突然だが、俺がメイドを乗せて戦うのを渋った時、俺のした発言を思い出して欲しい。
俺は「捕まり切れずに振り落とされる」と言った。
つまり、「メイドの体が耐え切れない」とは言ってないのだ。
もう分かると思うが、このメイド、なんか矢鱈と強い。
緑化粘菌を纏い、そのスピードは少し落ちたとは言え、俺の全速力に耐え切って、俺の首に居座り続けたのだ。
しかも笑いながら、もっとスピードを上げろとまで言って来やがった。
本当なら、適当に付き合ってハンターにぶん投げるつもりだったんだけど、その時にこいつの実力の高さを買って、せめて迎えが来るまで付き合う事にしたのだ。
フツー、どう考えても耐え切れるものじゃ無いんだけど、メイド曰く、龍脈操作と言う秘術によって、身体能力の底上げが出来るらしい。
ハンターなら知る知らないに限らず、誰でも使っており、中には無意識に扱える者まで居るとか。
更にその達人ともなると、身に纏う防具や武器の記憶を呼び起こし、一般人が身に纏うよりも多くの恩恵を受けれたり、武器に己の力を上乗せする事も出来る。
そこまで出来る者ともなると、確実に開拓地での狩猟を許可され、更に強大なモンスターと戦うらしい。
…全部、移動中にメイドから聞いた話だけどね。
マッハな速度の中で、胡座をかきながら喋られたら、信じざるおえない。
ちなみにメイドは身体能力の強化が精一杯で、ハンターの扱う武器全般は扱えず、唯一使える武器も家に置いてきてしまったらしい。
メイドェ…。
でもメイドによると、武器に力を纏え無いのは、単純に体が出来上がってないので、無意識に力を抑えてしまっているせいなんだと。
龍脈操作はしっかりと習得しなければ、己に跳ね返ってくる諸刃の剣でもある為、体が出来るまでは無理できないらしい。
その代わり、常人を遥かに超えた持続性を持ち、これを使ってモンスターの視界をすり抜けていたらしい。この国のメイドは化け物か?
…ん?レイ…なんとかさんと戦った時、武器しか光って無かったよな?もしかして…予想以上に手加減されてた?
てことは、あのスピードがレイ…なんとかさんの素の身体能力かよ…どんだけだし。
まぁいいや。
で、この未熟な身体強化しか出来ないメイドを乗せる理由だが、これ結構意味がある。
リオレウスを初めとする飛竜種は、背中に攻防一体の武器、翼を持っている。
だけど獣竜種である俺には、背中を守る手段が皆無だ。
イビルやドボルのように巨大な体を持たない俺にとって、背中はまさに死角。
これが普通のハンターならまだやりようはあるが、相手は転生者。容赦なく背中を狙って攻撃してくるだろう。
当たらなければどうという事はない?
無理だろ。どう見ても殲滅系の転生者が揃っているんだぞ?しかも、今見ている能力が彼らの能力の全てと言う確証もない訳だし。
事実、ギル○メッシュの能力と思ってたあいつも、アー○ャーの能力を使ってたし。全く油断出来ない。
メイドの武器は俺が調達しますた。
緑化粘菌の応用で槍(メイドは槍を使うらしい。)を作り出し、メイドに武装させた。
戦車に竹槍を持っていくようなものだけど、護身程度には機能してくれるだろ。…これでもかと毒キノコを先端に練りこんだからな。擦れば即アウトだぜ。
メイドはこれで十分と言ってたけど、本当に大丈夫かなぁ…。本人がそれでいいと言うならそれでもいいけど。
それと、樹木を全身に纏う状態は解除してる。
走ったり動いたり防御したりは問題無いけど、流石に戦闘となると邪魔にしかならないし。
「よし、行くぞ!
いいかの?先ずはルコディオラの救出!その後にハンターと交戦、倒しきれなければ全力で戦線離脱じゃ!
良いな?」
「グァウ(文句なーし。)」
「では開戦じゃ!先ずは中心にどデカイのを頼む!
その隙にルコディオラを逃がすのじゃ!」
「グガゥッ(うぃーっす。)」
凄いなこのメイド。
この戦場の状況をよく把握してる。
この調子なら背中を任してもいいかな。デカイ攻撃は全部殴り返してやんよ。
ふぅ…。
右腕を後ろへ。
左足を前に。
龍脈エネルギーを竜菌核に充填を開始。
緑化粘菌を右腕に集中。超活性化を開始。
エネルギーの充填完了。竜菌核一つ分だけど充分だろ。
さて、こっからは俺もした事の無い領域だ。
竜菌核の力に、粘菌のチャージ機能と言う奴がある。
これは粘菌全体に溜まった力を、一点に集中させるというもので、俺の使っていた粘菌の収縮と違い、エネルギーそのものを粘菌と共に一点に集める事が出来る。
その際に発揮される力は通常の2倍から3倍にもなる。
ならば、竜菌核を使って増幅したエネルギーを一旦右腕全体に溜めて、そこから更にチャージ機能を使うとどうなるか?
…多分、とんでも無い事が起きるのは確かだ。
さぁ、いざ実践!
竜菌核を解放。
排熱機構全開!
ガシュン!…ドゥゥン!
「ぬお!?なんじゃ?」
…やっぱり、一つだけだとそんなに強く無いな。
まぁいいや。
エネルギーを右腕全体の粘菌へ。
おぉ、右腕が燐光に包まれてる…。
あの時の巨木にやった時と同じだもんな。
ここまでは予想の範囲内だ。
さて、次だ…。
チャージ開始!
ズズ…オォォォォオオオゥゥウウ…。
………り、燐光から炎…だと?
無駄な粘菌の脈が完全に消失し、残った緑の本筋からゆらりゆらりと緑の炎が立ち上っている。
エネルギーの強さが粘菌の枠を超えて、炎のように見えてるってことか?うわぁなにこれ厨二。
「おぉ、綺麗な炎じゃのう。
お主、そんな事も出来たのか。」
いえ、今偶然出来ただけっス。
あとはこいつを地面に叩き込むだけか…。
なんでだろう。ここは砂漠の筈なのに、フィールド全体が木に侵食される幻が見えるぞ?
予知夢か?これ。
「グルア(うーし、掴まってろよ。)」
「了解なのじゃ!」
緑化粘菌を操り、メイドの体を固定。
龍脈エネルギーをメイドが纏ったのを感知、そのあと猛ダッシュ…というより大ジャンプ。
たった一歩で交戦地帯のど真ん中に着地した。
ズダンッ!
「おら止め…お?」
「おい、こいつ…。」
「ターゲットか!?めっちゃベストタイミングじゃん!」
「ルコディオラなんざ二の次だ!こいつ倒そうぜ!」
「「「おう!」」」
…馬鹿かこいつら。
俺の右腕が炎を纏っている時点でなんか疑えよ。
そんなお馬鹿さん達にはお仕置きだよね。
そぉいっ!
ズドッ!
地面に右腕を叩き込み、よくわからない状態の粘菌を全て流し込んだ。
その瞬間、辺りの龍脈が異様にざわつき、なんか凄く嫌な予感がしたので、背後にいたルコディオラの頭を掴み、全力でダッシュした。
「シュウルル!?(な、なんだ!?)」
「グルガァァア(黙ってろ!とっとと逃げるんだよ!)」
全く…掴むついでに緑化粘菌で回復もしてやっているというのに恩知らずな…。
身を捩って逃げ出そうとすんなし。
掴みにくいだろうが。
「お主、あれは何をしたのじゃ?
地面から緑の雷が吹き出しておるぞ?」
「…グゥルルルガァァア(…あぁ、それね。多分、超活性化した緑化粘菌が、辺りの龍脈、砂、空気、光を吸収して樹木を構成しようとしてるんだと思うわ。)」
「ぬ?あの反応はとてもそれだけには見えぬぞ?
矢鱈と危険な気配は感じるがな。」
「…ガゥゥアアゥ(…本当にそれだけなんだって。ただ、緑化粘菌の性質はキノコなんだよ。育った樹木はやがて枯れ、それを菌類が養分へと変換する。その養分を礎に更に大きな樹木となる。その周り巡る反応がとんでもなく早いんだ。早過ぎて残像が雷みたいに見える程にな。)」
「…だ、大丈夫なのか?」
「グゥルルル(さぁ…多分、巨木となればその反応は止まると思うけど。)」
その時、やっとこさ転生者が動き出した。
俺らが喋りながら動いてんのに、呑気なもんだ。
「待てやこの野郎!」
「王の財宝!」
「撫切り!」
「ヤサカニノマガタマ!」
ちょ、なんだあの化け物集団。
あんなもんこんな所でぶっ放すなよ。
まぁ、だからなんだって話だが。
俺の粘菌、甘くみんなよ。
ーギシ…パキンー
俺でさえ逃げるレベルの脅威を持ってんだぞ。
しかも初めて使ってるから、調整なんざ1個もして無いし。
メイドはデカイを頼むって言ってたけど、あれはデカイとかの範疇超えてると思うな。
ーギシリ…ゴッッッツツ!!!
…やっばいな。
転生者共の攻撃どころか、転生者ごと全てを飲み込んだのはいいけど、俺らの走力を超える速度で木が成長してる。
「グァァウゥウ!!?!?(やっべぇぇええ!?!!?もう少し手加減しときゃよかった!)」
「お主やり過ぎじゃ!このままだと飲まれるぞ!」
「シュウルル!(何をしているのだ!お前、その手を離すなよ。)」
「グァウ?(へ?)」「む?」
バサッ!…バッ!
ふわりと体が浮く。
足が地面から離れ、なんとも言えぬ浮遊感が体を包む。
びっくりした俺は右腕も使って、ルコディオラにしがみついた。
あ、やべ、力を込め過ぎたわ。
なにはともあれ、ルコディオラの機転により、俺たちは空へと避難出来た。
おーおー、とんでもないなあの粘菌。
砂漠の半分くらい飲み込んでんじゃねぇの?
今度はもう少し一点集中して使うか。じゃないと俺まで被害に遭うぞこれ。
「シャゥルル?(なんと、体の傷が癒えていくとは…。お前、面白い力を使うな。)」
「ガゥルル(顔面緑のベタベタで覆われながらそのセリフは無いわ。)」
「シュウルル!(誰のせいだ!)」
「おぉ!やったな!
少し予定と違うが、無事救出成功じゃ!」
「…グゥルルル(いや、まだだ。)」
「なんじゃと?」
…あの大木(?)の中の龍脈が乱れてやがる。
どうやったか知らんけど、まだあいつらは死んでない。
クソ…所詮貰い物の力の癖に。
…!!
「グルァァッッ!(メイドは任せた!)」
「シャウル?(なんだと?)」
「な、何をするのじゃ!」
メイドを緑化粘菌で縛り上げ、ルコディオラの首筋に貼り付ける。
ルコディオラの胴体を右腕で掴み、思いっきり投擲してやった。
なんか叫び声が二つ聞こえたけど気の所為だな。うん。
さて…。
「アマノムラクモ!」
緑化粘菌を使って樹木を左腕に纏い、光で出来た剣を受け止める。
…チッ。これ熱系の力か?
この砂漠だと、緑化粘菌はあんまり強くならんしな…。
本体まで届く事は無いけど、長く持たせれない。
「グルッ!(よっ!)」
左腕を強く突き出して剣を弾き、地面に着地。
体勢を立て直す。
「火が効くみてえだな。喰らえ!」
目の前に一瞬で現れた転生者が火の斬撃を飛ばす。
サイドステップでそれを躱し、隙だらけだった転生者に拳を振り落とした。
ガギンッ!
「グルッ!?(は!?)」
「残念だったなぁ!俺が全員に反射を掛けてんだよ!
そぅらふっ飛べ!」
ゴッ!
「グゥ!?(ガッ!?)」
俺の重い体が、なんでも無いように軽く吹っ飛ばされ、未だに成長を続ける樹木に飛ばされた。
「ヒャハハハハ!テメェがテメェで作ったもんに飲み込まれて死ねぇ!」
…え?止め刺さないの?
今なら背中が止めのバーゲンセールス中だよ?
なんであのギル○メッシュもどき突っ立ったままなの?
武器でもなんでも飛ばせばいいのに。
空中で体勢を立て直し、樹木の壁に張り付くように着地する。
足の粘菌を使い、成長を続ける樹木の成長を止める。
止めるというより、腐らせるって感じか。
俺が着地した所から大量のキノコが生えまくり、それに伴って樹木の成長が止まる。
むしろ侵食されて小さくなっていく。
…この技、考え物だなぁ…。
「チッ!やっぱ無理か。」
「何してんだよ。その黒い翼でも使えばよかったじゃねぇか。」
「はっ!そんなんしたら面白くねぇだろ。」
…えらい言われようだな…。
いざとなれば狂竜粘菌使えばいいからなぁ…。
どっちかって言うと、こっちが手を抜いてんのに…。
本当、メイド以上に呑気な奴らだ。
「グルゥ…(なーんかムカつくなぁ…。)」
「全くじゃ。
あやつらは命を何と心得ておるのか…。
いや、最早命さえ認識しておらぬかもしれぬのう。」
「グアゥッ!?(メ、メイドォォオ!?おま、いつの間に…。)」
「妾の得意分野は逃げる事と隠れることじゃぞ?
お主の龍脈感知をすり抜ける程度、造作もないわ。」
いやいやいや、あの時、俺は緑化粘菌で縛り上げたんだぞ?
そう簡単に脱出出来る訳無いだろ。
どうやったんだこのメイド。
まさか…本当に化け物とか?
「しかしお主の作った槍、よく切れるのう。
あの蔦を一差しで切ってしもうたわ。」
あ…そういやぁ槍に毒仕込んでたわ。
メイドを縛り上げるのに毒なんて使えないもんね。あっさりその毒にやられちゃった訳か。
俺が聞いた叫び声の片方は、俺の首筋から発せられてたのかな?普通あの状況で、人間の声とか聞こえる訳がないよなぁ。
「ググルゥ(てか、なんで付いてきたし。死ぬぞお前。)」
「馬鹿者!妾は共に戦うといったのじゃ!
妾の腹の虫が静まるまで、付き合ってもらうぞ!」
「グルルル…(答えになってないよ…。)」
…まぁいいか。
死んだら死んだでこいつのせいだ。
少なくとも俺のせいじゃないし。
俺、止めたからね?どう考えても自業自得だろ。
「グルゥア(もういいや。俺の背中で死ぬのだけは勘弁な。後味悪いから。)」
「死ぬ気なぞ毛頭ありはせんわ。
なに、あやつらをしばき倒すまでは倒れる事は無い。安心せよ。」
もうなんでもいいや。
取り敢えず背中の心配はいらなさそうだし、俺は他の事に集中するか。
あの反射はかなり厄介だな…。
先ず狙うべきは一方○行の力を使うあいつか。
幸いにも攻撃力だけで見れば、他の奴らに劣る。
あれを優先して狙うとするか…。
つーかメイド、お前何者だよ…。
さっきから攻撃を避ける為、かなりの変態機動をしているのに、顔色すら変わって無いとか…。
この転生者達よりよっぽど化け物だな。
本人笑ってるし。怖いわ。うん。