「原理を話してしまったからには作るしかないな…。俺も世界線移動が出来ればこの選択をする前の世界線に戻れるかもしれないしな…。」
「手伝ってくれるの!?」
仕方ないという顔を浮かべる凶静燐に、アネモネは目を輝かせ聞いた。
「勘違いするな、俺の為だ。お前の野望なんか知ったこっちゃない。」
「へぇ、ツンデレってやつね…。」
「う、うるさい。 で、そうだった。話に夢中になりすぎて忘れていたが、君は理解できたかね?」
凶静燐は俺にそう尋ねる。実際のところ全くと言って実感は湧かないし、理論やら原理やらを理解はしていない。
「まぁ、同じ“Traveler”なら理解はしているのだろうな。」
取り敢えず俺は頷くことにした。
「さて、全員理解しているようだし、俺は早速この器具の手入れを始める。アネモネ、そこの迷子のTravelerと共に器具を揃えに行くんだ。」
「はぁ~まさかTime Travelをする日が来るとはね。」
共に外に出た俺とアネモネ。どうやら、脳の情報を読み取る機械を作るのに必要な器具の材料を集めに行くらしい。
「そういえば、君の名前は?アイツはさっきメモに[凶静燐 真]って中二病みたいな名前が何故か書いてあったから分かったけど…。」
「俺の名前は、樫木 真。まぁ、樫木でいいよ。」
「樫木ね、分かったわ。じゃあ、一緒に材料集めしましょっか。」
アネモネはそう言うと、手に持っていたメモに目を移した。
「まずは…」
「よし…こんな所かしらね。」
暫くの間材料集めをしていた俺達は、凶静燐の言う必要物資の多くを集め終わっていた。
「最後は…ガリレオ温度計とオシロスコープ…。多分いつも行ってるオジサンの工場にあるわね…。」
「何に使うか全く見当もつかないが、行ってみるか。」
戸塚工業、そう書かれた小さな工場に入っていった俺達。アネモネの背中の後を追っていると、ある一人の人の所に辿り着いた。
「戸塚おじさん、欲しい物があるんだけど~…。」
戸塚おじさん、そう呼ばれたスキンヘッドの50歳くらいの渋めのおじさんは、呆れたという表情でアネモネを見た。
「ま~たあんたか。最近来ないと思ってたが、また変なことしてんだろ?」
「変な事じゃないもん!Time Travelだもん。」
「やめておけって言ってんのに、お前は…。 ん?今日はお友達でも連れてきたのかい?」
「えぇ。私のラボのメンバーよ。」
アネモネに紹介された俺は戸塚おじさんに頭を下げる。
「どうも、樫木って言います。一応メンバー…なのかな。」
「へぇ~物好きだね。」
そういうと戸塚おじさんは少し笑って見せた。
「で、欲しい物ってのは?」
「え~っとね、ガリレオ温度計とオシロスコープ!この二つが欲しいの。」
アネモネがそう言うと、さっきまで温厚に笑ってた戸塚おじさんの顔から徐々に笑みが消え、しまいには眉間に皺を寄せた真剣な顔をして質問をしてきた。
「アネモネ。何に使うんだい?」
戸塚おじさんは優しくアネモネにそう問いかける。
「だから言ってるでしょ、Time Travelの実験で」
「小僧。樫木とか言ったか?」
さっきとは打って変わって敵意のあるような低い、威嚇するようなそんな声で俺の名前を呼んだ戸塚おじさん。
「アネモネに変な事吹き込んだのはお前か?」
明らかにさっきとは雰囲気が、接し方が違う。
まずい。何かが戸塚おじさんの逆鱗に触れてしまったのだ…。
焦る俺とは裏腹に、アネモネはゆったりと話しかける。
「変な事なんて一つも吹き込まれてないし、第一、私この部品が何に必要なのかも知らないよ?」
「ん? あぁ…そうなのか?」
「そうだよ、何でそんな怒ってるの?別に怒ることじゃないでしょ?」
「ま、まぁそうなんだが…何というか、Time Travelは実現不可とされてきた言わば“世界の夢”みたいなもんだ。そんなの、本当に作っちまって、世界から命狙われるってなったら…。」
戸塚おじさんはそう言うと、すまなかったと俺とアネモネに頭を下げた。すっかりしょんぼりとしてしまった戸塚おじさんにアネモネは
「ありがと、心配してくれてたんだね。」
と励ました。アネモネはそのまま続けて口を開く。
「大丈夫。Time Travelについて、本当に私が見込んだ人にしか言わないようにしてるの。樫木もね、なんか言葉にするのは難しいんだけど、オーラっていうか、凶静燐も言葉には表せないセンスみたいなのを感じてさ。だから、もしTime Travelができるって、Time machineが出来ても、世界は… ―――知らないままだと思う。」
アネモネはそういうと、戸塚おじさんにもう一度尋ねた。
「だからお願い、頂戴?」
アネモネの懇願に、心が折れたのか、戸塚おじさんは倉庫から綺麗なオシロスコープとガリレオ温度計を持ってきた。
「もし、“世界の夢”を実現できた時は、俺も一目見たいもんだなぁ…。世界は、その夢を創ることはできちゃぁいねえからよ…。」
「うん!もし、いつか完成したら見せるね!」
「ただ、その時は俺も1技術者として対抗してやるから、覚悟しやがれ!」
オシロスコープとガリレオ温度計を受け取った俺達は、戸塚工業を後にした。ラボに戻ってる途中、俺は気になってることをアネモネに聞いてみた。
「なぁ、アネモネ。戸塚おじさんさ、途中物凄い切れてなかった?」
「あ~…多分だけどね、オジサン私のこと娘だと思ってて、血は繋がってないけど昔から可愛がってくれてたのね。だから、知らない人が何かをしたり言ったりするのが許せないんじゃないかなぁ。前もそれで私のロボット壊しちゃったし。」
「そう、なのか。 まぁ、いい親父さんだと思うぜ。」
そんな話をしている内に、俺達はラボについてしまっていた。
「帰ったわよ、凶静燐さん?」
「おぉ、持ってきたか。」
ガリレオ温度計とオシロスコープ、その他諸々を渡された凶静燐は、待ってましたと言わんばかりに以前とは全く様相の異なったPCと周辺機器に接続させた。一定の周期で波形を生み出し始めたオシロスコープ。真剣な顔で取り組む凶静燐に、アネモネが素朴な質問をする。
「このオシロスコープは何の役割を果たしてるの? ガリレオ温度計も気になるけど…。」
樫木は真剣な顔つきを崩すことなく、PCと向き合ったまま質問に答える。
「オシロスコープは主に世界線変動起動時のデバックと検証。異常信号の検出に変動世界線の観測に。ガリレオ温度計は世界線観測時に使用する観測機の温度が26℃を超過すると世界線観測が困難となり、変動がうまくいかない可能性が高い。 つまりは、この2つは世界線移動には必要不可欠な物なのだよ。」
「へぇ…けど、何でガリレオ温度計なの?他の計測器じゃダメなの?」
「あぁ。恐らく、他にも代用が効くものはあるんだろうが、俺がガリレオ温度計を選んだ理由の一つに[比重測定原理]がある。基本的にガリレオ温度計はあくまでも目安の温度を測定するものではあるが、[比重測定原理]を部屋等の温度ではなく観測機の温度計測に利用することで、他の温度計とは異なる計測と数値を観測することが出来た。その数値に関しては、観測機の影響かとても精度が高くてな。その応用として、数値化した温度を表示させる計測器の作成が………今完成した。」
「何ともその辺は分からないけど…理論上はこれでTime Travelが…」
PCに表示された数値を見つめるアネモネと俺に、椅子を回転させ振り返った凶静燐は自信に満ちた顔で返答をする。