深い雪に閉ざされた大地。何の準備もしていないただの人間であれば、数時間で死に至るような絶対零度。そんな中を、一人の男が歩いていた。
「......ふむ。狩りというのは存外に難しいものだ」
無骨な鎧がつけられたその肩にはいくつかの____一部は黒焦げて原型すら残っていないが____狩りで手に入れたであろう獲物がかかっている。
どうやら彼は、この深い雪の中で動物を狩っていたらしい。
「おーい! そろそろ寒くなってくるころだ、村に戻ろうぜ!」
そんな彼に声をかけながら後ろから現れたのは、どう見ても人ではない、いうなれば人狼のような姿をした者だった。
だが声をかけられた彼のほうは、やってきた人物に静かにするように言う。
「......少しの間静かにしていてくれ」
「...なんだ、新しい獲物か? なら俺が狩ってくる、あんたは狩りが下手だからな」
「......いや、これは..」
その音を、彼は聞き取った。地面から...いや、虚数の世界からやってくる、神の手先でも何も知らない異聞の民でもない人々の音を。
その音を聞いた彼は、なるほど、とひとり呟き、そして立ち上がった
「ああ!? お、おい! 音の話はどうなったんだよ! でかい獲物なら狩ったほうが..」
「ふむ。獲物ではないが。遭難者だ。助力に向かったほうがいいかもしれんな」
「......わかった、ならさっさと行くぞ!」
「ふっ、やはり君は優しい人だよ」
「い、いいから案内しろ!」
そうして二つの人影は、深い雪の中へ小走りで消えていった。
♢
「くっ......う、あ...!」
少女の持つ巨大な盾に、魔獣たちの爪が襲い掛かる。
これまでの経験と技量で何とか抑え込んではいるが、すぐにでも倒れてしまうかもしれない。
それもそうだろう。戦闘経験があったとしても、その力はすでに失われたも同然なのだから。
カルデア、という組織が存在した。かつて7つの特異点と呼ばれる異常を修復し、世界を救った組織だ。
1年間の時間をかけてすべての特異点を修復して彼らは、組織としての使命を全うし、その機能は元の1組織としてのものに戻るはずであった。
しかしそうはならなかったのだ。
カルデアの新所長となる人物がカルデアに訪れた際、襲撃が発生したのだ。
カルデアのメンバーのほんの一部はシャドウボーダーと呼ばれる乗り物で脱出したものの、その間に世界は白紙化と呼ばれる以上に包まれることになった。
そんな中シャドウボーダーは白紙化によって現れた7つの異聞帯の一つであるロシア異聞帯に漂着、これを修復するべく深い雪に包まれたこの地に足を踏み出したのだ。
ゆえにカルデアは現状慢性的な物資不足であり、本来は非戦闘員となっている盾を持つ少女、マシュとそのマスターである藤丸立香を狩り出すことになってしまっていた。
かつてこの二人は特異点を修復した人材とはいえ、現状では力不足というほかにないのである。
「マシュ! ここで撤退しよう!」
「は、はいマスター! ここで撤退しないと......!」
マスターである藤丸の言葉に一瞬とはいえマシュは気を取られる。
そのすきをついて、魔獣の内の一体がマシュに爪を振り下ろした。
「......あ..」
その隙をつかれたマシュには、もはやその爪をよける手段はない、はずだった。
ズバッ、というまるで雷が落ちるような音とともに、魔獣がはじけ飛ぶ。
『な、なんだいまのは!?』
『魔術というには少し妙なものでしたが...何はともあれ僥倖というものでしょう』
その一撃にカルデアの新所長であるゴルドルフと経営顧問という肩書を得たホームズが反応する。
「パツシィ、少し周辺を頼む。群れはあらかた相当したはずだが、クリチャーチはすぐに辺りからわき始めるだろう?」
「あんたもこの辺のこと理解してくれたようで何よりだよ、全く」
「すまないな。......さて、ひとまず安全は確保した、落ち着いて盾を下ろしてはくれないか」
まるで何かにつかまれたかのように指跡がつく鎧を着ている男が、マシュと藤丸にそう話しかける。
「貴公らが私を警戒するのも当然だ。何せ君たちにとってはこの場所は未知でしかない。だが安心してくれ、少なくとも私は君たちと敵対するつもりはない」
男はその手に持っていた槍を地面に突き刺し、地面から突き出していた岩に腰掛ける
「貴公らはこの場所、異聞と敵対する者たちだ。違うかね?」
『...ど、どういう意味だ? 我々なにかと敵対しているのかね?』
カルデアの面々は男の言葉に困惑を示すが、ただ一人理解したホームズが声を発する
『......確かに我々は君の言う異聞とやらに敵対しているのだろう。なぜなら我々は汎人類史の人間だからね』
『け、経営顧問! 我々にもわかるよう説明してくれたまえ!』
『失礼。私が言いたいのは。我々にとって正常な歴史を取り戻すためには異聞、つまりこの地を収めているであろうクリプター、もしくはそれに比例する何者かを倒す必要がある、つまり我々は異聞に敵対する者たちであるということです。情報が定かではなかったので先ほどは言いませんでしたが、そこの彼がその情報の答え合わせをしてくれました』
ホームズのその言葉に、周辺を見張っていた人狼の青年、パツシィと呼ばれた彼が反応する。
「......要するにあんたら、オプリチニキの敵ってことか?」
『そう解釈してもらって構わない』
ホームズのその言葉に、パツシィが驚いたように鎧の男のほうを見る。
「マジかよ、ほんとにあんたの言ってた通りになったじゃねえか。ヴァイクさん!」
嬉しそうにそういったパツシィに、鎧の男......ヴァイクはあきれたようにため息をつく。
「パツシィ、貴公......交渉中には私の名は出すなと散々教えただろう」
「わ、悪い、口が滑っちまった..」
うなだれるパツシィにヴァイクはさらに深くため息をつきそして改めて藤丸達に目を向ける。
「......交渉前に名が知られてしまっては仕方ないだろう。改めて、私はヴァイク。ある理由で異聞に敵対する者たちを待っていた、しがないサーヴァントというやつだ」
そう名乗った鎧の騎士……ヴァイクは、腰掛けていた椅子から立ち上がると地面に突き刺していた槍を手に取りつつ藤丸に言う
「……とはいえ、貴公らにとって私はまだ信頼に値しない人間だろう。それに礼装があるとはいえ只人の貴公にとってこの吹雪の中は辛いはずだ……この近くに我々の村がある。そこに一度向かうと言うべきだと思うが、どうかね」
「……わかりました。行きます」
その藤丸の言葉に、ゴルドルフは驚いたように声を上げる
『しょ、正気かね!? こんな素性もよくわからぬサーヴァントについていくなど……!』
『確かに危険でしょうな。しかし今の我々には何もない。何か得られるものがあるのであれば、いくべきでしょう。少なくとも彼は藤丸君を獣の群れから守った実績はあるのですから』
ホームズの言葉は確かに事実であった。現在のカルデア一行は何も持たない。最低限信用のできる人間からもらえるものがあるのであれば、貰うべきだろう。
納得した新所長が黙ったタイミングを見計らって、ヴァイクは改めて言った。
「では、我々の村に向かうとしよう。ついてきてくれたまえ」
この小説ではこんな感じで異聞帯一つ一つを長ったらしく書いていこうと思います。
エタらない限りは全異聞帯このかんじでやるつもりです。(信頼/ゼロ)