『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』   作:三途リバー

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話があまり進みません。豊久があんまり動きません。幕間感覚でサクッとお読みいただければと思います。


ストラトキャスター・ユアサイド

 

「豊久さま、出陣の支度、あい整いましてございます」

 

「おう」

 

島津屋敷の主殿、その上座に据え置かれた床几から豊久が立ち上がった。傍らには詩乃のほか、ひよ子、転子。そして下座には足軽を纏める組頭達が連なり、広間に繋がる庭には総勢350の兵子達が詰めかけている。皆が具足に身を包んでいるが、その表情は緊張よりも興奮の色が強い。

 

西美濃三人衆からの内通待ちといった状況から一変、稲葉山攻めの号令は電光石火の勢いで下された。

その先鋒の栄を賜ったのは、これまで散々に齋藤勢を打ち破り、その武名を轟かせた島津豊久であった。

 

清須への凱旋もそこそこにおっとり刀で美濃の戦場へと帰ることになった豊久だが、当然ながら意気軒昂。すぐさま(詩乃が)隊の編成をまとめ、(ひよ子と転子が)輜重の用意も終えて(豊久が城下をぶらついている間に)迅速に出陣体勢を整えた。

 

かくして、島津衆は改めて初陣を迎える。

 

「軍法ばただ2つ。一太刀になんもかんも込めい。じゃっどん女子首は奪うな。こいだけ刻んで前にひっとべ!行くど!!」

 

『おぉぉぉおぉぉおぉぉおおおおッッッ!!!!!!』

 

豊久の檄とそれに応える鬨の声が、戸を、屋根を、屋敷全体を揺さぶり震わせる。

 

そんな中、傍らの豊久を見上げる詩乃は心中で独りごちた。

 

(売国奴と罵られようが、今更そのようなことはどうでも良い。迷いもない。豊久さまをお支えすると誓ったのです、些事に気を取られている暇はない。ですが……)

 

前髪の奥から見やった主は屈託のない…いや、むしろ好戦的でギラついた笑顔を浮かべている。その姿に安心感と熱を感じると同時に、詩乃は自身の胸に刺さるチクリとした痛みを自覚する。

 

(私は、この方の帰る場所にはなれない。豊久さまの生きる意味にはなれない。この一事だけは…)

 

鵜沼で彼を起こそうと寝所に足を運んだ際、詩乃は豊久が夢見に故郷の妻の名を呼ぶのを聞いた。すまぬ、すまぬと繰り返すのを聞いてしまった。

その顔があまりにも寂しげで、ふと目を離せば消えてなくなってしまいそうで。たまらず詩乃は、彼を抱き締めその心音を確かめたのだ。

 

(私は、あなたという剣が舞い戻る鞘にはなれない。いえ、この世界のどこにも、豊久さまが真に心を安らげる場所などないのかもしれない。それでもあなたは笑うのでしょうね。気にもとめずに、いつものように太刀を抜き払い駆けるのでしょうね)

 

だから。

 

「どげんした」

 

「いえ、なんでも。………豊久さま。私はこの戦で示します。島津に竹中あり、中書豊久が右腕は我だと」

 

「はは、頼もしか!今孔明が智謀術数、おいに見しちくい」

 

「はっ。必ずや、天下一の功名をあなた様に捧げます」

 

鞘になれずとも、心を安んずることはできずとも。

己は剣舞を奏でる管弦となろう。この身朽ち果て砕け散るその瞬間まで、御身が悔いなく疾走(はし)る為だけにあろう。

 

「これが私の戦です。私の生き方です。私の心の全てです」

 

丸に十字を背負った眩しい背を見ながら、詩乃は改めて宣誓する。己の中に刻み込み、そして誰にも聞こえぬほどの声で投げ掛ける。

 

「…お慕い申し上げます、豊久さま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島津来たる。

その一報は瞬く間に美濃全土を駆け巡り、戦の流れは一気に加速した。

 

まず、かねてより調略を進めていた西美濃三人衆が内通。元々の冷遇に加え齋藤方の戦況不利、そして豊久の出陣を最後通告と見たか鵜沼城の結菜へ降伏の使者を送った。現在稲葉山城に詰めているため今すぐの参陣は不可能だが、稲葉山城へ攻めかかる際には城内より内応し、忠勤を尽くすとの意思を示したものである。

 

また、龍興はそんなことは露も知らず豊久、引いては久遠本軍の着陣前に戦線を押し戻さんと鵜沼城への攻撃を画策。中美濃各城へ配置した家臣達にも出陣命令を下し、大規模な城攻めを行おうとしたが、豊久を恐れた諸将は兵の疲弊や兵糧不足を理由にこれを黙殺。逆に我先へと降伏する有様だった。

 

この時点で齋藤氏は攻勢を諦め、稲葉山に籠城して尾張国内の反久遠勢力、また近江や越前、飛騨諸国に救援を求める戦略に移行した。こうなってしまえば後はもう時間との勝負、織田軍が稲葉山を落とすのが速いか、後背を突かれるのが速いかという問題になってくる。

 

そして現在、稲葉山の喉元と言える城下町、井ノ口にて鵜沼城より出陣した柴田・滝川衆と、織田本軍の合流が完了した。

 

「壬月、雛、在陣苦労!結菜は鵜沼か」

 

「はっ。生まれ育った稲葉山城を攻めるというのも酷な話かと思いました故、留守をお任せいたしました。差し出がましい真似を…」

 

「いや、良い判断だ。我とてそうした。城下の家屋焼き払いもお前の指示か?」

 

「あー、それは清須に発つ前からの詩乃ちんの献策です。民兵に偽装した齋藤兵の潜伏を防ぐため、また大軍を入れる本陣の確保の為にも是非ーって」

 

「ふむ……奴なりの覚悟、か。よし、城下に本陣を敷設し整い次第軍議を執り行う!主立った者共を集めよ!」

 

久遠の打つ手は尽く早い。齋藤勢にゲリラ戦展開の隙も与えず、やがて完成した仮屋本陣に直臣や将領級の者達が集まり軍議が開始された。

 

「まずは皆、迅速な出陣大儀である。早速ではあるが、疾く稲葉山城を落とす」

 

此度の織田軍の陣容は、鵜沼城から出陣した柴田・滝川衆が2000。豊久を先頭に、久遠が速度重視で進発させた直下軍2000。そして麦穂が後続から率いてきた3000、各支城から駆け付けた兵1500の合計8500である。

対して、墨俣以降兵力を削られ続け、寝返りが続出した齋藤勢は総数2000前後と見積もれる。

 

だがこの数の差をもってしても、久遠に油断はない。

 

「手間取れば一度寝返った者共も態度を揺らがせ、不利と見れば却ってこちらの首を手土産に帰参、などと考えかねん。調略の行き届いていない西美濃の豪族に後背を突かれる恐れもある。故に、稲葉山をいつまでもゆるりと包囲をしているわけにはいかぬ。強攻だ」

 

ざわめきが広がり、諸将が顔を見合わせる。

なんと言っても稲葉山城は天下に知られた堅城、強攻したからと言って簡単に落ちる筈もなく、いたずらに消耗しては却って勝利が遠のくばかり。

 

「皆の言いたいことも分かるが、無策で申している訳ではない。半兵衛!」

 

「はっ」

 

呼ばれたのは島津衆副将格、並びに美濃者の代表として列席していた詩乃だった。

 

「三の丸に詰める安藤、二の丸に詰める稲葉・氏家が内応を約束しています。普通であれば当主の傍を固めて然るべき人材ですが、疑心暗鬼になった龍興は彼らを本丸から遠ざけました。特に安藤は不肖半兵衛の縁戚。警戒してもし足りぬと思ったか、最も遠くへ追いやりました。ですがこれは我らにとってむしろ僥倖」

 

西美濃三人衆が本丸に在したままであれば、そこに辿り着くまでに二の丸、三の丸を落として行かねばならなかった。こちらとの連携が取れぬままに蜂起しては、龍興側に鎮圧される恐れがあるためだ。織田に降るからには、その身の安全を保証しなければならない。織田に味方して主家を裏切ったのに命を落とした、織田は内応者を捨て駒にすると評判が立ってしまえば今後の調略に響いてしまう。それは絶対に避けねばならない。

 

だが遠方に配置されているなら話が早い。順次内側から城門を開かせ、雪崩こんでしまえば大した損害も出さずに本丸まで辿り着ける。いかな天下の名城と言えど、防御機構を機能させなければ力攻めも可能となる。

 

「更にもう一手、井口山と山続きになっている瑞竜寺山に我が方の旗を立てます。敗北を悟った龍興が逃れる道は山中に入るか、長良川を下るか。そのうち片方の選択肢を潰し、反対に長良川方面はわざと空けておきます。さすれば龍興は徹底抗戦ではなく、早々に城を落ちて再起を期すという選択をするでしょう。二の丸、三の丸が落ちれば弱気になってすぐに脱出を図る筈です。これが最も時をかけずに稲葉山城を落とす方策かと愚考いたします」

 

「えぇ!?折角龍興をここまで追い詰めたのに、わざわざ逃がしてやるのかよ!?」

 

和奏が不服の声を挙げるが、詩乃は静かに首を横に振った。

揺れる前髪の奥で、怜悧な双眸が冷たい光を放つ。

 

「逃げ道をこちらが指定し、まんまとそこに入り込んだところを確実に仕留める。狩りですよ、これは」

 

立て板に水を流すかのような弁舌に諸将は唸るのみで、ただ久遠だけが満足気に頷いている。

 

「ここに張る伏兵には、島津衆のうち竹中家の兵を80ほど割いて当てたいと思います」

 

「お待ちあれ!確かに地理を知る竹中どのが適役とは思いますが、それではあまりにも…」

 

異を唱えたのは麦穂であった。

詩乃の策、そして力量を信用していないわけではない。彼女が危惧しているのは、豊久直下の兵力を更に分散させるという点だ。

 

いくら豊久が強く、用兵に優れたりとは言え数の前には限界というものがある。ましてや今回の戦は城攻め。数による圧力、ならびに面制圧が求められる場面で、ただでさえ少ない兵力を更に減らすのは危険すぎる。

 

「議ばなか」

 

だが、あらかじめ詩乃よりこの策を聞いていた豊久はなんでもないかのように言ってのけた。

 

「おいん軍師は無理難題を策とは吹かん。竹中半兵衛はおいの力量を見誤らん。応えられねばおいの落度よ。伏兵ば詩乃に任せ、他はおいが率いる」

 

当の詩乃が顔を真っ赤に火照らせるほどの信頼に、最早周囲が挟める言葉はない。

麦穂も何かを飲み込むように目を瞑ると、頷いて久遠を見やった。

 

「半兵衛、そして中書の意気や良し!島津豊久、先鋒申し付ける!貴様の一太刀にて道を開き、火蓋を切れ!」

 

「応!」

 

「安藤の蜂起に呼応し、中書を先頭に西門から三の丸を突破!五郎左、援護せい!その間権六は七曲口方面から迂回し、大手門を攻めよ!氏家・稲葉も応じた後には挟み込んで総攻めにかかる!」

 

言葉と共に、久遠は抜き放った佩刀を天高く掲げた。渦巻く熱気と鬨の声が、空を割らんばかりに木霊する。

 

「これより稲葉山城攻めを開始する!各々奮起せよ!蝮より託されたこの美濃国、今こそ我らが手にする時ぞ!」

 

今ここに、濃尾戦争最後の一幕、稲葉山城攻城戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ、先鋒かぁ…天下の稲葉山城を攻める一番槍の中に身を置くことになるなんて…人生何があるか分からないね……」

 

「もう、情けないなぁひよってば…私たち島津衆の態度がそのまま豊久さまの威厳に繋がるんだから。ほらシャキッとする!」

 

将達が軍議を行っている間、島津衆は攻囲陣の構築と突撃の準備を整えていた。これまでの活躍ぶりと齋藤側への威圧効果からして、先鋒を任されるのはほぼ確定。更には詩乃の献策により、厳しい戦になるのは目に見えている。

 

「そういうころちゃんだって震えてる癖に」

 

「こ、これは武者震いだよ!か、川並衆自慢の名槍"熊蜂"が火を吹くんだから!」

 

「それこの間の俸給金で買った新品じゃん…」

 

「こういうのは気分が大事なの!」

 

などというやり取りをしていると、本陣の方から爆発的な歓声が上がる。どうやら軍議は終了し、いよいよ城攻めが開始されるらしい。

 

「来たッ!皆、手筈通りに!」

 

ひよ子の号令一下、火縄やら木盾やら竹束なりを担ぎ上げ、いつでも出陣できる(飛び出せる)よう島津衆が隊列を整えていく。俄拵えの雑軍とは思えぬ速度である。

 

 

「へ〜、ザコの集まりかと思ってたけど意外にちゃきちゃきしてんじゃねーの」

 

 

その声は、喧騒の中でもよく通った。

 

釣られて見やった視線の先にいたのは、黄金の髪をたなびかせる小柄な少女。そしてその後ろをゾロゾロと歩く、柄の悪い武士の一団であった。

 

無礼な物言いに転子や川並衆らは眉をひそめ、中には刀に手をかける喧嘩っ早い者もいる。だがその人物をよく知るひよ子だけが、蒼い顔で絞り出すように彼女の名を呼んだ。

 

「こ、小夜叉さま……」

 

「んあ?猿?なんで猿が刀差して武士の真似事してんだ?てめーは殿の傍で草履あっためてりゃ良いだろうが。しっし。ここはオママゴト会場じゃねーんだよ」

 

傲岸不遜を通り越し、無礼極まりない言動を隠そうともしない少女に、転子の顔に青筋が浮かぶ。傾奇者じみた絢爛な身なりからそれなりの大身であることは察せられたが、それを理由に親友を面罵されて黙っていられるほど転子は大人しくない。

 

「どなたか存じ上げませんが、ここは我ら島津衆の持ち場でございます。冷やかしならばお帰りを」

 

「あ?なんだてめぇ、誰にもの言ってんのか分かってんのか?てか誰だよてめぇ。雑魚には用はねぇんだ、とっとと頭目出せ」

 

「お、お頭に…豊久さまに何か御用でしょうか…?」

 

「おう、先鋒譲ってもらおうと思ってな!てめぇらみたいな新参にゃ荷が重いから、オレら森一家が代わってやんよ!300そこらの小勢は、オレらの後ろチョロチョロしておこぼれでも狩ってな!」

 

これより先、長きに渡る島津と森の奇縁。

その始まりはこの少女…森小夜叉長可が放った、イイ笑顔での一言だった。

 

 

 





戦国恋姫Braveの情報がチラホラ出てきましたね。やはり大方の予想通り長宗我部編……九州が公式化する前に早う手を付けねば…。
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