『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』   作:三途リバー

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文章の書き方を忘れたのでクソ短リハビリ投稿です…


アウトサイダー

 

道道の関所を通過(強行突破)すること幾度、久遠一行が到着したのは京の都……ではなく、上方物流の台所、商人の町堺だった。

 

「将軍に会うんじゃなかがか?」

 

「会うには会うが、別に日時を指定された訳ではない。こちらが危険を冒してわざわざ出向いてやっているのだから、途上で寄り道しようが文句を言われる筋合いはないわ」

 

「道理ではありますが…しかしよろしかったのですか?宿老方へは堺に寄るなど一言も」

 

「うつけを言うな、あの堅物どもに馬鹿正直に申告すれば反対されるに決まっておろうが。くくくく、城下を脱出する手間が省けたというものよ…」

 

つい先程まで豊久の頭に噛み付く勢いで怒り狂っていたのもどこへやら、不敵に笑い声を上げる久遠はなんとも上機嫌である。それもその筈、この旅は当初から堺行きを行程に入れている。というより、堺に行こうとしていたらたまたま京にも用事が出来たので纏めて出掛けるくらいの感覚だった。

 

「種子島、玉薬、武具、南蛮渡来の交易品。今後そういったものを求めるのに、堺の大商人連中との繋がりはどうしても必要になる。どうせ暫く軍は動かせぬのだ、今のうちに見聞を広め、あわよくば渡りを付けようと元々考えておった」

 

故に銭勘定が得意なひよ子を伴ったのよ、と鼻唄混じりの久遠の顔は悪童そのもの。遠く離れた岐阜の城から溜息が聞こえてくるようであった。

 

()()()、頼むから面倒事を起こしてくれるなよ。この街での諍いはご法度。会合衆を敵に回しては奴ら物を売らなくなる。刃傷沙汰など以ての外だぞ。良いな、本当に良いな!」

 

「しつこか、道中百篇は聞いたど」

 

「百篇言わせたのは貴様がその都度やらかしていたからであろうがァ…!!」

 

いつものやり取りに混じる聞き慣れぬ呼び名は、田舎から上ってきた小名一味を装って要らぬ悶着を避けるためのもの。

久遠、詩乃といった身内で呼び合う真名はともかく、今川・齋藤を落とした島津中務少輔豊久という名は流石に響きが良すぎるのである。

 

「で、渡りを付けると申しましても…身一つでいきなり話を持ち掛けられるそのような手合いにお心当たりでも?」

 

「うむ、ないな!だが会合衆の中には近頃巷で流行りの茶の湯の宗匠がおると聞く。一手指南を乞う体で繋がりを持てれば、本業の話にも繋がろう」

 

「会合衆ともなれば、まさに堺商人の中枢。確かに関係を結べれば万々歳ですが…いきなり面通しを申し入れても難しくはないでしょうか。商人間、もしくは茶の湯仲間の紹介状のひとつでも入用かと」

 

「堂々巡りだな。紹介元がおらん。我の茶の湯なぞ、大枠の礼儀作法は聞き齧ったが真似事止まりで師もおらねば繋がりもない」

 

「手っ取り早いのは恩を売ること、ですか。商人にしろ茶人にしろ何らかの方法で信用を得なければ…」

 

あぁでもないこうでもないと久遠詩乃(頭脳労働組)が論じる間、豊久は手持ち無沙汰である。物珍しそうに通りの店店を見渡している。

 

「とよ…又七郎さまは、元の世界で堺にいらしたことは?」

 

「うーむ…あるにはあっがの。上洛んついででん、こげにのんびり街中歩いたこつはなか。土産んひとつでもなかがち、姉上らに文句ば……む」

 

ふと、豊久の足と言葉が止まった。その視線の先は細い路地裏、釣られてひよ子達が見やった先にあったのは……

 

「おうおうおう!宗易さんよォ、ちぃと面貸してもらおうかい!アンタんとこから仕入れた茶器の質でウチの旦那がたいそうお怒りでねぇ!」

 

「商人てのは信用が第一だろう?だったら分かってるよなぁ、誠意の見せ方ってもんをよぉ」

 

荷物を抱える女子を押し囲むように立つ、柄の悪そうな男達。

 

「…………何処にでんおるのじゃな、あげん手合いは」

 

「あっ、ちょっ、お頭っ!だめ!待って!腕捲りしないで!めっ!ほんとだめ!あっ!あーーーーーッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、こういった言いがかりを付けられる事が増えた。商いが波に乗り、嗜んでいる茶の湯の面でも名が知られるようになるとその分妬み嫉みも買うようになる。

 

「しかし、これ程までとは思いませなんだ…」

 

「あァ!?」

 

物騒な夜分には護衛をかねて()()を伴って外出するようにしていたが、まさか天下の堺で白昼堂々と因縁を吹っ掛けられるとは。

漏れ出そうになる溜息を噛み殺しながら、彼女──茶々良は改めて眼前の厄介事に向き合った。

目の前には肩を怒らせ、ともすれば腰の長ドスに手をかけようとする男が2人。これをどうこうできる腕っぷしはないし、もし仮にあったとしてもこちらから手を出せば嬉々として喧嘩を禁じる法度に抵触したと責め立てるだろう。

 

さてどうしたものかと頭を悩ませていると──

 

「おい」

 

剣呑な、荒々しさすら感じさせる声だった。各地から人が集まるここ堺でも聞き覚えのない、特徴的な訛りを伴った低い声。

 

「あ?なんだてめぇ。俺達は商いの話をしてんだ、部外者はすっこんでな!」

 

喚き散らす男達には目もくれず、声の主はこちらを見据えている。

 

「おい。そけん女子に聞いちょる。此奴らばぬしゃん客か」

 

「い、いえ…」

 

「ほうか。なら良かがな」

 

「何を訳の分かんねえ事をぉぉぉぁぁぁぁッッッ!?!?」

 

そこからはあっという間であった。こちらが呆気に取られるうちに、1人の男の身体は弧を描いて投げ飛ばされ、路地から表通りに転がり出る。

 

「てめぇッ!!」

 

激昂したもう1人もまた同じ運命を辿った。

闖入者は男が抜き放った得物を叩き落とすと、肩を引っ掴んでくるりと回る。荒事にはとんと疎い目から見ても、まるで赤子をあやすかのような鮮やかな手並みだった。

 

放り出され、埃にまみれて呻く2人は通行人達の視線を一身に浴びている。なんだなんだと群衆がざわつくが、投げ飛ばした当の本人は涼しい顔でその場を見渡す。

 

「なんがぁ、派手に蹴躓いたの。堺ん小石ばそげに大きかが」

 

小馬鹿にした口調に、男達の顔に朱が走った。

目的を果たせず、衆目に無様を晒され、その上喧嘩の体も取れぬほど呆気なく打ち倒された事実に漸く気が付いたのだろう。

群衆の嘲笑と後ろ指を背に走り去っていくその背を、茶々良はどこか他人事のように見送っていた。

 

「災難じゃったの」

 

「あ、いや、危ない所をお助けいただき、誠にありがとうございまする」

 

あまりの展開と情報量に固まってしまっていたが、どうやら窮状は脱したようだった。

慌てて深々と頭を下げるも、恩人はにこりともしない。苛立しげに鼻を鳴らして男達が逃げ去った方を見やっている。

 

「拳骨んひとつも出来んとは(やぞろ)しか。久遠がうるさかでの…」

 

「又七郎ォォォォ!!!!!言った傍から貴様という奴はぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「あいじゃものなぁ…別に騒ぎば起こしとらん!喧嘩にもなっとらんじゃろうが!あん馬鹿(ざこはつ)共が勝手に転んだだけぞ!」

 

「童の言い訳でももっと捻るわ!今度と言う今度は許さんぞ貴様、首輪でも付けて歩かせてやろうか!」

 

凄まじい形相の連れに引き摺られ、去っていくその姿に先程までの圧は微塵も感じられない。だが何故か、何故だか彼との縁をここで断ち切ってはならぬと茶々良の本能が叫んでいた。

 

「お待ちください!」

 

「「「「「?」」」」」

 

「是非とも御礼をさせていただきたく存じまする。不肖の身ではございますが、何卒、一席設けさせていただけませぬか」

 

情や感謝だけではない。

これは商いだ。

一服の茶で、噂を買い、客を呼び、名を上げる。

この謎めいた男こそが、次の大物になるかもしれない。

 

後に利休と号す堺会合衆筆頭…千茶々良宗易。

心内で冷静に帳簿を捲りながら、彼女は将来の太客足り得る男に、にこやかに語り掛けた。





又七郎…豊久の仮名。家久から継いだもので、島津家は代々又〇郎という通称が与えられる。ちなみに〇に入る数字は出生順ではなく、四兄弟は上からそれぞれ又三郎、又四郎、又六郎、又七郎となっている。
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