『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』   作:三途リバー

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「…驚きました」

 

豊久が出ていった後も、朱色の瞳はその影を追っていた。

流石に身内の恥である。久遠は素直に詫びた。

 

「無礼は詫びよう。だが勘違いするでないぞ。アレは別に日本(ひのもと)の標準ではない」

 

客将として迎えている久遠が、そして普段から側仕えしている詩乃やひよ子すら手こずる特大の異物。そんな豊久が典型的な日本人と類されるのは、流石に御免蒙りたかった。

 

だが、次に出たエーリカの言葉はそのような呑気を霧散させるには充分なものだった。

 

「いえ、違うのです。公方様がお呼び出しの漂流者…島津豊久殿が斯様な所においでとは」

 

「───ふむ」

 

ここに至り久遠は己の失態を悟る。

 

安全が確保されている堺に入り、だけでなく目当ての商人とも渡りを付け、上手く事を運びすぎてこのような修羅場の可能性を完全に見落としていた。

相手が誰であれ何であれ、ここで刃傷沙汰を起こす気はさらさらないが、豊久を遠ざけるなどそれだけで選択肢(最後の手段)を手放したのに等しい。心内で舌打ちするが、後の祭りである。

 

だがそこは久遠、そんな苦々しい思いなどおくびにも出さない。さあらぬ体で傍らの詩乃へと笑いかけた。

 

「流石に道中派手に騒ぎを起こしすぎたか。すっかり有名人になったものだ」

 

「…えぇ、全くです」

 

詩乃の声音は露骨に警戒の色を含んでいるが、 それも当然である。

南蛮人が足利将軍と繋がりを持ち、漂流者の存在を認識し、あまつさえ名乗りもせぬうち豊久を()()と認識しているのだ。

不思議やら疑問やらを遥かに通り越し、不気味さすら感じる。

 

気付けば、茶々良は音もなく立ち上がって部屋を後にしていた。公方、即ち足利将軍家の名が出た時点で、自分が耳に入れて良い話ではない、と判断したらしい。……恐らく、部屋の外で聞き耳は立てていようが。

 

「別に責めようとは思っておりません。私は足利家臣ではなく、あくまで協力者。むしろここで接触…失礼、お会いできたことは僥倖と存じます」

 

「ほう、協力。南蛮人が将軍家と協力と。腐ってもこの国の中枢と如何にして渡りを付け、如何なる事象について合力に至ったか。是非とも聞かせて貰いたいものだ」

 

「勿論にございます」

 

先程も感じただが、エーリカの日本語(ひのもとことば)は流暢そのもの。声音に多少の違和感はあるものの、言葉遣いは日本人と遜色ない。

 

「先程も申し上げた通り、私のもう1つの姓はアケツ。ポルトゥカーレに嫁いだ亡き母から受け継いだものです。祖国において私は天守教の司祭を務めていますが…この血筋(ルーツ)が故に、法王庁は私に1つの使命を与え、この日本へと派遣しました」

 

アケツ、というのが豊久が口走った明智と同じものであるならば、目の前の南蛮人は清和源氏土岐氏の支流、美濃屈指の名門の出ということになる。怪しくはあるが、疑義を挟んでも仕方がない。久遠は目線で続きを促す。

 

「その使命とは、暗殺。天守教司祭でありながら闇に染まった悪魔、フランシスコ・ザビエルの暗殺です」

 

曰く、ザビエルなる輩は天守教の司祭としてこの日本に訪れたが、その真の目的は布教などではない。異形の姿をした化物…悪魔の楽園を築くこと。

膂力、敏捷性、生命力、いずれをとっても人を遥かに超える悪魔は人肉や血を好み、夜な夜な町に現れては人を襲う。そしてある呪法を用いることで、悪魔に殺された者もまた悪魔に成り果てる。

ザビエルはそんな悪魔の特性を利用してこの国の全てを作り替え、そして手に入れるという野望に取り憑かれたのだという。

 

「そんな御伽草子みたいな話!って言いたいですけど…」

 

「あぁ。ザビエルとやらの目的は馬鹿馬鹿しいの一言に尽きるが、貴様の言う悪魔については否定できん。なにせ一度やり合うておるのだからな」

 

間違いない。悪魔とは、田楽狭間に発生した鬼のことであろう。確かにあれらは人とは思えぬ力を発揮し、精鋭無比の今川軍を食い殺して暴れていた。あの一帯にだけ大量発生した物とは思っていなかったが、まさか南蛮からの渡来物とは。

 

「ザビエルはまた、人を直接悪魔へと変えてしまう呪法を修めています。このような者を野放してはいずれ国中の人々が悪魔へと成り果て、この世はそのまま地獄となるでしょう。それを防ぐため、私は日本の武人全ての頂点たる幕府を頼らんとしたのです」

 

「しかしその肝心の頂点は権威を失い、悪魔に対抗するどころではなかったと」

 

「はい。当代の公方様は聡明で、だけでなく武の面でも間違いなく王たる才をお持ちのお方。されど悲しいかな、幕府そのものに力は残されていませんでした。絶望する私に、公方様は仰られたのです。漂流者を探せ、と」

 

「そこだ。その漂流者というのが、我らの最も知りたきところよ」

 

「そこについては私も詳しくは…。ただ公方様や家宰の方が仰るには、古来より歴史の転換点に現れ、時代の流れを大きく変えてきた者達と。足利幕府創立も、その漂流者の力が大きく作用していたそうです」

 

ただひとつ言えるのは、とエーリカは続ける。

 

「現時点で公方様と私が明確に存在を把握しているのは島津豊久殿おひとり。公方様が豊久殿をお呼びになる間、私は全国の品々と人、そして情報が集まる堺に逗留し各地の様子を探っておりました。しかし生憎、これまでにそれらしき噂の影も掴めておりません」

 

漂流者に何ができるのか。なぜ幕府とエーリカは漂流者に拘るのか。御家流や人外の力を発揮する訳ではないのに、何故。

問い詰めたい事は山ほどあるが、それを確かめるにはさっさと京に来いと、人形細工のような精巧な顔に書いてある。

 

(情報も、知識も、何もかもが足りん。あくまでこちらは与えられる側。風下に立つのも止むなしと言ったところか)

 

「貴様らが悪魔という化生を、我らは鬼と呼んでいる。矛を交えたことはあったが、その生態までは把握しておらなんだ。今聞いて、改めて思う。国主として、一人の武人として、断じてこれを放置することはできぬ」

 

「ご理解いただけますか!」

 

花が咲いたような、とはこのような笑顔を指すのだろう。エーリカは久遠の手を取らんばかりに歓喜し、感激の面持ちを隠さない。大方、幕府の重臣や大名共にホラだなんだとあしらわれてきたのだろう。かく言う久遠も、その目で鬼の大群を見ておらねば信じていたか怪しい。

 

(あれらは放置できぬ。間違いない。民の暮らしを安んずるために、1匹残らず駆逐せねばならぬ。この想いに騙るところなど一片もない………………が)

 

「得たな」

「久遠さま…」

 

何が、とは言わない。だがその言葉の続きを察した詩乃は呆れた声をあげ、ともすればエーリカに見えぬようこちらの腿を抓ってくる始末。だが久遠はそれに怒ることもなく、ちらりと其方を向いて訴えかける。

 

なんだ貴様も同じ考えではないか、と。

 

(日本全土を脅かす未曾有の難事、まさ国難。事ここに至って全国の大名が私利私欲を以てチマチマ領地の奪い合いなどしている場合ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に当たらねばなるまいなぁ。いやはや全く、鬼を打ち破った経験がある濃尾2カ国の太守として!我ら織田家一同、足利幕府を扶け、国中の武士が揆を一にする為に粉骨砕身せん…ククク…)

 

「ねぇ詩乃ちゃん、アレ絶対なんか良くないこと考えてる顔だよね…」

「えぇ…まぁ…帥というのは時々あぁなるものではありますので…そっとしておいてあげて下さい…」

 

「???」

 

「さて、道は決まった。エーリカとやら、我らを足利将軍の下へと案内せい。公方と、異教の暗殺者と、そして漂流者。全員纏めて情報交換するが手っ取り早い」

 

漂流者の謎、そして日本を覆う悪魔()の影。点と点が繋がってゆく感覚を胸に、久遠一行の上洛の途は続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、その前に南蛮商人との繋ぎは頼むぞ」

 

「えッ、これ以上公方様をお待たせするのですか!?」

 

「お待たせと言っても、戦を終えたばかりの我らを正式な上洛要請でもなく書状ひとつで呼び付けておいて寄り道せずに真っ直ぐ来いとは無体であろう。それにこの先鬼共と戦うのに武器弾薬は必須。これからの戦への、この国の未来への投資であるぞ?ん??」

 

「は、はぁ…然らば承りまする…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堺を発ち、新たな同行者を加えた京への道中。

珍しく、まったく珍しく、豊久は困ったようにうんうんと唸っている。

その様子は珍妙という他なく、すわ魚にでも当たったかとひよ子が大真面目に心配するほどであった。

それほどの弱りっぷりである。

だが参った、としか言いようがない。

 

元来、豊久は自他共に認める考え無しである。一も二もなく議すらなく、ましぐらに駆けて理論理屈は後から付いてくる…そうして生きてきたし、このおかしな世に流れて来てからもそれは変わっていない。

 

そんな豊久が、唸りを上げざるを得ない。それほどの()()が、目の前で透き通るような笑みを浮かべていた。

 

「豊久どの?」

 

明智惟任光秀。天下布武に王手をかけた織田信長を、京本能寺にて討ち果たした稀代の謀反人。

それが女子であるのはもうこの際良い。流石に一々反応するのにも疲れてきた。その正体が南蛮人であったという事さえも、今は一旦捨ておこう。

 

(金柑頭て、髪色んこつかよ)

 

問題は、彼女が明智光秀であるというただその一点だけである。

豊久が知る歴史の流れから行けば、彼女は仮にも豊久が仕える織田久遠信長を殺すことになる。

 

かつての豊久であれば鼻で笑って捨て置いたであろう。自身の知識など、このイカれた世界であてになる訳もないと気にも留めなかった筈だ。

事実、頭の片隅では今もそう思っている。知ったことか、自分は勝手に走るだけ、と。

 

だが今や、同時にこうも考えている。

もしも自分が知る未来と同じく、この女子が寺で寝ている久遠を焼き殺したならば。その時、島津中務少輔豊久は己を許せるのか、と。

 

(じゃっどん、もしも仮にで人ば斬れん)

 

この辺り、不思議な男である。闘争、突き詰めれば功名をこそ命題とし、戦場において手段を選ばず、本能的に最適解を叩き出す割に、義侠心や義憤の類を備えている。

だがこの妙な倫理観…自分自身に課す法度こそ、島津豊久を島津豊久たらしめていると言って良いのかもしれない。

 

「──くはッ」

 

ふと、自嘲にも似た笑いが込み上げた。

大真面目に一人の女子の未来を案じ、己の法度を持ち出してまで悩んでいるのだ。似合わないにもほどがある。

 

どうやら、自分は思った以上に久遠を失い難く感じているらしい。自身を拾ってくれた恩人としてだけではない。優秀極まる大将としてだけでもない。岐阜の天守で語らった夢、そしてその真っ直ぐさを損なわず歩いて欲しいと、豊久はそう本心で思ったのだ。

 

「いや色恋云々ではなかが」

 

「なんだ、どうした?」

 

「なんでんなか」

 

20といかぬ小娘である。むしろ父性に片足を突っ込んでいる…と誰にともなく言い訳がましい声を上げたのは、肩に嫌な重さと寒気を感じたからではない。断じてない。椿の香りなどしていないったらないのだ。

 

まぁ、ともかく。

 

(結局、悩んだ所でどうにもならん。ならば流さるっまま流されち、辿り着いた先で刀ば振れば良か話)

 

無い頭を捻って考えてみても、行き着く先は結局そこである。

久遠の背を追い、踏み出した時には既に豊久の頭から悩みなど霧散している。

 

割り切りが異様に上手い、というのもこの男の特徴であった。





戦国恋姫九州編、皆さんはどの武将参戦希望でしょうか。島津、大友、龍造寺と手広くキャスティングするっぽいので各家臣団の登場は望み薄ですが、個人的には家久と死ぬほど仲悪い島津忠長とか性格終わってる伊集院忠棟(史実だと結構好きだし個人的には分を超えて栄達し過ぎたせいで人柱にされた割と被害者側の人だと思ってます)とかヒロインにあるまじきアクの強いキャラ付けを見てみたいです。

出るわけねぇだろ!!!!
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