嫌な汗が全身を駆け巡るも、それに気持ち悪さを感じることはありませんでした。
いえ、感じる暇も無かったというべきでしょうか。
「ああ……ああ……!先生、先生っ!」
ミカと呼ばれた少女は、ゆっくりと近づいてきます。
脳内に浮かぶのは、今すぐこの場を一人で離れるという選択肢と。
「……ま、さか。いや、でも……」
先生も連れて、離れるという選択肢。
そもそも、わたくしはこの場にいる必要はありません。逃げたいと思っているのも、本能によるもの。
先生を連れる必要はありません。勝手についてきてるだけの方でもあります。というより、わたくしがいない方が事を上手く運べるかもしれません。
どう考えても、この場に先生を置いてさっさと退散するのが吉。
「……ああもう!」
「ひゃっ!?」
ですがわたくしは先生を抱え、すぐさま振り向いて駆け出しました。
なぜか。それはわたくしにも分かりません。
「ねっ、ねえ!」
「なんですか!今話せる余力は無いんですが!」
「なんでお米持つときの持ち方なの!?」
「咄嗟に出来たのがそれなんです!」
「じゃあお姫様抱っこにしてほし」
周りから一斉に視線が集まりますが、そんなことを気にしている暇はありません。
どうにかして
「あ……い、っちゃった…………二人にも、伝えなきゃ……」
予想に反して、ミカと呼ばれた方は追ってきませんでした。
かなり遠くのゲヘナの隠れ家にまで逃げましたが、まあ万が一もあるのでよしとしましょう。
「で……聞きたいのですが」
「……」
「彼女や、あなたの様子から察するに……お知り合いのようですが?」
彼女と先生の関係性を知っておきたかったわたくしは、先生に聞いてみました。
困惑や恐れを浮かべた顔をして、何かを考えている先生。
数秒して出された答えは
「……う、ううん。何も知らないよ?」
でした。
崩壊しかかっている笑顔を浮かべながら言われても信じられません。
というか、今までの光景を見て、嘘だと丸わかりです。
「……そうですか」
……が、わたくしはあえて追及いたしませんでした。
『ワカモが傷つく可能性が一つでもあるなら、やりたくない』
もしわたくしが傷つくような可能性があるのなら、減らしておくべきだと、そう判断して。
そうして、今にも壊れそうな先生を見ながら、そう考えるのでした。
「じゃあイチャイチャしよっか!」
「何を言ってるんですか???」
さっきまで苦しそうだったのに、突然笑顔になってそんなことを言い始めた先生にわたくしは困惑が止まりません。
「だって、私って大人だから目立つでしょ?その私を抱えて走ったワカモも目立ったでしょ?だから当分は外には出られないでしょ?」
ほら、早速ネットニュースにもなってるし。とスマホを見せながら先生はそう言いました。
出られなくなった原因は先生もあるのですが……
「……まあ、ほとぼりが冷めるまでは出るつもりはなかったですが」
「じゃあ、家で出来ることって言えばイチャイチャしかないじゃん!」
「いやそんなことは無いと思いますが。銃の整備だとか……」
「えー!?いいから、遊んでよ~!」
「だからわたくしはやることが……はぁ、まあ、いいでしょう」
やったー!と喜ぶ先生を見ながら、ため息を吐きました。
わたくしにせがむ時、眼には罪悪感を浮かべていた先生を見てしまったら、断ることなど、出来ませんでした。
……なぜこうも、わたくしは、先生に甘いのでしょうか。
とある場所に、三人の少女が机を囲うように座っていた。
美味しそうな菓子や紅茶に一切手を付けず、話し合いを必死に行っていた。
「本当ですか!?」
「うん……間違いない」
「シャーレが発足したというのは聞いていたが……先生も変わっていないとは」
「でも……」
「何か、気になることでも?」
「……雰囲気も、声も、見た目も、先生だった。私達の、大好きな」
「ああ、分かっている。落ち着いて話してくれ」
「でも、でもね……」
壊れかけてたの。あの頃の、私みたいに。
「苦しいことから逃げようとして、自暴自棄に近くて……」
「……ええ、そうなるのも仕方がないでしょう。私の
「ああ。しかも、私達と違って、先生は……ずっと、
「……ねえ、ナギちゃん、セイアちゃん。どうしたら、いいのかな……」
「……まず、先生と接触し、我々の所へ来てもらおう」
「ミカさんの言う通りのままでは、誰も幸せになりません。私達と気持ちを分かち合い……」
一生、共にいてもらいましょう。
「……うん!そうだね!じゃあ、あの子には、いなくなってもらわなきゃ……ね」
「くしゅんっ!」
「どうしたの、風邪?」
「かもしれません。ですからはなれてくださいね」
「いやでーす」
「……」