辟易としながらもどこか羨望の籠った視線を投げかける。だがその笑顔がどこか寂しげであったことに、2人が気付くことはついぞなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ですから、一軍を率いる者として自覚と責任を持ってですね…聞いていますか、中書どの」

 

「聞いとる、聞いとる」

 

連れ込まれた先で、延々と繰り広げられる麦穂の説教の長さに辟易としながらも、豊久はそこにどこか懐かしいものを感じていた。

 

「む。何がおかしいのです」

 

「姉上を思い出しての。過保護で口煩かお人じゃった。いつまでたってん、おいも忠仍も、そいどころか遊びん来た若(さぁ)らも子供(こどん)扱いでの」

 

「人が真面目に話しているときに……どうせ私は小煩い年増で死に様も功績もパッとしない凡将ですよ…」

 

尚、現時点で豊久(三十路)の方が麦穂よりも歳上であるし丹羽長秀の死に様は壮絶である。

 

「そがいなこつ誰も言っとらんじゃろうが。そげにイライラしちょっと眉間に皺ば寄っど」

 

「私だって怒りたくて怒っている訳では無いのですけれど!!」

 

「そや分かっちょるが」

 

「分かっているなら改善をですね…!」

 

ぷくりと頬を膨らませるが、暖簾に腕押し糠に釘。まったく反省の色が見えない問題児に、流石の麦穂も溜息を吐くしかない。

 

そこへ、詩乃との問答を終えた久遠が姿を見せた。

 

「麦穂の説教を食らってこれか。本当にどうなっておるのだ貴様の神経の図太さは」

 

「それは久遠さまもあまり言えたことではないのでは…」

 

今孔明の肝の座りように気を良くしたか、久遠の口は軽い。幾分機嫌も上向いたようである。

 

「さて、とっとと論功行賞を済ますか。ついて参れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「島津殿、お見逸れいたした!先だっての無礼、ご容赦めされよ!いや痛快、貴殿のような名将が織田家に与するとあらば、最早濃尾統一は成したも同然!」

 

「佐久間の婆の申す通りよ!島津殿こそ天下の名将也!」

 

「島津殿のご武勇は勿論ながら殿のご采配も見事じゃ!桶狭間に墨俣、我らが殿が天下に号令せしむるの日も近かろうて!」

 

「鬼に金棒、久遠様に島津殿、そして島津殿に今孔明!織田の御家は安泰じゃあ!」

 

「「「「ガハハハハ!!!」」」」

 

 

 

 

「………なんぞこれ」

 

論功行賞だと聞いていたが、その実豊久が連れ込まれたのはただの酒盛りである。しかも前回この場にて浴びせられた殺気や疑義とは打って変わって、やんややんやの持て囃しよう。その中心に据え置かれた豊久は一人、ぽかんと間抜け面を晒していた。

 

「ふふ、言ったでしょう?中書どのと織田の家風とは合っている、と。見ての通り、単純な方達が多いですから。中書どのの武功が伝わる度、皆興奮してすっかり魅せられてしまったのですよ」

 

「言うではないか丹羽ぁ!我らがそんな子供のように単純で単細胞だとぉ?」

 

「そっちは金森どのですよ、林どの。下戸なのに調子よく飲むから……」

 

長年の頭痛の種であった美濃問題が大きく進展し、だけでなく稲葉山城への侵攻に王手をかけた。織田家中の面々にとって、豊久のしでかしたことはあまりにも大きい。はしゃぎ回り、客将として認めるどころか下にも置かぬ扱いをするのも無理からぬことであった。

 

「そいにしたって限度ばあっじゃろ。こん前刀抜かれかけたんじゃが」

 

「麦穂の申す通り単純なのだ、ウチの連中は。普段はいがみ合うし我儘も言う困った馬鹿どもだが、見事と認めたものへの賞賛と尊崇は惜しまん。面倒くさいし盛り上がると止まらんし、纏めあげるのも一苦労よ」

 

並み居る酔っ払いどもを馬鹿と貶しながらも、豊久の隣でちびりちびりと杯を舐める久遠の横顔はどこか誇らしげであった。

 

「…良か兵子だの」

 

「くく、そうか。良き兵か。……豊久。改めて礼を言おう。墨俣の鎮圧、中美濃への侵攻、長井道利の討ち取り、そして竹中重治の調略。掛けられた迷惑をさしひいても、三国に比類なき功である」

 

怒りや不満ではない、純粋な賞賛。それを前に、豊久もまた屈託のない笑顔で応えた。

 

「おう。次ぁ龍興ん首じゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

論功行賞という名目の宴もお開きとなり、豊久は久遠に付けられた案内に先導されて与えられたばかりの島津屋敷へと向かっていた。

既に月は中天を過ぎ去り、その輝きをもって路地を照らしている。

 

漂流して以来、下手をすれば関ヶ原前哨戦の伏見城攻め以来の落ち着いた時間であった。

次から次へと注がれる杯を飲み干し続け、並み居る家臣達が屍と化すまで飲み続けた割に、豊久の足取りは平時と変わらない。腰に差した大太刀の柄に腕を置き、先導が揺らす行灯の火をいつもの眠たそうな目で眺めていた。

 

「この路地の行き当たりを右手に曲がれば、お屋敷でございます」

 

「ほうか」

 

人ひとりが通れるかという細さの路地に差しかかり、先導が足を止めた。どうやら草鞋の紐が切れたらしい。失礼、と声をかけ、彼が行灯を置いてしゃがみ込んだ、その瞬間。

 

「死────」

 

ね、という言葉と共に白刃が宵闇に煌めく……よりも早く、豊久の蹴りがその顔面を撃ち抜いていた。

 

「声掛けながら切りかかっ阿呆があっか」

 

しかしその言葉は最早先導…否、刺客へ聞こえてはいない。鬼すら怯み、反吐を撒き散らす一撃を顔面にまともに喰らい、意識を保てる筈はなかった。派手に吹き飛んだ先で、血反吐と泡を吹いている。

 

「齋藤かの、今川かの。それとも織田家中の者かの。まぁ良か。おいも闇討ちで狙われる程になったちこつかのう」

 

闇の中、酔った上で、完全な安全地帯での不意打ち。そんな幾重にも張られた暗殺の刃を歯牙にもかけず、豊久は不敵に笑う。

 

騒ぎを駆けつけた家々から野次馬が、そして島津屋敷からひよ子達が飛び出してくる中、既に豊久の思考は次の戦へと向けられていた。





豊久の酒量……上井覚兼と酒を飲み、向こうが酔いつぶれてダウンする中浴びるほど飲み続け、しかも二日酔いで相手が死んでる時に元気よく狩りに出掛けて鳥を捕まえていた。めちゃくちゃ酒豪だったらしい。
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