忘却のエルフ 失望のハイエルフ いつの日の約束   作:時雨シグ

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再び書いてしまいました、時雨シグです。
今回の話は短いです。

暖かい目でお読み頂けると幸いです。




忘却のエルフ 失望のハイエルフ いつの日の約束2

 

 

side:リヴェリア

 

 

目の前にいる男、ジル・オブリヴィェンの言っていることをリヴェリアは理解できなかった。記憶喪失など考えたこともなかったために、想定していなかった答えに呆然としてしまう。

 

やがて理解が進むと、動揺を隠せないまま口を開いた。

 

 

「き、記憶喪失...だと?」

 

「ええ」

 

「それは本当なのか...?」

 

「ハイエルフ様に嘘をつく訳がございません」

 

「約束を破ってしまったから、誤魔化そうとしてるのではないのか...っ?」

 

「そのような事は決して」

 

 

申し訳なさそうな声、先程からずっと親しくもなくまた目上の者に接するような言葉遣い。

もともと10歳程の年齢になった頃に丁寧な言葉遣いをするようになっていたが、今のそれには親しみが一切なかった。

今彼は誤魔化しているのだと、本当は記憶を失っては居ないのだという幻想を信じたかった。だが、彼の姿を見ればそれは無いのだと思い知らされる。何故なら、リヴェリアは彼をよく知っているからだ。

 

 

「本当に...記憶を失ったのだな...」

 

 

この事実を受け入れると、彼女は涙を溢れさせた。

だがそれは、悲し涙だけではなかった。彼が今も生き、こうして会えたことの嬉し涙でもあった。

約80年だ。長命種のエルフであろうと、''想い人''を待つには長い長い時間だった。例えそれが悲しい事実が含まれた再会だとしても嬉しかったのだ。

 

周りの人々も何事かと立ち止まってこの光景を見る。オラリオ、いや世界でも名の通ったリヴェリアが涙を流している。それもエルフの男の前で。もしレフィーアがこの光景を見れば、怒り心頭に魔法をぶっぱなしそうである。幸いにも彼女は館で寛いでいた。

 

横でやり取りを見ていたアイズは、泣いているリヴェリアの頭を背伸びして撫でていた。

 

 

「あ、あの、僕の物で恐縮ですがどうぞ」

 

「...ああ、助かる」

 

 

ジルはハンカチを取りだし、リヴェリアはそれを受け取る。

やがて溢れていた涙を拭き終え落ち着く。その間、ジルは周りの視線や女性を泣かせてしまった状況にとても困惑していた。

 

 

「すまないな。突然泣いてしまって」

 

「いえ、原因は僕にあるので気になさることはありません」

 

「...その気を遣ってくれるところは、例え記憶を失おうと変わっていないな」

 

「そうなんですか?いえ、貴方様が言うならそうなのでしょう」

 

 

思案顔を浮かばせるジル。

 

 

「それで今までどこにいたんだ?そして何故今、オラリオを訪ねてきたんだ?」

 

 

リヴェリアがそう質問する。記憶を失う前は仕方ないとして、後の生活はどうしていたのか。そして、オラリオにいる理由を知りたかった。

 

 

「そうですね...記憶を失ってからの話ですが、記憶を取り戻すために旅をしていました。そして、数年前とある町にてオラリオに『聖女』と呼ばれるお方がいると知り、一縷の望みかけて訪れた次第です」

 

「なるほど。ジルは記憶を取り戻したいのか?」

 

「はい。記憶を失った時から、私はずっと何か大切なことを忘れているのではないかという喪失感を抱いていました。記憶が戻れば分かると思っていた矢先、貴方様と出会い、約束の件を聞きスッキリしましたが」

 

「そうか...「ですが」...ん?」

 

「貴方様の涙を流す姿を見て、記憶を取り戻さなければと更に強く意識しました」

 

 

リヴェリアはジルの顔を見る。彼の表情は、約束を交わした幼き日の表情と一緒だった

 

 

「リヴェリア様。必ず思い出します。そして、改めてお迎えに上がると誓います!どうか僕にご機会を頂けないでしょうか!」

 

 

ジルは腰を曲げ力強く宣言する。

多少変わろうとも、あの日プロポーズの如く紡いだ言葉と同じこの誓い。その言葉、姿勢が昔と重なりリヴェリアは胸が熱くなった。

再び溢れそうになる涙を抑えながら口を開いた。

 

 

「いつ迎えに来てくれるのだ」

 

「それは...分かりません。ですが、二年以内にお迎えに上がります!」

 

「遅い」

 

「......」

 

「いつまで待ったと思っている。これ以上待っていられない」

 

「...はい、申し訳ありません」

 

「一年だ」

 

「え...?」

 

「一年以内に迎えに来い。約束だ!」

 

「...はい!お約束します!」

 

 

ジルの輝かんばかりの笑顔がはじける。それを見たリヴェリアはフッと笑みを浮かべると、瞳から一雫の涙が落ちる。

それをサッと拭うと、小指を差し出した。

 

 

「これは?」

 

「昔から伝わるおまじないだ。小指を出せ」

 

「なるほど...」

 

 

ジルは恐る恐る小指を差し出した。触れていいものなのかと迷っているようだ。リヴェリアはそれを察知したのか強引に小指を絡める。

 

昔から伝わるそのおまじないはどれだけ遠い未来だろうと忘れることはない。たった二人だけしかできない二人だけの大切な約束。

何もかも忘れたエルフと想い人に失望したハイエルフの新たな約束が再び交わされた。

 

 

 

 




ありがとうございました。

また投稿するか分かりませんが、投稿された際はお読みくださるととても嬉しく思います。

では、さようなら。
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