クラス転移に巻き込まれた用務員だけど、生徒たちがみんないい子 作:匿名
「結局、ミュールさんのことはどう思う? あたしは光莉がなるべく精霊魔法使って感情読み取ってほしいかも」
「あんまりやり過ぎてもこっちの方が参っちまうから注意な。心を覗く系って絶対に辛いだろうし」
「できそうなことはやって、どうにもならなさそうなら逃げればいいって話だったでしょ」
「それより用務員さんがネガティブ気味なのをなんとかしたい」
「やっぱりストレスかなぁ。異世界召喚で一人だけ能力がない大人って辛いでしょ。仲間外れ半端ないって」
「責任感が強い用務員さんが先生でもないのに生徒の引率するのは大変だとは思います」
「やっぱ世界の修正が入ってるんだって。これで用務員さんがミュールさんに追い出されたら復讐ものになるんだって」
「そろそろちゃんと現実見なよー。ラノベのノリだとこんなに団体行動しないでしょ」
「俺たちがまとまって細かく話しながら行動できてるのデカいよな。一人だけだとヤバかった」
「はい二人組作ってー」
「それはやめとけ」
もともと話術の上手い宇都宮さんや橘くんといった子たちが積極的にミュールさんと交渉を詰めていく。僕はまあ、その場に立ち会って時折意見を求められるくらいで、心を覗く魔法や精霊魔法を使う子たちと一緒に控えている。戦力外通告というか、大事にされているというか。
「自己犠牲は駄目ですよ。自分を一番大事にしましょ。わたしなんて読心魔法が使えるのに黙ってたし」
「突然魔法を使えるようになったんだから不安になって当然じゃないかな」
ずっと黙ったままでいれば安全だったと思う。3ーA組の生徒はどんな魔法かなんて気にしないと思うし、ミュールさん側も判断するのは難しいだろう。相手がどう思っているかを知るのは武器であり弱点でもある。その切り札を、この子は僕のために切ってくれたのだ……心を覗かれたのは恥ずかしかったけど。
「大丈夫です。えっちなこととかは覗いてないですよ。内心の自由ってのがありますからね」
「ちょうど今、内心の自由が無くなった気がするんだけど」
「見えるものは見えるんですからどうにもなりません」
ちなみに精霊魔法でも、ほとんど同じようなことができるようですよ……とのこと。生徒たちに与えられた大いなる勇者の力はバリエーション豊かでずいぶん応用も利くようだ。話し合いの内容をまとめつつ、ちょっとした雑談も交えた。話し合いの内容そのものは、協力しつつも騙されないようにチェックはする、というものに落ち着く。その後の雑談は雑談らしく脈絡が無いものだった。
「このまま帰ったら、ミュールさんたちを見殺しにしたんじゃないかって落ち込む奴もいるだろうしな。俺たちは凄いパワーをもらったわけだけど、別に凄い責任があるわけじゃない。それでも、チート貰ってそのまま放置して逃げるのは寝覚めが悪すぎだ」
「それぞれに意見はあるとは思うけど、とりあえずの方針は様子見しながら協力しましょ。もし本当に駄目そうなら用務員さんを担いで全員で逃げれば良いし」
「個人の意思はあれど、土地勘のないところで個別に動くのが危険すぎなんだよなー」
「あ、報酬は一度保留で。美人さんがなんでもするなんて言うと動揺する男子がいるから」
「どどどどどどうようとかしてないし!?」
「男として生まれた以上、一度は聞いてみたかったんだ。聞くだけで何もやらないけど。何もできないけど」
「なんでもできる状況でも、なにもできないからこその俺らよ」
「クラスを代表するのやめてくれる? 本当に恥ずかしいから」
「あの、魔法で確認していただいても」「たしかになんでもというのは具体的ではないですね」「え、ええと?」と合間にミュールさんの声が響きながらも、あちらこちらから話が出てきていて対応に困っていた。アレイシア側の人はあまり複数人との雑談に慣れていないようで、騎士たちも戸惑いを隠すことができていない。というか、ちゃんとしたキャッチボールとしての会話が基本なのだろう。生徒たちみたいにガヤガヤと話すことは珍しいのかもしれない。
談話室を中心にいくつかの部屋を借りること、話の窓口はミュールさんにお願いしたいこと、まずは過去の資料を漁りたいこと。それに、お風呂のためにお湯をたくさん用意すること。ご飯は美味しくすること。服もちゃんと仕立ててもらうこと。おやつもたくさん出すこと。
生活基盤を整えるために必要なことや、隕石対策に取り組むのに必要なものが、手を挙げた生徒たちから出てくる。ひとつひとつをミュールさんが答えていって、ゆっくり話が進んでいく。みんながしっかりしてるから、ちょっと僕自身が恥ずかしくなる……けれど。
「じっー……。見てますよ」
「用務員さんがそれ以上落ち込むと、みんなで胴上げしますよ。お祭りですよ」
みんながいい子たちすぎて、素直に頑張ろうと思う。
いや、本当に。心を覗かれてるからとかじゃなくて。嘘じゃないです。はい。きっと。たぶん。
出席番号11番
柿本一番 料理部
「面白いことをするときにノリが良いんだよな。センセーだと怒鳴られるだけのことでも話しやすいって感じ。もちろん危なそうなことは止められるけど、アホなことをするときにネタ出してくれたりもするから助かる!」