『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』 作:三途リバー
「………」
「武具や糧食も大事ではございますが、折角堺へいらしたのです。お召し物や茶器なども…と思いましたが、又七郎様はあまりそういった物にはご興味がおありになりませぬようで。いかがでしょう。差料など見繕われては。ここ堺は何も鉄砲だけが武具の目玉ではございません。相州伝に備前物、近頃流行りの村正など各地の名物業物が集まります」
「ほー…よう見ちょっの。おいんこつば分かっとか」
「これでも目利きには自信があります故…と言いたいところですが、あなた様は分かりやすうございます。近頃の
「商人は口が上手かの」
「ふふ、お褒めに預かり光栄でございます」
豊久が助けた女の素性がまさかの堺会合衆筆頭と判明し、久遠と詩乃が懸念していた諸々の問題はあっさりと、まさに棚から牡丹餅と言わんばかりの勢いで解決した。
礼をしたいと招かれた茶会の席で身分を明かして話を振ったところ、二つ返事で大商人達への紹介状を認めた女…茶々良は和かに笑い、嘯いた。
『大恩ある島津様…いえ、又七郎様のお連れ様たってのお願いとあらば、迷う事などございません。是非
武具、そして何より国内調達の限られる玉薬の供給確保という命題も、会合衆筆頭の差配ひとつでとんとん拍子で進んでいく。
今はその途上、玉薬を取り扱う南蛮商人へ面通しを行うべく、彼らが駐留する街の一角への道すがらである。
しかし何も、これら全てが豊久が運んできた運任せという訳では無い。上洛をも視野に入れていた東海最強勢力たる今川を破り、だけでなく美濃まで一気に掌握した織田家の将来性が買われたと言って良い。
飯を与え武器を与え、たんと肥やして力を付けさせたその雛鳥が長じて空を制すれば、その翼下の庇護は思うがまま。
そんな隠しきれぬ打算をもって笑顔を向ける商人達を、むしろ久遠は歓迎した。
『商人というのはな、流れを読む。読まねば商人として生き残れぬ。この世のどんな者共よりもそれに長けた人種が、我ら織田を
そう笑ってひよ子に商人達の相手をさせる久遠は大層上機嫌であったのだが…。
「…………………近くないか、あやつ」
「近いです!」
「近いですね」
「近うございますね」
やたらと馴れ馴れしく豊久の隣を歩く茶々良に、今や苛立ちを隠そうともしていなかった。
「薩摩ん刀も流れてくるのか。
「数は少うございますが、坊津や博多からも船が着くことがあります。もしかすればその中にお求めの刀剣があるやもしれません。お腰の物に拘りが?」
「拘りち言うほどではなかじゃっどん、生まれてこの方薩摩刀ばかり振るっちょる。他ん刀の善し悪しなぞ分からん」
「九州ですと、新興だという肥後刀を見かけることが増えましたが…よろしければこの後、見て回りませぬか?九州からの卸を取り扱っている店に案内いたしましょう」
何が琴線に触れたのかは分からぬが、会合衆筆頭は豊久をいたく気に入っている。その距離の詰め方、話術は凄まじく、その手の話に興味を抱かなそうな豊久と会話を成立させている…だけでなく、若干前のめりにすらさせていた。
「わ、わたしあんなに楽しそうに話すお頭見た事ないかも…」
「合戦の際とはまた違う…そんな少年のようなお顔をされるのですね、豊久さま……」
「ちょ詩乃、呼び方、呼び方!茶々良さんは兎も角街の人とかいるから!ひよもそんな捨てられた子犬みたいな顔してないでさぁ…あれ?久遠様?」
「刀剣の見繕いは不要!いずれ我から差料を下賜する故な!!」
「下りもんのぅ…あいはまともに使えんくて困るど。忠恒から貰うた太刀も、結局佐土原ん床の間に飾っちょった。ぶち折ると後々面倒じゃろ」
「こンのうつけ…!」
「あらあら、これは差し出がましい真似をいたしました。馬に蹴られてしまいますね。久遠様も色々と苦労をなされているようで…」
そんな道中を経て、辿り着いたのは寺院へと改装した簡素な屋敷だった。茶々良曰く、天守教を信じる南蛮人は僧兵からの襲撃を躱すためにこのような外れに教会擬きを建て、憩いの場としているのだとか。
「南蛮人との商談には通訳が必須ですが、生憎私もそちらの言葉には疎いため、お力になれません。今から紹介するのはその通訳を頼める御仁です」
通された一室で説明を受け、その通訳とやらを待つこと暫く。
「お待たせし、申し訳ございません」
障子が開け放たれた瞬間、柔らかな光が一室を包んだ。燭台の炎を反射した髪が、陽光をそのまま溶かしたような暖かな金色にかがやいている。
「我が名はルイス・エーリカ・フロイス。母が与えてくれた
淀みのない
それらに少なからず面食らった久遠一行の中でも、豊久の瞠目は頭抜けていた。
「エーリカ殿、ご多忙のところお時間をいただきありがとうございます。こちらがお伝えしたお客人方…」
「織田久遠信長だ。南蛮商人との繋ぎを頼みたい」
そんな久遠達の会話が、右から左へと抜けていく。ただ衝撃だけが豊久の頭を打ち、ぐるぐると思考が巡る。久遠に客将として迎えられて以来…いや、下手をすればこの世界に流れ着いてから最大の驚愕に、最早我慢など出来よう筈がない。
「あけつじゅうべえて、明智光秀じゃねぇか!!!!」
■
大音声を発して主に頭を叩かれる豊久の横顔を目で追いながら、茶々良は独りごちる。
最初は恩義、そして打算だ。彼に、そしてその連れにも礼を尽くして茶を振る舞ったのは、あくまで彼自身の為人に何か光る物を見出したからではない。商人としての本能が彼を逃がしてはならぬと吠えたからだ。
だが今や、己が島津豊久に向ける目線にはそれ以上の熱が籠っていることを茶々良は自覚している。
きっかけは単純。
茶席にて、茶の湯の作法など何も知らぬと慌てた供回りにかけた言葉である。
『仰々しく考えんで良か。礼ば尽くして饗したかち言うなら、わいらなりの礼ばもって受ければ良か。作法じゃなんじゃ言うてん、元ば正せば饗しぞ。主も客も肩肘張って茶の味が分からんでは阿呆らしかこつ』
この言葉が、すとんと茶々良の胸に落ちた。
彼女の理想たる茶席とは、名物や作法、華美な御殿にのみ目を向ける公家らの茶の湯とは一線を画す。
茶席とは、高価な磁器や名画をひけらかし、自らの富を顕示する場に在らず。そう思っていたのに──
(そう。結局は私も、茶席に商いという不純物を持ち込んでいた。饗す側と饗される側、対等でただ共に、静かに茶を楽しむべきだと師に大言を吐いたというのに)
まさに、横面を張られた思いであった。
「すまんエーリカとやら、此奴本当に残念な奴でな。たまに訳の分からんことを口走るのだ。気を悪くせんでくれ、ほんとに」
「は、はぁ…?」
「仕方ねぇだろ!光秀じゃぞ!本能寺じゃぞ!!」
「何処から出てきたその諱ァ!貴様向こうで南蛮人の知り合いもいたのか!?」
「いねぇよ!南蛮人だから驚いとるんじゃ!」
「あぁもう分かった、取り敢えず黙れ、というか出ていけ!転子、暫し此奴を連れて街でも回ってくれぬか!」
「はいはーい、行きましょうね豊久さま、甘い物でも食べて落ち着きましょー?」
「あ、ころちゃんずるい!役得!!私もお供を〜!」
「えー?島津衆筆頭の木下様はお得意の商談という大役があるじゃないですか〜♪」
「んぎぎぎぎぎ!!」
「待ッ、ちくと待てい!追い出す前提で話すな!餓鬼かおいは!」
「餓鬼よりも厄介だわ!とっとと出ていけこのうつけ!」
ぎゃあぎゃあと喚き散らす一行に、困惑の表情を浮かべるエーリカ。ただ茶々良だけが、豊久を見て微笑んでいる。
(あなた様のお陰で、茶々良は初心に立ち戻る事が出来ました)
やはり商人というこの身上、否が応にも茶席にも商いの勘定を持ち込んでしまう。こればかりは身に染み付いた業のようなものだ。茶々良の脳裏には、自身を育て上げてくれた祖母の法要を営む金も無いほどに困窮した過去の記憶がこびりついている。商機を見てとるや須臾の間も置かずにそれを掴みにいく商才は、最早反射の域にまで達している。
事実豊久の言に心打たれながら、同時に織田家との関係構築による利を弾き出していたのだ。二足の草鞋を履けるほどの器用さはないと、茶々良が自覚するには充分だった。
ある意味、純粋過ぎるのだ。
(家族を養い、子らへ残せるだけの財は成した。であれば、次に目指すは私が信じ、見出した美と愉しさ)
これより僅か数ヶ月後、茶々良は自身が営む
まさかそれに自身が密接に関わっているとは、豊久はついぞ生涯知らぬままであった。
(しかし、私ももっと謙虚に、真摯になりませんと。
■
「ぶぇぇっくし!!誰ぞおいん噂話でんしちょっとかのう」
「えー…上洛とか言って遊びに行った先で風邪でも貰ってきたんじゃないですか?」
「あ、遊びではなかど!
「大事な時に家空けてんじゃねぇって
「ぬしゃ硬かのう…こげん家老に四六時中傍におられっと気ば休まらん」
「家老じゃねぇっつってんだろはっ倒すぞ首狩り妖怪。──で、どうするんです?大友めちゃくちゃキレてますよ。すんごい大軍送ってくるぽいですよ。なんなら宗麟本人来るっぽいですよ」
「大軍言うてん、道雪紹運は一遍に動かせんじゃろ。飛車角落ちぞ、何処ぞの城に引き付けて全軍でブッ叩けば良か」
「あのねぇ……簡単に言ってくれますけど、誰がそんな危ない釣り役やるんですか。万単位の大友軍を籠城しながら引き付けて?太守様をお待ちして包囲戦に参加して突撃?過労死しますよ」
「おいとお前なら問題なか」
「何しれっと私まで数に数えてんだ!一人でやれ一人で!!」
「籠城ばつまらん。話し相手でもおらんと気が滅入るど」
「駄目駄目駄目殴ったら切腹殴ったら切腹こんなんでも太守様の弟こんなんでも太守様の弟………」
「あぁ、前線は耳川あたりになるち思うての。あそこに城ばあったじゃろ。城主に推薦しといたど」
「はえーよ先走んじゃねーよ。私に死ねと?」
「じゃからおいも一緒に行くち言っとろうが。一人では死なせんわ」
「はー…………ほんっっっと良くないですよ、あなた。その一言で薩摩
魚屋…千利休が営んでいた商家。塩、魚の取り扱いの他、それらを保管する倉庫業だったらしい。父、祖父が立て続けに亡くなる等苦労が重なり、一時期は祖父の七回忌が出来ないほど金に困っていた。
千咲希、穂希…恋姫世界における島津義久、義弘の真名。先日情報公開された。あの、公式HP解説まだですかね…?
暁希…本作品における例のあの人の真名。ははーんさては恋姫島津は「希」が通字だな?と睨んだ筆者の名推理()により決まった。
暁希の話し相手…島津好きな人はピンときてるかもしれない。なぜか、この人と日記魔は家久によく振り回されてるイメージがある。恋姫Brave弐のキャラ公開によっては大きくキャラ変の可能性があります。