クラス転移に巻き込まれた用務員だけど、生徒たちがみんないい子   作:匿名

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テーブルにあったパンをモグモグしとくね

 

 

 

 そろそろ夜が訪れるので帰宅方法などの詳しい話は明日から、ということになり僕と生徒たちは鎧の騎士たちに案内されて召喚された部屋から出ることになった。窓らしい窓がなかったのでわからなかったけれど、僕たちは地下にいたらしく階段を上ってホテルのロビーのような座って過ごせる大きな談話室まで案内されたのだが「なぜ貴様のような魔力の無い男が」「ヨウムインってなんだよ。種族名か?」「教皇様は何を考えているのか」という話が移動中にされていて、いたたまれない気持ちになる。学校でも何の力もない用務員ができることと言えば、生徒たちに大人として接することくらいで実務能力とかは厳しかったけれど、異世界でもそんな気持ちになるなんて。

 

 

「(気にすることないですよ。よくあるやつです)」

「(本当によくあるやつなので困る。あまりにもテンプレ展開すぎる)」

「(間違ってもみんなとはぐれたりとかしないでね。突然牢屋とかに入れられそうだし)」

「(案内してる鎧連中の方は信用なんねえからな。何の話を聞いてたんだこいつら)」

「(その、若干頭が悪くないとこういうテンプレ復讐ものって成立しないところがあるからさ……)」

「(言葉で解決できる問題は言葉で解決した方が得なのに喧嘩売りたがるよねー)」

「(その辺も知恵ってやつなんじゃないかな。先の事を想像するのも能力と言えば能力)」

「(テーブルにあったパンをモグモグしとくね)」

「(とりあえず用務員さんを一人にしないように。用務員さんは一人にならないように)」

「(わたしたちも、身の安全のためにみんな固まって行動しようね)」

 

 

 落ち込みそうになった僕に生徒たちは小声でそっと近づいて励ましてくれていた。何か途中で違う話をしていたけれど、個人行動は避けようという話になったようで女子生徒たちの何人かは手をつないでいた。談話室で一度落ち着いたからか、泣きだす子や不安がる子も出てきて僕と何人かの生徒で励まして回る。召喚されたときには現実味もないまま流されて、ようやく感情が落ち着いてきた子たちだ。とはいえ、数人しか取り乱してる子はおらず、3ーA組の生徒たちが凄くしっかりしてるのがわかる。

 

 何人かの生徒は鎧の騎士から少し離れて小声で現状について話してるみたいで、これから先を考えているようだった。この子たちはたぶん学校でも将来の話とか、進路の話とかをきちんと考えていたから慣れてるんだと思う。異世界に召喚されて勇者として魔王を倒すよう言われた、なんてことを想定してた子なんているわけないから話は難航しそうではあるけれど、みんなでしっかりと話し合って動くことができる時点でそんなに心配するようなことでもないのかもしれない。

 

 

「たぶん用務員さんが主人公だし、このまま流されて用務員さんと離れて魔王討伐とかしてたら酷いことになるよ。絶対にこの国……アレイシアだっけ? アレイシア国民に酷いことされて追放されたりして良くない流れになるって」

「そもそも用務員さんがどんな悪いことをしたってんだ。このまま世話になった人を見捨ててカッコつけて勇者だのなんだのになるのはダサいだろ。俺は勇者なんてよくわかんねぇ職業じゃなくて、ちゃんと食えてちゃんと尊敬できる仕事をやるって決めてんだよ」

「橘はそう言うと思ってた。それに、ここの人たちも信用できないよね。大人を排除して言いくるめようとしてるんじゃないかってところ感じたし。日本への帰り方も明日に引き伸ばしたし、こっちを魔王へのミサイルみたいに使い切る可能性もある。いざとなったら逃げないと」

「……とりあえず用務員さんと一緒。基本方針はそれで大丈夫?」

「「「「大丈夫」」」」

 

 

 その後の夕食の時間は一般的な西洋料理というか。パンとスープとソーセージ、それに味のついた水。そんな感じだった。悪意があるのかとも思ったけれど、全員にしっかりと提供されているところを見るにこれが普通の夕食なんだと思う。みんなして少ししょんぼりしながら食べていく。ソースとかもかかっていたけれど、量が少なくて味わうにはちょっと足りない感じ。

 色々あって疲れてるから食べられないなと思ったので、みんなにソーセージとパンを食べてもらうようお願いしたり。女子生徒たちが夕食を食べて体調を壊してる子がいないか確認して回ってるうちに、男子生徒たちと一緒に鎧の騎士たちや近くにいたお手伝いさんみたいな人たちに頼んで、談話室にベッドを運び込む。

 

 それぞれ個別の部屋で休むことになるのかなと思ってたし騎士たちもそう思っていたみたいなんだけれど、生徒たちの希望で大部屋でみんなで寝ようとなった。みんなの仲が良いのもあるし、修学旅行みたいな流れなのかな?

 そうこうしているうちに、鎧の騎士たちもあくびをしながら徐々に談話室を出て行き、寝る準備が整った子たちから順に寝ていった。何人かの男子生徒は寝ずの番をすると言っていたけれど、僕がやるからと寝かしつけることになった。用務員なんだから、子どもより夜更かしには慣れている。

 

 生徒たちの最後の一人が寝付くまで、そんなに時間はかからなかった。

 そして、彼女が静かになった談話室を訪れるのも。

 

 

 

 





出席番号4番
 宇都宮聡子 生徒会所属
「所作が丁寧よね。忙しさを理由に雑にやる人がいるなかで、困った生徒を諭してくれたり、掃除も手伝ってくれたり一緒に先生と話してくれたり。好きな人、というよりは嫌いになれないタイプな気がするわ」

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