『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』   作:三途リバー

24 / 29
流れゆく日々

 

田楽狭間に始まり、墨俣、鵜沼、そして稲葉山。

軍を持たぬ身一つから各所で戦功を挙げ、今や織田にその人ありと謳われる大身となった豊久には鵜沼・関一帯が本所として与えられ、また岐阜にも屋敷を賜った。大方の予想通り、統治のとの字も知らぬ豊久は代官を遣わして在所を管理・領有させ、自身は岐阜城下の島津屋敷に詰めている。

領有地が増えたことで動員兵力も増加し、島津屋敷はかなりの大所帯となって大分賑やかになっている……のであるが。

 

 

 

 

「だぁぁぁぁぁッ!糞ッ、なんで当たらねぇ…!!」

 

「掠りでんすりゃ倒せっち甘えが見え透いとるど。一撃で息の根ば止めっ覚悟決めい」

 

「テメェに言われるまでもねぇよ、んなことぉ!」

 

「なればなんぞ、こんへっぴり腰は。ぬしゃ御家流だの妖ん術に頼る弱卒(やっせんぼ)か」

 

「あだッ!?〜〜〜〜〜ッッ、ぜってぇ泣かす!オレが一本取ったら褌一丁で逆立ちで城下回らせてやる!」

 

 

 

 

 

 

その賑やかさに拍車をかけているのが()()だった。

先の戦で散々やり込められた小夜叉だが、何故かここ数日島津屋敷に入り浸って豊久に喧嘩をふっかけている。

豊久も豊久で、食う寝る鍛錬以外やることが無い暇人のため、稽古がてらに相手をしてやっているようだ。

 

「あーまたやってるあのお二人」

 

「元気だねぇ…」

 

「ひよもころも、感心している場合ですか。豊久さまにご決裁いただく書類もあるのですから…あ、こちら粗茶ですが」

 

「いやいや竹中さん、お気遣いなく!こちら姉御から、馬鹿娘が世話になっていると…つまらないものですけど、皆さんで召し上がって下さい」

 

罵詈雑言を撒き散らしながらシバかれる小夜叉の姿は今ではすっかり日常風景と化し、島津衆の面々もすっかり慣れ親しんでいる。と言うか小夜叉のお目付け役(お目付け出来るとは言っていない)で付いてきた森家臣団ともすっかり顔馴染みである。

 

「これはどうもご丁寧に。三佐さまによろしくお伝え下さい」

 

「あれ、こういうのって母友って言うんだっけ」

 

和やかな雰囲気が流れているが、眼前で繰り広げられているのは間違いなく上澄みも上澄み、超一流の武人同士の打ち合いだ。

無数の風切り音を奏でる槍の刺突はそのひとつひとつが命を容易く刈り取る威力を持つ。それが束となりと襲いかかってくるのだから、常人にはとても受け切れるものではない。運良く一撃を捌いたとしても、次の瞬間のニ撃三撃で胴体が穴だらけになるだろう。

 

だが小夜叉の前に立つのは常人ではない。

 

避けるでもなく、払うでもなく、豊久は嵐のように荒れ狂う槍撃の中へ体当たりするかのように身を滑り込ます。蹴った地が抉れるほどの速度を乗せた木刀の一撃は瞬時に間合いを殺し、小夜叉に全力の防御態勢を強いた。

 

「ッ!!」

 

ここ数日、幾度も彼女の意識を断ち切った馬鹿のように素直な袈裟斬り。威力も速度も脅威だが、真に恐るべきは肺腑を付くように放たれるその殺気だ。戦場に蔓延する、身体にへばりつくような鈍重なものとは一線を画すそれは相対したものの肺腑を貫き、呼吸すら忘れさせる。

母との喧嘩でも、戦場でも感じたことの無い()()

最早、小夜叉も認めざるを得なかった。

 

(間合いは潰された、薙ぎ払いも間に合わねぇ、だったら腹ァ決めるしかねぇ!)

 

しかし、防御を固め一刀を相殺しようと丹田に力を込めども衝撃がやって来ない。

 

「………?うぉぉぉぉっ!?!?!?」

 

炸裂したのは硬直し、無防備になった襟元を掴んだ強引な放り投げだった。

女子首は奪らぬと公言して憚らぬ豊久だが、いざ鍛錬となると女子供にも容赦がない。捻りを加えられて背中から地面に落ち、肺の中の空気を全て吐き出した小夜叉を無表情で見下ろしている。

 

いつもならばここで意識を失って家臣団に担がれていく小夜叉だが、しかしこの日は違った。

 

「ま、だっ……!」

 

「ぬ」

 

ふらふらと足腰を揺らがせながらも、人間無骨を杖代わりに立ち上がる。更には一歩一歩、蝸牛の歩みながら豊久へ近付いてくる。その目は全く死んでおらず、それどころか()を見据えて口の端を吊り上げている。

 

「…良か」

 

それまで母以外の格上を知らず、無意識に成長を頭打ちにしてしまっていた小夜叉は、豊久との喧嘩の中で着実に兵子として磨かれつつあった。

それを認識した豊久が釣られて笑みを浮かべたのも、無理からぬことである。

 

「「「あ」」」

 

詩乃達が静止しようとした時にはもう遅い。

 

「チィェェェオオオ!!!!!」

 

裂帛の気合いに一瞬遅れ、木刀の風切り音が庭先に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もーっ!本当に焦ったんですからね!森のご息女の頭、本当にかち割っちゃうんじゃと思いましたよ!」

 

「そげに加減出来ぬほど阿呆でなか!寸止めくらいするわ!」

 

「でも止めた後拳で顎撃ち抜いてしっかりトドメ刺してましたよね…」

 

結局、毎度の如く豊久の手によって意識を刈り取られた小夜叉は家臣に引き取られていった。最初の頃はすわ森家と全面戦争かと顔を蒼くしていたひよ達も慣れたものである。手土産にもらった干柿を食べながら団欒の時を過ごしている。

 

「しかし濃尾一の悪侍と評判の小夜叉さまにここまで懐かれるとは、流石豊久さま」

 

あれ(あい)は懐かれとるんか…?」

 

「毎日のように押しかけてきては鍛錬をせがまれるなど、懐かれている何よりの証左ではありませぬか。それにご母堂の三佐衛門可成さまとも良き雰囲気ですし……よほど女子の扱いに慣れておられるようで。主の蕩しぶりに私も鼻が高うございます」

 

そんな中、詩乃の言葉には何やら棘が含まれていた。よく見れば若干頬を膨らませ、前髪の奥の瞳はそっぽを向いている。

 

「お頭〜、構ってあげないから詩乃ちゃんヤキモチ妬いて拗ねちゃったじゃないですかー」

 

「そうそう!稲葉山攻めで折角第一等の手柄を挙げて本陣に戻ったのに、肝心の愛しの豊久さまは天守閣で久遠さまと逢い引き!戻ってきたと思えば桐琴さまに肩を組まれて戦談義で、その後も小夜叉さまのお相手ばかりで構ってもらえず…」

 

「ふ、2人とも勝手な事を言わないでください!私はそんな、子供のような妬心など…!」

 

ぎゃいぎゃいと一層騒がしくなる島津屋敷だが、その時間も束の間だった。

突然玄関先で馬蹄の音が響き、続いて甲高い声が屋敷内に届いた。

 

「中書様!島津中務少輔様に伝令!」

 

騒ぎがぴたりと止まり、一同の視線が入口へと向く。そこには、汗にまみれた城の使者が馬を引き連れて立っていた。

 

「御館様より火急のご用命にござる!竹中様、蜂須賀様、木下様と共に急ぎご登城せよとの由!拙者これより母衣衆への伝令へ向かう故、これにて御免!」

 

叫ぶように言い残して去っていく使者を見送りながら、豊久は残りの干し柿を口に放り込む。立ち上がり、首を鳴らした時には傍らの詩乃が大太刀を差し出していた。

 

「昼寝と散歩三昧も終いじゃの」

 

「それは豊久さまばかりで、我々は雑務に追われていたのですが……はぁ、まぁ良いです」

 

「それにしても、お頭と詩乃ちゃんだけじゃなく私達もなんてどんな用件でしょう?」

 

「んー…直ぐにどこかに攻め入る余裕は無いし、逆にどこか攻めてきたならもっと大々的な招集かかるだろうしね」

 

豊久の子守りで鍛えられた成果か、ひよ子や転子の仕度も素早い。あれよという間に馬が引かれ、豊久は馬上の人となる。

 

「お頭、帰ってきたらちゃんと詩乃ちゃんに構ってあげて下さいね?」

 

「おう、承知したど。いつまでも軍師に拗ねられっと困っからの」

 

「いつまでその話をしているのですか、出発しますよ。

……あと豊久さま、二言はなきように

 

「この子やっぱちゃっかりしてるわぁ」

 

干柿の甘い香りが未だ漂う中、島津屋敷は先程とはまた違う慌ただしい空気に包まれていく。既に島津衆の誰もが、新たな風雲を予感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島津屋敷からの帰り道、配下の背に揺られなが小夜叉の意識は覚醒した。ここ数日毎度のことではあるが、やはり目が覚めて最初に襲ってくるのは強烈な悔しさだ。

 

「畜生……あの野郎見た目によらず小手先の柔術(やわら)なんぞ…」

 

「逆に考えましょうよ。今まで真正面からあっさり打ち砕かれてたのが、小手先の一捻りを加えられる程になったんですよ。成長してますよ、お嬢は」

 

「オメー馬鹿にしてんのか慰めてんのかどっちだよ!」

 

飄々と答える家臣だが、その内心は歓喜に震えていた。

今彼女が背負う若き才媛は、戦場では本能で槍を振るい、型も理論もなくただ殺意に従って屍を築いてきた。力押しで全てが解決する、まさに天賦の才である。

 

ただそれ故に、森長可は()()()()だった。

手練手管を出し尽くし、策も術も駆使して自身より強い者を打ち倒したという経験がない。その必要性と共に、その重要性を磨く場を持たなかったのだ。

 

「アイツの袈裟斬り…起こりは分かりやすい。踏み込みも速ぇけど見えない訳じゃねー。圧力で押し潰す壬月とか母ほどの迫力もねー癖に、気付いたら目の前に刀が振り上げられてる。じゃあ予め待ち構えようと思ったらあのザマだ。アレか、いっその事引かずにぶち抜く勢いでこっちから………チッ、覚悟決めろってそういう事かよ。だ〜ッッ、掌の上じゃねーかッ!!面白くねぇー!!!あんな見るからに脳筋のバカに諭されるとか、糞っ、糞糞糞ッ!」

 

しかしどうだ、今の彼女の有り様は。

敗北から学び、対策を講じ、それを越えられれば更に上を行かんと試行錯誤して手を尽くす。これまで頭打ちとなり、その時点ですら追随する者は数える程度であった武者が更に上の段階へ足をかけんとしている。

 

「大丈夫大丈夫、お嬢は強いですしこれからもっと強くなりますよ。濃尾無双…いや、いずれは島津さんも超えて天下無双も夢じゃない。あなたはこの各務元正が惚れ込んだ馬k…じゃじゃう……武将なんですから」

 

「おい兵庫、テメェやっぱ喧嘩売ってるよな?な?」

 

「滅相もござぁせんよ。ほらあんま暴れると脳味噌揺れるから…」

 

陽光に照らされ、姉妹のように寄り添った影が岐阜路へ伸びている。

頭を齧ってくる若殿に溜息を吐きつつも、主君の大成を確信する森一家副将の足取りは軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか豊久」

 

登城し、奥の間へと通された豊久達を待っていたのは織田首脳部の面々。久遠、壬月、麦穂、結菜に加え、三若も末座に加わっている。他の宿老らが呼ばれていないのを見るに、正式な評定ではなく信の置ける者のみの談合らしい。

 

「皆を呼び立てたのは他でもない。ちと謀りたいことがあってな」

 

「戦か」

 

「そこまで物騒な話ではないが、ともすると戦より面倒かもしれん」

 

いつものように礼もへったくれもなくどかりと座り込む豊久に、最早周囲の誰も口を挟まない。久遠に至っては懐から取り出した文を投げて寄越す始末だ。

 

「あん?なんぞ」

 

「公方からの書状だ」

 

「くぼっ…!?あ、足利将軍様ですか!?」

 

足利将軍と言えば、()()この日の本の武士の頂点、最高権力者である。その人物から書状が下されるとはかなりの大事である……筈なのだが。

 

「齋藤ば討った祝辞か。兵子も動かせん割に耳が早かの」

 

「まぁそれだけであれば別に良い。適当にそこらの刀と馬でも贈るわ。問題はその後よ」

 

「ちょ、豊久さまも久遠さまも扱い雑ですね!?」

 

たまらず声をあげた転子。しかし豊久だけでなく、壬月や麦穂までもがありがたがるどころか迷惑そうな表情を隠そうともしない。

 

「雑にもなるわ。将軍なぞ名ばかり、三好に京を追われて戻ってきた時には権力も威光も奪われしゃぶり尽くされ、その残骸に縋る案山子をありがたがる必要なぞあるまい」

 

「久遠さま、流石にお言葉が…」

 

「構うものか。義龍を御相伴衆に任じたと思えば今度は我らへの祝辞、信も義もなく益のみを求めた右往左往よ。滑稽だわ」

 

久遠の発言は些か乱雑に過ぎるが、豊久の内心も似たようなものである。兵力も財力も持たぬ足利将軍が保身のため官位やら偏諱やらの権威を切り売りしている事は知っている。みっともない、というのが率直な感想だった。

 

「そうでもしないと畿内の政状…と言うより身の安全も危ういのですから、致し方ないと言えば致し方ないでしょう。で、その公方様がなんと?」

 

「会いたい、と言うてきた」

 

「な、上洛せよと!?」

 

「いやぁ、もうちと話が込み入っている。面倒と言ったのはそれよ」

 

久遠によると、濃尾統一の祝辞と共に、今川・齋藤という名だたる大名をこの短期間に討ち取ることとなった原動力…異なる御世の武士について言及したとのこと。

 

即ち、漂流者 島津中務少輔豊久である。

 

「はえ〜……将軍から名指しとかやるなぁ豊久」

 

「和奏ちん、呑気言ってる場合じゃないよー。書状の中にわざわざトヨさんの名が記されてたってことは…」

 

「雛の申す通り。公方は豊久の存在…踏み込んで言えば、その来歴を掴んでいる。どこまでかは分からん。だが確実に、豊久が()()()()()()()()()()ことは知っている」

 

「………この短期間で、どうやって」

 

結菜が漏らすのも無理は無い。確かに豊久の武名は鳴り響いたが、その来歴までは世間で大して言及されていない。せいぜいが客将らしい、ここらとは違うどこぞの訛りがあるらしい、といった程度だ。無論、漂流者という名称も大々的に久遠が使った訳でもなく、あくまで身内で便宜上そう呼んでいるだけのもの。異なる世界の未来から来たと知っているのはここにいる面々だけの筈である。それを知っているというのは余程幕府の情報網が優れているか、あるいは。

 

「まさか…足利幕府は漂流者という事象そのものを認知している…?」

 

「可能性は大いにある」

 

豊久のような漂流者という存在が過去にもおり、足利幕府がそれを把握している。有り得ない話ではなかった。

 

「なるほど…それが会いたいという話に繋がってくるのですか」

 

「さすが今孔明は呑み込みが早い。その通り、公方め、我と豊久と内々に会いたいと言い出してきおった。知りたいことを教えるゆえ京へ来い、ということだろう」

 

途端に、皆の視線が一斉に豊久へ突き刺さる。そこにあったのは彼を案ずる心配の色……などではなく。

 

「うわぁ…うわ、うわぁ…こりゃホントに面倒事ですね…」

 

「ッスゥーーー……仮病とか使って良いんじゃないですかね?」

 

「うん、犬子もわざわざ打首になりに行く必要ないと思うなぁ…」

 

「舐めちょっとか貴様(きさん)ら!!」

 

豊久(バカ)が粗相をしでかさないか、という酷く切実な不安であった。

 





島津豊久の実力について

ただのオタク語りですが、豊久の強さって実際どの程度なのか真面目に考察してみます。

①戦国最強
ドリフ公式曰く「戦国最強、島津豊久」。この最強は島津にかかっているのか、豊久本人にかかっているのか、文脈的には恐らく後者。

②病み上がりで二桁近くの兵を斬れる
他とは違うと言われたアラムを一方的にボコったが、致命傷に近い傷を受けて一日も経ってない病み上がりの状態でコレ。元気なら石壁ライダーキックとかできる。

③土方本人とは互角かそれ以上、新撰組込みだと負ける
漫画、アニメを見る限り土方本人と剣腕は互角。刀を折られたが、当の土方は北壁の城門を能力なしで切断している描写があるため、むしろ刀折られただけで済んでるのが凄い。なんならあれだけ滅多斬りにされた後に組討に持ち込み、それまでほぼ無傷だった土方と分けているところを見るにむしろ土方より実力は上?

④竜、巨人を殺せる
6巻で龍夫に乗った際、竜騎兵に襲いかかって首を奪っている。見え方の問題かもしれないが、竜の首も切断していると思われる。本人も「竜ん首とったどー」と自己申告してるし。また7巻では自動小銃を使用したとは言え小型巨人を討ち取っている。

総評:わりと壊れでは?
史実でも単騎駆けして2つ首級とったり八艘飛びモドギやって敵の船分捕ったりしているので大概。やっぱこの大将おかしいよ…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。