「おい、聞いたか?
あのルーキー、また手柄を立てたらしいぞ…。」
「マジかよ…今度はなんだ?」
「どうやらたった一人で大型古龍を倒しちまったらしい…。
全く…化けもんだな。」
今、このギルドではある一人の男の話で盛り上がっている。
曰く、初めて三週間でリオレイアを討伐した。
曰く、ハンター養成学校を、誰よりも早く卒業した。
曰く、僅か半年でアカムトルムを討伐した。
曰く、ラオシェンロンを一人で撃退した…。
嘘みたいな話だが、全て事実である。
その様子をギルドが監視したり、証拠品を持ち帰ったりしている所を、何人もの人が目撃しているからである。
バン!
乱暴に開かれる扉。
噂の渦中にいる人物のお出ましである。
「…チッ!
相変わらずむさい所だなぁ!
なんでお前らみたいな奴がいるんだよ。
訳わかんねぇ。」
いきなりの暴言である。
だが、この男に誰も敵わないと誰もが知っているため、止める者はここには居ない。
以前、止めようとした三人組が、「テンプレDQNはくたばりな!」と言う訳のわからない声と共に、あっという間に倒されたからである。
腕は確かだが、それ以外は何もなっていない、いけ好かないルーキー。
これがこの転生者、増田悠人の評判である。
勿論、他のハンターのストレスは溜まっていくばかりである。
ただ、既に悟りの境地に達して無視する者も少なく無いが…。
「…おい、今日は女がいねぇみてぇだな…。」
「ん?…そう言えばそうだな。
見限られでもしたんじゃ無いか?」
「どうやらそうみてぇだぞ。
大人しめの弓使いの子はギルドの回し者で、あいつの行動を監視していたんだと。
昨日の古龍戦での単独行動をきっかけに、これ以上あいつの側に誰かを置くのは危険とギルドが判断したらしい。
今はギルドに匿われているそうだ。
笛使いの方はとんだハズレクジだったみたいだな。
あいつから貢がせた物を全部売っぱらって、トンズラこいたらしいぜ。」
「…ザマァww」
「それでいつもより荒れてんのか…。」
…このハンター達の話によると、ハーレム計画は初めから成功していなかったようだ。
所詮、ヒロインなんてそんなもんである。
現実は甘くない。
そんな彼がクエストボードに来た時、目の色を変えて一枚の依頼書を取った。
「…へぇ。
あの時の亜種が来てんのか…。
いいストレス発散になりそうだな…。」
彼が手に取ったのは、緊急クエストと呼ばれる、特殊なクエストである。
報酬の額が桁違いな代わりに、ハンターの安全は全く保証されない。
このようなクエストを受けるのは、単なる馬鹿か実力者のみである。
…どうやらこの転生者は前者のようだ。
緊急クエストをストレス発散に使おうなど、もっての他である。
「…なぁ、あいつが取った依頼書が何かわかるやついるか?」
「あ、俺わかるぞ。
俺の友人が出したクエストだからな。
ほれ、これがその原案だ。」
「なになに…。」
ーーーーーーーー
クエスト名:黒き凶弾
ターゲット:ブラキディオス亜種(?)
クリア条件:ブラキディオス亜種(?)の討伐、または捕獲。
目的地:未知の樹海
依頼主:ボロボロのハンター
依頼内容:
…あの日、オレ達はティガレックスの特異個体を狩りに行っていたんだ…。
特に何も無く終わるはずだったんだが、ティガレックスを瀕死にまで追い込んだ時、ヤツは現れた。
気配なんて感じない。嫌な予感もしなかった。
だが、そいつはなんの前触れも無く、洞窟の天井から飛びかかって来たんだ!
そいつの体は真っ黒で、氷海の青い光を浴び、禍々しく輝いていた。
…その後、そいつと戦ったが手も足も出ずにやられちまった…。
…今思い出せば、あれは黒い凶弾だったのかもしれねぇ…。
悪意を持った、命を必ず奪う必殺の凶弾…。
そいつが未知の樹海に現れたらしい。
相棒は重症を負い、リベンジも叶わねぇ…。
誰か、オレ達の仇を討っちゃくれねぇか?
挑む時は気をつけろ…あいつには底知れねぇ何かがあった…。
報酬金:30000z
ーーーーーーー
「…なんか、ヤバくねぇか?」
「こいつらって少なくともG級だよな…。
そいつらをあっさりやっちまうなんて…只者じゃねぇぞ…。」
「…これがあいつの初のクエスト失敗になるかもな。」
「いやいや、曲がりなりにも古龍を倒してんだぜ?
そりゃねぇよ。」
「ならかけるか?
この最強のカードにさ。」
「お、いいねぇ!」
ギルドはいつでも喧騒に包まれている。
その喧騒が止むのは、顔の知れた有名人が入った時ぐらいなものである。
噂の人物が居なくなった途端、喧騒を取り戻すこのギルドは、ある意味世界の縮尺かも知れない。
ーーーーーーー
未知の樹海。
それは足を踏み入れる度に地形の変わる、特徴的な場所だ。
原因は不明。
森の外に居る者に出会わないと、そこを森と錯覚して出られない所から、何か特殊な電磁波などが出ているのでは無いかと言うのがもっぱらのウワサだ。
そこに入り、倒したモンスターに背を向ける、命知らずな者が一人…あの転生者ハンターである。
「いやー楽勝だったわww
さて、剥ぎ取り剥ぎ取りww
…ん?
あれ?あの黒い靄って…。」
どうやら倒したモンスターに異変があったようだ。
成る程、確かに黒い靄が口の辺りから漏れ出している。
「あ、あれか、狂竜ウイルスってやつか?
うわぁ、初めて見たぜ!」
この転生者には見覚えのある光景らしい。
しばらくして、倒れたはずのモンスターが起き上がり、咆哮を放った。
「ゴォォーーーーァァァアア!!」
「ウオッ!?スゲェな!
ティガレックス並みじゃねぇのか?
…ん?なんだ攻撃して来ないのか?」
起き上がり、咆哮をしたモンスター…黒いブラキディオスは、ハンターに対して攻撃をせず、その場にとどまっている。
…ただ、通常のブラキディオスが絶対にしない姿勢をとっているが…。
「…なんだ?あの姿勢?
ブラキってこんなことしたっけか?」
そのブラキディオスは、腕を地面に着き…いや、地面を掴み、今にも走り出しそうな姿勢をしている。
だが、一向に変化は起きない。
…ただ、痛みに耐えるかのように、小刻みに震えているが…。
「…何やってんだ?
もしかして死んでんのか?」
キシ…キシ…キシキシキシキシ…。
「グルルル…。」
変化が始まった。
ブラキディオス自身の身体から、錆びたボルトを無理矢理動かすような音が聞こえてくる。
まず、変化が起きたのは頭。
ブラキディオスの象徴とも言える角とは別の角…目の上から後頭部にかけて生えている角に変化が起きた。
左の角が弾け飛んだのだ。
弾けた角の内側に現れたのは、黒い円筒形の何か。
それは長さを増し、煙を噴き出した。
右も同じように。
その円筒形の何かは、角と言うより、排気筒に見えた。
「な、なんだ!?
フロンティアの新しいモーションか?
だけど、フロンティアにブラキディオスなんていなかったぞ!?」
そんな転生者の声を他所に、さらなる変化を遂げていく。
背中の甲殻が、頭の方向に一斉にスライドする。
甲殻がスライドした事で空いた隙間から、赤い燐光が漏れ出し、辺りの空気の温度が上がっていく。
尻尾が太さを維持したまま伸び、棍棒のような尻尾の先からヒレが飛び出す。
「は…ハハハ…なんだよこいつ…。
こんな奴がブラキなわけねぇよ…。
絶対に新種だろ…。
…そうだ。
こいつを狩ればまた俺の名声が上がる!
そうすればまたあの生活に戻れる!
ハハ!そうと決まれば狩るしかねぇよなぁ!」
その異様な姿に気圧された転生者だったが、己の欲を糧に奮起する。
自分の物だと信じて疑わなかった二人からの裏切りは、この転生者に相当なストレスを与えていたらしい。
恐怖も忘れて我武者羅に突っ込む。
本人曰く最強の肉体。
その身体は伊達では無く、地面を陥没させて一気に肉薄する。
だが…。
「グルル!」
ゴッッーー!
「…!?ガッ!」
ブラキの方が一枚上手であった。
避ける事はせず、冷静に拳を前に突き出す。
勿論、正面突きである。
転生者の方は寸前で異変に気付いたのだろう。
慌てて避けようとしたが間に合わず、左半身に拳を受け吹っ飛んだ。
「グッ!?ガッ!ガフッ!?」
芯を捉えていないと言うのに、転生者は20メートル近く吹っ飛んだ。
何度もバウンドし、ようやく停止した転生者は酷い有り様であった。
バウンドしたせいであちこち土まみれで、顔から着地したのか顔が腫れ上がっていた。
イケメンフェイスも台無しである。
何よりも酷いのは左半身。
腕は肩から肘にかけてあらぬ方向に曲がり、脇腹は防具の部分が抉れていた。
幸いにも身体には至らなかったようだ。
「ぐぁぁああ…いてぇ…。
…なんなんだよこいつ…!強過ぎるだろ!?
最強の肉体じゃ無かったのかよ!?
クソッ!あんの髭ジジイ!騙しやがったな!」
起き上がろうともせず喚く転生者。
自分を転生させた神に文句を言うだけで、何もしようとしない。
たった一撃をくらっただけで、心が折れたようだ。
まるで駄々っ子のようである。
もしかすると、そうする事で現実から逃れようとしているのかもしれない。
だが、現実は無情である。
たたみかけるようにして、折れ曲がった左腕が木っ端微塵に爆発した。
「ギィッ!ァァァアア!!」
声にならない叫び声を上げる。
当然と言えば当然である。
掠った脇腹の防具が抉れるなら、直撃した腕には粘菌がこびりつく。
それが爆発したのだ。
「痛ぇ痛ぇよぉ…。
クソッ!こうなったのも全部神のせいだ!
そうに決まっている!」
喚く転生者。
そこに歩み寄る黒い影…。
ブラキディオスである。
その影が転生者の体にかかる程に近づいた時、ようやく転生者はブラキディオスの存在に気付いた。
「クソックソックソッ!
…ん?
…ヒッ!」
目は怒りに燃えるかのように赤く光り輝き、口からは赤い燐光が垣間見える。
体色は金属質の黒。真っ赤な粘菌と相まって、溶岩のようだ。
背中の甲殻からは赤い燐光と共に、熱気が放出されている。
赤い光に照らされた熱気は、燃える闘気が噴出しているかのようにも見えた。
阿修羅
敵を真正面から叩き潰す圧倒的暴力。
その姿はまさにそうであった。
「く、来るな!止めてくれ!」
転生者が喚く。
だが、ブラキディオスは止まらない。
その拳に光が灯る。
「…い、嫌だ!死にたく無い!
俺はオリ主だ!こんな所で死ぬ訳が無いんだ!」
懇願する。
泣き喚き、残った腕を突き出し、精一杯抵抗する。
だが、止まらない。
ゆっくりとその拳を振り上げる。
「…ウワァァア!!
嫌だ!誰か!誰か助けー」
そして、黒き凶弾が放たれた。
ドッッーーーーーォォォオオオンン…。
転生者は跡形も無く消え去った。
残ったのはせいぜい、辺りに満ちた悲鳴ぐらいな物である。
最後の最後に現実を直視出来たのは、ある意味幸せだったのかもしれない。
初の三人称視点をしてみました。
いかがでしたか?
…ブラキさん、結構目立ってましたね…。
見事に2人のハンターにトラウマを植え付けてました。
自分でも少々以外でした。
やっぱり、この物語の行き先は作者にもわからない…。