クラス転移に巻き込まれた用務員だけど、生徒たちがみんないい子 作:匿名
生徒たちを前にして、鎧の騎士たちは戸惑っていた。
僕だけを聖堂の外に追い出そうとしたのに、生徒がみんな立ちふさがってきたことに驚いたのだと思う。少しだけ気温が下がったような雰囲気のなか、クラスでも人気のあるイケメンの橘くんが前に出て口を開いた。
「その、この人は俺たちの学校の用務員さんなんすよ。なんというか、悪い人じゃねーので。勝手にどうこうされるのが嫌というか。連れていかれて、帰ってこなかったなんてされそうになったら、腹立つんですよ。だから、やめてくんないすか」
後ろにいた生徒たちも、頷いていて。僕は泣いてしまいそうになった。なんて良い子たちなのだろう。
最近の学生は、先生でも平気で馬鹿にするなんて新聞のコラムに書いてあるのを読んだことがある。それと比べてどうだ。佐伯私立高校の学生は先生どころか、僕のような仕事に慣れない下っ端用務員にも気を配ってくれる子たちなのだ。隣の早苗ちゃんはうちの娘と比べて本当に優しい子で~と言ってる親御さんたち。このクラスは全員が本当に優しいですよ、安心してください。
感動しすぎて考えてることが脱線しつつあったけれど、その間にミュールさんは顎に手を当てて眉をひそめた。どこにいっても考える時はそういうポーズをするのだな、なんて思っているうちに、彼女は僕たちにひとつ提案をしてきた。
「『異世界勇者様』のヨウムイン……どういった立場なのかわかりませんが、皆様にとって重要な方であるならば。まずは同席していただいて問題ないのかもしれませんね。ただし、国家の機密に関わることになるため、ある程度は身柄を押さえさせていただきますが」
まずは穏便に話を進めたかったのですが、と最後に小声でつぶやくと僕の方に向き直った。僕は「子供たちにとって重要かと言われると、下働きみたいなものでして」と注釈を入れておく。ミュールさんは「そうですか」と僕の意見には取り合わなかった。
「重要なのは、あなたがどう思っているかではなく『異世界勇者様』があなたをどう思っているのか、です。子供の頃から親しくしている世話役と考えるならば、あなたを軽視したことに腹を立てるのもわかります。ごめんなさい」
そう言うと、ミュールさんは僕の前で服の袖を擦り合わせたかと思うと、そっと手を合わせていた。周囲の鎧のひとも、互いを見合わせたかと思うと一斉に頭を下げてくれていた。
たぶん、謝罪の意思なんだと思う。場所が違えば、そういう慣習も変わってくるのだろう。
「いえ、僕もこんなに生徒たちに大事に思われてるとは思わず感動してしまっていて。少し動揺して変なことを言ってしまいました」
ミュールさんのように手を合わせて、頭を下げる。頭を上げると、ミュールさんがかすかに笑みを浮かべていた。
たぶん、この人も悪い人とかじゃなくて、優しい良い人なんだろうなと思う。なにしろ、こんなに素敵に笑っているのだから。
「(いきなり子供たちだけにさせようとするリーダーだし、追放しようとするし、ミュールさんって悪い人なの?)」
「(教皇って言ってたし、価値観がちょっと違うだけなのかも? でも用務員さんと離されるのは不味いと思うよ)」
「(割とヒロイン枠かも? とりあえず美人な権力者だし、様子見)」
「(大丈夫かその発言。不敬罪で死刑とかにならない?)」
「(悪い人か良い人かでいうと、まだちょっとわかんないって感じかな)」
「(そこんとこは保留で。とりあえず今は全員一緒で行動しようぜ。一人で動くのは危ない)」
「(橘っていきなり国家元首に口出ししたってこと? やっぱりすげーなあいつ)」
「(あいつ赤点補習組だし、用務員さんにはめちゃめちゃ世話になってるんだろ。恩返しみたいな感じなのかもな)」
「(本当に面倒見いいよな用務員さん。なんでもやってるわ)」
僕との会話を終えたミュールさんが「みなさま……何か……?」と声をかけると、生徒たちは全員が一斉に振り返って「「「「なにも!!!大丈夫です!!!」」」」と声を揃えて叫ぶものだから、鎧の騎士たちも少し及び腰になっていた。いったい何を話していたのだろう?
出席番号2番
青山美咲 料理部
「馬鹿な部活メンバーがグラウンドで焼き芋しようとしたときに、用務員さんには本当にお世話になったわ……馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、あそこまで馬鹿をやらかすとは思ってなくて迷惑かけてしまったけど、顧問の先生の機転もあって結果的にはお芋パーティみたいな形で終わったし助かったわね」