「くッ…!どうしたんだレイス!」
レイスは夢の狂気に操られるまま爆発的な刺撃を繰り広げ、一瞬の隙を突いたレイスは辛うじて防御姿勢を取ったユウキをそのまま突き飛ばした。
「ぐはっ……!レイス、目を覚ませ…!」
不意を突かれ、木の幹に激しく叩きつけられたユウキは、吐血をしながらも立ち上がる。
その一部始終を見届けた幻夢龍は、喉を鳴らして、楽しげに喉の奥を震わしていた。
「ざけんな…。レイスを操って、この状況を楽しんでやがる…。」
下を向いたユウキの口から、地底から響くような低く殺意に包まれた声が漏れる。ユウキの身体を赤黒い炎が駆け巡る。
「…ユウキ…。」
俺の横で震えた声でアリスが口を開く。
「使うんだわ…【ラ・モラルタ・マジック】を。」
「…ラ・モラルタ・マジック…?」
「えぇ…限られし者にのみ与えられる憎悪と憤怒の魔法よ…。」
ユウキが再び剣を握った、その瞬間のことだった。閃光の如く、幻夢龍の胸に一筋の鮮血が舞った。
――キャカカカカッ……!!!
森の中に幻夢龍の声が響き渡る。幻夢龍の目から不気味な光が消え去り、先程までレイピアを力強く握っていたレイスが力なく倒れこんだ。
戦局は完全に逆転していた。
再び地を蹴り抜いたユウキの姿が視界から消えた。音速を超えた急接近に、幻夢龍は不快感で目を細めた。幻夢龍はせめてもの反撃をと、巨木のような眼脚を力任せに振るい下した。風を切り裂き、大地ごと押し潰さんとする爪撃を。
「―鬱陶しい…消えろ。」
ガキィィィンッ!!と金属をたたき割るような打撃音が森に轟いた。長剣で弾いた幻夢龍の巨大な前足は三日月の交じり合うあの天へと跳ね上がる。その瞬間の隙を、ユウキは見逃さなかった。
瞬間、龍の鼻先へと肉薄したユウキは全身のうねりを乗せた斬撃を横一文字に叩き込んだ。
ズザアアッ!!
紫の硬貨鱗が火花を散らしながら弾け飛び、龍の顔面に深く痛々しい一筋の亀裂が走った。
――キュラララララゥッ!!!
「真ッ!!幻夢龍の夢の中へ入るんだ!」
天から舞い落ちるユウキはそう叫ぶと俺を見つめた。俺はすかさずカッターを取り出すと、自分の前腕の内側に力強く当て引っ掻く。前腕に深く引かれた太い線からシャァ…と血が溢れだした。俺はそのままその鮮血を口に運ぶと、ギュッと目を閉じた。
幻夢龍が力なく地面に倒れ込む音が聞こえたと同時、俺の記憶は音もなく突如として消え果てた。
――めて…やめて…!お母さんを連れて行かないでっ…!もうなにも失いたくないっ…!