「ほう…証拠か。この私を舐めるんじゃぁないぞ。こう見えても生粋のサイエンティストであり、“Traveler”。気軽にTime Travelerを名乗るガキではないのだよ。」
凶静燐はそう言うと白衣の左ポケットから新しいチュッパチャップスを取り出した。
どうも話に着いていけてない感は否めないが、まぁ展開の行く末を見守るほかないか…。
「やはりね。私は貴方もTime Travelerだと踏んでいたの。口が軽いガキはどっちなのかしらね?」
アネモネは、ドヤ顔でチュッパチャップスを舐め、嘲笑に近い笑みを浮かべていた凶静燐にそう言い放った。
「は、はぁぁぁ!? お、俺は、お前がそう言ってくることも見越してだな!」
凶静燐はさっきまでの余裕を焦りへとギアチェンジすると、早口でそう捲くし立てた。
「はい、ダウト!! そこまで見越せるなら自分からTravelerっても言いません~!!」
凶静燐の焦りに追い打ちをかけるかのように、アネモネも余裕を煽りへとギアチェンジする。
「そ、それは…っ!! そんなことよりも、証拠だ!証拠は見せられるのか?」
「あ、あぁ。見せれるわ。私に着いてきなさい。」
静寂に包まれた倉庫。アネモネは少し歩くと、段ボールと棚に隠された地下に続く階段を下っていった。
「ここが、私の研究室、Mainのラボね。」
アネモネに紹介されたその部屋は、少し狭めのリビング程の広さで、様々なPCと配線、器具が乱雑に置かれていた。
凶静燐は、部屋をぐるりと見回すと
「ほう、部屋と設備だけは一人前だな。」
と言い、細かく見始めた。
アネモネは、何様のつもりなのよ、と小言を挟み、多くの配線を繋げたPCの前に座り込んだ。
暫くの間じっくりと何も発することなく見続けていた凶静燐は突然質問を投げかけた。
「ところで、アネモネとやら。いくつか質問だ。 Main Computerの型番と原理を教えてもらおうか。」
「MainはDualStation 386SX/16。IBMと9801のスペックに、メモリと転送装置は別。」
「なるほど…DualStation 386SX/16より、IBM単体の方が処理速度と転送にはもってこいなんじゃないのか?それと原理は?」
「IBMは探してみたんだけどもなかったわ。近くの工場で廃棄予定になってたのがこのPCって訳。それと原理は教えられないわ。」
「な、何だと。」
「原理は、原理は…そう簡単に教えられるものじゃないもの。そういう貴方こそ、原理は教えられるのかしら?」
全くといって話に着いていけてない俺を他所に、凶静燐とアネモネは話を続ける。
「ほ~ん…俺から転送の原理を聞くと…。いいだろう、教えてやろう。」
凶静燐は、そう言うと近くにあったホワイトボードに次々と公式や原理を並べていった。
「まずだな、世界線というのは俺らの仮説では平行世界線でありいくつもの世界線が並行しているものであると。して、その世界線は全て元は同じ時間軸且つ同じ世界軸であったはずだ。ただ、平行世界として交じり合わぬものになってしまったというのには理由がある。」
そういうと凶静燐は一つの線から横に何本かの線を伸ばし、最初の線に並ぶように何本かの線を伸ばした。
「こんな感じで、世界にとって、時間にとって、そしてこの世界を生きる一自身の俺たちにとって重要な選択があった時、最初の世界線である[世界線0]から、[世界線α]が生成され、[世界線α]では[世界線0]とはまた違う選択をした俺たちが生成される。まぁ、世界線の話をするとまた色々な問題やパターンが出てくるんだが、今は原理の説明だから省くとするか…。」
凶静燐が言ってた中二病じみた話は本当だったのか…。
「してだな、この世界線移動の原理の説明だが、主に二つの方法がある。一つは俺達が使っている方法なのだが…まずはそっちの[世界線移動法第四次元間転送法]について話そう。」
「なんか、貴方が付けそうな名前ね…。」
アネモネはそう言うと少し冷笑を浮かべた。
「う、うるさい。 とりあえず説明をする。まず、この方法は現在の世界線を[世界線α]とした時、分離する前の世界線まで戻り、[世界線β]を選択することによって[世界線α]とはまた違う選択をした俺達に移ることが出来る。つまり、[世界線β]で生きていた俺達の存在は消去され、[世界線α]の俺達で上書きされることになる。これを実現するためには、俺たちの脳内の情報を完全にコピーし、その情報をZipファイルのように圧縮し、時間軸という第四次元間を用い転送する。これが基本的な[世界線移動法第四次元間転送法]の原理だ。」
「なるほどね…。もしその原理が使用できるとして、圧縮ってのはどうやるの?」
「圧縮の原理か、簡単だ。まず初めに、転送できる限界は、DualStation 386SX/16の場合は確か16MBだが、データ化した俺たちの情報はとても莫大だ。要は、そのままの状態では送れないから圧縮をする必要があるわけだが、情報を圧縮する方法の一つとして、重複した事象情報は一つだけ残せばいい。これを[事象重複領域削減]と名付けた。この方法により、[世界線α]のそれまでの情報を削除し、分岐先である[世界線β]の情報を読み込み、重複した部分と組み合わせれば疑似的ではあるが[世界線β]に世界線移動したということになる。分岐前の情報は、分岐前まで戻らなければ読み込む必要はない。とどのつまり、 [世界線β]の情報だけを読み込むだけでいい。これが圧縮の基本的な原理だ。この原理を実現するにあたって対象者の情報を読み取る器具が必要となるんだが…見当たらないな…。」
凶静燐はアネモネが座ったPC前をじっくりと見つめる。アネモネは少し凶静燐から目を逸らすと、蚊の鳴くような声で呟いた。
「…器具も原理も全く考えたことなかったです…。」
その言葉を聞いた凶静燐は、開いた口を塞ごうとはしなかった。