チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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11、王太子と乳兄弟

 波乱含みのダンジョン実習から数日。

 ダンジョン内でひと悶着あったオフリー家の性悪令嬢からの逆恨みの報復をリオンは警戒してたが、どうやら杞憂で済んでる。

 アンジェの実質後ろ盾にアトリー伯爵家の令嬢クラリスが居るのは周知の事実。

 また公爵令嬢たるオリヴィアが親しげに話しかけ手ずから回復魔法を施したという事実は、アンジェが彼女の庇護下にあると宣言したも同然。

 アンジェに手を出すことは両家と事を構える事にもなりかねない。さすがにそんな危ない橋は渡る度胸は無かったのであろう。

 

 ただ、懸念が全く無いわけではなく、取り巻きの少女カーラのことをアンジェは後を引き気にしていた。

 とは言えコレに関しては下手に首を突っ込むと家とか派閥とかややこしいことになりかねないのでリオンは静観を決め込む。

 それにオリヴィアも気にかけていたので彼女を信じて任せようとアンジェには言い聞かせることに。

 

 

 

 そうして何事もなかったかのように戻ってきた日常。

 今日もアンジェとクラリスが出くわすと、もはや日課と化した一言二言の嫌味と睨み返しの応酬。そしてすれ違い。

 ただ、その日はアンジェは微かな違和感を感じた。

 だがその場で問いかける訳にはいかず、一旦互いの姿が見えなくなるまで待ち、そして改めて彼女の元へ向かう。

 

「クラリス先輩!」

 

 クラリスは追いかけてきたアンジェに驚きの表情を見せる。今までこんな風に追いかけてきたこと等なかったから。

 取り巻きの一人が前に立ち塞がろうとするがクラリスはそれを手で制す。

 クラリスの元に歩み寄ったアンジェは彼女の頬に手を伸ばし軽く指で触れる。そして指先に着いたファンデーションの粉末。

 

「やはり化粧で誤魔化していたか。実際は相当顔色悪いのでは?」

「……よく気付いたわね」

「当然だ。毎日のように顔を突き合わせてるんだぞ? それに嫌味にもいつもの切れがなかった。一体何があった?」

 

 アンジェの気付きにクラリスは驚きの表情を見せ、直後寂し気な悲し気な微笑みを見せ目を伏せる。

 

 

「良ければ話してくれ。先輩には世話になってる自覚はある。私で力になれることがあるのならなりたい。だから――」

 

 その時、気遣い声をかけるアンジェの言葉を遮る様に取り巻きの一人が声を荒げる。

 

「よくも抜け抜けとそんなことが言えるな! 一体誰のせいでこうなったと――」

「やめなさい! このコに責任は無いわ!」

「で、ですがお嬢様……!」

 

 突然怒声を発し、アンジェに敵意の込もった視線を向ける取り巻きとそれを制するクラリス。

 その様子にアンジェは一つの推測が浮かぶ。

 

「まさかあの緑――ジルクが何かしたのか?」

 

 クラリスの婚約者ジルクはアンジェに懸想してたがアンジェはそのことに対し迷惑としか思っていない。

 だがアンジェとクラリス双方と関わりのある人物であるのもまた事実。

 クラリスから返事は無い。だが悲しそうな今にも泣きそうな顔で俯くその姿はそれが疑問に対する答えに見えた。

 沈黙するクラリスの代わりとばかりに取り巻きが声を発する。

 

「ああそうだよ! ジルクの野郎! お嬢様に一方的に婚約破棄を突き付けてきやがった! それも直接顔を見せることも無く手紙一つで!」

 

 そうして取り巻きの男子は物言わぬクラリスの代わりとばかりにジルクに対する怒りを吐き出した。

 取り巻きから聞かされたジルクのクラリスに対する無礼な仕打ちにアンジェの顔が怒りに染まっていく。

 

 

「あンの、陰険クソ緑が……!」

「落ち着きなさいアンジェリカ! 貴女には関係ない事――」

「関係ないことあるか! 私の大事な姉貴分を虚仮にされたんだぞ! 黙ってられるか!」

 

 アンジェは怒りの声を上げ、制止するクラリスの言葉も手も振り払い駆け出していた。

 

 

「姉貴分……」

 

 そう呟いたクラリスの顔は未だ婚約破棄のショックを引きずりながらも、どこか安らいだ様な報われるような、そんな思いが垣間見える表情だった。

 

「アイツ……平民の癖に馴れ馴れし――」

 

 取り巻きの言葉をクラリスは手を挙げ制する。そして直後我に返る。

 

「い、いけない! 頭に血が上った今のあのコじゃ何をしでかすか分からない!」

 

 クラリスの脳裏に浮かんだのは初めて出会って衝突した時アンジェが深紅のオーラを放った時の様子。それはまるで最上級貴族や手練れの冒険者のような高濃度の魔力。

 あれを暴走させてでもしたらどんなことになるか――いやその場合自分の取り巻きでも止められるか。

 その時クラリスの脳裏にアンジェと立ち並ぶリオンの姿が浮かぶ。彼ならば――いや、おそらく彼しかアンジェを止められないだろう。

 

「バルトファルト男爵を探して伝えて! 彼にしか止められないわ! お願いアンジェリカを――私の妹分を止めて!」

 

 クラリスが取り巻き達に命じる。いやそれはむしろ懇願してるとさえ言えた。

 主の必死の想いに取り巻き達は頷き「分かりましたお嬢様!」と、駆け出し既に姿の見えなくなったアンジェを止めてもらうべくリオンを探しに散開するのだった。

 

 

 

 

「どこだ! どこに居るあの陰険クソ緑! 出てこいジルク! ジルク・フィア・マーモリア!」

 

 アンジェは怒りのまま怒鳴り声を発しながらジルクを探し駆け回る。

 やがてその姿を見つける。

 

 

「おお! アンジェリカさん! 嬉しいですね。貴女の方からわざわざ探して声をかけてくださるなんて」

「答えろ! クラリス先輩に婚約破棄を突き付けるとかどういうつもりだ!」

 

 アンジェがあからさまに怒りを前面に出してるにもかかわらず、ジルクは場違いな微笑みで応えた。

 それは並の女生徒相手なら虜にする柔和な笑みだったのだが、アンジェにとってはむしろ神経を逆なでする以外の何物でもなかった。

 アンジェは益々怒りを滾らせ詰め寄り問い詰めた。

 

 

「おや、どこでその話を? 折角私からお話ししようと思ってたのに先に知られてしまいましたか」

「その口ぶりからすると本当なんだな!? 一体どういうつもりだ!」

「どういうつもりと問われるのならお答えしましょう。これが私の精一杯の誠意なのだと」

「貴様ふざけてるのか!? 一方的な婚約破棄を突き付けておいて! そんなものの何処が誠意だ!」

 

 ジルクの飄々とした物言いにアンジェは思わず襟元を掴む。

 

 

「おっと失礼。言葉が足りませんでしたね。私が言った誠意と言うのは貴女に対してですよアンジェリカさん」

「なんだと!? 何を言ってるのかさっぱり解らん! 解るように言え!」

 

 噛み合わない会話にアンジェは益々怒鳴りたてた。

 

 

「何を騒いでいる!」

 

 アンジェが怒りのままジルクに捲し立ててると、それを遮るような声が響き渡る。

 声の主はユリウスだった。

 アンジェは厄介な人間が現れたと思いそしてジルクの襟元から手を放す。

 いつもならユリウスの姿を見ると話しかけられるのを避けるため逃げ出すことも多かったが、今はジルクを問い詰めてる最中でそんな訳にもいかず。

 

「ジルクとアンジェリカじゃないか。一体何を話して……ジルク!? まさか抜け駆けしようというのではあるまいな!?」

「殿下、誤解です。いえ結果的にそうなってしまいました申し訳ありません」

「一体何の話をしている!?」

 

 ユリウスとジルクが勝手に話を始めたが、話の先が見えないアンジェは怒りの声を発する。

 だがジルクはアンジェに構わずユリウスと話を進める。

 

 

「ですが信じてください殿下。決して抜け駆けしようと思った訳ではありません。私が婚約破棄の話をするより先にアンジェリカさんは私の婚約破棄を知っていたのです」

「ジルク、お前が話すより先にアンジェリカが知ってたというのか? 一体何故……? いやいい、そんなことよりこうなってしまった以上俺も話そう。アンジェリカ!」

 

 ユリウスはアンジェの方を向き真剣な眼差しを向ける。

 それは学園中の殆どの女子ならば見惚れる程のものだったろう。何せリオン曰く彼は乙女ゲームの攻略キャラ筆頭で、それに相応しくその顔立ちは女生徒達を魅了する整った二枚目で、正に絵に描いたような王子様。

 だがアンジェには全く響かずむしろ嫌悪感すら湧く。

 それに加え何か嫌な予感も感じる。

 

 

「婚約者との婚約を破棄したのはジルクだけじゃない。この俺もまた、俺自身の内なる真実の心の声に従いオリヴィアとの婚約の破棄を申し出てきたのだ!」

 

 ユリウスはそう高らかに宣言する。それはもうとても晴れ晴れとした表情で。まるで何か一大事を成し遂げたかの様に。

 

 

「なっ、な……何を言って……もう一遍言ってみろ! オリヴィア様との婚約を破棄しただと!? 一体何を考えている!?」

 

 ユリウスの言葉にアンジェは戸惑い、驚き、呆れ……そして怒りの声を発した。

 

「聞いてくれアンジェリカ。俺達は考えたんだ。どうして俺達のこの熱い想いがお前に届かないのか。そして気付いたのだ。家に決められた不本意な、俺達の意思ではないと言え婚約者がいる身で愛を説いても届く訳が無いと。だからこれは俺達の誠意でありけじめ――」

「寝言を抜かすのも大概にしろ! 何時私がそんな事頼んだ! 勝手に人を出しにするんじゃない!」

 

 ユリウスの身勝手な言い分を最後まで語り切るのを許さないとばかりにアンジェは言葉をかぶせた。

 

 

「出しにするなんてとんでもない! これは俺たちなりに真剣に悩み考え出した結論なんだ!」

「真剣!? 真剣だと!? 冗談も休み休み言え! オリヴィア様が……あの方がどれだけ努力を積み重ねてきたのか分かっているのか!? 真剣と言うのならオリヴィア様の積み重ねてきた努力こそ真剣だ! それを無碍にしておきながら言うに事欠いて真剣だと!? 自分が一体何を言ってるのか分かっているのか!? 無責任なこと抜かすなァ!」

「無責任だなんてとんでもない! 殿下は真剣に考え――」

「貴様も貴様だジルク! この陰険クソ緑! こういう場合諫めるのが殿下の最も側に寄り添ってきた貴様のやるべき事ではないのか!? それなのに諫めるどころか貴様迄クラリス先輩に婚約破棄を突き付けるとは!」

 

 ユリウスを庇いだてるように口を挟んできたジルクにもアンジェは益々怒りを滾らせる。

 

 

「諫める? そのような物言いされては心外ですし悲しく思います。私も殿下もアンジェリカさんをこんなにも真剣に愛しているのにその思いを蔑ろにしないでください」

「貴様らこそクラリス先輩とオリヴィア様の真剣な想いを蔑ろにするな! 二人とも私が尊敬する、私などよりも遥かに素晴らしい女性たちだ!」

「オリヴィアが?」「クラリスが?」

 

 そう言った二人の顔はとても冷めたモノだった。

 そうしてジルクが口を開く。

 

「アンジェリカさん。平民の貴女には分からないかもしれませんが貴族の女子に素晴らしい女性なんてものは居ないのです。皆、自分の家の家格と権威をひけらかす様な傲慢な連中ばかりだ。

その事は平民と蔑まれてきた貴女が誰よりも解ってる筈でしょう?」

 

 その言葉にアンジェは一瞬言葉に詰まる。最近ではそういう目に会うことも無くなったが貴族女子達に散々嫌がらせされていたのは覆しようもない事実。

 

「確かにお前の言う通り最低な酷い貴族女子が多いのも事実だ。だがそうじゃない女子だって居る! 少なくともあの二人は優しく気高く! 間違いなく尊敬に値する女性達だ!」

 

 アンジェはクラリスとオリヴィアを擁護するように真摯で真っ直ぐな目で語り掛ける。

 だがそんな眼差しに対しユリウスとジルクは冷めた、そして憐れむような眼差しを返す。

 

「哀れな……。どうやら騙されてるようだなあの二人に。だがこれでハッキリした。こんな純朴な平民の娘を騙し誑かすとは。やはりオリヴィアに、あの女に俺の后となる資格は無い」

「同感です殿下。私もクラリスと婚約破棄して正解でした。貴族の汚れを知らない清らかなアンジェリカさんを騙すとは言語道断。あんな女と将来結婚の約束を交わしていたなど人生の汚点――」

「貴様らその汚い口を閉じろ!」

 

 二人の身勝手な物言いにアンジェは怒りの声を上げ、そして続ける。

 

「私の事を無知な田舎者の小娘と言うのならそれは構わん! あぁ、そうさ、その通りだ! だがな! さっきも言ったがクラリス先輩とオリヴィア様への侮辱は絶対に許さん! 取り消せ! そして二人に誠意をもって詫びろ!」

 

 激昂するアンジェの顔は額の血管が切れそうなほど怒りに染まっていた。

 

 

「それは出来ん!」「私も受け入れられません」

 

 だが二人から帰ってきたのは誠意の欠片もない冷めた返答。

 

「そうか……。これ以上口で言っても無駄なようだな……だったら!」

 

 言ってアンジェは制服のポケットからオープンフィンガーグローブを取り出す。それはあの日リオンからエアーサンドバッグとともにプレゼントされたもの。

 アンジェにとっては大切な思い出の品。本来ならこのような形で使うのは不本意であるが、だが大切な敬愛する女性達を扱き下ろされてアンジェは自分の心を抑えきれなかった。

 本来ならこの場合使うのに適したのは白い手袋。だがそれを持ち合わせていなかったアンジェが取った行動。

 それは――

 

「決闘だ!」

 

 言ってアンジェは自分のグローブを二人に向かって叩きつけた。

 

「貴様ら二人のその捻じ曲がった性根! 叩き直してくれる!」




この世界線でも始まってしまいました決闘イベント

悪い意味で流石ユリウスとジルク
しかし「カーラ if」ではこの二人だけ出番未だだったのに、此方では逆に真っ先に登場とは
狙ったわけではないのですが中々面白い巡り会わせと感じてます

次回「Pillar of Blaze」
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