「amazing〜♪grace〜♪how sweet♪the sound♪
that saved〜♪a wretch♪like me〜♪」
「にゃぁ〜…。心が洗われるようにゃ…。」
「お主、本当に男かの?
女の声にしか聞こえぬのじゃが…。」
悪ぅござんしたね。女声で。
これでも結構気にしてんだよ。
ガタゴトと揺られること数時間。
太陽は真上に登り、荒々しい平野から砂の混じる砂漠へと景色は変貌を遂げた。
いやー、なんとか誤魔化せてよかったわ。
王女にめちゃめちゃ疑われたんだよな。
『お前王国の回し者じゃろ!?』とか『あり得ぬ!この妾より女らしい男などあり得ぬ!』とかなんとか。
最後は拳骨をくれてやった。
例え女でも容赦しないぞ俺。
てか、お前だって男より男らしい女じゃんか。
違うのは顔だけだぞ。しかも転生者相手にあんだけ立ち回っといて、今更女を主張されてもなぁ…。
…胸ないし。
「む?妾はまだ7歳じゃぞ?生理も来とらん童女に胸など求めるでないわ。」
なんでわかったし。
「なんとなくじゃ。」
あ、そうですか。
…もうこいつに関しての理解を諦めよう。
俺が言うのもなんだけど、十分化け物レベルだ。
「…そういえば、いつ王国に着くんだ?
もう半日も走ってるけど…。」
「そうじゃのう…。このペースならば夜には着くじゃろう。」
「…俺が走った方が早くね?」
「何を言っておる?走れても体力が持たぬじゃろう。
いや、お主ならできるかもしれんが、それは人目につく。
妾としては困るのじゃが…。」
「あー…王女って面倒な地位だもんねぇ…。
やっぱ世界が変わっても、身分のある奴は堅苦しい生活してるんだなぁ…。」
「…ぬ?妾以外の王女に会った事があるのかの?
唯の旅人ではないということか?」
「ん?あぁ、昔の話だよ。
と言っても、数年前だからなんとも言えんけど。」
「ほぅ?それは興味をそそられるのう。
お主がよければで良いが、お主の昔話を聞いてみたいぞ。」
「…俺の昔話?
いや…別にいいけど…。多分あんまり面白くないぞ?
どれも胸糞悪くなる話ばっかりだし。
それに俺は話し下手だからさ。期待するなよ?」
「それでも良いわ。音楽も良いが、他人の話を聞く方が得意なのじゃ。
なんせ妾は王女じゃからの。」
「へいへい。そこまで言うんなら話すよ。
まぁ、色々とはぐらかす所もあるけどよろしく。」
「うむ、楽しみじゃ。」
…まさか俺の昔話を話す時が来るとはねぇ…。
前世では一切話さなかったんだけどな。
これも転生の影響か、なんか他人ごとみたいに感じるんだよなぁ…。
んー…王女ねぇ…。
ならあの話がいいかな。
「…取り敢えず…俺の家族から話すか。」
ーーーーーーーー
俺の家族ってさ。ちょっと…いや、大分変わってたんだよ。
先ず長男の兄貴。
こいつがめちゃめちゃ力持ちでさ。
なんの運動もしてない癖に、ガチムチ四人相手の腕相撲に難なく勝てるんだよ。
見た目はヒキオタニートの癖にな。
で、俺の妹。
こいつは…なんていうか…うん、魔術っぽいのが使えるんだよね。
ん?あぁ、そんな感じ。龍脈って解釈でもいいか。
それ以上は知らん。
いや、一般人の俺に魔術のなんたるかなんて分からんし。
あー…だから龍脈っていうか…うん、人間古龍が正しいな。
理解なんてしない方がいいよ。
俺は…一応人間の枠に収まってたと思うよ、うん。
素手でコンクリぶち抜くとかできんし。
まぁそんな感じかな。
俺達はその日、フツーに登校…いや旅をしてたんだ。
三人並んでいつも通りにな。
そしたら前からリムジ…龍車が突っ込んで来たんだよ。
俺はフツーに逃げたし、兄貴はいつも通り片手で止めたし、妹は近くの影に沈んでたな。
うん?だから気にするなって。気にしたら負けだと思え。
その時に気絶してた女の人を助け出したんだよ。
そのままだと色々危ないことになりそうだったんでな。
気絶したままの女の人を、俺は医師にまで届けた。
と言ってもたまたま医師やってる人が近くにいて、そこまで運んだだけだけど。
運転手も無事だったし、その時は唯の非日常だと割り切ってたんだ。
…その後が問題なんだよ。
その女の人、唯の女の人じゃなくてさ。
所謂王女っての?一国のトップの一人娘だったんだよ。
学校…少し特殊な施設でその人と再会したんだ。
まぁ、相手の方は気付いてなかったみたいだし、礼も何もなかったけどな。
再開した後、その王女と毎日会って話をしたりしたよ。
そんでまぁ…少ししてから付き合うことになったんだ。
話は変わるんだけど、俺の兄貴の同級生に凄いイケメンがいたんだよ。
このイケメンがなんというか…物凄いモテるんだ。
そいつも同じ…あ、いや、同じだけど違う施設に入ったんだ。
そいつがたまたまこっちの施設に来ててさ。
王女はやってきた男に一目惚れ。
今まで付き合ってた俺を振ってそいつに飛びついたんだ。
『お前なんかが私と同じ立場に立てると思って?貴方は唯のお遊びよ。』だってさ。笑えるよな。
つくづく女運が無いんだよ、俺はな。
だけど俺はこう考えたんだ。
『あぁ、なんて可哀想な人なんだろう』ってな。
身分っつーロクでもないもんに囚われて、自分の目に映る物しか判断できない。
俺はイケメンじゃ無かったが、決して悪くもなかった。
つまりはそういうこと。
アレは見た目で人を判断し、それ以下の者を切り捨て、自分の事しか考えない。
最低だけど可哀想な女なんだ。
俺はキッパリ諦めたさ。
愛情どころか憐れみしか湧いてこない奴に、どうやったって向き合えないと感じてな。
その後は愛ってヤツがなんなのかわからなくなって、誰彼構わず声を掛けてた。
でもさ、俺が振られたのはその施設の全員が知ってた。
なんせ超有名人の恋人だったんだからな。
そのせいで俺の行動は裏目に出た。
俺が振られた理由が広く伝わらなかったていうのもあるな。
要は軽々しく恋人を変えるチャラいヤツみたいな位置付けをされたんだ。
何言っても信じて貰えなくて、散々振られたよ。
しかも、その行動のせいで王女の裏の顔が覆い隠された。
普段の女同士での会話でチラチラ出ていた裏の顔が払拭され、チャラい男に騙された悲劇の女になったんだ。
耳を澄ませばあいつらの会話。『あの男のせいよ。』『可哀想に…本当の愛を見つけられて良かったわね。』『あんな男、いなくなっちゃえばいいのに。』
俺の今までの評価を手の平返して非難した。
俺は嘆いたさ。なんでこんな事になったんだと。
俺は悲しんださ。なんでこんなにも心にない事を平気で喋れるんだと。
そして怒ったんだ。何故俺がこんな仕打ちを受けなければならない。悪いのは全部あいつらじゃないか。
恋人を奪った男が憎い。俺を振った女が憎い。俺を見下す奴らが憎い。緩い愛に浸る奴らが憎い。絶望を知らずにのうのうと暮らす男女が憎い。憎い憎い憎い…。
そいつはそれを力として、活動を始めた。
同士を集って、復讐…とも呼べる活動をな。
まぁ…絶対に危害を加えずに制裁するというか…なんというか…。
アレだ。食いもんぶつけたり、眠らせて落書きしたり、爆発物投げたりとかそんな感じ。
やってて虚しいっちゃ虚しいけど、それ以上に楽しかったよ。
どうせ失うもん何もないし。
今思えばこの方法が一番良かったと思う。
怒りに身を任せて暴走したら、どうなるかわかったもんじゃないからさ。
そんな事を続ける間にも色々あったけど、それは無視の方向で。
それ話しちゃうと面倒だからな。
そんでまぁ…仲間も復讐?を終えて俺から離れ、それぞれの道を歩いていった時、そいつが現れたんだ。
王女だよ。
まだ若い癖にボロボロでさ。一瞬誰だかわかんなかった。
雨に濡れて執事も付けず、幽鬼みたいに街を歩いてた。
流石にビックリしてな。慌てて声を掛けて近くの店に連れ込んだんだ。
そこで事情を聞き出して呆れたよ。
知らない間に結ばれてた許婚がいて、そいつに無理やり犯されたんだと。
あの一目惚れしたイケメンは、許婚が送った脅迫電話に気付かず他の女達と何時ものように戯れてた。
そのせいで王女は許婚の捌け口に使われて、もうイケメンと付き合えないと街をフラフラ。
現在まで至ると。
これを聞いて、俺は取り敢えず王女を殴った。
陰々鬱々と話をされてイライラしたのと、俺を手酷く振っておいて俺に一切気付かなかったのと、俺を女と勘違いして話始めたからだ。
いや、王女と付き合ってた時は一人称が『僕』だったし、見た目も可愛い系からこんな猫目になってたから、気付かなかったのも無理はないけどね。
王女を殴った理由のもう一つは…王女が俺といた時とは正反対の性格になってたからかな。
あの時みたいに人を見下す性格だったならば、イケメンを取らずに許婚を取ってたはずだ。
そっちの方が圧倒的に家柄は良かったし。
更に俺に謝りたいと言ったんだ。あの王女がだよ?
俺を振った時、もっと他の方法があったんじゃないかとずっと悔やんでたみたいでな。
どうもあのイケメンは王女に良い影響を与えたらしい。
その良い意味で変わり果てた王女が、この有様だと思うと…情けなくてしょうがなかったんだ。
それで殴った。何時迄もメソメソしてんじゃねぇっ!てな。
やられたらやり返す手段は幾らでもある。
相手が卑怯な手を使ったんなら、こっちでもそれが使える。
相手が何も言えなくなるまで徹底的にやり返し尽くす。自分の食らった被害を最大限に利用して、もう二度と這い上がれないようにするまで潰し尽くす。
だから俺は王女に協力することにした。
相手のやり方が許せないと思ってな。
これには兄貴も賛同してくれてさ。そろそろイケメンの意思をハッキリさせないと爆発するとかなんとか…。
まぁ、俺には関係ないことだったからよくわからんけど。
その後は…まぁ、お察しくださいって所かな。
許婚は五体不満足で出廷し、婦女強姦の罪で強制的に豚箱送り、出所する度に『何故か』新たな証拠が発見されて、また豚箱送りの毎日を送ってるはずだ。
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「王女の恋が成功したかどうかは知らない。
だけどまぁ…多分失敗したとしても、またあの性格に戻ることはないと思うよ。
そんだけは確信できるな。」
「…うぅ…お主、いいヤツじゃのぅ…。」
「そ、そうかぁ?今の話聞いてその感想は出ないと思うけど…。」
「いや、妾はそう思わぬ。
相手を許すには相当の覚悟が必要じゃ。
それが元恋人、更には恨みまで持つ程の腐りきった相手を許す上に救うなぞ、到底できることではないわ。
お主はいいヤツじゃよ。うむ、妾が保証するぞ。」
「…そーですか。そりゃ光栄だ。」
「うむ、光栄に思うが良い!」
…変な奴だ。
こんなヘビーな話聞いてその感想かよ。
まぁ、王女らしいからいいか。
お?街が見えてきた。
まだ昼過ぎぐらいなんだけどな…。
多分アレが王女の国だろ。
そろそろ王女ともお別れかぁ…。
なんかちょっとだけ寂しいとのあるよ。うん。