八月十四日、東京都米花町警察庁警備局にある会議室。ブラインドがひたと閉めきられた六十五席以上の大部屋に少人数の捜査官らが集っていた。警視庁刑事部強行犯三係、同庁警備部機動隊、同庁公安部、警察庁警備局、米連邦捜査局。黒、鼠、紺碧といった濃色の正装を着こなした彼等が沈黙を押し付け合い物々しいまでの気配が室内の空調を停滞させていた。
左から降谷、赤井、松田、萩原、佐藤、伊達。稀有極まる顔ぶれが一堂に会するに至った経緯は数時間前にまで遡及する。
………。
奥穂町にはトロピカルランドより小規模でありながら開演四十年を迎える遊園地が在る。甲子園球場丸々一個分の敷地に九種類のアトラクションと休憩区域、屋台が建ち並び格安の値段設定で終日営業していることから常日頃より大勢の客で賑わっている。入場料無料の特別期間だった為に連日園内を往来する来園客の数は通常よりも益していた。
殊今日の遊園地は繁盛というよりも混沌を極めていた。家族連れや恋人達、独客と老若男女が二日限りの休日を満喫しようと犇めきあう正午、広告に脚色のない定番のアトラクションを転々と流離人の如く彷徨い歩く一般人らのうちに尋常でない様相を呈する一角があったのだ。
異様な気の渦巻く問題の根源は園内東口に位置する観覧車。回転の止まった一台のゴンドラの中、観覧車の頂上から野次馬と警察関係者で騒然とする地上を、彼は恰も蟻が
「ったく、災難な一日だな。」
肺の空気を全て吐き出さんばかりの勢いで松田は鬱憤の籠った慨嘆を吐き出した。
無理もないことだ。彼が籍を置く捜査一課の事務室宛に送信された一枚のファックスが爆破予告を報せるまでは、松田を含めて勤務中の警察官は誰もが調書作成や被疑者の取調に拘っていたのだから。約二年前に相棒をあわや窮地へと陥れることになった爆弾設置事件を想起させる文面を見るや否や、躍起になった警部補は逸早く爆弾の仕掛けられた場所を割り当て遊園地へと駆けつけた。だがいざゴンドラに飛び込むと不測の展開が起こったのだ。
逃亡した爆弾魔が此度の逆襲に仕掛けた代物は水銀爆弾。爆発の基幹部に後付けで搭載され、解体者が無力化処理を行おうとした矢先に自爆するという卑劣な装置である。学生時代より秀抜な観察眼を有し成果を残してきた一流の元機動隊員は爆弾の特製を直様見抜き手際の良い解体を試みた。早々に犯人から遠隔での挑発が叩きつけられるとも知らずに。
『勇敢なる警察官よ、君の勇気を讃えて褒美を与えよう。 試合終了を彩る大きな花火のありかを表示するのは爆発三秒前、健闘を祈る。』
本体に取付けられた液晶パネルに突然表示されたメッセージは解体どころか彼の生存をも嘲笑うかの如く拒絶したのだ。
開放的な四角の窓枠からはさらさらと水色の天空を移ろう雲と、点々と背比べをするかのように頭部を伸ばす高層建築だけが見えいていた。観覧車は頂点に達したまま停止している。第三者が悪戯心に操縦を弄らない限りは爆弾と一緒に景観を刺激的に味わいつつも在世が赦される。
——一体お空に座すどちら様に赦されるってんだ。お断りだ。
煙草が半分に達して苦味を増すと、松田は搭乗時に開けっぱなしにした扉から外へと放り投げた。遅れて到着した萩原と上司の目暮、同僚の白鳥任三郎が百メートル先の地上から安全への憂慮と独断行動への憤怒を同時に飛ばさんとしていた。説教も余分な危惧も真平御免だと軽く片手でいなして、爆弾に微塵の振動も与えぬよう瞬きの一度にすら丹念に気を配ってその場に腰を下ろした。
*
爆弾は半端に解体されたまま運命に抗わんとする一人の刑事を揶揄するかのように時計の経過を告げている。覚悟は決まっていた。ゴンドラに乗るよりも、刑事部に移動するよりも、或いは晴れて警察官の身になるよりも遥かずっと前から。眼を閉じれば瞼裏に短い半生が走馬灯となり流れ始める。
時限爆発の三秒前に表示される次の爆破現場の手掛かりを解読し下で待機する上司同僚へと送り届けることさえできればお役御免である。大勢の命が救えるのならば大義であったと仲間も誇ってくれるだろう。
「ハッ…」
人生は一歩一歩死に向かっているというが、果たしてこんなにも呆気ないものなのだろうか。死の来訪が定められた狭小な箱の中で命のタイムリミットを待ち侘びる、静寂が此程にやるせないと感じたことなどなかったと掠れた笑いが溢れ出た。
爆発への秒読みが六十秒を切った頃、俺は携帯を取り出した。電池残量は己の余命を表すかの如く僅かを示している。今この瞬間も東都中で正義の志を同じくする正義の味方達がもう片方の爆弾を懸命に捜索しているだろう。同僚の一人一人に思いを馳せては誰に最期の連絡を送ろうか悩み倦ねているうちに、気付けば俺の手は異動以来付きっきりで面倒を見てくれた同僚警官に宛てたメッセージ画面を開いていた。
思念の範疇外にいたはずの彼女が放っておけば胸懐を占めるようになったのは何時からだろうか。強行犯係に所属してからもどうにも反骨精神の抜けずに煙たがられていた俺に佐藤は怖気もせずに事ある毎に叱ってくれた。
アイツらは…警察学校の頃から苦楽を共にしてきた大切な仲間達は俺の死を悔やんでくれるだろうか。死に際になって佐藤に告白なんざして、女々しい奴だといつもみてェに笑ってくれるだろうか。
手持ち無沙汰にあっちへこっちへと忙しなく想いを走らせていれば、口許は勝手に自嘲の形に歪んでいった。
此処ではない安全圏で高見の見物をしているであろう糞爆弾魔に向かって液晶パネルを介して睥睨する。当然嘲りどころか返事の一つも返ってくるわけがない。また口元が恋しくなってライターを取ろうか否か逡巡していると、不意に携帯が着信を伝えてくる。
「警部、今更降りて来いなんて無茶は受け付けま…」
「今すぐ爆弾を解体して!もう一つの爆弾は見つけたわ!」
「佐藤?いや、何だって?」
教誨なんぞは遠慮願いたいと応答一番に断りを入れた俺を遮って意想外の報せを届けたのは、今しがた虚しい思慕を寄せていた佐藤だった。うっかり取り落としかけた携帯を間一髪で受け止めて爆弾を見遣る。安堵の息が漏れた。受話器を耳に当てるや否や、俺が発言の意を問い糺すよりも先に佐藤は言葉を続けた。
「匿名の通報があったの。爆弾は米花中央病院に設置されていたわ。既に萩原君が解体を進めてるから貴方もさっさと終わらせなさい。」
「本当だろうな?」
「私がこの目で確認しに行ったわ。間違いない。」
彼女の断言を確と聞き届けると、俺は鋏を握り込んだ。即時配線の切断を再開する。いつの間にか通信は切れていた。
パチ、パチと不穏やら緊張やらの入り混じった音が手先から生じては瞬く間に空気に溶け込んでゆく。いつの間にかカウントダウンは三十秒を切っていた。ゴンドラに乗じた際に解体手順の暗算は済ませていたので今更苦労はない。
二十、十、五…そして三秒が迫ると、液晶パネルに記されていた不愉快な挑発文は暗転した。試しに足場を振動させてみる。爆発の気配はない。
最後に二、三度「糞野郎。塵野郎。」などと暴言を吐き棄てて何の反応もないことを確認すると、俺は上半身を乗り出し上司と同僚に安全の合図を送った。成功の意を汲み取った警部は遠目にも分かるくらいに胸を撫で下ろして、携帯を取り出した。彼が本部へと連絡を取る様を見届けずに俺は倒れ込むように中へと逆戻りした。
数時間に及ぶ葛藤の一切を知らぬ野次馬が軽率に湧き上げた歓声が風に乗って耳朶に届いた。悪くはなかった。ゆらゆらと揺れる小さな箱の振動に逆らうことなく、聞き届ける人間が居ないのを良いことに静かに囁いた。
「嗚呼、僥倖だ。」
…地上に戻って現世を踏み締めると、白鳥警部と萩原は仁王立ちとと温容な面輪との相反する姿勢で待ち構えていた。未だに鳴り止まない拍手を浴びながら俺は彼等の元へと歩み寄る。目暮警部は俺が降下している間に場を一時的に離れたようだ。白鳥警部は涙こそ滲ませてはないものの目頭を抑える様がやけに漢らしく見受けられた。肝心の萩原は…
「お前マジで巫山戯んなよ!もう一つの爆弾が発見できなかったら死ぬ気だったろ!」
一目散に駆け寄り振り上げられた掌を受け入れようとして、しかし久方ぶりの本気の平手打ちは肩へと叩きつけられるに留まった。
「それに関しちゃ後悔はねェ。お前だって同じ立場ならそうしただろ。」
「松田!」
己の行いを咎めように揃えられた指先は拳へと変わり肌白んでゆく。けれども握り拳が殴打に転ずることはなかった。珍しく左右に揺れ動く双眸が失くしかけた友の存在に、身勝手な行動への憤り以上の安穏に染まっているのを見留めてしまえばこそここで彼の想いを無碍にしてはならないと直感が告げてきた。俺が己の行動への理解を求めたように、萩原や上司らの気遣いに応えるのは当然の道義的な義務だと染み染みと思わせられた。
「…余計な心労をかけさせたのは悪かった。ありがとな。」
いつもみたく不敵に笑ってやれば、萩原は非難めいた口窄みを止め快活に笑顔を返してきた。
一途に温情を抱き時に腹の底から笑い、時に諍い叱ってくれる…そんな貴重な存在に恵まれている好運の実感を百メートルの剣ヶ峰で得られたのならあの緊張と決心は安い駄賃だったのかもしれない。深々と丁重じみた謝罪よりも体重が軽くなるような謝意が胸を充していた。この充足感が続くのならばニコチンを断てるんじゃないかと錯覚を抱いてしまうくらいには。
そこに、本部からの連絡で何処かへと失せていた目暮警部が規制線を越えて戻ってきた。
「松田君。まずは市民の安全を優先した迷いなき英断、爆弾の迅速な解体、一警察として最大限の敬意を…。しかしだね、君。」
慰労の言葉は応じるように敬礼しようとした俺を逸早く妨げた。トランプでも翻すかの如く瞬時に面相を一変させた警部に密かに動悸が起こった。
「本音を言えば早々に爆弾を解除して降りてきて欲しかったよ。大切な部下を目の前で喪うだなんて、そんな苦しみは味わいたくない。」
「警部…」
翳りを帯びた眸にじっと正視されると、俺は見張った眼を不器用に屡叩かせることしかできなかった。誰よりも死と接してきた——本人は断固として深く語りはしないものの——と同僚の間では実しやかに囁かれている上司の音色にはダンベルを抱え込むような重みがあった。五体満足で帰還した部下の姿を見回して人心地がついたといった表情の目暮警部の胸襟に白鳥警備がすかさず肯んじることで賛同した。
「私もだよ松田君。君とまたこうして話すことが出来たのは奇跡に過ぎないのかもしれない。市民を誘導するのは私に出来得る喫緊の優先事項だったけれども、地上から直接的な援助も出来ずに只々見守るだけの時間がどれ程歯痒いか、君自身は考えたかい?」
説教とは無縁の白鳥警部も今回ばかりは労いと叱責の両方を真情を混えて吐露したものだから、俺は勿論のこと彼の滅多にない顰蹙を目の当たりにした付近の警官らも瞠目する様が見られた。日頃から羊さながらに柔和な人間を怒らせた罪は重いと周囲から突き刺さる目線が、正直本人の苦言よりも地味に胃にきた。
同時として、二人の言葉に衷心から込み上げてくる陽だまりのように温かな感覚を俺は慥かに感じていた。染み入った芳情が血液を通って身体中を巡り、むず痒さやら歓喜やらの豊さが魂に肯定的に働きかけていた。彼等の実直な語り掛けが俺自身が思っていたよりも誰かに大切に想われていた、理解者の少ない一匹狼などではないのだという充足感を犇と與てくれると、俺は感謝の言葉を繰り返した。
大きな壁を乗り越えた。燦々と照りつける心地良い夏の太陽さえも生還を祝福してくれてるような気がしたのだった。
切実な幸せを須臾の間噛み締めて、気を取り直してファックスの受信から爆弾解体までの経緯を具に詳述すると、目暮警部が俺達三人を脇へと呼び寄せた。
「終わったばかりで悪いが、今から警察庁に向かわなければならない。君達も来てくれたまえ。」
「警察庁ですか?」
「ああ、兎に角行けば解る。」
………。
奥穂町の遊園地から所変わり、中央合同庁舎第二号館。目暮警部に連れられ遥々登った先は十階。警察庁でも滅多に使用されないらしい特別捜査本部専用の大会議室の扉前には達筆の看板が異質な存在感を放っていた。
『高濃度ウランを使用した連続爆破テロ事件 連邦捜査局及び警備局特別合同捜査本部』
刑事部門で地道に嫌疑者の検挙に勤しんでいるような身分では一生お目にかかれない仰々しい墨痕の前で佇む俺に一足先に沓摺りを踏み締める目暮警部が手招きする。らしくもなく尻込みして、無意識に己の躊躇いに同意を求めるように隣を見遣れば萩原は勿論のこと、初出勤日に勤務先を誤った巡査もかくやの素っ頓狂な面相をする白鳥警部のお陰で却って平常心を取り戻した。
目暮警部の背中を追うようにして中に入れば、瞥見して二百席以上はありそうな座席が粗粗埋まっていた。既に着席時間を過ぎているらしく、新たな入室者に捜査官らの厳しい眼差しが一斉に注がれた。余所者と理解するや否やエリート意識も甚だしい気配でノンキャリア組を排除したがる連中の無言の抗議を無視して、俺は全体を見渡してみる。
入口の帳場に記されていた通り、一目で国籍が異なると見分けられる風貌の要員が前方の隅で固まっていた。連邦捜査局、換言してFBI捜査官である。物珍しげに更に眼を流して、顔馴染みを発見した。
「佐藤、伊達!」
声を張り上げて名を呼べば、勢いよく振り返った二人は表情を明らめて立上る。歩み寄るとすぐ、俺の頭のてっぺんから爪先までを眺め回して安否を確認し始めた。
「松田君!良かったっ!」
「松田、心配したんだぞ!」
「見ての通りピンピンしてる。…佐藤、電話してくれてありがとな。勿論班長も。」
とりわけ憂いと安堵で瞳を濡れ光らせる佐藤の頭に手を添えれば、彼女は屈託の無い笑顔を向けてくれた。
「それにしても、匿名の電話って何処からだったんだろうね。」
「それは俺も気になるな。佐藤、通報者は突き止めたのか?」
「えっと、その」
佐藤は如何いうわけか突然歯切れが悪くなった。俺は萩原と見合わせる。首を傾げる仕種が俺と同様に及ばぬ理解を伏せて告げてきた。何か述べる能わずの事情でもあるのかと追及しようとして、そんな折に室内の拡声器がキーンと嫌な音を反響させた。
途端、広々とした室内が静まり返る。俺達は即座にその場の椅子に掛けた。
厳しい面差しの中年二人が最前列の演台横の記帳台に居座っていた。外人の方は定かじゃないが、片方の特徴的な隻眼の男は幾度か式典などで目にしたことがある。議長席に腰掛ける二人が互いに譲り合うと、埒が明かなくなる前に演台で根なし草の如く佇立していた若い男がマイクを日本人の方に差し出した。
「諸君の一部は初見だろう、先ずは自己紹介をさせてもらおう。看板に記載された通り、高濃度ウランを使用した連続爆破テロ事件連邦捜査局、警察庁警備局合同捜査本部の監督をすることになった捜査一課管理官、黒田兵衛だ。そして我々と連携を取って本件の捜査に協力していただく連邦捜査局代表のジェイムズ・ブラック殿。」
「ご紹介に預かったジェイムズ・ブラックです。よろしく。」
流暢な日本語でジェイムズ・ブラックと名乗った男を俺は遠目に観察してみる。頬と眉間に小さな皺の寄った老いた顔立ちだが、整えられたカイゼル髭が英国紳士のような風格を漂わせている。加えては仕立ての良いスーツの上からでも見受けられる鍛えられた体躯が、彼が余程の実力を兼ね備えていることを窺わせた。
黒田管理官に指名されて三上という男が待ち侘びたとばかりに咳払いをした。
「此度の捜査の司会を務めさせていただきます三上です。最初に特別捜査本部を設置した経緯から説明致します。…発端は八月一日、警視庁警備局警備企画課八ー二六室に核爆発装置三つ分のプルトニウムが届けられました。」
一生に一度も聞きたくない奇想天外な出だしに早速会議室は騒めいた。咳払いが有効な静粛手段とでも思っているのか、彼はしきりに心配になるくらいの咳嗽をして取り戻した静寂に満足すると話を続行した。
…要約するとこうである。
警視庁に主要都市を三回破壊できる量のプルトニウムが配達された直後、世界中で高濃度ウランを使用した爆発事件が頻発した。シンガポールから始まりアメリカ、インド、フランス、カナダ、ブラジル等世界八カ国に渡って酷似した事件が度重なり、国際的に高じる切迫感に日本の警察機関も何らかの対策を考慮せざるを得なくなった矢先のこと。悔しくも一歩遅く三日前の十一日、遂に三大商港たる大渡間町にもテロの脅威が及んだ。折良くも、日本に本部を設置している巨大な犯罪組織への捜査活動の一環で来日していたFBIと公安の身分秘匿捜査官の然る双方の身分露呈によってパイプが綺麗に横繋がりし、今回の度肝を抜く合同捜査が実現したということだった。
経緯が如何であれ一刑事には些かばかりも縁のなさそうな重大事件に招かれた理由は依然として知れず、俺はゆるがせに報告を聞き流しながら用意された資料をペラペラと捲っていた。そのうち卒爾としてある頁に行き着くと、思わず喫驚を洩らした俺に訝しげに両隣の萩原と佐藤が紙面を覗き込み、そして同様の驚愕を露わにした。白黒で印刷された、身に覚えのありすぎるモンタージュ写真と顔写真に。
『アントニー・ジルキン(詐称) エリセイ』
「なんだってアイツらが…」
近頃は仕事の関係で久しく見かけなかった、されど譬え戸籍を偽っていたとしても身内のように接してきた焔と隼人が俺達の知らない名前で記されていた。何度瞼を擦ろうとも文字も写真も変わりはしない。人物写真の欄に連ねられた経歴詐称の一文が混乱へと陥れ衝撃のあまりに言葉を失くす俺達に、一方で突如として会議の進行を妨げた傍迷惑な新参者に周囲からの冷ややかな目付きが集中した。背後の捜査官に耳打ちで指摘されると、仕方なしに一度資料を閉ざした。
「三上君、ご苦労。ではそれぞれの資料の表紙に書かれた番号を照らし合わせて各々捜査を始めてくれ。」
粗方の説明を終えた司会が席に戻ると管理官がマイクを手にしたが、その後勝手に振り分けられた班別行動はそぞろに資料を眺めるだけの無為な時間を過ごした。
「どうして焔達が。」
「何かの間違いに決まってる!」
一通りの作業を終えてから俺達は顔を突き合わせて、管理官に物申しに行こうと息巻いた萩原と伊達を佐藤が引き留めた。
「皆に話したいことがあるの。焔君のことなんだけど」
「松田」
終始逡巡を繰り返していた彼女がようやっと潔く試みた発言は、しかし横から割り込んできた声に妨げられた。数日前に顔を合わせたばかりの諸伏が、何日も捜本の事前準備の為に道場で布団を広げてましたと云わんばかりの憔悴っぷりだ。思わず「酷い顔だな」と放った俺に聞こえるか聞こえないかの音量で「余計なお世話だ」と返されるものだから余計に憐憫が募った。
「緑川」
「
真剣な面持ちでそう云うと彼は返事を待たずに背を見せる。今し方の資料が関係していることをは明白だった。直ちに会議室を後にする萩原達に続いて、時期を見失ったように立ち竦む佐藤を連れて急足に後を追った。