ビターエンド後ゲーム原作世界に無駄tsモブ転生した僕は犠牲となった主人公のツンデレヒロインと仲間のヤンデレ双子姉妹を元気づけたいのだが、勘違いにより曇らせを加速させてしまう話 作:Atlantis
聖地巡礼。好きなアニメや漫画の推しキャラが住んでいる場所に行って、その空気を堪能する行為のことをこのように呼ぶ。
作品の舞台となった実在する町や施設を訪れ、観光名所を巡るのが一般的である。アニメや漫画の聖地巡礼をすることで、作品に対してより一層愛着が湧くため、オタ活の一種として親しまれる。
「はぁ、はあ。…………生、異能管理学園っっっっっ!」
周りに人がいないことを確認して、思いっきり叫ぶ。時刻は夕方、異能管理学園の転校前面談の帰り道である。この辺りは人通りも少ない寂れた通り道だ。
実在している、異能管理学園……! 最高だった、本当にこの世界に転生できてよかったよ……! 興奮しながら僕は目的地までの帰路を歩む。脳内には今日の事が次々と蘇る。
まず、最初に見た物といえば異能管理学園の看板だ。イベントスチルで何度も見た看板を生で見れたのだ、感動もひとしお。
異能管理学園は中世ヨーロッパ風の学校。校舎が塔型で、天井が高くて窓が大きい。また、外壁や内装がレンガ造りで、お洒落かつ風情がある。
外から見ても分かるように、塔型の校舎と、左右に二棟の校舎が対称的に配置されていて、不思議な雰囲気を醸し出している。
実際に中に入ってみると、校舎や中庭には均等に芝生が敷き詰められていて、鮮やかな緑色が目を引く。その奥に見える塔は巨大な図書館になっていて、年季を感じる。……実際は創立から20年も経っていないけれど。
ちょっと非現実的だけど、とても魅力的で心躍る学園だと思った。ゲームで見た通りの綺麗な景色だった。
さらに!
なんと、原作に出てくるキャラと出会うことが出来た。新山ゆみえ先生。原作登場時と変わらず、可愛らしい姿をしていた。素晴らしいことに、彼女は僕に対し面談と言う名のファンサを行ってくれたのだ。最高である。
彼女はちょっぴりドジな、清楚で天然な先生である。今日の面談時でも天然さが発揮されており、僕の名前をうっかり間違えそうになっていたが、そこがまた可愛らしかった。
……そんな彼女ではあるが、能力者になった背景とその思いには深いものがあり、それが彼女と言う人間に深みを与えている。普段の天然さとのギャップにやられてしまう。
はぁ……この世界は最高だよ、と天を仰ぐ。今までの展開を思い出すだけで、感嘆の念を覚えてしまう。推しキャラに会えた喜びでルンルンになりながら歩くこと数分、目的地である場所に到着した。
「ここが、原点の場所……」
その場所に到着した瞬間、胸が騒ぎ始めた。
心が踊る。心臓の鼓動が早くなる。
この場所は、原点。物語が始まった、あの場所。
それは──── 僕は目を瞑り、自分の鼓動を感じる。そして、この神聖な空気を全身で感じとる。……あぁ、これが聖地か。
重厚な気配。何かががざわめく音が聞こえてくるような気がする。それはまるで僕に何かを訴えているようで──── ───僕は目をそっと開ける。するとそこには、僕にとって神聖かつ美しい光景が広がっていた。
薄暗く、狭い通路はどことなく怪しげ。女性や子供が1人で訪れるのは、あまり好ましくないだろう。……そう、ここは路地裏にある、薄暗い道。路地裏の道である。
その奥はうっすらとした光に包まれていて、とても幻想的だ。
そう────聖地巡礼第2弾! 始まりの路地裏だ。
ここ、始まりの路地裏は原作内で最初のイベントの舞台となる場所。僕は前世でゲームをしていた時から、この場所のファンだった。
何故なら────ここは物語の始まりの場所だから!
主人公の剣君がこの場所でヒロイン(照美ちゃん)を救い、願いを明らかにする。2人は運命的な出会いを果すのだ、この場所で。
僕はこの最初のイベントシーンをスキップしたことがない。それほどまでに印象的だったし、何よりドラマティックな場面が大好きなので、感動した。
僕はしばらくの間、路地裏の光景を目に焼き付けた。脳裏に焼き付けるように。
そして、脳内で物語を再現する。主人公とヒロインが、この場所で運命的な出会いを果たした場面を。
「たすけてっ!」
そう、こんな感じで助けを呼ぶ声が路地裏に響く。その声を聞いた我らが主人公剣君。彼は声の主を助けるため、路地裏の奥深くに足を踏み入れるのだ。
僕も、剣君になりきって声の聞こえた場所に向かう。原作と同じように路地裏の最奥に足を踏み入れ、現場を確認する。
「けへへへへ。お嬢ちゃん、こんなところに一人で不用心だぜ?」
「は、はなして!」
そこには、怯える女の子の姿と、彼女を脅す屈強な男の姿があった。
……うん、そうそう、こんな感じ。こんな感じで剣君は襲われている照美ちゃんを見つけ、助けるのだ。そして、怯える照美ちゃんに優しく手を差し伸べようとする。
……だが、それは男によって邪魔される。
屈強な男であった。殺気を身にまとっている。
そして、その男が叫ぶのだ。
「……誰だっ! 即刻ここから立ち去れ!」
「たっ、たすけてっ!」
そう! こんな感じで! ───って、ん? 僕は違和感に気づいて妄想を中断する。
……あれ、ちょっとまって? これ、ガチで女の子が屈強な男に襲われてない? しかも、たすけてって……。
妄想が現実になったことに驚愕するが、女の子の助けを呼ぶ声に現実に引き戻される。
正気に戻って辺りを凝視すると、屈強な男が1人、小さな少女の手を無理やり握っていた。少女は恐怖に顔を歪め、目に涙を浮かべていながらも、必死に助けを求めている。……これは、守ってあげないと。
変身! ……と、言いたいところだが、今すぐ能力を使う事は出来ない。能力を使うためには、願いの力が必要なのだ。
願いの力と思いのこもったアクセサリー、その両方が必要。既に猫耳と猫の尻尾は身に着けているため、あとは自分の願いをイメージするだけ。
僕の願い、それは決して出しゃばらず、それでいて大好きな推しーーー『異能管理学園』の生徒たちを見守りながら生きていきたい。
……あれ? よく考えたらこの状況と僕の願い、関係ないんじゃ?
能力者は、願いと関係ない状況ではあまり力を発揮することが出来ない。
僕の場合、異能管理学園の生徒たちを見守ったりする時にのみ力を発揮することが出来る。
……絶対絶命のピンチ。
このまま立ち去ってしまえば僕の身の安全は確保されるが、女の子が何をされるか分からない。
かといって、能力無しで大人から女の子を助ける事が出来るほどの力は僕に無い。
ここは、立ち去るべきだろう。そして、警察に通報するべきだろう。
「けへへ、お嬢ちゃん、助けて欲しいかい?」
「たっ、たすけてっ!」
女の子は僕の方を見て必死に助けを求めてくる。彼女は僕に向かって手をのばす。……その手が救いを求めている事は確かだった。
どうするべきか。僕には考える時間などなかった。……気がついたときには、既に僕の足が動いていた。
「なっ、歯向かうというのか!」
「困っている子がいるんでね」
男は驚愕した。まさか、この場に立ち向かう人がいるとは思わなかったのだろう。
無理もない。僕だって驚いているんだから。自分の事なのに他人事のようにそう考える。
僕は目の前の屈強な男に向かって走る。女の子を掴んでいた男も、僕に向かって攻撃しようとしてきた。
……大の大人の男に立ち向かう。それはこの小さな体にとってあまりにも無謀な行為だ。
だが、僕だって完全に無策で突っ込んでる訳ではない。
……願いの、拡大解釈。
自分の願いを、強引に今の状況と結びつけることで能力を使う事が出来るのだ。
ただし、その場合100%の力を出すことは出来ず、こじつけが強くなるほど能力は劣化してしまう。
推しを見守りたい→推しが安全に暮らせるようにこの地域の危険人物を排除したい。
上記の願いを元に、力を解放する。……元の願いから、大分離れてしまったな。これじゃ、元の10%の力を使えればいい方だろう。
だか、一般人相手ならそれで十分だ。
「……うなっ、ぎゃあああああっ!」
「よっとぉ」
僕は一瞬で男の背後まで移動し、男の股間を思いっきり蹴り上げた。男はその場に蹲り、痛みで悶えている。
「ありがとう!」
「もう大丈夫だよ。怖かったね」
僕は少女に微笑みかけ、少女の頭に手をのせる。そして、自分の胸に抱き寄せる。少女は安心したのか、僕の胸で大泣きした。
僕は、少女をなだめながら、屈強な男の方を見る。股間の痛みから回復したのか、再びこちらを睨みつけてくる。
そして、僕と女の子の前に立ち塞がった。……何故か、にやけ面を浮かべながら。
これは、戦うしか無いか。
僕の中で覚悟を決める。表情から察するに、彼には何か策があるのだろう。油断は禁物だ。
……そう考えた瞬間。僕の体に異常が起こった。
体が、動かないのだ。
全身から力が抜け、その場で崩れ落ちる。
……えっ!? 何で? さっきまで全然大丈夫だったのに。もしかして、力を無理に使ったから?
でも、男の股間を蹴り上げた時は何ともなかったのに!
考えても答えが出るはずもなく、僕はその場に倒される。
どうしよう、このままじゃ……。
僕の不安と裏腹に、男は余裕の表情だ。僕は男に取り押さえられた。
そして、そのまま地面にうつ伏せの状態で押さえつけられる。力が出ないので抵抗すら出来ない。
「馬鹿め、そんな中途半端な能力でこの俺様に立ち向かうとは! お前のような貧弱なガキは俺様の敵ではない! よくも俺に恥をかかせてくれたな!」
男が叫ぶ。
……この感覚は、能力!
この男も、能力者なのか!? しかも、100%の力を引き出している。
「はははははっ。俺様の願いは、女の子を独占することだ! お前も俺の女にしてやる!」
男は叫ぶ。
……うん、これは完全なロリコン。しかもかなり深めのやつ。
この状況はかなりまずい。能力を使おうとしても、力が入らないし、体が言うことを聞かない。
おそらく、この男の能力は自分の興味対象の動きを支配する能力だ。男の願いが、女の子を独占することなら、この能力は妥当だろう。この状況において、最強の能力だ。完全に詰んでいる。
「お、おねえちゃん!!!!!!」
女の子は叫ぶ。
「無駄だ!お前たちは俺の物になるんだっ!」
……それらの声を聞き、僕の中で何かが目覚めた。力が、湧いてくる。
そして、それに呼応するかのように 能力が強化されていく。身体能力強化に加え、体の変化が始まっていく。手足に肉球が出来、耳と尻尾のアクセサリーが体と結合する。そして、全身に獣毛が広がっていく。
男はこの光景を見て、絶句する。おそらく、男の予想を大きく上回る僕の変化だったのだろう。……僕だって驚いているのだから無理もない。
だが、僕は自分の能力を最大限に活用し、男に突進した。そして、そのまま男を吹き飛ばした。
男も突然のことに動揺していたが、すぐに冷静さを取り戻し反撃しようとした。しかし、その行動は余りにも遅すぎた。僕によって吹っ飛ばされた男は壁にぶつかり気絶してしまう。
「欲望全開の、男の能力。……それを上回る私を助けたいという願い。この人となら……」
女の子が何かをつぶやいているのが聞こえた。
路地裏に静寂が訪れる。女の子は気絶した男を見つめ、安堵しているようだった。僕も力が抜けてしまい、変身を解除してその場にへたり込む。……よかったぁ〜。
「助けてくれて、ありがとう!」
女の子が僕に近寄ってくる。そして、笑顔でお礼を言ってきた。
彼女の笑顔はとても眩しかった。僕は、彼女に微笑み返した。
何とか悪者を倒せて、女の子を助ける事が出来た。……でも、どうして倒すことが出来たんだろう?
なんで、この女の子が助けを呼んでいるのに気づいた瞬間、強く助けようと思ったんだろう?
どうして、僕はあんなにも強い力を発揮することが出来たのだろう?
……考えても答えは出てこない。でも、今は満足だった。助けることができたのだから。
「ねぇ!」
女の子は笑顔で声をかけてくる。
可愛らしい笑顔だ。その笑顔を見て、僕も自然と笑みがこぼた。
改めて女の子を見てみる。
神秘的な赤い瞳に、儚げな緑髪。肌は透き通るように白く、それでいてハリがある。だけど髪は乱れており、服も少し汚れている。しかし、それが逆に少女の儚げな雰囲気を際立たせている。
……ん? この表情、どこかで? なんか、この子とはどこかで会ったような……。いや、そんなはずないか。今日が初対面のはずだし。
……って、今はそれどころじゃない。女の子を家に帰さないと。
「あ、あ、お嬢さん。あなたのお家は……」
「お嬢さんじゃ、ない」
えっ? 彼女は少し拗ねたような顔で僕を見ていた。可愛らしい顔が少し歪む。
僕は慌てて、彼女を宥める。……もしかして、お嬢さん呼びが嫌だったのかな? でも、ほかになんて呼べば……。
そう考えていると、彼女はさっきよりもムッとしていた。そして、僕のことを睨みつけてきた。
やっぱり怒ってるよ! どうしよう!! 僕が慌てふためいているうちに、女の子は僕に近づいてきた。
……そうだ、彼女には立派な名前があるはず。ちゃんと名前で呼んで欲しいのかもしれない。
「僕の名前は、真壁望。……君の名前を、教えてくれるかな?」
僕の言葉を受け、彼女は少し考えた後、口を開いた。
「けんざき、けん」
真剣な表情で、そう口にする。
……彼女の言葉を聞いた瞬間、脳内に電流が流れた気がした。彼女は、もしかして……
3話 今回の話は良かったですか?
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