クラス転移に巻き込まれた用務員だけど、生徒たちがみんないい子 作:匿名
子どもたちの代表として、魔王討伐を引き受けることは簡単だった。
いい子たちばかりだから、断ると多くの人が困ったり苦しんだりすると考えてしまうと思う。自分たちが頑張って解決できるのなら頑張ろうとなる。それは決して悪いことじゃない。人を助けたいという優しさが悪いとは思わない。けれど、このままじゃ駄目だ。
頑張りたいと思う子もいれば、頑張りたくないと思う子もいるだろう。ミュールさんを信じたい子も、信じられない子もいるだろう。少なくとも僕たちは意見を統一して動くチームじゃなくて、学校という社会勉強のためのクラスだから全員で一つの意見にまとまろうとなるのが間違っている。
ミュールさんに協力したい子たちは大丈夫だと思う。本当に信用できるかどうかはこれからの話になるとは思うけど、万が一の時は夜逃げだってできる子たちだ。少なくとも異世界勇者様と呼ぶくらいには敬意を示そうとしてくれていたし、もしそれが大いなる勇者の力への畏怖だったとしても、その力を使うことで反発できるはずだ。
でも、ミュールさんに協力したくない子たちはどうだろう。協力したくないにもグラデーションがある。このまま流されるのは嫌かも、とか。まだ必要な情報が集まってないから保留にしたい、とか。誰も信用できないからなんとかして離れたい、とか。色んな意見があって、まとまって動くことができないかもしれない。そういう子たちも、周りから頑張ろうと言われて協力することを決めるかもしれない。アレイシアという国家からの訴えを断るというのは、子どもが背負うにはあまりにも重いから圧力に耐えられないかもしれない。
もしミュールさんたちが断った時に何かをしてくるようなら、その対象はたぶん何も能力のない僕だ。だからこそ、僕は反対の立場になって反対派の子どもたちから眼を逸らすように動く。
これは僕の大人としての立場、僕だけの立場の表明だ。それぞれの生徒たちが協力するかしないかは、まだわからない。
どういった話になっても、僕が酷い目にあっても、これなら生徒たちの安全性はぐっと上がるはず。何かの能力や優れた知恵を持っているわけではない僕にできることは、これくらいしかない。
「―――って用務員さんは考えてるっぽい」
「「「「用務員さんを確保ーっ!!!」」」」
「自分がヘイト稼げば良いって考えそのものが若干頭悪いんだって!」
「みんなでなんとかしようって話をしてたよな俺たち」
「用務員さんはバカだよ! 私たちみんなで動いてきたのに勝手に一人で抱え込んで!」
「悩みが煮詰まってきたから、よくない方向に考えちゃったかな?」
「男子組は用務員さんが変な動きをしないか監視しておいて。女子組は一人一人の意見をまとめていって」
「協力する組はこっちで理由とか書いていってー」
「保留か協力しない組はこっちねー」
「無記名アンケートの内容の発表は20分後だから早めにお願い!」
「ちゃんとディスカッションできる場が大事よね」
「というか、心を読む系の勇者の力持ってるやつがいたのか。最初から出てれば大体解決したのでは」
「テレパシー能力者って名乗り出にくいんじゃないかしら。ラノベとかでも信用されないポジションになりがちだし」
えっさほいさと。
地区大会優勝の運動部に担がれて、最前列から生徒たちの集まる真ん中まで僕は担がれていった。ミュールさんが唖然としたまま、その場で生徒たちの議論が進んでいって。
「現状はミュールさんに協力する方向で話し合う! ちゃんと約束を守ってくれるかとか嘘をついてないかどうかを勇者チートで確認して! 騙されてたらその時に逃げよう! 困ったら生徒間で応相談! 個々に動かず用務員さんを含めたみんなで考えよう!」
ということになった。あの、行動力のあるこの子たちは本当に凄いんだけど……僕が最前列に出た意味、やっぱり無かったよね?
出席番号10番
海藤光 バレー部
「佳子が困ってるときに助けてもらってたからいい人。あんまり話したことないから、それぐらいだけど。友達の友達は友達だから。用務員さんと佳子は友達じゃない? わたしはそんな細かいことは気にしないよ?」