魔法少女のお助けヒーローをやめたくて 作:うてなにお兄ちゃんって呼ばれたい
『いってきます』と義妹のうてなは、今日も憂うつそうに朝早く出かけていった。
要領はあまりよくないが宿題はちゃんとやるし、美化委員の仕事だって必ず行くし、まさしく自慢の妹と言える。授業中の落書きや、魔法少女に関する趣味でちょっと夜更かししちゃうなんて、中学生あるあるだ。
授業中だってのに急に出勤させられる正義のヒーローやヒロインよりずっと、普通の中学校生活を送れているだろう。
隣町に行ったとき悪の組織と警察隊員が争っているのを横目に、正義の変身アイテムを拾ったのが運の尽きだった。女の子が魔法少女の姿に憧れるが、別に男子はタキシード姿に憧れているわけじゃない。いくらモテたいからって、王子様キャラをやろうとも思わない。
ただ隣町で悪の組織がいる以上、この町にもいつか来ると予想していたが、やはり料理もヒーロー活動も下準備が重要だ。
こんな風にいつ最悪の事態が起こるか分からない。
「変身……」
思わず内心舌打ちをしてしまった。
変身なんて1秒で簡単に終わらせて瞬間移動してみれば、入学式で見覚えのある校舎じゃないか。
つまり今回は、うてなが直接狙われる可能性もある。昨日から義母上にも何か秘密を隠しているみたいだが、厄介なことに巻き込まれてなければいいが。
幸いなのはまだ授業中だから、うてなが教室にいてくれることか。
「私は悪を切り裂く一輪のバラだ! 花を怪物にするなど言語道断!」
植物系の怪物のツルを手刀で切断して、状況を確認する。
「か、仮面タキシード……うぅ…」
「遅くなってすまない! 全員無事か!」
マゼンタがうっとりした声で反応してくれる。
特にアズールの瞳は光を失っていて、彼女の緑の髪は乱れている。コスチュームにダメージはないようだが、痣が残らないような尻叩きによって、スカートから見えるお尻も真っ赤に染まっていた。
「あへぇ……」
「アズール! クールなキミがここまでやられるとは!」
頬も真っ赤で汗まみれ、ヨダレを垂らしている。その身体を紳士的に抱き起こして、比較的無事なサルファの横に寝かせた。女子中学生にしてはかなり発育がいいようだが、別に義妹で見慣れている。
そして。
「若い女の子の肌はピチピチしてフレッシュだ!」
強制力なキザな台詞を口にしながら、花の怪物を蹴り倒す。こういう怪物を浄化する技なんてないとはいえ、まあこういうのは叩けば元に戻る。白い手袋に包まれた拳でコア的なやつを殴れば、白とピンクの花に戻った。
うてなが水やりした花をよくも。
俺は珍しく怒りの感情を自覚した。
「花を穢す者は、この仮面タキシードが許さない!」
この怪物を作ったのはあの悪の女幹部たちだろう。認識阻害で顔は見えないが、なんともエロい格好だ。
「あわわわ……」
サキュバス的なやつなのだろうが、一般的な妖艶さからはかけ離れている。程よい大きさの胸を隠しきれておらず、腕で隠そうとして『むぎゅっ』てなっている。少女から恥じらいを感じ、小さな翼やツノはチャームポイントまである。
「ごめんなさいぃ…… 花は大切にしますからぁ……」
「へぇ、噂通り強いねぇ」
女幹部はなぜか自分のズボンを手で抑えたが。
それにしても、隣に浮遊している黒いぬいぐるみは俺を面白そうに見てくる。あまり悪意的なものは感じず、それでいて策士タイプという感じだな。魔法少女にマスコットは付き物であるように、悪の女幹部にもマスコットがいるようになったか。
「貴様、一体何を企んでいる!」
「どどどどどうしたら!?
ちぎっては投げられる!?
女幹部ヒネリジャーされる!?」
「万事休すってやつだね。逃がしてもくれなさそうだ」
マスコットは面白がっているだけだ。
ごくりと女幹部は息をのんだ。
「でも彼は紳士だ。謝ったら許してくれるかもね」
「あ……アハハ……もうどうにでもなれぇ……」
不適な笑みを浮かべながら女幹部は、自分の十字星のステッキ的なやつを重ねた手のひらに乗せて、こちらへ近づいてきた。
「悪いことした私をこれでお仕置きしてください」
「……ふむ」
紳士的には断るべきなのだろう。
まあ、見逃す代償として覚悟があるようだし。
「よかろう。見逃す代わりにお仕置きタイムだ」
「えっ!? いいんですか!?」
見逃すことを喜んでいるのか、それともお仕置き自体を喜んでいるのか、なぜか嬉しそうだ。悪に加担するよう誘惑する気はなく、むしろ純粋にお仕置きを求めてくるなんて、この新人女幹部は天性の才能を持っているようだ。
このステッキは先ほどまで魔法少女たちに使っていたらしく、振るとなかなかしなりがいい。
「唯一の武器を取られちゃった…… んっ」
女幹部は背を向けて、もじもじと身体を揺らす。
その台詞はずるいだろ。
タキシードのズボンがきつく感じる。
「来い。ここは人目が多い」
こんなにワクワクすることは、魔法少女に邪魔されるのが癪だからな。俺には治療的な魔法もないから、魔法少女たちには自分でおうちに帰っていただこう。『あっ……』って引き止める声をガン無視して、女幹部の肩を持って連行する。
やってきたのは体育倉庫で。
ここならば誰にも見られないだろう。
マスコット的なやつはスマホ片手に付いてきたため、さすがに動画撮影は注意しようとしたが。
「えっと、優しくいじめてください」
もう俺の理性が壊れた。
「いいだろう。今回のことをちゃんと反省しろ!」
「あひぃん!?」
パンッと気持ちいい音が鳴った。
女幹部の身体はビクンとのけぞった。
「魔法少女の尻を叩いて喜んでいたのか!」
「ひゃ、ひゃい! しょうでしゅ~!」
パンッ パンッとちょうどいい加減でお尻を叩く。
女幹部といえど、女性に痛いことはしない。
そうだ。
これは紳士的なことなのだ。
「キミ自身がするのも、私からされるのも、どっちも好きなんだろう!」
「うひゃぁ! ごめんなしゃい~!」
この女幹部はこういったシチュエーションを望んでいるわけだ。決して強い痛みに喜ぶわけではなく、そこを勘違いしないのが紳士だ。
彼女は恥ずかしがって口元を手で覆うが、叩く度に甘い声が漏れ出ている。
「許そう! 私はピュアーな心を持つ者の味方だ!」
「あんっ! しあわせでしゅ~~!」
気づけば10分くらいお尻を叩いてしまっていたようで、一度中断すると彼女は前向きに倒れていく。その細い腰に腕を回して、彼女の身体を支えた。
背中が見えるコスチュームでその美しい肌が見えている。
「ふぅ……」
「はふぅ……」
さっきまでパタパタしていて、今はしなっている翼を指でなぞってみれば、『んっ……』と女幹部からまた甘い声が漏れ出た。彼女は続きを期待するように、肩にギュッと力を入れたが、ここで関係を終わらせるのはもったいない気がした。
「今日はここまでだ」
「はへぇ? どうしてですか?」
タキシードでその汗まみれの身体を隠すように包む。
認識阻害であまり顔は見えないが、その頬は真っ赤で、うっとりとした金色の瞳が見えた気がした。
「授業が終わってしまうからだ。キミのそんな姿をギャラリーには見せないさ」
俺のアソコも限界だし。
「はいぃ…… やっぱり優しいんですね、仮面タキシードさまぁ……」
その姿がどこか義妹に重なりそうで。
俺は首を振った。
「彼女のことは任せてもいいか?」
「もちろんだよ。ちゃんと部屋に戻しておくけど、見逃していいのかい?」
「えっ! ちょっと! 拡散だけはやめてください! 私も被害を受けるじゃないですか!」
黒いマスコット的なやつは動画撮影したスマホで、いつでも拡散できるような画面を見せる。脅しになるか試しているのだろうが、別にヒーローとしての印象なんてどうでもいい。むしろ面倒だから下がってくれ。
「ふむ。私のイメージなど構わないが、彼女の姿を世に広めたくはないな」
「うぅ~ 仮面タキシードさまぁ……」
「やめておくよ。やっぱり一筋縄ではいかないようだ」
『完全に正義側ってわけでもないみたいだね』って黒いマスコット的なやつは面白がっている。これからもこの女幹部を使って俺を誘惑するのだろうが、悪事に直接加担する気はなく、悪の組織に従う気もない。
「ふっ、私のお仕置きで済む程度の悪事に留めておくんだな。また会おう」
「はいぃ~ ♡」
目がハートマークになっていた気がしたが、漫画やアニメでもあるまい。
ふぅ、少し自室に籠るか。
まだ義妹が帰ってくるまで時間がある。
あの女幹部にまた会えるといいな、なんて珍しくヒーロー活動が楽しみになっていた。
そして認識阻害があった女幹部に、うてなの顔を当てはめてしまいそうになり、慌てて俺は首を振った。
???「はふぅ…
なんかちょっと楽しかったし…
気持ちよかったな…
鍵はちゃんと閉めたよね。
んっ 仮面タキシード様… お兄ちゃん…」