「ッ……!!」
気が付くと、俺は凶静燐とアネモネが言い争っているところだった。
「ほう…証拠か。この私を舐めるんじゃぁないぞ。こう見えても生粋のサイエンティストであり、“Traveler”。気軽にTime Travelerを名乗るガキではないのだよ。」
凶静燐は左ポケットからチュッパチャップスを取り出した。
「やはりね。私は貴方もTime Travelerだと踏んでいたの。口が軽いガキはどっちなのかしらね?」
同じだ…。この光景に見覚えがある…。
「は、はぁぁぁ!? お、俺は、お前がそう言ってくるこ」
「凶静燐、少し話がある。」
凶静燐とアネモネの話を俺はおもむろに遮る。
「遮ってしまって悪いが、俺は未来から来た…。」
「っ…。 ―――そうか、俺は疑いはしない。お主も“Traveler”だと踏んでいたからな。」
「凶静燐。 未来のお前から伝言だ…。 『世界を殺せ』と…。」
「――! な…そんな、この世界もか…。」
急激に深刻な顔をした凶静燐に、アネモネが心配そうな顔で問いかける。
「な、何…? 何かあったの?」
「近いうちここが何者かによって襲撃される。 ここからは時間との勝負だな…。外部的要因がない限り基本的な襲撃のタイミングは変わらないはずだ…。となると、Time machineを創るのは早めにした方がいいな…。」
「凶静燐、頼んだ。 アネモネ、俺は未来から来たTravelerだ。ここからの流れは分かってる。取り敢えずこれからガリレオ温度計とオシロスコープ…その他諸々取りに行くぞ。」
「え、えぇ…分かったわ。」
「ある程度集まったな…。後は戸塚おじさんの所か…。」
俺はそう呟くと、戸塚工業に向けて歩き始めた。 俺の後ろを戸惑う様についてきたアネモネが、俺に聞こえるように、少し寂しそうに話し始めた。
「何か不思議…。私が創ったTime machineでこの世界に来たんだよね…。同じような流れを同じ町で同じ仲間とやってるんでしょ…?」
「あぁ、まぁそうなるな。まぁTime machineを最終的に完成させたのは凶静燐だが…。」
「ふ~ん…まぁ、そうよね。原理とか分かってそうだったし。」
そんなことを話していると、俺とアネモネはいつの間にか戸塚工業に着いていた。
「戸塚おじさん、欲しい物があるんだけど~…。」
アネモネがそう言うと、戸塚おじさんは例に漏れず呆れた顔でアネモネを見た。
「ま~たあんたか。最近来ないと思ってたが、また変なことしてんだろ?」
「変な事じゃないもん!Time Travelだもん。」
「やめておけって言ってんのに、お前は…。 ん?今日はお友達でも連れてきたのかい?」
「えぇ。私のラボのメンバーよ。」
戸塚おじさんは俺を興味深く見ると、
「へぇ~物好きだね。」
と笑って見せた。
「で、欲しい物ってのは?」
「え~っとね、ガリレオ温度計とオシロスコープ!この二つが欲しいの。」
アネモネがそう言うと、さっきまで温厚に笑ってた戸塚おじさんの顔から徐々に笑みが消え、しまいには眉間に皺を寄せた真剣な顔をして質問をしてきた。
「アネモネ。何に使うんだい?」
戸塚おじさんは優しくアネモネにそう問いかける。
「だから言ってるで」
「お、俺の部屋に置きたいなぁ…って、アハハ…。」
アネモネが俺に驚いた表情を見せた。
「ん…おぉ、そうなのか。いや、やけに面白い物使うなと思ってな。」
「まぁ~俺の趣味ですね、アハハ。 なかったら良いんですけど~…あります?」
戸塚おじさんは少し悩んだ表情を見せると、よし、と言って立ち上がり、倉庫から綺麗な状態のオシロスコープとガリレオ温度計を持ってきた。
「まぁ、これ~…本当は俺の友達にあげる予定だったんだが、予備もある程度あるし一つくらいいいだろう。」
「本当ですか!ありがとうございます。」
「あぁ、もし、“夢の部屋”を実現できた時は、俺も一目見たいもんだなぁ…。オシロスコープとガリレオ温度計がある部屋なんて気になるな。」
「勿論です。」
俺は怪訝そうな目をアネモネから受けながら戸塚工業を後にした。
ラボに戻ってる途中、アネモネは俺に気になってることを聞いてきた。
「ねぇ、さっきの何? 別に嘘つかなくてもよくない?」
「あぁ、別に嘘をつく必要はない。だが、いろんなパターンを見てみたくてな。」
「ふ~ん、まあいいけど。」
「そういえばアネモネ、ラボまでもう少しかかるし聞いておくが…戸塚工業がロボを壊したってのは何が原因だったんだ?」
アネモネは少し俺の方をチラッと見ると、はぁ…と溜息をつくと
「前の世界の私から聞いたのね。」
と言って話し始めた。
「いやね、私が小さい時から一緒にいたロボットがいたんだけど、私が実験とかに入り浸って、実験材料を集めてるときにチンピラの集団に捕まっちゃって…。おじさんに助けてもらったんだけど、その時に怒ったおじさんがこんなものがあるからとか言って壊しちゃって。それから、私の実験には特に口は出さないし、ロボットを壊した代償?ていうか謝罪の気持ち?として実験の材料とかくれるんだ。」
「はぇ~…そうなのか。 アネモネ~戸塚おじさんが親父さんみたいな立ち位置って言ってたけど…それは…。」
アネモネは、その言葉を聞くと少し立ち止まった。
「パパは…昔実験で死んじゃったの。」
「…そう、なのか。すまない、余計なことを…。」
「ううん、大丈夫。 “多分”だから。 ――4年前、私が学校から家に帰ったら、パパがいなくなってて、元々実験が好きな人だったんだけど突然…。それから今までパパの姿は見たことがなくて、死んだってことにしてる。」
「そ…っか。 今も生きてるといいな。」
「あ、もうラボ着いたね。」
俺達はそんな話をしている内にラボについていた。
「帰ったわよ、凶静燐さん?」
「おぉ、持ってきたか。」
ガリレオ温度計とオシロスコープ、その他諸々を渡された凶静燐は前世界と同様Time machineを組み立て始めた。真剣な顔で取り組む凶静燐に、アネモネが前と同様、素朴な質問をする。
「このオシロスコープは何の…」
そう…この世界はループしている。時間帯は違うとはいえ、このラボが襲われる可能性は十分にある…。 待て…前世界との特異点は何だ…? 探せ…何が違う…?
まず時間帯…俺が未来から来たということ…戸塚おじさんとの会話…。
「の作成が……今完成した。」
「何ともその辺は分からないけど…理論上はこれでTime Travelが…」
PCに表示された数値を見つめるアネモネに、椅子を回転させ振り返った凶静燐は自信に満ちた顔で返答をする。
俺はこの世界線で…何をすれば…!世界線移動した今、ここからの行動が重要になってくる…。
「…凶静燐。ここからの行動についてだが、この街で少し情報収集がしたい。まず、何故俺達がTime machineを創っているのがバレたのか…。そしてその襲ってきた奴らが誰なのか。」
「うむ、確かにそうだな。」
俺と凶静燐はそう言うと少し考えこんだ。
「う~ん…じゃぁ私はおじさん所に行ってこようかな~…。意外とおじさんこの街について詳しいし。」
アネモネはそう言うと、バックを手に取りラボを後にしようとした。
「うむ、少しでも情報が集まるのであればいいだろう…。」
アネモネがラボを後にし、俺と凶静燐が残った。思えばこの街について全然知らない俺達が残ったところで、何もできない…。
「まぁ、取り敢えず俺はこのTime machineの最終確認とかでもしてようかな…。」
凶静燐はそう言うとTime machineと再びにらめっこを始めた。
「あぁ、じゃぁ俺は取り敢えず街の中でも見てくるか。」
俺が街に出ると、早速一体のロボが話しかけてきた。
「ねぇねぇあなた。戸塚工業、どこか分かる?位置情報、登録されてなくて。」
「戸塚工業か。あぁ、知ってるぜ。俺についてこい。」
ロボはピピピ…と音を鳴らしたかと思えば、俺の後ろをついてきた。
「親切な方ですね。私、この街そこそこ暮らしてきましたが、知りませんでした。」
「まぁ、なんつうか知り合いなんだ。」
まぁ、アネモネもいるし…何か分かったか聞きに行くか。
「ここだ。」
俺は戸塚工業に着くとロボの方を振り向いた。ロボはまたピピピ…と音を鳴らすと、戸塚工業をじっくりと見つめ、
「ありがとうございます。」
と頭を下げ、中に入っていった。
「なんかの配達か…。」
そう思いながら俺はアネモネを探しに中に入る。戸塚おじさん所にでもいるんだろう。
戸塚おじさんの部屋の前に着いた俺は、部屋の中で戸塚おじさんと誰かが話しているのを聞いてしまった。
「…が完成…た。あぁ、夕刻に……う。」
何やら話しているが少し距離が離れているのもあり、工場内が騒がしいのもあり、しっかりと聞き取れない。
俺は扉に耳を付け、しっかりと聞き耳を立てる。
「…あぁ、場所は分かってる。部隊は……。最悪……てもいい。」
「――くそ…聞き取れねぇ…。 けどアネモネはいなそうだな…。」
俺は部屋から離れると、ラボに戻ることにした。
ラボに戻ると、凶静燐がまだにらめっこを続けていた。
「帰ったぞ。そっちの方は完成しそうか?」
「あぁ、もう少しだ。それよりアネモネは?」
「ん…まだ帰ってきてないのか?」
「…あぁ、帰ってきてないが…?」
アネモネがいない…。 …まさか……!!
「―逃げてっ…!!!」
アネモネの声が、遠くの方から響いて、ラボに届いた。と、同時に一発の発砲音。ラボ内にアネモネの悲鳴が、遠くからしっかりと響き轟く。
「「くそっ…この世界線もか…!!」」
俺と凶静燐はそう叫ぶと、世界線変動をする準備を始める。
ガンガンッ…!!
強く叩かれるラボの扉。
「[世界線α]から[世界線β]っ…!観測機—RP310BB、放熱14.007!計測時間18:22:31…事象重複領域削減準備…!! これより、[世界線移動法第四次元間転送法]を開始するッ…!!!!」
凶静燐はそう叫ぶと、PCのEnterを力強く叩いた。ウィィィン…と静かな音を立て動き出す機械。
「放熱20.558…!事象重複領域削減完了…!」
頭痛が俺の脳内を駆け巡る。
「さぁ、世界よ…!どんな苦しみも受けようじゃないか…ッ!! ――フッハッハッ…世界よ、これだけは伝えておこう…!!」
段々と朦朧になりゆく意識の中、バサッと白衣をたなびかせた凶静燐が見えた。
その奥、勢いよく開けられた扉。その扉から、ゆっくりと誰かが入ってくるのが見える。
「嘘…だろ…。」
その瞬間、俺の意識は途切れた。