薄っすらと流れる幻想即興曲が優しく俺を包み込む。
「ッ…!!」
俺は野原から飛び起きる。
「ウィスキーさん…。」
俺は近くに座っていたウィスキーに目をやる。ぐったりと座り込むウィスキーの目の前には、シクシクと涙を流し泣いているトラゥムがいた。
「やぁ青年、目が覚めたかね。闘いは終わりだ。」
俺は安堵する気持ちと共に、顔をうずめ、座り込み泣いているトラゥムを見て複雑な気持ちになった。
そんな俺を見て、ウィスキーが俺に尋ねる。
「さて、青年。只者ではないとは思っていたが…君は何を見た?」
俺は驚いてウィスキーを見る。まるで何もかも見抜いているかのようなその眼差しに、俺は隠すことなく起きたままを話した。
「…そうか。彼女も我々と同じく被害者であったか。 辛かったであろう、加害者としての人生は…。」
ウィスキーはそう言うと、トラゥムに近づく。
「早く、楽にさせてあげたほうが、この娘の為だろう…。」
ウィスキーは腰に下げた長剣を取り出し、トラゥムの頭上に振りかざす。
「っ…。ウィスキーさんっ…!」
夕焼けがウィスキーの長剣を、彼女の涙を金色に輝かせる。長剣がトラゥムの首筋に切りかかる刹那、トラゥムが口を開く。
ピタッ…と止まったウィスキーの長剣。俺とウィスキーは彼女の“最後の言葉”に耳を傾ける。
「…私も、普通に生きたかった…。あの町で、ママとパパと…私だって、普通に恋をして、子供を持って、幸せになりたかった…! 何回も何回も夢に見た…。なのに…なんで…。」
彼女の大粒の涙が次々と、黄金色の野原に吸い込まれていく。
「…でも、何回も夢に見ても、何回も思い描いても…。」
彼女は前方に倒れこむようにして、苦しそうな声を必死に絞り出す。
「所詮は“夢”なの…。」
トラゥムはそう言うと、再び涙を流し、悲しみを露わにした。
それまで硬直状態にあった長剣をしまったウィスキーは、トラゥムから少し離れると、堪えるようにして涙を流した。
「でも、もういいの…。夢から覚めた気分…。」
風に流されてしまいそうな程細い声が、トラゥムから聞こえた。
「私の夢は、もう、この先、多分叶うことはないもの…。」
夕焼けに照らされた蹲ったトラゥムの身体が、涙がスゥと薄くなる。
「…だから、もう十分…。」
「トラゥム…。」
「今、私がしないといけないこと…。 夢の続きを見る…わがままなんだ、私…。」
薄くなっていくトラゥムを、悲しみを乗り越えようとしている彼女を、俺はただ見つめることしかできなかった。
「ママ…パパ…今そっちに行くからね…。」
見えなくなる程に薄くなった彼女は、ゆっくりと顔を上げ、俺ににっこりと無邪気な笑みを浮かべた。