現代ダンジョンに入れない一般人は好きにアイテムを買い漁って楽しみたい   作:現段出禁

1 / 3
ダンジョンオークション

 その日、江沼はいつも通りスマホをいじくっていた。特に目的もなくぼんやりとSNSを眺めていると、ふと気になる文字列が目に飛び込んできた。

 

「『ダンジョンオークション』? なんだこれ?」

 

 リンクをタップしてサイトを開くと、『ダンジョンオークション』書かれたロゴが大きく表示される。ちょっとレトロな雰囲気の、どこかゲームチックなロゴデザインだ。

 

「えーっと、なになに? 『ダンジョンオークションは、ダンジョン産アイテムのオークションに、誰でもかんたんに参加できるサービスです』。……えっ、一般人でもダンジョンアイテムを買えるのか!?」

 

 江沼は声を上げて驚いた。一般人では近づくことすら出来ないあの『ダンジョン』のアイテムが、そんな急に手に入れられるようになるとは、と。

 

『ダンジョン』と呼ばれる謎の巨大構造物が出現したあの日から、もう3年以上の月日が経った。それはある日突然前触れもなく、地面を割いて生えるように現れた。当初は純粋な自然現象による大規模な地面の隆起かとも思われていた。しかし、間もなく入口となる裂け目が見つかり、内部の様子が確認されていくにつれ、そんな意見はすぐに見なくなった。その構造物内部には洞窟状の広大な空間が、迷宮のように複雑に広がっていたからだ。それだけではない。内部には異世界の生物としか思えない『魔物(モンスター)』と呼ばれる生物が多数生息しており、魔法のような効果を発揮する特殊な『アイテム』まであるらしい。そう、まるでファンタジー世界の『ダンジョン』の様に。

 しかし『ダンジョン』が出現した時、日本政府は速やかにダンジョン周辺を特別機密区域に指定し、関係者以外の立ち入りを全面的に禁止した。立ち入り禁止の理由を、内部の安全が確保できないため、と政府は説明している。たしかに、その言い分には一理ある。もし『ダンジョン』内で死傷者が出たら、責任を問われるのは政府や自治体だろう。そんなわけで、せっかくフィクションのような『ダンジョン』が出現したというのに、一般人は近づくことすら出来ない状態が続いていた。

聞くところによると、自衛隊や政府関係者、一部の研究者による内部調査は発見当初から行われており、今も継続的に続けられているらしい。しかし、調査の内容はほとんどが機密扱いらしく、一般には公開されていない。そのため、江沼のような一般人が知っている『ダンジョン』に関する情報はそれほど多くはない。

『ダンジョン』内でしか出会うことの出来ない『魔物』と『アイテム』。はじめてそれらの情報を見た時、まるでゲームのような話だ、と江沼は思ったものだ。にわかには信じがたい話だが、情報元は政府だし、何よりあの突然現れた『ダンジョン』の異様な様相を見れば、全くあり得ない話とも言い切れない。江沼も多くの一般人と同じように、そんな疑いと好奇心の入り混じった複雑な感情を『ダンジョン』に対して抱いていた。

 

「いや、待てよ。いままでろくに情報も出なかったのに、いきなりアイテムを売り出すなんて……ずいぶん急な話だな?」

 

 江沼は首を捻りながらも、とにかくサイトの説明を読み進めていく。

 

『ダンジョンオークションは、ダンジョン産アイテムのオークションに、誰でもかんたんに参加できるサービスです。このサイトのオークションには、政府のダンジョン調査の過程で入手されたアイテムが出品されます。すべてのアイテムがダンジョンで入手されたものであることを100%政府が保証しているため、安心・安全にオークションを楽しむことができます。』

 

 その説明を読んで、江沼は納得した。

 

「そっか、ダンジョン調査には政府関係者しか入れないもんな。そりゃ当然、このオークションサイトも全て政府主催ってことか。つまり、官公庁オークションみたいなものか?」

 

 『官公庁オークション』とは、税金滞納者の差押え品や役所で不要となった財産を各行政機関が出品するオークションサイトのことである*1。出品者が100%公的機関で安心して利用できるうえに、思わぬ掘り出し物が安く手に入ることもある。それと同じようなものと考えれば、ダンジョン関連で政府主催のオークションサイトを作っても不思議ではなかった。

 

「目的は調査資金の確保ってところか? 政府の財政も厳しいみたいだし、いつまでも税金を注入し続けるのは無理があるって判断かな」

 

 国立博物館ですらクラウドファンディングで資金を募る世の中である。先の見えないダンジョン調査に無尽蔵に資金を注入し続けるのは難しいのだろう、と想像がつく。『ダンジョン』関連の情報があまり聞こえてこない、ということは、一般に大々的に公表できるような目ぼしい成果が上がっていない、ということかもしれない。思うように成果が上がらない中、段々と調査資金の調達が難しくなってきた。そのため、調査で手に入ったアイテムを一般人に売り、調査資金の足しにしていこう――という計画なのだろう。政府は調査資金が手に入り、買う側は気になるアイテムを手に入れることができる。どちらにとっても、そう悪くない話に思えた。

 

「よし、それじゃあ俺もなにか買ってみようかな。それで、いったい何が売ってるんだ?」

 

江沼は鼻歌混じりに商品を見始め、すぐに気になるものを見つけた。

 

「うわっ、『ポーション』売ってるじゃん! これずっと気になってたんだよなあ」

 

 『ポーション』は江沼のような一般人でも聞いたことのある、数少ないダンジョンアイテムのひとつである。もっとも、『ポーション』の名前は聞いたことがあっても、それが実際どういう物なのか、というところまでは情報が出回っていなかった。それでも、あまりダンジョン内の情報を得られなかったこの3年間、江沼はよく妄想したものだ。『ポーション』にはどんな効果があるのだろう? ゲームのように、飲んだら傷が治ったりするのだろうか? ああ、早く試してみたい!……と。

 その妄想を実現するチャンスが、いま目の前に転がっている。江沼にしてみれば、ためらう理由などどこにもなかった。

 

「よーしっ、これに入札しちゃおう!」

 

 ……だから、その時の江沼の行動は、必然の結果だったと言える。

 商品の写真の下に詳細に書かれた商品説明や()()()()には目もくれず―――江沼はポーションへの入札ボタンを勢いよくタップした。

 

*1
『官公庁オークション』は現実に存在するサイト・サービスです。なお、『ダンジョンオークション』は当然フィクションです。悪しからず。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。