クラス転移に巻き込まれた用務員だけど、生徒たちがみんないい子 作:匿名
「おはようございます。ヨウムイン様」
正面にはミュールさん。周囲を何人もの騎士たちが固めており、僕たちは向かい合う形で僕が最前列。周囲をスポーツ系の部活で鍛えている男子たちが並んでいる。後ろは女子生徒だけれど、何かあったときに前に出れるように隙間を開けて立っていた。昨日と違うのは混乱していた僕たちが、緊張しながらも話し合えるような気持ちになれていること。あと、なぜか僕が先頭に立っていること……大人として話し合う責任者になるのは大丈夫なのだけれど、反対する子とかいなかったんだろうか。良い子ばかりの3ーA組でも、リーダーシップのある子とかいるから特に交渉能力とかがあるわけでもない僕が前に出るのを嫌がる子がいてもおかしくないと思ったのだけれど、全員が「「「「用務員さんで」」」」と言ってくれた。その信用と期待に応えられるように、頑張らないと。
「みなさま昨夜はよく眠れましたでしょうか? 個室ではなく談話室に集まって眠ることになりましたから、こちらも不手際があったと思います。ご不快な思いなどはされていませんでしょうか」
「談話室で眠りたいと言ったのはこちらですから。それに、ベッドを運んでいただいたり食事を用意していただいたりとこちらこそ大変お世話になりました」
「こちらといたしましても、みなさまに失礼のないようにと思い……」
儀礼的なやり取りをしつつ、まだ状況を掴み切れてない騎士や生徒たちに今から喧嘩をするわけじゃないよという流れを見せていく。昨夜に話した感じからして飛ばしても良いやり取りではあったけれど、念のため。
「(談話室でみんなで寝起きするの普通に楽しかったよな)」
「(料理は微妙だったけど、合宿よりマシだったな。うちの部の合宿はどんだけ予算かけてないんだよ)」
「(わかるわー。クラスで集まることってあるけど、そういうときってやること多いから色々話せてよかった)」
「(今もみんなで話しておくことがたくさんあるけど、それはそれとして一緒に遊ぶの大事よね)」
「(トランプ持ってきてれば良かったよねー)」
「(昨夜、何人かでトランプ作ろうとしてたよ。チートを工夫すればなんとかなりそうって)」
「(しーっ、みんな静かに。話が本題に入った)」
「そして、みなさまにお願いしたいこととはお伝えした通り、宇宙より舞い降りる『魔王討伐』。実は帰宅方法も魔王討伐に関わることとなります」
近くにいた生徒たちが一瞬ざわついた。僕には魔力というものがないけれど、大きな圧力のようなものが背中から感じられる。思わず後ろを振り返るとミュールさんを力強く見つめる子がいた。
「それって、魔王を倒さないと帰さないってこと? あたしたちの身柄を人質にとってるって言いたいの」
「け、喧嘩腰は良くないよ! 美咲ちゃんっ」
「いえ、そうではありません。魔王の魔力を用いることで魔王の攻撃前に無事に帰っていただくということなのです。そうすることで、みなさまの帰宅そのものが重要な攻撃方法になります」
ミュールさんが手を掲げると空中に薄透明の壁のようなものが出て、空中に浮く黒板のように図を書き始めた。図そのものは単純で、空から降ってくる丸を城から攻撃するような図。
「最初の段階は、みなさまに攻撃手段を用いて魔王を攻撃してもらいます。それも一方向に傾くように攻撃していただくことで進路をずらしていくように。攻撃ができる段階が終わり次第、こちらの儀式により魔王の魔力を吸い取って帰還の儀を行います。これにより膨大な魔力を失った魔王が滅んでいくのがアレイシアのやり方。この度みなさまをお呼びした理由がそこにあるのです」
召喚の儀と対をなす儀式であり、膨大な魔力を消費して送り返すことができる……というのが帰還の儀ですと、ミュールさんの後ろで控えていた騎士が補足してくれた。僕はなんとなくわかったが、説明し損ねたミュールさんは少し恥ずかしがっていた。そんなことより気になることがある。
「「「そんなことより」」」
生徒たちもミュールさんに聞こうとして、言葉がぶつかる。喋りだした子同士で視線を合わせて、先にどうぞと譲り合っている。こういうときに俺が俺がと主張する子が少ないのも、この子たちの特色だ。相手にちゃんと気を配れる子たちばかりで嬉しい。話は少し滞ったけれど、代表して橘くんが疑問を告げる。
「その、魔王っすか。そのへんをどう考えればいいのか難しいんすよ。こっちの魔王って言えば魔物ってバケモノみたいなのを操って、人を襲ったりするもんなんで。宇宙から降ってくるとか、城から攻撃するとか、ピンと来なくて」
「少なくとも魔物というものは出てきたことも見たこともないですね。文献でも魔王のみが現れます。そうですね、何人かの詩人が魔王について伝えてきた言い回しだと……空より降り注ぐもの。降り立つと全ての滅びをもたらすもの。それと、宇宙よりこちらを見つめるもの。そのように呼ばれております」
「つまり、ええっと……空から降ってきて全部ぶち壊して宇宙からこっちを見てて、対策として進路をずらしていって余力を削っていくってことで」
これってさ、と橘くんが生徒のみんなを見つめる。そして、最後にその視線が僕で止まる。僕は頷く。最初の想定が間違っていた。魔王討伐という意味が僕たちには正しく伝わっていなかったんだ。つまり、魔王っていうのは魔物とか竜みたいなファンタジーな存在じゃなくて。
「「「「これ、隕石の話だよね!!!???」」」」
生徒たちの大声に、ミュールさんは驚いてどうすればいいのかわからないようだった。
出席番号8番
岡部幸 ボランティア部
「廊下でぼんやりしてても怒られないようにしてくれた。わたしはのんびりしがちだから、うまく伝えられないけどちょっとずつ学校にいるのが楽しくなっていたのは、用務員さんのおかげだと思う。ありがとう」