ポケモンを育てる上で一番大切なのはレベルである
ただレベルと言っても人間達がそのポケモンの能力の平均値を数値化したものに過ぎず、レベルで図ることのできないものもある
例えば技の速さ
ポケモンとの信頼関係や言葉にしなくても場に出たらまずこの技をするとか、ボールに居る時に指示を出しておいたりして場に出た瞬間にいかに早く行動するか等はポケモンのレベルでは図ることのできないことだろう
他には破壊光線1つでも口の形やエネルギーの効率によって範囲をある程度決めることができる
ノーマルタイプで自爆や大爆発を除くと最強の技であるが、破壊光線1つでも威力や射程距離、タメの早さ等に違いが出てくる
そういった技に個性を与えるのもトレーナーの腕の見せどころであると言える
また技の数もトレーナーの腕によって変わってくる
基本は4つであるが、指示が上手いトレーナーは1回のバトルで技を8つも使ってくることがある
結局のところバトルの強さはポケモンの実力があることが前提ではあるが、トレーナーの能力によって勝敗の半分は決まる
ロケット団が強いポケモンを従え、最強の軍隊を作るという方針は理解したし、目的が世界征服で、手始めにカントー地方の掌握なのも理解している
が、トレーナーの育成に関しては疑問がある
「うちは幹部候補と呼ばれているけど、下っ端も能力があることが好ましいと思うんだけどなぁ」
そう思いながらノートにロケット団の事を半年間調べてみてわかった事を纏めると
まず資金力は豊富である
巨大な輸送艦を保有し、様々な研究にも莫大な額を投資している
収入源はポケモンの輸出やゲームコーナー等の闇カジノ、違法モンスターボールの販売、食用ポケモンの密売等など多岐に渡る
唯一薬の販売はしていないようであるが、ポケモンには容赦なく薬漬けや洗脳を多用している
組織の大きさも飛び抜けている
幹部は4人
全員ジムリーダーであり、キョウ、マチス、ナツメ、カツラと大きな街のジムリーダーの半数を配下に置いている
カツラ以外には中隊長と呼ばれる準幹部がおり、リョウさんもここに当たる
この他に研究班と技術班があり、研究班のリーダーはアポロ、技術班のリーダーはチャクラと呼ばれる男であり、彼らは大隊長と呼ばれている
「ただ全てサカキのカリスマで成り立っている組織なのに後継者が居ないんよな。サカキ様に息子さんがいたらしいけど行方不明になってしまったらしいやね···」
巨大な組織故に派閥争いがあり、特に技術班と研究班の仲は険悪
うちはそのどちらの派閥でも無いが、カツラの下に就けば研究班と面識ができると思われる
「まぁそれもセキエイ高原で生き残れたらの話だけど」
積雪地帯のセキエイ高原で生き残る為にポニータを捕まえ駄馬要員として育てているが、どれだけ準備をしても不安が消えることは無い
「街道沿いは安全やけど、奥地に行けば猛者でも死ぬ場所···はぁ、金のためとはいえ損な役回りやな、まったく」
口ではそう言うヨウコだが、その顔はやる気に満ち溢れていた
「一度全滅して身にしみたわ。強かにいきな駄目やとな···」
うちには特に野望があるわけでも信念があるわけでもない
ただ惰性で生きたいとは思わん
スリルがあっての人生や
「別にロケット団でなくてもええ、うちが生きていくための金を保障してくれればそこで働くまでやんな」
スリルと安定という矛盾を愛する女こそヨウコであった
セキエイ···そこにはポケモンリーグの会場があり、そこに行くまでの道は2種類ある
1つは山をリフトで登る安全なルート
街への物資の運搬等もこれで行われている
大会の季節になると多くの観戦客がこのルートでセキエイのマチスに集う
もう一つがチャンピオンロードと呼ばれる洞窟を抜けるルートであり、幾人もの強者がそこで修行をしてポケモンリーグへと挑む修行の聖地である
今回ヨウコが行くのはそのどちらでもない
裏ルートと呼ばれるシロガネ山へ続く道なき道である
シロガネ山へはゲートと呼ばれる関所みたいな場所があり、正規ルートだとポケモンリーグ関係者かポケモンリーグに認められた者しか入山を許されない
それはシロガネ山が聖地であると同時にとてつもなく強いポケモンがうようよ生息しているため、そのポケモン達を街に持ち込めばそれだけ危険性が高い為からである
そんな正規ルートでも死人が出る場所であるが今回ヨウコがロケット団から提示された金額も破格である
1匹10万
勿論それ相応の実力があるポケモンに限られるが、とんでもなく破格な条件である
裏ルートの道はロケット団の先人達が幾人か挑み失敗してきた道である
シロガネ山までは行けるのだが、捕獲難易度が高かったが為に捕獲できずに下山したり、そのまま定時連絡が途絶え行方不明になるかのどちらかであった
ポニータに荷物を乗せ、自身も背中に乗って移動する
レベル的には1年準備をしたとはいえ足りない
しかし、金のためにヨウコは危険を承知で乗り込んでいった
シロガネ山のふもとにある山小屋に到着した
ここはロケット団の先人達が作った最後の安全地帯であり、ここから上は外は吹雪が吹き荒れ、洞窟内は暗闇で閉ざされている場所である
「赤外線ゴーグルよし、囮人形よし、ボールよし、ロープ良し」
明かりを灯すのは厳禁である
明かりに反応してポケモンが襲ってくる可能性があり、背後から攻撃されたら一溜りもない
その為赤外線ゴーグルを着用して行動をする
山の中に入り、赤外線のスイッチを入れる
足音に気をつけながら周囲を見渡すと、ゴローンが眠っていたり、鈍い音がどこからか聞こえてくる
恐らく野生のポケモン同士で戦っているのであろう
音のする方に近づくと、リングマとニョロボンが取っ組み合いをしていた
静かにゴルバットとユンゲラーを出し、怪しい光と催眠術の指示を出す
ヨウコ自身は岩陰に隠れて光を直視しないようにする
ゴルバットの口から光が放たれると周囲を照らす
暗闇から強烈な光を目に受けたことと、特殊な光で混乱状態に陥った2体はユンゲラーの催眠術にあっさりかかり、ふらつきながら壁に寄りかかって眠ってしまった
ヨウコはモンスターボールを当て所と呼ばれるポケモンのエネルギーが集まる場所に投げる
リングマの場合は胸の円の真ん中、ニョロボンもお腹のグルグルの中心である
ゆっくりと眠っている2体に近づいてボールを投げるとカチっと音が響いた
「まずは2体」
喜ぶのも束の間、地面が大きく揺れた
立っていられなくなったヨウコは壁にもたれかかり、揺れが収まるのを待つ
ボコっと壁から大きな岩が現れる
(イワーク···にしては大きくないか)
ヨウコは知らないがハガネールと呼ばれるポケモンであり、まだ細分化されておらず、大型のイワークとしか見られてなかった
というのもハガネールは基本暗闇の洞窟内に居るため外に出ることが少なく、捕獲件数も少ないこと、泥や汚れで鋼の部分が見えず、イワークの様にしか見えない、強いため並のトレーナーは捕獲できずに返り討ちにあう等の理由から一般認知されていないポケモンであった
ギロリと目がこちらを向く
ヨウコは息を殺してじっとしていたが、巨大な口がこちらに迫ってきたことで相手がこちらを認知していると察知すると、口の中にサナギラスをボールから出して突撃させた
口の中に飛んできたサナギラスをハガネールは噛みつくが、ゴリっと逆にハガネールの鋼の歯が痛む
サナギラスの体は鋼鉄をぶつけても欠けることがない頑丈なサナギの様な何かであり、更に体内で圧縮したガスを噴射することで一時的に高速で移動することもできる
歯が痛むことで口が開き、その瞬間に脱出したサナギラスにヨウコは指示を出す
「じだんだ」
大きなイワークと見ているヨウコは地面、岩タイプのイワークならば地面タイプの技はよく通ると判断しての攻撃だったが、鋼、地面タイプのハガネールにも効果は抜群であった
ハガネールは苦痛の表情を浮かべると、地面に潜ってどこかに消えてしまった
「···ふぅ、危機一髪やな」
ヨウコのシロガネ山潜りは始まったばかりである