俺はスマホを片手に待ち合わせ場所で
あいつはよく約束した時間より前に待ち合わせ場所にやってきては、ニヤニヤと嗤いながら「あれぇ?せんぱぁい。今日も遅いですねぇ!」なんて、ふざけたことを抜かしてくる。
だから、今日は俺がそれをあいつに言ってやるのだ!
と、俺は心の中でそう意気込んで、約30分。
待ち合わせの時間から既に10分は過ぎていた。
珍しいなと思いながらも、これであいつを揶揄う要素が増えたな、と内心ニヤニヤしながら待っていると、
「す、すんません、先輩!遅れました!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声を聴く限りじゃ、かなり慌ててきたのだろう。
振り向くと、息を荒く吐きながら、こちらに申し訳なさそうに顔を向けている、俺の大学の後輩である
その顔に俺は思わず毒気を抜かれる。
こんな顔されちゃ、揶揄えないだろ、と苦笑を浮かべながら、兎島に歩み寄る。
「よぉ、兎島」
「は、はい。こんちはです、先輩」
「今日は珍しいな、お前が遅れるなんて」
「い、いやぁ、準備に手間取ってしまって……。申し訳ないです」
兎島はそう言って、気まずそうに後頭部を掻く。
「……まぁお前が無事ならなんでもいいよ。それより、そんなに準備することなんかあったか?」
「ッ!?あ、あります、ありますよ!」
「わ、わかった。わかったから、そんなに体を寄せんな、当たってんだよ」
「当ててんすよ!」
なんかもう既に混沌としているが、俺はそれをあえてスルーする。
だってどうすることもできんし。
「とりあえず買い物行くぞ。今日はお前のために時間空けてきてるんだからな」
「……先輩はうちのためにいつでも時間空けておくべきだと思います」
「んな無茶な」
そんな雑談をはさみながら、俺たちはショッピングモールに向かう。
「ていうか、今日は何を買いに行くんだ?俺、買い物行きましょうってこと以外何も知らないんだが」
「え?!えーと……、それはあれですよ!あれ!」
「いやどれだよ……」
……ほんとに唐突だが、俺はこいつが好きだ。
最初は、ただ鬱陶しいやつ、ぐらいにしか思ってなかったが、毎日こいつと一緒に過ごしていくうちに、心惹かれていき、そして――って感じだ。
こいつが俺をどう思っているのかわからないが、今日買い物を誘われたのは僥倖だ。
今回の
そんな考えが頭をよぎった。
でも、俺は後悔する。
幸せとは、一瞬で壊れるものなんだって。
今は信号機の前にいる。
目の前を車が走り去っていく。
ショッピングモールは、この横断歩道を渡った先だ。
もうすぐで着く。なのに……なんでだろうか。
すごく嫌な予感がする。
背中に変な汗が伝う。
「……どうしたんすか、先輩」
「……ッ、あぁ、いや、なんでもない」
「そうですか?でもなんか、顔色悪いっすよ」
「いや、本当に……」
兎島が俺の額に手を当てる。
「熱はないみたいっすね」
「だ、だから言っただろ?なんでも」
ないって、と言葉を続けようとする。
しかし、少し離れたところから聞こえてくる悲鳴によって、それは遮られることになった。
「キャアアアアアア!!?」
「!?」
「何かあったのか?」
俺は少しでも兎島を危険から遠ざけようと、兎島の盾となるように、悲鳴が聞こえた方向に立つ。
「大丈夫だ」
「せ、先輩?」
俺は無意識に兎島を抱き寄せる。
なんでこんなことをしたのか、俺にもわからない。
でもなんか……最期な気がしたから。
……いやいや何を考えているんだ俺は!?
縁起でもあるまいし。
と、そんなことを考えている間にも悲鳴はどんどん近くなってくる。
先輩、と声が聞こえる。
俺は兎島のほうを見ると、俺の脇腹に顔をうずめて、体を震わせている。
大丈夫、そう声をかけたかった。
でも、
ドンッ!
「……え?」
おそらく悲鳴の元凶から逃げるためにこちら側に来たのだろう。
あれだけ大きな悲鳴だ、よほどのことがあったのだろう。
でも休日なだけあって、歩道にギュウギュウに詰められた人の塊。
そこに少しでも乱れがあったのなら、崩れるのは必須。
それで崩れた部分が、俺たちだったのだ。
人の波に押されて横断歩道に飛び出してしまった俺たち。
歩行者用灯器は赤のままだ。
そして真横から走ってくる、大型トラック。
俺は最後の力を振り絞って、トラックから守るように兎島を抱きしめる。
瞬間、全身に激痛が走ると同時に空の向きがおかしくなる。
腕の中には少し顔をゆがめた兎島の姿が。
次に目に入ったのは、地面。
またもや全身に激痛が走る。
どうやら地面に落ちたようだ。
もう一度兎島のほうを見ると、ふつうに見れば怪我のなさそうな様子だ。……よかった。
「(なんとか、護れたみたいだな)」
《確認しました。ユニークスキル『
「(これはもう死ぬことは確定なのか?……あぁ、マジで死にたくねぇなぁ)」
《確認しました。不死身の肉体を生成……成功しました。付随して耐性『即死無効』、『状態異常無効』、『痛覚無効』を獲得しました》
「(それにしても、兎島に伝えたかったな、好きだって……)」
《確認しました。ユニークスキル『
《確認しました。ユニークスキル『
「(……んだよ、さっきから……うるせぇな。ゆっくり眠らせてくれよ……)」
だんだんと暗くなる俺の視界
でもなぜか不思議と怖さはなかった
そんな不思議な感情を感じながら、俺の人生は幕を閉じた。
ふと、意識が覚醒する。
まず感じたのは、地面の硬さだ。
ただ硬いだけじゃない、ゴツゴツと……まるで舗装もされていない地面の上で寝転んでいるかのような感覚。
そんな不快感を味わいながら、俺は目を覚ました。
まず目に入ったのが、木。
それも一本二本の話じゃない、何十本、何百本も。
「(……は?)」
俺はあまりのことに声を上げようとしたが、なぜか声が出ない。
「(あ、え?なんで……?)」
喉に異常があるのかと思って、その部分に触…………ろうとするが、そもそも腕の感覚がないことに気づく。
「(は!?)」
何がなんやら、俺の頭は今の状況についてこれない。
……っていうか、なんかやたらと低くないか?視界そのものが。
すぐ下に視界を移すと、青々と生い茂っている草が。
「(くっそ、マジでわけわかんねぇ……、ていうかここどこだよ!)」
俺は自分の身に起きていることを一回置き、なぜ自分がこんな場所にいるかを考える……否、思い出す。
そして、思い出した。
「ッッッ!!?」
兎島を守ろうと抱きしめて大型トラックに轢かれ、そして死んだことを。
口に酸っぱいものがせり上がってくる感覚に襲われ、俺は抵抗せずに口を開けようとする。
しかし、なぜか口すら開かない。いや、そもそも開く口がない。
「(何がどうなってるんだよ……!!)」
俺はとりあえずこの場から離れたくて、走ろうとする。
でも、走るための足が無ければ、進むことができない。
俺は前のめりに転がってしまう。
「(腕もねぇ、足もねぇ、口がねぇからため息すらつけねぇ。ほんとにどうなってやがるんだ俺の体は)」
俺は仕方なしに、体を引きずって移動する。
地面がゴツゴツとしているから擦った場所に痛みが走るかと思ったが、そんなことはなく、スルスルと地面を擦っていく。
そんなあてもなく移動していると、周りに木の生えていない広場にたどり着いた。
「(なんだここ、いやな気配がする……)」
少し怖気付きながら移動していくと、見たくないものが視界に入ってくる。
「(これって……!?)」
目の前にあったものは、たくさんの死体。
でも、人間のものじゃない。
肌が緑色で、小柄で、やせ細った、ヒト型の生き物。
ここがもし今までいた地球とはまた別の世界だとして、もし俺があの時死んで、別の世界で新たな生を受けたと仮定して、前の世界が前世だとするならば、この生き物の名前は、"ゴブリン"だ。
前世の読み物とかで何回か見たことがある、外見もまぁまぁ一致している。
そんなゴブリンが、深い傷をつくって、血を流して、肉を腐らせて、骨をむき出しにして倒れていたのだ。
この傷を見るに、死んでいるのだろう。
しかも死んで十何日か経過しているようにも見える。
俺はそれを見て……不思議と惹かれた。
そして考えるが先か動くが先か、俺はその崩れかけの体に全身をぶつけていた。
「(ちょ、俺はいったい何を!?)」
気が付いた時には時すでに遅し。
俺の体は、俺の意思に関係なくその死体の中に入っていく。
そして俺は、意識を落とした。
「……ッ!?」
気が付くと俺は、二本の足でしっかりと地面を踏みしめていた。
でもその足は肌色の――人間の肌なんかじゃない。
肌は緑色で、少しだけ筋肉質な、
その体に傷は一つもついていなくて、まるで生まれてこのかた、怪我をしたことがないといった感じだ。
でも、わかっている。
この体は俺のものではなくて……、この体は……
俺はハッとして、後ろを……厳密には振り返って下のほうを見る。
そこには、日がたって酸化して変色してしまった、赤黒い血だまりが。
俺は汚れることなんかお構いなしに、血だまりのそばに膝をついて、覗き込む。
少し見えづらいが、俺の顔はまるで、靄にでもかかったんじゃないかってぐらい、どんな顔かわからないぐらいに見えなくて。
その見えない顔の中心には、無機質な……いうならば魂みたいなものがあった。
物語的に、原作開始直後から少し前を想定
感想くれ〜