焼け落ちる建物をあとにした俺は、ゲルドがいる場所に向かう。
オーガの里を通り過ぎ、森の中に入ると、そこにゲルド含む、オークたちがいた。
俺は手をあげて、ゲルドに俺が戻ったことを知らせようとする。
しかし、その前にゲルドのわきにいたオークたちに巨大な剣を突き付けられてしまった。
「貴様、先ほどのオーガの生き残りか!」
「一人でノコノコとここまで来たのは間違いだったな」
オークの言葉を聞いて、俺は納得した。
なるほど、俺はオーガの里を襲う前は狼の姿をしていたのに、事が終わって俺のことを待っていれば、さきほど襲ったオーガの一体が自分たちのもとへやってきたのだ。
警戒しないほうがおかしいというもの。
俺はどうやって誤解を解こうか考えていると、ゲルドがオーク二人に待ったをかける。
「待て。こいつはデアートだ……」
ゲルドの言葉に声は上げないが、驚いた表情をする二人。
「(Exactly。よくわかったな、ゲルド)」
「姿は違えど、感じる魔力は同じだ。間違えるはずがない」
なかなか嬉しいことを言ってくれる。
が、ゲルドの様子を見ると、随分と苦しそうだ。
何かしてやりたいが、原因がわからない以上、俺にはどうすることもできない。
どうすれば……。
【伝:これは、個体名ゲルドのユニークスキル『
「(飢餓者?)」
ここ最近顔を出していなかった
【伝:強力な支配系のスキルです。味方に周囲の物質を喰いつくし、自分のエネルギーに変換、及び取り込む性質を与える能力を保有しています。また、スキル保有者が飢えれば飢えるほど、自身の戦闘能力が高まっていくという能力があり、このスキルの影響で個体名ゲルドは、終わることのない飢餓に襲われています】
……つまり、そのスキルによってゲルド及びほかのオークたちは苦しんでるんだな?
【伝:はい】
……なるほどな。
どうにかしてやりたい、でも今の俺じゃ力不足だ。
ていうか、どれだけ強くなったところで、スキルの影響を消し去るなんてことできるのか?
俺はうんうん頭を悩ませていると、ふと、まだゲルドの飢餓者が今みたいな脅威を放っていなかったとき――つまり、今ほど飢餓に悩まされていなかったときの会話が、頭をよぎった。
これはまだ名付けをされて、少ししか経ってないとき。
俺はゲルミュッドの三歩後ろを歩くゲルドに興味を持っていた。
この世界で三人目の人型生物。
そしてまともな意思疎通が可能。
俺もうこの世界の生き物全員ゲルミュッドみたいに、上から目線なのになんだか小物臭のする野郎しかいないかと思ってたから、めちゃくちゃ救いだ。
俺はさっそく話しかけようとするが、一つ問題があった。
「(そういえば俺、口ないから話せないじゃん)」
思わぬ弊害である。
死体だから腹が減らないラッキーなんて思ってた少し前の俺をぶん殴ってやりたい。
……今は肉体が狼だから、殴ることはできないけどな。
「(いやでもせっかく暫く同行するんだから、意思伝達ぐらいはしたいじゃんかよぉぉぉ!!)」
「…………どうかしたのか?先ほどから何か嘆いているようだが」
「(いやよぉ、ゲルドと話したいのに、話すための口がないからどうやって会話しようか考え、て……た……)」
「お前は何を言っている?会話は成立しているではないか?」
「(ほんとだぁぁぁ!?なんで?!)」
【伝:コモンスキル『思念伝達』の効果です】
お、お前は……伝言者!
なんてピンポイントなスキルを持っているんだ俺は!
……あ、いや、持ってたのはこの肉体の持ち主か。
いやそんなことはどうでもいい!
俺は今、猛烈に感動している!
今世では、俺は二度と会話のできない悲しきモンスターになってしまうのではないかって思っていた。
でも、
俺はそこから馬鹿みたいに、ゲルドと話した。
ゲルドは少しだけ溜息をつくが、俺が飽きるまで話に付き合ってくれた。
ある程度話した、飽きるまで話した。
あんなに高かった日は、すでに水平線の向こうへと沈みそうだ。
その時、俺からではなく、ゲルドから話しかけられる。
「デアート。お前には何か目的や目標のようなものはあるか?」
「(んー?そうだな、今はある程度力を鍛えたいかな。俺まだ弱いし)」
「そうか。…………俺は、俺を信じて付いて来てくれる仲間や、子供たちが今後、腹を空かせないようにしたい」
「(ふぅん、なんか大層な目標だな)」
「……大層に聞こえるか?」
「(あぁ。生き物ってのは、自分が一番なんだ。口では何とでもいえるが、結局危険なことが起きればわが身優先。他人なんてお構いなしさ。でも、ゲルド。あんたは違う。あんたは他人のために己を壊す覚悟がある。自分がどうなってもいいから、他人を助けたいと、そう考えている。それは、普通の思考をしている奴にはできないことだ)」
「……そうか」
そういうとゲルドは、これで話は終わりだ、といった風に、前を向いて歩き始める。
その時の俺は、俺の言葉でゲルドの機嫌を損ねてしまったのではないかと慌てて、あいつの背を追った。
まだそんなに経っていないはずの思い出が、遥か遠い記憶のように感じてしまう。
……って、そんな感傷に浸っている場合じゃない!
えーと俺はかつての思い出を思い出して何を話そうとしたんだ?
んーと、えーと…………あ!
「(なぁゲルド)」
「なんだ」
「(お前はこの前、誰も腹を空かせないことを目標にしてるって話をしたよな?)」
「そうだな」
「(俺にもそれ、手伝わせてくれないか?)」
「……は?」
こいつは何を言っているんだ。と言ってきそうな顔をするゲルド。
「(お前が目指す未来を、俺も見たくなったんだ。だから手伝いたいと思った。……ダメだったか?)」
俺は、東の空が少しずつ明るんでくるのを眺めながら、ゲルドに告げる。
ゲルドは未だに豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔をしているが、だんだんと俺の言葉を理解したのか、その顔はシブいものへと変わっていく。
「それは……だめだ」
「(……理由を聞いても?)」
「今から俺たちがやろうとしていることは、戦いの火種を至る所に蒔く行為だ。つまり、戦いは避けられない」
「(そうだな)」
「それにデアート、おまえを巻き込みたくない」
「(その話、今更過ぎないか?)」
「確かにそうだな」
だが、とゲルドは口にして、俺と同じく東の空を眺める。
日の出は近い。
「お前の顔――存在は誰にも気づかれてはいない。今ならまだ間に合う。その体も焼け落ちたオーガの里で偶然見つけたものだと言い張れば、あるいは……」
「(それにしたって……今更だろ)」
「(もう俺は、お前の夢ってのを聞いちまったから。世界から見ればちっぽけに見えちまうお前の夢を、俺は宇宙より大きなものに感じたんだ)」
日が昇り始める。
木々の隙間からのぞき込む陽ざしは、ゲルドだけを明るく照らす。
「(だからよ、俺にも見せてくれよ、手伝わせてくれよ。お前の思い描く未来をよ)」
「……」
小さく唸るゲルド。
ゲルドにとって、その未来ってのが何に繋がるのか、何がきっかけで願うようになったのかはわからない。
だが、それがどのようなものであれ、それを見届けたいってのは事実だ。
あとは、ゲルドが俺の言葉を聞いてどう思うかだけ。
「…………後悔するかもしれないぞ」
「(まぁ、これから永遠にも等しい時間を生きる俺にとって、後悔の一つや二つ……なんてことないさ)」
「共犯者として、追われる身になるかもしれない」
「(そんなこと考えたらキリねぇな)」
俺はゲルドの言葉をまっすぐ見返して、笑いながら一蹴する。
ゲルドはそんな俺の態度に理解したのだろうか。
一つ、静かに溜息をつくと、踵を返して群れの中へ戻っていく。
「……好きにしろ」
「(……はは。好きにさせてもらうわ)」
俺に聞こえるか聞こえないかの間ぐらいの声で、ぼそりと呟くゲルド。
俺はそれが無性に面白くて、笑いが漏れる。
俺はこの世界にきて、初めて目指すべき目標が立った。
《誰も腹を空かすことのない世界》
俺はこれを、それこそこの体朽ちるまでやってやる覚悟がある。
それがたとえ、ゲルドと永遠の別れをしたとしても、だ。
コハクから奪ったスキルはまだ出しません。
出番はあともうちょっと先です。