『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』 作:三途リバー
厚顔無恥ッ……約1年ぶりの投稿…!愚か…!あまりにも…!
(いけん。思うたより怒っちょる)
稲葉山城落城、と兵子達が浮かれ雄叫びをあげる中、襟を掴まれ、引き摺られながら豊久はひとりごちる。
懸念の先は豊久を引き摺り、誰もおらぬ奥の間へと向かいながらも一言も発しない張本人…麦穂である。
井口山方面から上がった歓声に龍興討ち取りを確信し、勝鬨を挙げる豊久にふらりと寄ってきたかと思えば
『先程説教は後でと仰いましたね。さ、
と有無を言わさず首根っこを引っ掴み、今に至る。
「…どうして」
「あん?」
「どうしてあのような無茶ばかりなさるのです」
振り向かぬまま、絞り出すように麦穂が問い掛けた。背中合わせの形で表情は伺いしれないが、その声音から彼女の心情が怒りのみに染められている訳では無いということが読み取れる。
「勝ちん潮目でん、勢いば殺すもんではなかど。齋藤ん息の根ば今んうちに止めねば、後々必ず後悔すっ。詩乃が龍興ん首級ば挙げてん、そいだけでは
戦場での最も単純で、そして明快な決着は大将首を奪うこと。それさえ為せば如何に強固な軍団とて動揺し、綻び、決壊する。
だがしかし、一個の戦場ではなく国同士、戦国大名同士の決着はそう易易と付きはしない。
それは歴史が証明している。そしてそんなものを顧みずとも、豊久は我が身をもってそれを知っている。なぜなら豊久は、
だから打ち砕く。再起する気力も兵力も、旗印となり得るものも一切合切全てを灰燼に帰す。
戦国大名を滅ぼすとは、そういうことだ。
「っ…戦略のことだけを言っているのではありません!何故命を的にするような戦い方ばかりされるのかと聞いているのです!」
しかし、零れ出た言葉の予想外の鋭さに豊久は僅かにたじろいだ。てっきり前線の突出を咎められるものと思っていたが、どうやら彼女の真意は他の処にあるらしい。
「
「どうしてそんな…!死ぬのが怖くないのですか!?遺すことが恐ろしくはないのですか!!」
声を震わせ、普段の素行からは考えられぬ粗暴さで襟を放した麦穂。つんのめりそうになるのを持ち前の体幹でやり過ごした豊久は、そこで初めて彼女の瞳を見やる。
それは見覚えのある…記憶に深く刻み込まれた瞳の色だった。豊久の帰りを待つ家族のもの。彼の出陣を見送り、何かを言いたそうに一歩を踏み出し、それでも唇を噛み締めて呑み込んだ、待っていた者たちと同じ色をしていた。
「死ば恐れた事はなか。いつけ死んでん、首さえ奪れれば、名ば残せればそいで良かち思うちょる」
「それでは「じゃっどん」ッ…」
尚も言い募ろうとした麦穂だが、続く言葉は力強く遮られた。
見上げれば、そこにあったのはいつもの笑み。その笑みが、麦穂には恐ろしい。
獰猛さの中に、どこか触れれば砕け散りそうな儚さを孕む、その笑みが。
「死にたかち思うた事も
踵を返す豊久に、麦穂は無意識のうちに手を伸ばしていた。
嘘は感じられない。自ら死地に飛び込む事はままあれど、島津豊久が諦め、絶望し、死を望んだ事など本当にないのだろう。何処までも真っ直ぐな功名心で疾走り抜けてきたのだろう。だが、それでも。
「
呼び止めずには居られなかった。手を伸ばさずにはいられなかった。
「どうか、どうか今一度お確かめあれ。この世界にも、貴方の帰りを待つ者がいるのです。貴方の居場所たらんとし、同時に貴方をこそ居場所と思い定めた者達がいるのです」
豊久の返答はない。ただ軽く手を挙げ、振り返ることなくしっかりとした足取りで前へ前へと進んでいく。
「そろそろ久遠が天守に入るじゃろ。馳走ば約束したはおいじゃてな。待ちぼうけ食らわすと何言わるっか分かったもんでなか」
そう言って肩を揺らす豊久を、麦穂はいつまでも目で追っていた。
■
織田家中において、味方にすら恐れられる武闘派集団・森一家。街ですれ違う連中は目を逸らし、戦場で出会う味方は槍を下げて功名を譲る。陰で叩かれる悪口も、嫌悪を剥き出しにした視線も、それら全てが小夜叉にとっては誇らしいものだった。自分の、自分達の武を証明する勲功の如きものだった。
だが、
(なんだ)
恐怖ではない。
(なんだ)
損得でもない。
(なんだ、なんだ、なんだ!!!)
ただ純粋な怒気。大の大人が子供の癇癪に痺れを切らすかのような、殺意を孕まぬ単純なそれは真っ直ぐで、真っ当で、対等で、何処までいっても単純だった。
対する小夜叉は煮えたぎる間もなく、瞬時に沸騰した怒りに任せて槍を振り上げたが、結果は先の通り。
脳天から突き抜ける衝撃に小夜叉の全身から力が抜け、景色が歪んで────彼女が殴り倒されたことに気が付いたのは、全てが終わって目が覚めた時だった。
「島津…島津、島津豊久ぁ…!!」
全身から湧き出るこの激情は、齋藤の芋侍共をどれだけ串刺しにしても収まることはない。あの糞田舎者は、見付け次第ぶちのめす。ぶちのめして泣いて謝らせて………
「あ?」
そんな自身の思考に、小夜叉は自分で小首を傾げる。
「なんでぶち殺す、が出なかったんだ、オレぁ………って、あーーーッッ!!!!」
答えが出ぬうち、見やった先にはにっくき田舎者。
「オイゴラ島津ぅぅぅぅ!!!てめぇこのオレを差し置いて先駆けなんぞ……あぎゃん!!」
「じゃかしか!しつこか!!」
そんなこんなで再び宙を舞う我が子を視界の端に入れながら、紫煙をくゆらせるのは桐琴。その顔は抑えようもない満面のニヤケ面である。
「クックック……ウチのも存外可愛げがあるじゃねぇか。父親に構って欲しい餓鬼そのものよ」
「おま……豊久に父性があるとでも言いたいのか?あの功名馬鹿に?」
「あ?んなワケねぇだろ。父親が務まるクチに見えるか、あの孺子」
「見える訳がないから問うておるのだ」
思いっきり失礼な事を言う傍らの壬月は訝しげだが、桐琴には分かる。
これまで実力的にも立場的にも、森という肩書きを取っ払って小夜叉を見る男なぞひとりとして居なかったのだ。誰も彼もが怯えるか、毛嫌いするか、いずれにせよ腫れ物に触れるが如く接してきた。
その点豊久は違う。相手が誰とか知ったこっちゃない。小煩いじゃじゃ馬としか小夜叉を見ていない。それは恐らく、小夜叉にとって生まれて初めての鮮烈な体験だったのだろう。
「ビビりもへりくだりもせず、頭ごなしに自分を押さえ付けられる大の男が現れた……父親も知らねぇ思春期の餓鬼にゃ劇薬だろうさ。今は怒りが勝ってるが、暫くして彼我の差を真っ当に分かりゃあ、認められてぇ褒められてぇが鎌首もたげらァ」
「桐琴……お主が真っ当に母親している所、初めて見たぞ……これが年の功か…」
「おーし殺すぶっ殺す。今すぐ斧持てや行き遅れ」
■
「……………」
音に聞こえた白亜の要害、稲葉山城。
義母が築いたその天守から城下を見下ろす気分というのは、一言では言い表せぬものだった。息を吐き、瞼を閉じれば築いてきた屍がありありと浮かび上がってくる。
「婆よ。蝮よ。来たぞ、ここまで」
長かった。最後まで己を信じた忠臣を死なせ、父を亡くし、弟を自ら手に掛け、そして唯一夢を笑わなかった義母すら見殺しにして。
漸く至ったこの天守は、だが単なる
「そして始めるぞ、ここから」
目を開けた時、そこに最早迷いは無い。寂寥も後悔も、微塵も感じさせぬ強い光が久遠の双眸から放たれる。
「天下布武、共に成し遂げて見せようではないか。なぁ、鬼島津よ」
振り返った先には、今宵の戦の一番手柄。
「そん名はおいにはまだ早か。伯父上ん足元にも及んじょらん」
バツが悪そうに頭を搔く豊久は、しかしどこか喜色を隠せていない。子供っぽく見えるその仕草に、久遠は妙な胸の疼きを覚えながら歩み寄るのだった。
長らく更新が途絶え、申し訳ありませんでした。
最近はモンハンワイルズで豊久風の重ね着を作って遊んだりしていましたが、平野耕太☆大博覧会に行ってきまして、残りカスになってしまっていた燃料を爆発させ、恥ずかしながら戻って参りました。
おいは恥ずかしかっ!!もうエタっておられんごつ!!
とは言いたいものの、約1年前ここからの展開で煮詰まってこのザマですので、なんとか難所を乗り越えていきたいと思います。まだ見て下さる方がいましたら、望外の喜びでございます…