「すげぇ…たった数秒でこんな離れまで…。ウィスキーさん…本当に人間ですか…?」
あっという間にウィスキー城を離れ、王国の裏にある草原まで来てしまった。ウィスキーに連れてこられたが、俺を抱えてこんなところまで…しかも、この人空を…。
「…君はこの世界を知らなそうだね。モルペウスが来るまでだ、時間もないから端的に話そう。まず、私についてだが、その昔、神からの制約により常人離れした力と能力を手に入れると共に、我々5人の王達は神と戦うことを誓った。それから4000年後のある日、神々との戦争は始まり、1週間ほどではあったが、とても長く、苦しい戦いに我々は勝利した。まぁ、多少誤りはあれどこんなところだろう。戦いは終わり、神々ももう来ないことを、我々の永遠の命を、一生の安寧を、誓った。はずだったが、今回どうやら面倒なのが来たようだね。」
ウィスキーはそう言うと、ウィスキー城の方を遠い目をして見つめた。
「なんだかよく分からないけど…そういえば俺は何故ここに…。俺、ただの一般人すよ!」
「…ふむ、夢に囚われた神、そう言われ気が付くことは?」
「ッ…!!」
そうだった…!もう俺はただの一般人じゃないのか…!となると…
「そう、この闘いにおける君の役割はとてつもなく大きい。どんな行動を相手がするか分からないが、健闘を祈るよ。」
「そ、そんな!夢から覚まさせることは出来ても、闘いに関しては全くの素人で…。」
しどろもどろしている俺を尻目に、ウィスキーは腰に下げた長剣に手をかける。
「大丈夫さ、君なら出来るよ。」
そう言うとウィスキーは剣を片手に空へと飛びあがった。突如響く轟音。どうやらもう闘いは始まっているらしい…。
「くそっ…どうすれば…!」
ウィスキーが戦ってくれている以上は俺の方には来ないはずだ…。が、どうしても気になるな…。
『君なら出来る』
俺は脚に力を込めて空へ目掛けて飛び上がった。
「――っ…!!!」
だが、何も起きず、ただ無意味にジャンプしただけで終わってしまった。
「だぁー俺には何にも…!!」
そもそも飛べた所でそう簡単に戦えるか!夢じゃあるまいし…。
「ん?待てよ…。」
夢?夢の神なんだよな…。俺の方には攻撃が来ない…。それでいて俺にできること…。
「そう言うことか…!」
俺はおもむろにポケットにあったカッターを取り出し、前腕に当てる。スーッと引いた部分からふつふつと血が溢れる。俺は目を瞑り、血を取り込む。
段々と朦朧となりゆく意識の中。優しい雰囲気に包まれた俺は、薄っすらと流れる幻想即興曲を耳にした。