チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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※あのせか最新刊に想うことあったので臨時更新


10、鉢合わせ

「も、申し訳ありませんお嬢様……」

「何やってんのよこの愚図! 危うくモンスターの攻撃が当たるとこだったじゃない!」

「で、ですが……当たりそうだっただけで当たっては――」

「誰が口答えしていいと言ったァッ!? 伯爵令嬢のこの私ときらびやかなこの鎧に傷でもついたらどうしてくれんのよ! アンタもアンタの家もただじゃ置かないわよ!」

「そ、そんな御無体な……」

「潰されたくなけりゃしっかり守んなさいよホント鈍臭いわね! 平民に毛が生えた程度の準男爵家なんか叩き潰すの訳ないんだからね!?」

 

 

 意図せず前の組に追いついてしまったリオンとアンジェは胸が悪くなるような光景に直面していた。

 それは実家の爵位の高さをひけらかす様な見るからに成金趣味な華美な装束の装備に身を包んだ、両サイドに三つ編みを環っかにした特徴的な髪形に性悪そうな面構えの令嬢。

 伯爵令嬢と名乗っているが、同じ伯爵令嬢でもクラリスとは天と地ほども差を感じる。

 そしてもう一人、地面にへたり込み、成金装備の性悪令嬢に足蹴にされてるおそらく彼女の取り巻きであろう少女。

 紺色の長い髪の中々の器量良しだが曇らせ沈んだ表情がそれを台無しにしている。スレンダーな体系を包む簡素な冒険者装束は血と泥に塗れ破損も目立つ。

 対照的に成金装備の性悪令嬢の装備はまるで下したての新品のような状態。本意か不本意か取り巻きの少女が身を挺して守ったのであろうが、彼女に対する態度はあまりに無体なもの。

 また性悪令嬢の周りには他にも複数の取り巻きが居るが、誰も紺髪の少女を助けようとはせず我関せずと視線を逸らすか性悪令嬢と共に見下す者も。

 

 

「嫌なもん見ちまったな……」

 

 その光景にリオンは吐き捨てるように呟く。

 だがあえて面倒ごとには関わろうとはしない。忌々しいことだがこの学園にはこういう性悪な女生徒と言うのはそこまで珍しくはない。まぁここまで酷いのはそう居ないかもしれないが。

 何よりここで関わりアンジェを危険や面倒ごとに巻き込みたくなかった。

 

「関わると面倒な連中だ。一旦引くぞアンジェ。……アンジェ?」

 

 隣のアンジェの横顔を見ればそこに浮かんでたのは義憤にかられた表情。生来真っ直ぐな気質のアンジェはこのような光景に黙って居られないのだろう。

 リオンが不味いと思った時にはもう遅くアンジェは既に駆け出していた。

 地面を踏みしめ靴音を高く鳴らしながら駆け寄るアンジェの姿は殺気を漲らせ深紅のオーラを迸らせ、それはケープの認識阻害をも打ち消してしまうほど。

 その姿に性悪令嬢は目を剥き慄き数歩後ずさる。

 アンジェが拳を振り上げると性悪令嬢は怯えの表情を浮かべ目を瞑る。

 だがアンジェはその拳を振り下ろすことなくその前を通り過ぎ――。

 

 次の瞬間、凄まじい轟音が鳴り響いた。

 見ればアンジェはミスリルフィストを嵌め炎を纏った拳でモンスターを打ち抜き壁に叩きつけていた。

 それはまるで大蛇の様な大蜈蚣のモンスター。強力な大顎と、杭のような爪を備えた無数の脚、胴回りの太さなど女性のウエストほどもある獰猛で危険なモンスター――ヒュージセンチピード。

 

 

「ギュイイイィィィィッッッ!」

 

 アンジェの拳と壁に挟まれジタバタと藻掻きながら身の毛もよだつような悲鳴を上げる大蜈蚣。

 その声に性悪令嬢と取り巻き達は怯え慄く。

 それはジャイアントアントなどより上位の、このダンジョンでは危険な部類に分類されるモンスター。

 拳と壁に挟まれながらも藻掻き暴れまわる大蜈蚣の無数の爪がアンジェの装備や皮膚に傷を負わせるがアンジェは全く怯まない。

 

「ハァッ!」

 

 アンジェが気合と共に魔力の炎を活性化させると大蜈蚣は一瞬で火だるまになり、やがて燃え尽き黒い煙となり消えていった。

 モンスターが消え去った後もアンジェは拳の炎を消さずにいた。薄暗い洞窟の中、炎に照らされたアンジェの勇姿はたった今負った傷や流血も相まって戦女神の如き印象を見る者に刻み付ける威容。

 その姿の放つ圧に性悪令嬢は尻餅を着く。

 

 そしてアンジェは歩を進めると炎を消し右手のミスリルフィストを外しそっと手を差し伸べる。紺色の髪の少女に向かい。

 

「大丈夫か?」

 

 アンジェが微笑みを浮かべ手を差し伸べると紺色の髪の少女はその手を取ろうと手を伸ばそうとするが途中で止まる。

 その様子にアンジェが首を傾げる。

 

「その……お気持ち有り難いです。ですが私、泥と血に塗れ汚れてて……」

 

 申し訳なさそうに口ごもる少女にアンジェは「何だそんな事か」とその手を伸ばし掴むと引き立たせる。

 

「モンスターひしめくダンジョンの探索してれば泥も血も当たり前だ。私だって似たようなものだ何も恥じる事は無い。むしろダンジョンにまで来て小奇麗な身なりをしてたらそちらの方こそ恥ずべき姿だと思うが?」

 

 言いながらアンジェは性悪令嬢に冷たい視線を送る。

 その言葉に性悪令嬢は激昂する。

 

 

「何だと! この無礼も――」

 

 その言葉を遮る様に目の前を投げナイフが通過する。投擲されたナイフは離れた場所に居たジャイアントアントに突き刺さる。

 だがその投擲は致命傷には至らず、モンスターを怒らせただけ。傷を負わされた事にジャイアントアントは痛みに怒りを燃やし、その牙はモンスターの最も近くにいた性悪令嬢に向けられる。

 

「お嬢様!」

 

 モンスターに襲われる性悪令嬢の元へ紺髪の少女が駆け寄ろうとする。だがその顔から伺えるのは忠義心と言うよりは恐怖。

 アンジェはそんな彼女の腕を行かせまいと掴む。

 

「放して! お嬢様に若しものことがあったら――」

「大丈夫だ!」

 

 アンジェは力強く声を発した。

 それはアンジェには見えていたから。それは――

 

 

 襲い来るジャイアントアントに「ヒイィッ!」と悲鳴を上げる性悪令嬢。その性悪令嬢に牙が届く前にジャイアントアントは鋭い刺突により絶命し黒い煙へと変わる。

 突きを放ったのはリオン。体を開き全身をばねの様に伸ばし、遠間から放たれたブレードによる片手突きの、矢の様な一撃。

 それはまるでフェンシングの達人の様な必殺の一突き。更に言えば先程のナイフの投擲もリオンによるもの。

 性悪令嬢の無事に紺髪の少女は安堵し膝から崩れ落ちそうになるのをアンジェが抱き留める。

 

「あ、ありがとうございます。それにしても今の凄い突き……。あの方は一体……」

「君も聞いたことが無いか? 入学前にダンジョン踏破を成し遂げた猛者、リオン・フォウ・バルトファルトの名を! 私の自慢の……親友だ!」

「バルトファルト男爵。あの方が噂の……」

 

 驚きの表情で呟く紺髪の少女。

 そして少女の隣で共にリオンを見つめるアンジェの顔はとても誇らしげだった。

 

 

 

 一方、リオンはブレードを納刀もせずジャイアントアントを突き刺し屠り去ったその姿のまま性悪令嬢に視線を向ける。

 

「いやぁ危ないところでしたね。大丈夫でしたか?」

 

 その顔は笑顔ながらも視線は冷たく圧を放っていた。

 未だ抜身のブレード、冷たい視線と圧。それは、引けばこちらも引くがやるならやるぞと意思を表してるよう。

 性悪令嬢は舐められてたまるかと言い返そうとするが、目の前のブレードの放つ冷たい光に呑まれ顔を青くしつつも口元は悔しそうに歪める。

 そうしてお互い視線で牽制し合う。

 

 

「騒がしいですよ」

 

 沈黙を切り裂いたのは澄んだよく通る声。声の主はオリヴィアだった。

 その声にリオンはブレードを鞘に納めオリヴィアに対し胸に手を当てこうべを垂れ礼を取る。

 また紺色の髪の少女も胸に手を当て片膝をつく礼をとる。その流れるような所作にアンジェは目を見張る。

 オリヴィアの取り巻きの一人が軽く咳払いをすると遅れて性悪令嬢と彼女の他の取り巻き達も礼を取る。

 

 

 オリヴィアは一団に向かい歩を進める。

 そしてリオンに向かい笑顔で目配せするとリオンは会釈し胸元の手を下ろし張り詰めた気を緩める。

 次にアンジェの元に歩み寄ると手の平をかざす。かざした手の平からは優しく温かな光が放たれ、その光はアンジェの全身を覆いやがて彼女の身についてた傷などを癒す。

 

「アンジェリカさん。初めてのダンジョンではしゃぐのも分かりますがあまり傷をこさえるものではないですよ?」

「おぉ、痛みが引いて行く。コレって回復魔法か? 初めて見た。ありがとうオリヴィア様……っと私などより――」

「分かっています」

 

 言ってオリヴィアは微笑むと腰をかがめ、片膝を着いた礼の姿勢を取ってる紺色の髪の少女に向かい回復魔法をかける。

 

「オ、オリヴィア様……! 私などに回復魔法を施していただき恐れ多くも身に余る光栄……」

 

 畏まる少女にオリヴィアは微笑みを向け、そして回復魔法をかけ終わると優しく語り掛ける。

 

 

「ウェイン準男爵家の御息女、カーラさん。カーラ・フォウ・ウェインさんですよね?」

「わ、私の事御存じなのですか!?」

 

 オリヴィアが自分の名を知ってたことに紺色の髪の少女――カーラは驚きと、そして感激が入り混じった表情を見せる。

 

「同じ学び舎で学ぶ生徒たちの名前は大体覚えてますから。皆さん将来共にこの国を支える貴族の子弟なのですから当然です。それより……」

 

 言いながらオリヴィアはハンカチを取り出すとカーラの頬についた泥を拭う。

 

「い、いけません! お手が汚れてしまい――」

「構いません。ダンジョンを探索すれば泥も血もついて当然なのですから。むしろ汚れ一つない私のこの姿の方が恥ずかしいぐらいです。

私が傷汚れ一つ無いのは仕え支えてくれる方々が護ってくださったお陰で、そのことについては勿論感謝してます。ですが、泥と血に塗れた貴女の姿は主を護っての証。

その姿は傷も汚れも無い私などよりも遥かに冒険者としての本分を全うした姿。決して恥じるものではない尊い姿です。胸を張ってください」

 

 そう言ってオリヴィアが微笑みかけるとカーラは感極まって涙を溢れさせる。

 

 

「それに引き換え……」

 

 オリヴィアは立ち上がると視線を巡らせる。

 

「このように身を粉にして尽くしてくれる方を足蹴にする行為こそ恥ずべきものと思いますが?」

 

 言い放ったオリヴィアの声は低く冷たく圧も感じさせ、それは先ほど迄の優しく温かな声の持ち主と同一人物と思えないほど。

 紡がれた言葉はまるで性悪令嬢がカーラを足蹴にしてたのを見てたかの様な言い回しだが、覗いてたわけではない。

 カーラの身に刻まれたいくつもの靴跡と泥、そして性悪令嬢にまつわる醜聞から容易に状況は推測出来た。そして性悪令嬢の目を逸らす仕草もまたその推察を証明する様に。

 オリヴィアの非難の意思を滲ませ紡がれた言葉、視線と圧を受け性悪令嬢と、そしてカーラを助けず見下してた他の取り巻き達は益々縮こまる。

 

 

「コ、コッチは進行が遅れてるんだから先を急がしてもらうわ!」

 

 性悪令嬢は虚勢を張る様に声を上げると逃げるように早足で歩き出す。周りの取り巻き達も慌てて着いて行く。

 そんな様子をオリヴィアは溜息をつき呆れたような視線で見つめる。

 

 

「あ、あの……オリヴィア様。此度は本当にありがとうございました! このご恩は忘れません! あと、そちらの……アンジェリカさん、と仰るの? 貴女もありがとうございました!

バルトファルト男爵もお嬢様を助けていただきありがとうございました!」

 

 カーラは感謝の意を込め三人それぞれに向け頭を下げる。そして逃げるように去っていった性悪令嬢の後を追いかけるのだった。その際何度も何度もこちらを振り返りながら頭を下げて。

 そんなカーラに向かってオリヴィアが声をかける。

 

「カーラさん! ダンジョン探索が済んだら医務室でも診てもらいなさい!」

 

 そして更に言葉を継ぐ。

 

「あとで医務室で確認取りますからね!」

 

 その言葉はカーラにと言うより、恐らく性悪令嬢に向けたモノだろう。カーラが医務室に向かうのを妨げないよう。またこれ以上カーラに無体な真似をしないよう。

 若しすれば医務室で確認を取れば分かるという釘を刺したのだろう。

 そして性悪令嬢の一団もカーラの姿も見えなくなるとオリヴィアは溜息をつく。

 

 

「なぁ、オリヴィア様。何でさっきの、カーラって言ってたか? あのコはあんな性悪に付き従っているんだ?」

「家の繋がりのせいです。彼女の実家ウェイン準男爵家は、あの令嬢の実家オフリー伯爵家とは寄子寄親の上下関係でそれがそのまま彼女たちにも当てはまってしまっているのです」

「それであんな性悪に付き従って……いや、付き従わされて。何とかしてあげられないのか?」

「我がレッドグレイブ公爵家に次ぐ勢力のフランプトン侯爵家。その派閥に属してるのがオフリー伯爵家なのです。公爵家といえどおいそれとどうにか出来る相手ではないのです」

 

 オリヴィアがやるせなさそうに言葉を紡ぐと、アンジェも悔し気に顔を歪める。

 

 

「今すぐどうこう出来る問題ではありません。ですが……このままにしておくつもりもありません」

 

 僅かに低い声で紡がれたオリヴィアの言葉には強い意志を感じさせた。直後アンジェの肩に手を置き優しい声に切り替える。

 

「今はダンジョン探索を無事終えることに専念しましょう。貴女を気にかけてくれる男爵の為にも無事終えましょう」

 

 オリヴィアの言葉にアンジェはリオンに視線を送る。ずっと身を案じ優しく見守ってくれてる親友の存在に気持ちが和らぐ。

 

「では私たちは戻りますね。早く戻らないとユリウス殿下達がこっちに来てしまうかもしれませんから。アンジェリカさんと男爵は再び前の班と鉢合わせないようお気を付けて」

「あ、ああ。オリヴィア様も気を付けて」

 

 そうしてアンジェとオリヴィアは互いに手を振り挨拶を交わし、リオンもオリヴィアと目が合うと胸に手を当て会釈すると、オリヴィアも会釈で応え、彼女の取り巻き付き添いを引き連れ来た道を戻っていったのだった。

 

 

「すっかり傷も綺麗に治ってるみたいだな。流石大したものだな公爵令嬢様は」

 

 リオンがアンジェの隣にやってきて声をかける。

 

「ああ、本当に大したお方だよ」

 

 だが言いながらアンジェは何処か浮かない顔。瞳の先はダンジョンの更なる先。そして性悪令嬢達とカーラが消えて行った方角。

 

「あのコが気になるのか? 大丈夫だよオリヴィア様が気にかけてくれてるのなら。あの方は無責任なことを口にしたりはしない。だろ?」

「ああ、そうだな。オリヴィア様なら信じて任せられる。そうだな」

「うん。じゃぁここまで飛ばし過ぎたから残りはのんびり行こうか、また鉢合わせしない為にも。あと、くれぐれも油断だけしないで。無事終えて帰るまでがダンジョン探索だからな」

 

 そうして二人気を取り直し歩を進めるのだった。




カーラ登場。
私の最推し、大好きなコなんです。
彼女の此処での登場は決まっており既定の事でしたが、あのせか3巻で彼女の出番も安否についても触れられなかったので、その事に何ともやり切れない思い抱いたので本来、来週更新予定だったのを急遽前倒し。
彼女の次の登場は大分先ですが。

若しよろしければ彼女メインの「カーラ if ルート」にも御関心寄せていただければ。
※この話とはアナザー/パラレルの話になります
https://syosetu.org/novel/324379/


次回「王太子と乳兄弟」
また毎週水曜に戻って来週水曜6日更新です
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