夢の世界の向こう側   作:original

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夢に囚われし神

 「何なんだ…あれ…。空に扉…。」

紫に染まった空の一部分を切り取るようにして現れた大きな扉。金色に縁取られ、髑髏が木目に埋め込まれた不気味な扉。まるでその扉を迎え入れるかのように上空から地面へと風が吹き、地面が歓喜をするかのように細かく震え始める。

 「――来たか…!夢に囚われ、夢に恋せし乙女(ヴァルキュリア)ッ…!」

どこからともなく大きな鯨の声が響き、鳴き止んだと同時に教会の鐘のような音が空を舞台に奏で始める。紫色だった空は次第に赤黒くなり、まるで世界の終焉のようなその見た目に俺は軽く恐怖を感じていた。

暫くの間鐘が鳴り響いていると、扉の上に紫と赤が円を描く“天使の輪”のようなものが現れ、ガゴンッ…という音を皮切りに徐々に扉が開く。

と同時に流れる音色。壮大、故に儚く。まるでそれはそう、夢のよう。

 「ショパンの…幻想即興曲だ…。」

扉の奥から優しい光が溢れ零れる。やがてそれは形となり、桜のように舞い落ちる。

その光達は空を舞い降り、ウィスキー城の中庭に集まると、やがて人型を創り出し、最後の光が舞い降りる頃には、俺とウィスキーの前に一人の女性を創り出していた。

 「初めまして、ウィスキー…。貴方に会えて光栄です。」

優しい声に優しい雰囲気、それを包むように流れる“幻想即興曲” 余りにも優しすぎる彼女の周りには、どこか近寄りがたい荘厳な空気が流れていた。

 「初めまして。こんな老いぼれを認知していただけるとは、流石 “― 夢神(むじん) ― モルペウス・トラゥム ”様だ。」

ウィスキーとトラゥムは互いに互いの眼を見つめ合う。距離こそは離れていたが、その間には、いるだけでも痺れてしまいそうな緊張感のある空気が流れていた。

 「神々と人々の争いからはや400年。神は破れ、この世界には永遠の魂と安寧が齎されました。代表として選出された5体の神々は全員夢を叶えることなく、その存在を途絶えることとなりました。」

 「あぁ、懐かしいね。あの頃が…。それで夢そのものの神である君がこの世界に生まれたと?」

 「えぇ、その通りです。故にその宿命を果たさねばならぬのです。」

 「―争う気かね?“この私と”」

その瞬間、それまでのウィスキーとは打って変わり、殺意に限りなく近いほどの空気を身に纏い、腰の横に掛けていた長剣を手に取る。

何が起きているのか全くと言って分からない俺。今にも気を失いそうな空気の狭間で、俺はただ眺めているしかできなかった。すると、そんな俺にようやく気が付いたのか、トラゥムが俺を見下すような眼をして見つめ口を開く。

 「―ところでウィスキーさん。我は貴方とだけの争いが希望なのだが。その者を排除してもよいな。」

そうトラゥムが口にした瞬間、トラゥムの後方から一本の光の矢のようなものが俺の心臓目掛け一直線に飛んできた。一瞬の出来事に、全く対応の出来なかった俺。そんな俺の目の前に、庇う様に一筋の剣の光が差してきた。

 「困るね、私が見込んだ者を無許可に傷を付ける様では…。 流石は神、この男の能力に気づいているか。」

 「チッ…“それ”以外に能の無いその男を先に殺してしまおうとしたが、人の王の中でも群を抜いているウィスキーがいては、無理そうだ…。」

明らかにイラついているトラゥムに、ウィスキーは薄ら笑みを浮かべると、ボソッと呟いた。

 「気付いてはいたが、優しさなんて持っちゃいないね。飾りだけには俺は惑わされないよ。」

ウィスキーは手にした長剣を素早くしまうと、俺を抱え、空へと舞った。

人間だとさっき話してはいたが、本当に人間か…?

俺はそんな疑問を浮かべながら、ウィスキーと共にする。

 「驚いているようだね。まぁ無理もないだろうね。詳しくは知らないが、神についても私についてもよく知らないようだから少し離れた場所で教えてあげよう。」

そう言ったウィスキーは、俺をウィスキー城正門とは裏側の野原へと連れ去った。

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