ビターエンド後ゲーム原作世界に無駄tsモブ転生した僕は犠牲となった主人公のツンデレヒロインと仲間のヤンデレ双子姉妹を元気づけたいのだが、勘違いにより曇らせを加速させてしまう話   作:Atlantis

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 朝の挨拶は、何のためにするんだろう。

 

 前世で小さかった頃、疑問に思っていた。

 

 その時はまだ純粋だったから、ただ意味も分からず朝の挨拶を行っていた。

 

 でも、大人になるにつれ、その本質を段々と理解していった。

 

 挨拶は、人間関係を円滑に進めるために行うものであり、相手のことを尊重している気持ちを表すことが出来る。さらに、それに応答することで相手とコミュニケーションに繫げることが出来る。

 

 とにかく、挨拶は集団生活において大切なものであり、必要不可欠な物である。

 

 なので、僕も当然挨拶はしっかり行う。会話に派生させる必要こそないものの、相手を尊重している気持ちを伝えるために行うのだ。明るく、元気に振る舞いたい。昨日の気絶事件や今日の調子の悪さで心配させない為にも。

 

「おはよーございます!」

「おはよう!」

 

 教室に入り、元気よく皆に挨拶。周りからも挨拶が帰ってくる。そのままの流れで席まで歩こうとしたのだが……

 

(席が、分からない……)

 

 昨日は自己紹介の途中で倒れてしまったのだ。

 

 当然、自分の席も案内されていないため、どこに座ればいいのか分からない。

 

 さて、どうしよう……

 

 困っていると、後ろから肩をたたかれた。 

 

 驚いて振り向くと、そこには小さな背丈で、くりくりとした大きな瞳でこちらを見上げている可愛らしい女の子がいた。

 

 ……彼女はエミちゃん。原作の主要人物でありヒロインの中の一人。同じくヒロインであるアミちゃんの双子の妹である。

 

 エミちゃんの特徴は……そう。主人公である剣君に対しての好感度がとても高いことだ。それも、異常なほどに。所謂ヤンデレと呼ばれる存在である。アミちゃんもヤンデレであるのだが、エミちゃんはよりその傾向が強い。

 

 彼女の魅力のなかで、特に主力だと言えるのが、姉妹の関係性である。

 

 まず、双子の姉妹が同じ男の子を好きになっている状況そのものがセンセーショナルだ。その地点で、様々なシチュエーションを想像する事が出来る。

 

 さらに、二人は同じ特殊体質を持っており、同じ苦労を味わい、同じ孤独感を感じて生きてきている。

 

 二人には友情を超えた、強い繋がりがあると言えるだろう。その関係性が尊い。

 

 ……また、照美ちゃんと姉妹の関係性も重要である。

 

 お互いに皆同じ人を好きになっている恋のライバル同士ではあるけれどお互いがお互いを必要だと感じ、大切に思っている。嫉妬心、友情、愛情。様々な感情が混じり合った姉妹と照美ちゃんの関係性がまた尊い。その関係性はまさに……

 

「剣君……ずっと会いたかったよ?」

 

 エミちゃんの声が聞こえた事により、僕の考え事は中断された。

 

 彼女は満面の笑みで僕を見つめている。ああ、いい笑顔……

 

 病みきってる子が見せるとびきりの笑顔とか、もうなんか、心に来るものがあるよね。

 

 彼女はヤンデレだ。好きな人に独特な愛情表現を向ける。

 

 彼女は主人公である剣君に対し、その異常な愛情を惜しみなく注ぐ。

 

 その執着性は、一種の芸術性を感じさせるほど。先ほどの言葉にも、その異常な執着心が現れていた。

 

 ……彼女は剣君のみならず、自分が剣君だと認識した人、物、事を全て剣君と見なして愛情を注ぐ。それがたとえ、他の人物であろうとも。

 

 その異常なまでの執着は、常人には決して理解できないものだ。仲良し姉妹であるアミちゃんも、彼女の病み具合には困り果てるほど。

 

 でも、照美ちゃんだけはそんな彼女の病みっぷりを受け入れ、正面から向き合っていて、そこが尊い。

 

 ヤンデレは恐ろしい一面を持ちながらも、それを理解してくれる人がいればその関係性はとても尊く美しいものになるんだと僕は思う。

 

 だから、僕は剣君扱いされた事に驚かなかった。僕のどこから剣君要素を見いだしたのかは不明だけど、そんなのは些細な問題だ。

 

「えへへ、えへへへへ……」

 

 狂気的な笑みでこちらを見つめるエミちゃん。普通の人なら恐怖するだろうその形相も、僕にとっては慣れ親しんだ魅力的な笑顔に映っている。

 

 原作で何度も見た笑顔だ。剣君への強すぎる愛が伝わる魅力的な笑みがこちらに向いている。……何という、ファンサービス!

 

 ……はっ!いけないいけない。ついトリップしてしまった。

 

 今は席を教えて貰わないと……あ、そうだ。その前に聞いておきたいことがあった。

 

 剣君ってエミちゃんが言っていたけれど、今彼はどこにもいない。昨日も剣君の姿が見当たらなかった。

 

 もしかして、剣君は居なくなってしまったのではないか。

 

 そう、例えばここが原作でのビターエンド後の、剣君が代償を払った後の世界だとしたら……

 

「すみません。剣君……剣崎剣は、今もここに居るんですか? 居なくなったりしていませんか?」

「え? あっ……ふーん」

 

 僕は、エミちゃんの横で僕たちの様子をうかがっていたアミちゃんに尋ねた。

 

 彼女なら、剣君の現状を正確に認知していると考えたからだ。

 

 僕が質問した瞬間、彼女は少し不満げな表情を浮かべた。だが、すぐに華やかな笑顔に戻った。

 

「望ちゃん……そう、そうだよね。違う名前、違う姿になっちゃって、自意識が薄くなっちゃったんだね」

 

 アミちゃんは小さく呟くと、目に涙をためて僕を見つめてきた。

 

 ……確かに、僕は転生してから名前も変わり、見た目も変わった。前世の自意識だって薄れてきている。

 

 でも、だからと言って僕は自分を見失った訳じゃない。

 

 この世界の皆が大好きなのは今も昔も変わらない。

 

 ……でも、なんでアミちゃんが僕の事を知っているのだろうか?

 

 そんなことを考えていると、アミちゃんが優しさのこもった目で見つめて、語りかけてきた。

 

「大丈夫。剣君はここにいるよ。どこにも行ったりなんかしてないんだから。安心して。剣君の居場所は、ここにあるんだよ」

 

 彼女がそう言い終わった瞬間、僕の視界が白く染まっていった。……これは、彼女の能力!

 

「……ごめんなさい。ちょっと手荒な手段を取ってしまって。でも、私はあなたに自分を失って欲しくなかったの」

 

 視界が元に戻った時、何事も無かったかのようにアミちゃんは呟いた。

 

 ……僕は今、何をされたのだろうか? 確かに、さっき彼女の能力を受けて、何かを重くされたのだろうけれど。……何を重くされたんだろう?

 

 何をされたのが考えていると、前方で僕を手招きしている照美ちゃんに気づいた。

 

「望ちゃん、席はこっちだよ。私の隣」

「あっ……うん」

 

 僕は彼女に言われるがまま、席に着いた。

 

「望ちゃん、おはよう。昨日はよく眠れた?」

「……うん、ぐっすり眠れたよ。ありがとう」

 

 照美ちゃんは相変わらずの笑顔で僕に話しかけてきた。その笑顔は、まるで太陽のような暖かさと眩しさを持っている。

 

 彼女も姉妹に劣らず魅力的だ。入学した頃は能力者に対して不信感を持っていて皆にツンとした態度で接していたのだが、剣君や姉妹によって徐々に心を開いていき、今では一番クラスに馴染んでいる。

 

 原作でも照美ちゃんの笑顔には多くのファンが魅了された。彼女の魅力は、その太陽のような笑顔だろう。

 

 心に闇を抱えていて、それが他者との絆によって少しずつ浄化されてゆく。その過程が、とてもエモーショナルだと思う。

 

 しかし、剣君に対してだけは入学した頃と同様にツンツンした態度で接するのだ。……そこがまた、とても良い!

 

 恩人である剣君に対して、今までキツい態度で接してしまった事による申し訳なさと、剣君に対しての恋心が混ざり合う事によって、逆に素直になることが出来なくなっていく。

 

 剣君への愛が強ければ強いほど、素直になれなくなる。そのジレンマがとても尊い! また、彼女の剣君に対する態度も非常に良い。

 

 ツンツンした態度の裏に、剣君と一緒にいることの喜びも見え隠れする。そんないじらしい姿を見ると、とても尊くて……

 

「ねえ、無理してない?」

 

 照美ちゃんの言葉によって、現実に戻される。

 

 ……いけないいけない。また、トリップしてしまった。

 

 今は彼女に不審に思われないようにしないと……

 

「大丈夫だよ、藤原さん。昨日はよく寝れたし」

 

 僕は笑顔で照美ちゃんに返答した。……少し、無理があるかな?

 

「……そう。なら良いんだけど」

 

 彼女はまだ少し訝しんでいる様子だ。

 

「……ても、今朝の挨拶はかなり無理しているように感じたけれど」

 

 彼女の鋭い言葉によって、僕は冷や汗をかいた。

 

 やばい……気付かれてる。

 

 でも、下手に否定すると余計怪しまれるかもしれない……。ここは、あえて否定せずに流そう。そして、良い感じに話の方向を誘導していけば……

 

「皆の印象を少しでもよくしたいから、張り切っちゃった」

「そう、それならいいんだけれど……」

 

 僕が笑顔で答えると、彼女は納得した様子になった。

 

 ……なんとか、上手くいったようだ。

 

 僕は胸をなでおろした。危ない危ない。……そう、安心したときだった。

 

「やっぱり、何だか放っておけないな」

 

 照美ちゃんが衝撃的なことを口にする。……やばい、思いっきり心配させちゃってるよ!

 

「能力者であるクラスメイトの皆と一緒なの、『限界』なんでしょ? 無理しないで。……私でよければ、いつでも相談に乗るからね」

 

 彼女は、とても心配そうな様子で僕に語りかけた。

 

 ……その言葉がとても重い。

 

 やはり、僕がクラスメイトに『限界』になっているのが照美ちゃんに筒抜けになっていたようだ。推し相手に限界オタクバレとか、もう、本当に恥ずかしくて死にたくなる……

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