『首置いてけ!大将首……また女子か!!!!!』 作:三途リバー
訳も分からぬまま、仕官せよと捲し立てられた翌朝。
「…織田の本拠も意外と質素だの」
「現状は尾張一国、更には美濃に手を伸ばすので精一杯ですから。中書どのが語られた、聚楽第?のような贅を尽くした城とは比べられませんよ。あ、久遠さまの夢を否定している訳では決してありませんよ?飛躍はここから、ということです」
朝飯を食う間もなく叩き起され、豊久は織田家本拠地・清須城を訪れていた。というか拉致されていた。
城主たる久遠は現在評定の真っ最中。『家中に披露するゆえ、暫し待て』と言われ次の間に押し込められ、今ようやっと迎えの麦穂に連れられて広間へと向かっている。
「そいにしてん、ぬしゃん主ば滅ッ茶苦ッ茶ど。いきない仕官せいだの登城せいだの」
「あら、我が主はお仕えするに値しませんか?」
前を歩く麦穂が微笑みながらこちらを振り向いた。笑みの奥の目が僅かに開かれているのに気付いたが、豊久は取り合わない。怯みもしない。
「仕官すっともせんとも答えとらんち話じゃ」
あの後、やけに上機嫌になった久遠は一方的に俸禄やら待遇の話をして事を進めてしまった。流石は天下布武などぶち上げた男(女)、これと決めた時の押しの強さは尋常ではなかった。
しかしまぁ、実の所仕官自体に文句はない。まぁ織田が
待遇についても気にしてはいない。そんなもの、自ら功名を得るうちに後から付いてくるだろう。
「と言うかあいぞ、おいが良くとも織田ん家臣は良かがか」
「先の戦でのお働きを見せられてしまえば、中書どのの武芸に文句など付けようもありませんよ。……少し、えぇ、ほんの少しだけ待遇面について話し合いというか怒鳴り合いというか掴み合いが起こりそうになっただけで」
「やっぱ駄目じゃねぇか!じゃっであげにドッタンバッタンしとったんか!次の間にも聞ったど!」
「ま、まぁまぁ。それら含めて、久遠さまから中書どのにも家中へもお達しがございます。それに、家中随一の豪傑、かかれ柴田どのが是非にもと所望されております。悪いようにはなりませんよ。それに私も、中書どのと再び同陣できる日を楽しみにしております」
「………」
「あら、私の言葉をお疑いになるのですか?」
呆れた豊久の顔を見てくすくすと笑うその様子に、先程までの鋭さは見てとれない。こちらの柔らかい笑みが麦穂の素なのだろう。本来の性状を抑え、宿老として己の役割を解し、冷静に徹する。その麦穂の姿に、豊久は彼女への評価を一段上げた。
「さて、そろそろ着きますよ。お覚悟はよろしいですか?」
そんなやり取りをするうちに城内の最奥、評定の間へと続く大襖の前へと辿り着いた。戸を一枚挟んだ中からは、怒号とまでは行かずとも、喧騒一歩手前の声が聞こえてくる。
「おう、よかど」
「ふふふ、織田の家中は血気盛んですが、中書どのにも合っていると思いますよ。さぁ、参りましょう」
声と同時に、襖が開け放たれた。
「来たか
真正面の最上座に見えるのは、花が咲いたような笑顔……にしてはだいぶ悪どい面をした久遠。上座には壬月、下座は空席、そして以降見知らぬ顔の宿老衆と続く。更に下座には田楽狭間で同陣した三若らの姿もあった。壬月を除き、いずれもお世辞にも好意的とは言えぬ視線が突き刺さる。
「…♪」
紫髪の少女だけが、こちらへ小さく手を振るのが見えた。確か雛と言ったか。
「どうした、そんなところに突っ立っておらずこちらへ来い」
「おう」
常人ならば針の筵と居竦む場面であろうが、豊久は常人の神経を持っていない。なんの躊躇いも気後れもなく、居並ぶ家臣達の間を大股歩んでいく。
「なっ…!」
「ぶ、無礼な!」
『近う寄れ』『ははー』『もそっと近う』 などという殊勝なやり取りを完全に無視した行動である。久遠の真正面まで進んだ豊久は腰を下ろし、佩刀を右に置いた。
溜息を吐く者、思わず腰を浮かす者、脇差に手を伸ばす者。反応は様々であるが、唯一久遠だけが楽しげに肩をゆすっている。
「くくく、皆、言ったであろう。この者を単なる一家臣として召し抱えるなど到底不可能であると。…改めて紹介しよう。此度
「…あん?」
「存分に引き回してやってくれ。ほれ、貴様からも何か「ちくと待てぇぇい!!」なんだ、五月蝿い。待遇の不満なら後で聞くが」
「客将てなんじゃ客将て!昨日ば家臣じゃ言うっとったじゃろ!」
「不満か?」
しれっと言ってのける久遠に噛み付く豊久だが、周囲はその言葉遣いにもう何を言うこともできない。ただ唖然と眺めているだけである。
「不満ちゅうか、話が二転三転しとるじゃろうが!結局お前はないがしたかど!」
「あー、まぁ色々考えたのだがな。
「破れん」
この即答である。だが久遠は益々笑みを深めた。
「で、あろう?故によ」
む、と豊久は言葉に詰まる。
仕官せよと言われた際、豊久にはただひとつ懸念点があった。
女子首である。
豊久にとって戦とは、功名とは己の生きる意義そのもの。首を奪ることだけが己の価値を証明する唯一の方法であり、己に為せる全てである。女子首を奪ったところで、それは功名ではない。豊久の価値を証明してはくれない。どころか女子供を殺し、誇るなど恥以外の何ものでもない。
女子首は奪らない。それが豊久の法度である。
別にそれを、自軍はともかく赤の他人にも強制するつもりは無い。各々の理にて進めば良い。だがもし、権力をもって強いて破らせしめようとするならば。
豊久の理を捻じ曲げようとするならば。
(一戦交えるこつも辞さず…なんぞ考えとったんだがの)
「我の為に全てを投げ打つことが出来ぬ者に、仕えよとは言えぬ。故に豊久、改めて申し伝えよう。
久遠が豊久を理解したように、豊久もここに至り漸く久遠という人間を理解した。
「───良か。あいがたく、受けもそ」
「良し!では早速家中へ挨拶を、と行きたいところだが。まぁ分かっていようが、貴様のような素性の分からぬ、しかも兵を持たぬ身一つの者をいきなり将として迎えるのは難しい。そこでだ」
久遠からの視線を受けた壬月は頷き、懐から地図を出して豊久の前へと広げ始めた。
「私としては貴様を迎え入れることに異存はない。その武勇は先の今川との一戦にて大いに発揮された。しかし、兵を率いる将としての力量は家中の理解を得るに至ってはおらぬ。故に、示せ」
言いながら叩いたのは、地図上の一点。三つの川に挟まれ、突き出た形の中洲に記される名は───
「兵は柴田衆傘下から出す。軍監として私も参ろう。その上で貴様が兵を率い、この戦にて功を挙げよ」
墨俣。
立身出世伝説、始まりの地であった。
■
彼方から、地響きに似た音が響いた。大地が揺れ、晴天の中に一筋の噴煙が上がるが、屯する兵達は見向きもしない。無言のままに自らの武具を改めている。
「はっは!今川が一撃か!!織田んうつけ姫ぁ大将器じゃったとか!」
その中で、報せを受けた1人の青年だけが楽しそうに膝を叩く。また始まったと、周りの者達も苦笑しつつも咎めはしない。青年の戦談義好きを嫌と言うほど知っているのだ。
「もしかすっど、いずれ上方ば治めてイッキ攻めてくっがもしれんの!わいらもこげにチマチマ領土の奪り合いしとう場合じゃなか!」
「気ィば早くなかですか?今川ば討ったち言ってん、尾張の小娘ごわんそ。三好細川と、上方にはまんだバケモンばウジャウジャおっど」
「こけに来っまで毛利やらもおりもそ」
やんやと騒ぎ出す近習に、青年は相変わらずの大笑で返す。
「おまんらも姉上らも、呑気言っちょじゃなか!織田は大きうなっど!うむ、おいはそげん見た!」
「まぁた適当抜かして金吾の姐さぁに
「やがます!!」
青年に釣られ、笑い声は伝播していく。
「さァて、行っがの兵子ども。織田にせよ他にせよ、上方んぼっけもん共が来っ前に、こん地ば馴らして出迎えん支度ばせんとの」
背に負った大太刀を抜き払い、青年は兜の目庇を上げて前方を見据える。その顔には、四寸はあろうかという深い向傷が刻まれていた。
「一攫ぞ、大漁ぞ!!雑魚ば根こそぎ釣り上げ、そいを餌に大物ば狙えや!行くどおぉぉぉぉぁ!!!!」
最近衝撃の事実を知ったんですが、戦国恋姫無印って北条家出ないの?ギャルくノ一出ないの??てか信虎さんも居ないの???
これは諦めて四月発売のコンプリートBOX買えってこと…???