『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』   作:三途リバー

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いつもありがとうございます。



ナイストゥーミーチュー

 

悪路を物ともせぬ疾走の勢いそのままに、豊久は少女と異形の間に身を踊らせた。

 

「よう、小娘ども」

 

一刀必殺。

タイ捨流の真髄、全体重と加速の重さを載せた袈裟斬りは、今にも少女へ覆いかぶさりそうになっていた影を容易く両断した。

 

「ーーーー!!」

 

分かたれ、地面にずり落ちる上半身に目もくれず、豊久は更に前へと踏み込む。

 

貴様(きさん)らは女子首ば奪うのか、あぁ?」

 

二匹目を片手で真っ二つに斬って落とし、飛び込んできた三匹目は蹴り倒してから脳天に切っ先を突き刺す。

淡々と、しかし確かに殺意を立ち登らせながら次々に異形を殺して回る。流石に恐怖したか、敵の一団の動きは鈍った。

 

その致命的な隙を、豊久が逃がす筈はない。こと戦さにあって、豊久は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「チィェェオッッ!!!」

 

大上段に構えた大太刀を、一際身体の大きな異形の脳天に振り下ろす。

なんとか受け止めんと交差した腕ごと刀身が頭へめり込み、異形は裂けた口の間から唾を飛ばして叫びを挙げる。その内容は聞き取れず、断末魔にしてもいっとう不気味なものだった。

 

グルァッ、がァッ、ガァァァッッ……!?

 

「分がんねぇよぅ。何言ってるのかさっぱり分からねぇ。日本語(ひのもとことば)喋れよぅ。日本語(ひのもとことば)喋れねぇなら……」

 

だが豊久は怯まない。止まらない。刀を持つ手に力を込め続ける。

 

「死ねよ」

 

脳漿を撒き散らし、()()が屍体に変わるのに然程時はかからなかった。

 

頭目と見たデカブツを斃した後は呆気ない。あれほどいた異形共は、算を乱して元来た道を逃げ帰っていく。それを敢えて追い討つことはせず、豊久は大太刀の血を払いながら振り返った。

 

そこには呆然といった様子で座り込む少女と、それを庇うように立ち塞がる同じ年頃の2人。

 

「フゥーッ、フゥーッ…!!」

 

桃色がかった紅髪の少女は威嚇するようにこちらを睨みつけ、なんとしても輩を守らんと震える身体を押さえつけている。犬を模した飾りを付けている少女も、手傷を負ったらしいもう1人の紫髪に肩を貸し、ジリジリと脱出の機を窺っていた。

 

明らかに警戒されているが、豊久は一向に気にせずズンズンと歩み寄っていく。ビクリと肩を跳ねさせた少女達だが、それでもやはり友を見捨てようとはしなかった。

 

「お(まん)らが三若とやらか」

 

ふっと殺気を霧散させ、豊久が少女達を見下ろす。その顔は先程まで悪鬼の如く死を振りまいていたことを微塵も感じさせない、穏やかなものだった。

 

「ぁ…」

 

「お前らが、おいを助けてくれたんだろ。今度はおいの番じゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、行っちゃったねお兄さん…」

 

「嵐みたいだったな…」

 

結局、あの闖入者は義元が健在かどうかだけ聞くと、恐ろしい笑みを浮かべて嬉々として走り去って行った。

和奏の言う通り、嵐に遭ったようだった。

 

「大事ないか、三若!!」

 

その時、久遠率いる本隊が姿を見せる。先鋒壊滅は知れていように、皆が意気軒昂に闘志を漲らせていた。

「ここに来るまで、逃亡兵はあれど今川の追手は見えなかった。よく防いだ、大義である」

 

「あ、ありがたきお言葉です!ですが雛が…」

 

「ごほっ、致命傷とかではないですよー。謎のお兄さんが助けてくれました」

 

咳込みながら、雛が男が消えた方向を見やった。立ち振る舞いと言い、鬼を一方的に斬り伏せる強さと言い、いくら何でも不明(わけわからず)が過ぎる。流石に説明を求めたい。

 

「ふふ、あれに会うたか。どうだった、面白い男だろう?」

 

「不思議な人だなーと」

 

「強いとは思いました…ほ、ほんの少し!ほんの少しだけですけど!」

 

「うーん…犬子はねー、優しい人だと思いました!目線を合わせてくれたって言うか、なんか、身分とかあんま気にしない人なんだろうなーって」

 

確かに、彼の装備は簡素なれど上等で、足軽や侍大将といった身分には見えなかった。所作も荒々しくはあったものの、どこか気品というか清々しさを感じさせた。

 

「なんだよそれ、嗅覚かよ」

 

「むふー、犬子の嗅覚は確かだよー」

 

……感触は上々。うむ。働き次第ではいけるな、これは

 

部下達のやり取りを見て、久遠が満足そうに笑んだ。が、一瞬にしてその顔は武将のものへと立ち戻る。

 

「兎に角、今はこの窮地を脱さねばな。我々はこのまま今川本陣へと討ち入り、義元の首級を奪る。…猿!雛を介抱せい!和奏、犬子。もうひと踏ん張りできるか?」

 

「あったりまえです!まだまだ運動したりませんよ!」

 

「雛の分まで、犬子たちが武功を挙げます!」

 

「うへぇ、貧乏クジ……あ、2人ともー」

 

すぐに体勢を整え、進発しようとする親友二人を、雛は呼び止めた。

自分らしくないとは思いつつ、なんとなくそうしたいという心の欲求に雛は従った。先程の武者が見せた、純粋な感謝の念のせいだろうか。

 

「さっきはありがとねー、庇ってくれて。お兄さんにもよろしく伝えておいて」

 

「な、なんだよ突然!そういうのアレだろ、討死の旗が立つって言うんだろ!?」

 

「にへへ、和奏ってば照れてる〜」

 

「うるっさいなぁ!早く行くぞ!余所者に義元の首級奪られちゃ笑いものだ!」

 

壬月や麦穂と合流し、駆けていく2人の背を見ながら、雛の頭に思い浮かんだのは先程の武者の姿だった。

 

鬼をたやすく屠る強さ。

他を圧し、戦場の全てを支配するような殺意。

そして、あの屈託のない子供のような純粋な顔。

 

ちぐはぐで、どちらが彼の本質なのか分からない。もしかしたら、どちらも彼の一面に過ぎないのかもしれない。考えれば考えるほど分からなくなっていく。

 

気付けば雛の中に、ひとつの欲が鎌首をもたげていた。

 

(ほんと、不思議な人だったなー。直接お礼も言わなきゃだし…知らないとこで討死とかやめて欲しいな。…うん。あの人のこと、ちゃんと知りたい)

 

「雛様?大丈夫ですか?少々お顔が赤い気が…」

 

「ひよ子はさぁ……空気読めないってよく言われないー?」

 

「うぇぇ!?し、失礼いたしましたぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む?」

 

豊久は、自身の後ろから迫る馬蹄の音に気付いた。

久遠を先頭に壬月や麦穂、その後ろには決死の形相で追従する兵達が見える。大胆にも、本隊を丸ごと動かしたらしい。

尚、その直接的原因が己の単騎駆けにあるということを、豊久は微塵も理解していない。

 

「遅い、遅いぞ織田信長!どうしたどうした、第六天魔王!」

 

「き・さ・ま・が!ひとりで突っ走ったせい…ってなんだその渾名!?…いや、意外と良いな。うん。しっくり来る。一揆勢やら僧兵やらと事を構える時には名乗ってみるか」

 

「女子でん傾奇者(かぶきもん)なんは変わらんのだのう…」

 

「あ!いたいた、お兄さーーん!」

 

するりと馬の間を抜け、駆け寄ってくる2つの影。見れば、先程会った三若の2人であった。

 

「ぬ、お前らも来たんか」

 

「うん!さっきはありがとうね!雛もお礼言ってたよ〜」

 

「なんの、助けられたがはおいの方じゃ。あいこぞ」

 

「えへへ、でもやっぱりお礼は大事だよ!お金も人間関係も、お互いの信用の上に成り立つし!」

 

「良いこと言ってる風なんだけど金の話で台無しだよ!…んん!ボクは佐々和奏成政。人呼んで織田の特攻隊長!さっきは助かったけど、余所者に手柄を譲る気はないからな!」

 

豊久とて女子に、しかも少女に手柄を譲る気など毛頭ない。この世界ではどうか知らないが、豊久にとってそれは切腹ものの恥である。

 

「島津中務少輔豊久じゃ。義元ん首ばおいが奪う。小娘は帰って紅でん付けちょれ。友輩(ともがら)も待っちょっど」

 

「はぁぁぁぁ!?!?!?病み上がりで寝ぼけてんのか!?!?オマエこそ帰って寝てろ、いい大人がはしゃいで傷口開いても知らないからな!!」

 

怒りながらも傷の事を心配するあたり、人の良さが透けて見える。

 

「そーそー、槍働きはこの前田犬子利家にお任せあれ〜!」

 

「まえッ…!?!?か、加賀大納言がこげな……」

 

豊臣政権の重鎮、身罷らねば関ヶ原は起こらなかったとすら言われた百万石の大大名。

それがこの子犬のような元気印の女子とは、にわかに…いや普通に信じがたい。無理である。頭が痛くなり、豊久はもう考えるのをやめた。

織田信長に柴田勝家、オマケに前田利家と豊久の脳は許容量の限界(キャパオーバー)だった。…ちなみに麦穂の機嫌が若干悪そうなのは気の所為であろう。

 

「わう???」

 

「すまんな和奏、犬子。こやつは時たま()()なのだ。そっとしておいてやれ」

 

「なんじゃあ、そん残念なもんば見っ目ぇ!!」

 

などとやり取りをしている間に、視界が開ける。

畦道を抜け、狭間へと出たのだ。だがそこで織田軍が見たのは、整然と待ち受ける今川の大軍ではなかった。

 

「なん、だ。これは……こんな、事が…」

 

壬月の零した言葉が全てを物語っている。

夥しい人馬の屍…否、それだけでない。同等かそれ以上の数、鬼の屍体も転がっている。

血と糞尿の悪臭が立ち上り、戦場に慣れた者ですら顔を顰める惨状が広がっていた。

 

「今川本陣は、鬼に襲われたのか…!?」

 

「それで今川兵がこちらに向かって()()していたということですか…。!ならまさか、義元も既に!?」

 

「ま、待ってください麦穂さま!鬼の屍体が多すぎます!さっき、雛が言ってました!なんで鬼がわざわざこっちに向かって来るんだろうって!餌は、今川本陣の方が近いだろうにって!一瞬、今川が鬼を使役したのか、それとも食い尽くされてこっちに矛先を向けたのかと思いましたけど、でも!」

 

和奏が顔を蒼くしながら叫ぶ。流石の久遠も、手綱を引く手に力が入っていた。

 

「違う!アイツら、()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

その時、前方に火柱が上がる。比喩では無い。

雲を突き破り、雨を蒸発させ、残っていた鬼を纏めて焼き払う炎が舞ったのだ。

 

「うわははは!すごかのう!どえらか鬨じゃのう!あいが今川の本丸かのう!!」

 

織田の将兵達が絶句する中、ただ()()()だけが楽しそうに声を挙げ、得物を抜き放つ。

 

「織田の勇士達よ!化生共に怯むなかれ!窮状に屈するなかれ!逆境を跳ね返し、道を開くが我らの戦!乱れに乱れたこの地獄、打ち破ることこそ武士の誉ぞ!」

 

"鬼島津"豊久と、第六天魔王 織田久遠信長。

この日、この時、2つの巨星が外史の表舞台へと駆け上がった。





加賀大納言……前田利家は清華家に列し、権大納言にも昇進したが、実は一年足らずで辞任してたりする。五大老に任じられたのはその後。そして翌年病没。因みに賤ヶ岳の寝返りについての柴田勝家との美談は子孫の創作と言われており、後世『自分の家に都合よく書いてんじゃねぇボケ!!』とブチ切れた研究者がいたとか。


恋姫キャラ→豊久への、基本的な呼び方についてアンケートを取らせていただきます。どの呼び方も理由付け自体は考えているのですが、最終決定で悩んでいるためぶん投げさせていただきます。理屈は作中でちゃんと付けますので、ふるってご投票下さい。
勿論、多少崩れたり別名で呼ぶキャラも出る予定です。あくまで基本ということで、何卒ひとつ。
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