クラス転移に巻き込まれた用務員だけど、生徒たちがみんないい子 作:匿名
これまでの人生は反省するべきところだらけだった。
今は親戚のコネに頼るようなかたちで、佐伯私立高校の用務員として働かせてもらって、親切な先生たちに助けてもらいつつ地道に恩返ししていけたらいいなと思っている。
厳格な生活指導の先生や、ゆったりした保健の先生まで困っていることがあれば何でもするをモットーに頑張ることができた。頑張ることのできる学校で働くことができたのは幸せなことだったと思う。用務員として働く前は、ボロボロのニートだったから。
大学を卒業して入社した会社がすぐに倒産して。次の会社はブラックで。その次の会社は詐欺で。頑張れば頑張るほどに無駄なことをしてるんだという意識が強くなっていって。そのうち就職活動もやめて、引きこもりのニートになっていた。
そこをなんとか助けてもらったのが佐伯私立高校を薦めてくれた親戚に、先生たち。登校時の声掛けにあまり積極的でない僕にも、しっかり元気に挨拶してくれる生徒たちだ。
佐伯市立高校の生徒たちは、のどかな校風の影響からか全員が良い子たちばかりで、ネガティブになりがちな僕のことをフォローしてくれたり、休み時間に話しかけてくれたりと、親切にしてくれた。
みんなのおかげで、ボロボロの生活から立ち直れて。これまでの人生は反省するべきところだらけだけど、これからは色んな人の助けになることができればと思っていた、のに。
「ようこそおいで下さいました『異世界勇者様』」
周囲を眺めると社会科の教科書で見たことがあるような教会のような室内。混乱することもできないまま、目の前には白いドレスに特徴的な金細工の皇冠をつけた美女。後ろを振り返れば、3ーA組の生徒たちが。美女と生徒の間に、不自然な間をおいて僕が棒立ちしていた。
「…………ええと。ちょっと不自然な状況になってしまいましたが、自己紹介をさせていただきます。わたくしはミュール・ドライアドール・アレイシア。このアレイシアの教皇を務めております」
彼女、ミュールさんは一度言葉を止めると僕にすっと視線を合わせる。僕はちゃんとした美女に見つめられたことなんてなかったから、視線をそらしてしまって。その時に、ミュールさんの後ろに控えていた時代錯誤な大鎧を着た人たちにも見られていたのに気づいた。わざわざ隔離されている聖堂に、防具を着た騎士らしい人達から様子を見られている。
「本来ならば、若き異世界勇者様の力をお借りしたく、不躾ながら大魔術である召喚の儀を執り行わせていたのです……おひとり、巻き込まれた方がいるようですが」
あなたがいるはずがないのですが、というのを顔に張り付けたミュールさんは、後ろに声をかけたと思うと騎士の人が何人か僕のそばに近づいてきて、僕の腕を強くつかんだ。
「そこの方は、今回の召喚の手違いです。『異世界勇者様』のようにハッキリとわかる魔力も感じませんので。席を外していただくことにしましょう」
「おい、出て行ってもらうぞ」と乱暴に引きずられそうになって、初めて自分が生徒たちを置いて追い出されそうになっていると気付いた……鎧を着ることができるようなマッチョな人たちに囲まれて外に放り出されてしまえば、どこともしれない場所に追い出されるのかもしれない。
助けを求めようと、後ろを振り返ると、3-A組の生徒たちが、僕たちをじっと見ていた。
「「「「「これ、巻き込まれクラス転移追放ものだ!!!!!!?????」」」」」
みんなが、いまいちよくわからないことを叫んでいた。たぶん混乱していたんだと思う。
それも当然だと思う。高校生が召喚がどうとかよくわからないことを言われたのだ。僕も追い出されようとしていることくらいしかわからない。でも、生徒たちは一度叫んですぐに、僕を守ろうと鎧の人たちと僕の間に割り込んでくれた。
「(やっぱ異世界召喚ものだよねこれ。用務員さんと俺達が召喚されたってこと?)」
「(たぶん。それで、召喚されて速攻で追い出されそうになってる用務員さんは、一人だけ魔力が無いとか言ってたな)」
「(そういうパターンだよね。ラノベとかでよく見る様式美ってやつ?)」
「(異世界召喚に巻き込まれた用務員さんが一人だけ魔力が無くて追放されるって……これ絶対に主人公だよ。このまま追放されたら私たちヤバい)」
「(だよなぁ。突然召喚してきた女の人も、唐突すぎて信用ならないし……こっち側が悪人の可能性もそこそこあるぞ)」
「(このままだと、異世界召喚に巻き込まれた用務員さんが追放されたけど、隠された凄い能力で悪人に唆された学生を倒していく感じの流れになるよ絶対。この手の小説めちゃくちゃ読んできたからわかる)」
「(というか、召喚とかなんとか言って突然出てきたコスプレした大人に用務員さんが襲われてるんだから、とりあえず警戒した方がいいよ)」
生徒たちは、小声で何か話していたかと思うと、全員がミュールさんの方を向いた。
奥にミュールさん、手前に鎧の人たち。僕をかばってくれるように前にたつ生徒たち。
……僕は大人なのに、恥ずかしながら子供たちに守られてしまっていた。
出席番号1番
相沢裕也 野球部
「用務員さんはグラウンドの使用について運動部で揉めたときにお世話になったなぁ。あの人がいなかったら、ちゃんと振り分けできてなかったろうし。顧問の先生たちとは違う立場で話してくれて、整備でも助けてもらったし。助けてもらいっぱなしだった気がするよ」