「うーむ、コレはワシでも始めて見るな」
「でしょ!?いやー、ほんと何なのアイツ!」
「俺っちの武器もやられちゃってるよ…。でも一番ヤバイのはガンさんでしょ」
「……うーん、コレは流石に、な」
「しっかしとんでもねぇ奴だな。まさか武器をぶっ壊されるとは思わなかったぜ!」
「笑い事じゃないよー。これ修復出来るの?」
「あん?ワシがどんだけ鍛治やってると思ってんだ。こんくらい屁でもねぇよ」
灼熱の熱風と高らかに響く金属音。目を焼く熱風と煙は、新たなる武器を創造する代償。ハンターズギルドから程近い場所に点在する武器屋の一つ。そこで四人のハンター達が、手持ちの武器をカウンターに置いていた。
ハンマー、双剣、ガンランス、ライトボウガン…。決して高ランクとは言えないものの、それなりに名のある武器達。大型モンスターの素材から作られた中堅どころの逸品であった。
しかしそのことごとくが破損している。ハンマーは柄を折られ、双剣は片方の刃が潰れており、ライトボウガンは機構部に亀裂。特に酷いのはガンランスである。なんと盾が逆側に反り返っており、ガンランス本体は半ばからへし折られていた。
「でもさー、なんで壊れんのさ。今まで結構やり合って来たけど、流石にこんな事始めてなんだけど」
「んぁ?壊れねぇ武器なんてねぇよ。むしろ俺らはそれを想定して作ってんだよ。ぶっ壊されても無理のねぇ範囲で修復出来る武器しか作らねぇのさ」
「へー。あ、もしかして狩猟鞭解禁の噂が上がって消えたのってそういう理由?」
「おうともよ。ありゃ接続部分が逝かれちまうと修復不可能でな。武器全体の纏まりが薄いってのもあって廃止されちまった。ま、一部のマニアは使ってるがな。その分強化は割高だぜ」
「うーん、理屈は分かるんだけどさ。それでもなんで壊されたんだ?俺たちの腕の問題なのか?」
「あ、確かにそうだよね。壊される前提って言っても、通常種のブラキ相手でも壊れなかったし」
「ガンさんも普通に受け止めてたしなぁ。粘菌に爆破されてもピンピンしてたっけ」
「…見誤ったのさ。アイツは見た目以上に凶悪だぞ」
「え、あ、ア、ア、アルバン=アッカーソン!?何でこんな所に!」
「誰?」
「ギルドナイトの1人だよ。しかも凄腕」
「マジ?ヤバイじゃん」
「うん、ヤバイよ」
ふらりと現れた、黒く禍々しい装備に身を包んだ男。所々から溢れる紫の燐光が、威圧感に磨きをかける。
ジンオウZ装備。G級と呼ばれる高難易度のクエストでしかお目にかかれない、ジンオウガ亜種と呼ばれるモンスターから作られた防具。龍属性という特異な属性に対して完全な抵抗力を持ち、フルチャージや回避性能と言った玄人向けのスキルが発生する。
更に彼はギルドナイトの一員である。違法ハンターの捕縛、危険区域の調査、VIPの護衛、新モンスターの調査、新エリアの散策、エリアの監視、環境整備、古龍種の観察、城壁等の整備…。ありとあらゆる、それこそ多種多様な仕事を受け持ち、ハンターズギルドを影から支える存在。
処刑人、粛清者、バランサー、ハンターハント、ブラックハンター…。様々な異名を持ち、その実力も折り紙付き。ギルドナイトと名乗るだけで、無条件に実力が保証される。それだけ力ある組織なのだ。
「…いや失礼、俺もソイツを相手にしてな。この通り、見事にへし折られたよ」
「う、わ。これ、もしかしてナルガクルガ希少種の太刀…!?すげぇ、初めて見た。ホントに透けてる…」
「希少種の太刀でもひん曲がるってヤバくない?私らよく生きてたね…」
「で、どう言う事なんすか?見誤ったって」
「あぁそうだったな…。相対してわかったのだが、アイツの拳には空洞が無い。粘菌を持たない代わりに、粘菌の入っていた空洞が丸々潰れている。…その質量は相当なものだろう」
「言われてみれば確かに。蛍光色が無いからマジで真っ黒なのに気を取られてたわ」
「盾越しに感じたあの手応え…。そういう事だったのか」
「そーなの?ハンマー越しだとあんまりわかんないな」
「…付け加えてあのスピードだ。原種以上の軽いステップ、そこから繰り出される先の読めない拳…。攻めれば引かれ、引けば攻める。アレ程に戦い慣れしたモンスターは中々居まい」
「いや知らんわ。私ら殆ど一撃で沈められたし」
「あのスピードは反則だろ。見えなかったぞ」
「煙吹いてるわ地面消し飛ぶわでメチャクチャしてたよね?ガンさんなんて立ったまま地面に埋まってたし」
「…む、その動きは見た事ないぞ。終始一貫して堅実と言った攻め方だったからな…。良ければ詳しく聞かせてくれないか?」
「んー?いいよ。でも今は武器が壊れた理由ね。流石にこんな事懲り懲りだし」
「…あぁ、すまない。そうだったな」
アッカーソンと呼ばれた男は、背に挿してあった鞘と刀をカウンターに置き、金の詰まっているであろう袋を取り出した。受付の新人と思しき龍人の青年がそれを受け取り、奥に持っていく。
それを見送りながら、周囲に響く金属音に負けない程度の声量でその理由を語り出した。
「…アイツの拳は正に鉄拳…いや、剛鉄拳以上の存在だ。つまりG級個体以上に硬い。密度はウラガンキンの顎以上。当然恐ろしく重いだろう」
「はぁ…、そんな事あり得るんすか?それが事実だと、アイツのフットワークに疑問が出るっすよ。双剣の俺っちでも避けられる程っすよ。寧ろ軽いんじゃないっすか?」
「いや、足跡を見る限りそれはない。体躯が小さいにも関わらず、金冠サイズ以上の深さまで達していた。筋肉量も相当だろう」
「はー、そんな事も分かるんっすね。流石っす」
双剣使いの男が感嘆の声を上げると同時に、ギルドの従業員がやって来て5人のハンター達に声をかけた。ハンマー使いの女が立ち話もなんだからと皆に声をかける。
ギルドナイトの男が気前よく奢る事を提案し、それに遠慮しながらも押し切られて席に着く4人。リーダー格のライトボウガンの男が人数分の冷えたエールを注文し、暫くして和やかな雰囲気が流れた。
「かーっ!美味いっす!やっぱこれっすよね!」
「いやすいません、奢って貰ってしまって…」
「気にする事はない。金はあるんだ。…使い道が無くて困るほどにな…」
若干暗いオーラを漂わせたギルドナイトの男に、ライトボウガン使いが苦笑を返す。ブラックハンターの通り名は伊達では無い。仕事をする為に寝食を行うとまで言わしめるブラックぷりである。
エールを景気良く半分まで飲み干し、若干顔の赤くなったガンランス使いの男が低く響く声で疑問を呈した。
「しかし、アレは地揺を起こしていなかった。重いと言うなら、それこそウラガンキンの様に地揺れが起きるのでは無いか?」
「ははは、確かにそうだな。理屈としては間違っていないとも。…だが実際のところ地揺れは起きない。いや、起きえないと言うべきか」
「いやいや、重たかったら地揺れは起きるっすよ。ウラガンキンの叩き付けにだって発生するのにおかしいじゃ無いっすか」
「あー…そっか。成る程ね…。うん、理解したわ」
「君はハンマー使いだったか。ならば馴染み深いだろう」
「どう言う事っすかアネさん」
「んん、言葉にすると難しいなぁ…。打撃って、ただ打つだけじゃ無いんだ。振り方によって多少の方向性が出るんだよ。内に響く様な打ち方とか、硬い物を破壊する様な打ち方とか」
「…え、ウソっすよね?ソレが本当だとすると、ヤツは拳の『打ち分け』をしてたって事になるんすけど」
「多分間違いないよ。アレの拳の振り方は真っ直ぐなドストレート。内部破壊や振動の効果がない代わりに、何処までも愚直な一撃が繰り出せる…。つまり弾丸そのものだね」
「その通りだ。私達の武器が破壊されたのは、つまるところ弾丸を防御してしまったから、という事にある。ならば対処法も見えてくる筈だ」
「……攻撃を逸らす、か」
「あぁ、それが一番良いだろう。…ココだけの話なのだが、此処より東の土地である狩猟法が開発されているという噂がある。なんでも、モンスターの攻撃を身躱して攻撃に転じる方法があるらしい。…君たち、興味はあるか?」
そんな話題に食いつかない筈もなく、4人のハンターが一斉に肯定の意を示す。
周囲は相変わらずの喧騒で満たされていて、やがて彼等の会話もその雑多な音に混じり消えていく。翌日、4人のハンターはユクモ村を目指してタンジアの港を後にした。
その選択が、奇しくも仇敵との出会いを呼び寄せる事になる。