クラス転移に巻き込まれた用務員だけど、生徒たちがみんないい子 作:匿名
何から伝えようか、と言う顔を彼女はしていた。これまでの微笑みとは違う、解けない問題を伝えようとする戸惑いのような眉をひそめた顔。
「……私に似てるなって思ったんです。異世界勇者様たちに熱意を持って守られていて周りから信頼されているのに、その信頼を信じきれないところが」
僕が何も言わずに待っていると、ミュールさんはぽつぽつと話し出す。
「異世界勇者様の召喚への期待は凄まじいものです。ヨウムインさんは知らないでしょうが、異世界勇者様がちゃんと魔王を討伐に向かってくれなかったパターンも多く……それどころか人間を殺して回ることになったこともあります。魔王を倒すだけの力がないために助力いただくため、ある程度の犠牲はやむを得ないと言われますが、それでも召喚するにあたって私は周囲の騎士にこう告げました」
「異世界勇者様の凄まじい力によって何の意味もなく娯楽感覚で殺される可能性があります。そう言われた彼らは、教皇様は自分たちが殺されているうちに逃げてくださいねと笑うだけでした。まだ未熟なところのある私を支えてくれる騎士たちは私を信用してくれていて……それに応えねばなりませんでした」
「騎士たちは泥をかぶるのは自分たちだと言っていました。おそらくヨウムインさんを侮蔑したのも、彼らの考えなんだと思います。彼らが嫌われれば、私に向けられる悪意が減るだろうと」
「あれはミュールさんが指示したんじゃないんですか?」
僕は思わず口を挟む。さっきまではミュールさんが騎士たちに指示して悪役をやらせていたと考えていたが、騎士たちが勝手に悪役をやっていたのだとなると話が変わってくる。
「詳しいことは知らずとも、私が指示したようなものです。誰がどう見てもヨウムインさんを引き離そうとしたことは悪い権力者の振る舞いでしたから、そこを配慮してくれたのでしょう。私もヨウムインさんに負けず劣らず周囲に恵まれた教皇なんですよ」
そう言うとミュールさんが少し笑う。美しい顔に似合わず、目じりがへにゃっと曲がる笑顔だった。これまで見せていた常に微笑むアルカイックスマイルとは違う、自然な表情。
「もちろん、あなたと親しくなって異世界勇者様たちに好意的になってもらえればという計算高さもありますよ」
夜中にみんなが寝静まったのを見計らって来たのは、恋愛的な感情を持ってもらえた方がやりやすいというのがありましたと、ミュールさんが明け透けに話す。ここまで話して、ようやく僕は警戒心を解いた。ミュールさんたちのような人たちが僕たちに悪意や危害を加えるつもりで接してきているわけではないことがわかって良かった。もちろんそれだけで信用できるとはならないけれど……話も聞かずに逃げようとは思わなくなった。
「(あ、そういうパターン。持ち上げられたお姫様ポジションかぁー)」
「(感情読み取り精霊の嘘発見器はどんな感じ?)」
「(嘘じゃないみたいだよ。用務員さんへの共感と責任感に押しつぶされそうな感じ。打算もあるのも変わらず)」
「(でも、なんで夜にやってきたの?)」
「(騎士のおっさん達の話は騎士のおっさんたちがいない時にしておく必要があったってことじゃねえの)」
「(でも、親しくなるとか言ってるし……相手が何考えてるのかわからんー!)」
「(たぶん向こうも俺たちが何を考えてるのかわかんないから、ゴタゴタしたのかもなー)」
「(あ、雑談が終わったミュールさんが出て行った。笑うと可愛い系な人だったのね)」
「(暗視能力と気配遮断能力使って相手をじっと見つめるのやめなよ……)」
「(今夜はしっかり寝て、明日はちゃんと話し合えたらいいね)」
「(そうだね)」
出席番号6番
遠藤佳子 バレー部
「体育館の備品ってマジで壊れやすいから! 自分たちで手入れするって言っても限度ってもんがあるから、予算含めて相談しやすい用務員さんには助けてもらったなー。バレー部のせいでボールカゴ壊したままだと、体育教師とかともキレてただろうしマジ感謝しかない!」