クラス転移に巻き込まれた用務員だけど、生徒たちがみんないい子 作:匿名
軽い昼食が終わってから、談話室の入口には『宇宙落下物対策本部(魔王対策本部)』と書かれた看板が貼り付けられることになった。
各個室では更衣室や小会議室、実験室や資料部屋といった区分けがされていき、城内の人員が荷物や古書を運び入れていく。力仕事が多かったけれど、たくさんの騎士が手伝ってくれたため早く済ませることができた。それぞれの部屋はドアが開けっ放しになっていて、何かあれば外にもわかるような仕組みにしてあり生徒たちが室内に閉じこもるようなことがないよう配慮がされていた……更衣室のドアはカーテンで仕切られていたけれど。
「女子の着替えのときにイタズラするやつはいないんだけど、男子の着替えのときに忘れ物した女子が入ってきてさー」
「あの子がうっかりしてたのは悪いけど、そこまで反応する? 半裸とかでも別に気にしないでしょ」
「いきなり入ってきたら混乱するに決まってるだろ。そういうのデリカシーが無いって思われるぞ」
「騎士の人でも、ちゃんとノックして入ってるんだからな」
――交流も始まっている。
騎士の中にも何人か話しやすい人がいるようで女子生徒に仕事について聞かれていたり。男子生徒たちに頼まれて剣の振り方講座のようなものが即席で起きていたり。資料部屋では魔王についての推論が始まっていたり。僕はそれぞれの部屋を出入りして、何か起きていないかどうか見回りすることになっている。知識を有効活用できる子、純粋なパワー系の子、特殊な能力を持つ子。それぞれがその力で頑張っているのをちゃんと見ていてほしいと頼まれたからだ。
「用務員さんにお願いしたいのは、チートとかじゃなくて私たちのことを見ていてくれることだから」
「調整能力ってやつ? お役所みたいな部屋割りにしたのも、怒鳴るやつが出たときに駆けつけてもらうためだし」
「どうしても能力差でやること変わってくるから、風通しは良くないとね。分断禁止!」
「状況を知ってていざこざをフォローしてくれる大人がいれば、みんなで集まるだけの時間も作れるし」
「みんなで考えないと困る、ってのは用務員さん自身が証明してくれたしね」
僕に配慮してくれているというのもあるのだと思う。気遣いが本当に上手い子たちなので、ミュールさんとの話し合いで口に出してはいない子でも僕のことを心配そうに見ていたりするし、直接的に励ましてくれる子もいる。不甲斐ないところを見せてばかりもダメだからと、僕は積極的に色んな子に話しかけて足りないものや、わかったことを整理していく。
まず大事なことは、魔王は以前の資料を見る限り隕石なのは間違いないようだ。石に濃密な魔力が宿っていて国家に向かって降り注ぐ災害。神託によって魔王が落ちてくることがわかって、過去の宰相は異世界勇者を召喚。その時は勇者の魔法で魔王を砕いたけれど、余波で結構な被害が出たそうだ。そのことから、単に攻撃するだけではダメだという結論が記されていた。また、他の国では勇者を戦争のために召喚したけれど、対応に失敗して国民を虐殺した事例が確認されているとかも付記されていた。内容的になんとなく現代日本人とかじゃなさそうだし、異世界召喚は人を選んで呼んでいるわけではなさそうだ。
勇者とは召喚された異世界人であり、力を持ちしもの。魔王とは宙より降り注ぐ死の群。召喚の儀とは無差別に勇者を呼び寄せる術。帰還の儀とは召喚時に発生した流れをそのまま巻き戻す術。こういった定義を複数の資料から穴埋めしながら少しずつ進めていく。特に良かったのは帰還の儀が、無事に帰れるかどうか実験した痕跡が資料にあることだ。全部終わったあとでミュールさんたちがそういうことをするのかどうかはわからないけれど、完全に信じることができるほど親しくはなれていなかった。
ミュールさんとは協力を断ってから話すことができていなかった。生徒たちが心配してくれたのもあるし、僕自身が躊躇してしまっていた。あれほどハッキリと敵対に近い反応を示したのだ。ミュールさんが生徒たちと仲良くなることはあっても、僕との和解は難しいだろう。一国のトップの願いを足蹴にしたからには、当然の結果だ。
「あ、ヨウムイン様。お疲れ様です」
「あ、はい。ミュール様もお疲れさまです」
こうして話しかけることもなく、なく……?
「どうかされましたか? 何か納得されていないかのような表情ですが」
「いや、ミュールさんは何をしているのかなと」
「教皇として神託を受けた際のやり取りについてまとめておりました。他にも口伝の中に重要な情報が混ざっていないか確認のために知恵の勇者の力を持つ生徒のみなさまとやり取りを行ったり、騎士のなかに不満を抱えているものがいないか確認したりですね」
ヨウムイン様と同じように各部屋を見回りながら細かい問題を確認してまわっています、とのこと。ついでに一緒に見て回らないかと文化祭の見回りみたいな誘いを受けたけれど、ちょっと今は難しいので後日にしましょうと断った。あのやり取りを気にしていたのは自分だけだったのかもしれない……気にしないようにしましょうという振る舞いだったのかもしれないけれど。
「というか、たぶんその話をしようとしていてくれて。それを僕が後回しにしようと断ったことになるのか」
朝に対立して、その日の夕暮れにはちょっとしたやり取りができる。そんな政治家や外交官みたいな振る舞いは一介の用務員には厳しいなぁと思わざるを得なかった。
出席番号12番
加藤奏 演劇部
「ひとつひとつの道具を大事にしてくれる方ですわね。扇子一つの持ち運びにも物を大事にしてくれるか、他者を尊重してくれるかというのがわかります。私の実家の手伝いを頼んでも良いと思わせられる方ですわ」