チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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12、Pillar of Blaze

「決闘だ! 貴様ら二人のその捻じ曲がった性根! 叩き直してくれる!」

 

 アンジェはユリウスとジルクの言い放った暴言――それぞれの婚約者に突き付けた身勝手で一方的な婚約破棄に怒りを抑えきれず、白い手袋の代わりとばかりに己のグローブを叩きつけ言い放った。

 

 

「落ち着けアンジェリカ」

「そうですよ一先ずは落ち着いて――」

 

 激昂するアンジェに対しユリウスとジルクは宥めようと話しかけるが、そんな二人に向かいアンジェは高速の拳打を放つ。

 空気を切り裂くような風切音を響かせつつも、ユリウスとジルクがダメージが発生した様子はない。

 だが次の瞬間、アンジェが拳を開くとその手の内にあった二つの物体にユリウスとジルクは目を剥き、自身の制服の鳩尾の辺りに手をやる。

 そして気付く。そこにあったボタンが目にも止まらぬ速さで引き千切られ、アンジェの手の中に納まってるのに。

 

 

「ハアァッッ!」

 

 アンジェは開いた手を再び閉じると気勢と共に声を発した。瞬間、その拳から激しい炎が燃え上がり、直後霧散し消えさる。

 そして炎が消えた後、開かれた手の中には消し炭と化した二つのボタンだったもの。

 

 

「女だと見くびるな! それとも女に挑まれて尻尾を巻いて逃げる腰抜けか!?」

 

 アンジェは手の中のボタンだった消し炭を地面に叩きつけ踏みつける。

 

「この決闘! 受けるのか受けないのか!? さっさと答えろ!」

 

 凄まじい剣幕で啖呵を切って見せるアンジェ。だがそんなアンジェに対しユリウスは熱に浮かされた熱い瞳で返す。

 

「素晴らしい……まさにアンジェリカお前の魂の輝きそのものの様な美しい炎だった。やはり確信した。お前こそ俺の后に相応しい」

「相変わらず話の噛み合わない奴だな……! だったら……!」

 

 アンジェは拳を大きく振りかぶった。

 

「いけない! 殿下!」

 

 ユリウスが陶酔し呆けた様な表情なのに対しジルクはアンジェの拳の危険さを察知し、ユリウスの前に立ち腕を十字に組み防御の構えを。更には魔法障壁も展開させる。

 ジルクが魔力を行使したのに反応しアンジェの拳にも炎が発現する。そして次の瞬間凄まじい衝突音が響き渡り、ぶつかり合った魔力により閃光が迸る。

 閃光が収まり衝突音がやんだ後に広がっていた光景。それは拳を振り抜いたアンジェと、服の腕の部分に焦げ跡を見せるジルクの姿。

 しかもジルクの足元は元居た位置より数十センチ後ろに下がっており靴もとには引きずったような跡。

 ジルクの服の焦げ跡はアンジェの炎と拳がジルクの魔力障壁を貫通したことの現れであり、足元の引きずった跡は拳圧に押し込まれたことの現れ。

 全力で防御に徹して尚無力化できなかったアンジェのその拳の威力にジルクは戦慄する。

 

 

「成程。腐った性根でも貴族は貴族か。よく防いだな。だったら次はコイツで――」

 

 アンジェは自身のポケットに手を突っ込みまさぐる。そして愛用の武器であるミスリル製のナックルダスター――ミスリルフィストを嵌めようとしたその時――

 

「分かりました! アンジェリカさん貴女の決闘の申し出を受けます!」

 

 ジルクがアンジェが次に打とうとした手の危険さを察したかのように声を上げた。

 その返答にアンジェはミスリルフィストを嵌めず素手のままポケットから手を引き抜く。

 だがその視線には未だ強い怒り敵意が燃えており、それこそ視線だけで相手を睨み殺せそうなほど。

 そんな視線にもユリウスは相変わらず見惚れていたが、ジルクは警戒を怠らず慎重に言葉を選びながら話しかける。

 

 

「ですがここは貴族の子弟が通う学び舎です。決闘もそれに倣った格式を重んじた貴族同士ならではの戦いを致しましょう」

「勿体付けずさっさと言え……!」

「ええ……ですが、いくらここが貴族の学園と言っても貴方は平民で女性。なので……」

「ええい! のらりくらりとまだるっこしい! そうやってはぐらかして逃げるつもりか!?」

 

 わざと引き延ばすようなジルクの言い回しにアンジェは益々苛立ちを募らせていく。

 

 

「いえ! そんなつもりはありません。ただ先程も申しましたが貴族式のやり方では平民で、ましてや女性であるアンジェリカさんには……」

「貴族も平民も! 男も女も関係あるか! こっちはとっくに覚悟は決まってるんだ! 四の五の言わずさっさと言え!」

「そのお言葉……どの様な決闘でも逃げずにお受けになると。そう受け取ってよろしいですね?」

「くどい! 受けるも何も決闘を申し出たのはこちらだ! そして約束しろ! 私が勝てばクラリス先輩とオリヴィア様に突き付けた婚約破棄を撤回し誠意をもって謝罪すると!」

 

 アンジェが怒声と共に言い放った瞬間、ジルクの口角が上がる。それはまるで罠に獲物がかかったのを確認した狩人の様に。

 

「分かりました。ではこの学園の貴族の子弟らしい様式に則った、騎士としての誇りをかけた決闘を致しましょう。"鎧"を用いた決闘を!」

 

 

 "鎧"。それはこの世界におけるパワードスーツのような大型の人型兵器。

 人が乗り込み操るそれは人の数倍にも及ぶ体高の金属のボディ。体躯に見合った巨大な剣や槍を振るい空をも駆けるその力は正に一騎当千。

 だがそれに見合ったコストも尋常ではなく下級貴族では所有出来ても型落ちの量産品がやっとと言う家も多く、ましてや平民で所有してる者など皆無に近く、いたとしても極めて稀。

 またこの世界でも戦は男の領分で、女性の例はほとんど聞かない。

 当然平民で女の身であるアンジェが持っている訳などなく。

 

 

「……やってくれたな。この陰険クソ緑……!」

「権謀術数は貴族社会の嗜みみたいなものです。この学園が貴族社会の縮図であればこの程度の事は日常茶飯事なのです」

 

 言ってジルクは勝ち誇った顔を見せる。

 平民の娘であるアンジェが持ってるわけもない鎧だが、王太子であるユリウスやその乳兄弟でもあるジルクは当然自分専用の鎧を持っている。それも自身の地位に見合ったワンオフの特注品の高性能機を。

 ジルクにしてみれば決闘を鎧を用いたモノに持ち込んだ時点で勝ちを確信したようなもの。

 

 

「さてどうされますかアンジェリカさん? 平民の女性である貴女では当然鎧などお持ちではないでしょう。その場合鎧を持った我が学園の男子生徒を代理人に立てることも出来ます。

しかし、王太子である殿下に刃を向ける度胸を持ち合わせた生徒が果たしているかどうか」

「いいだろう。お前らの言い分はよく解った……」

「おお、では……」

 

 アンジェの言葉を、ジルクは決闘を取り下げるという意味に解釈し笑顔を浮かべる。

 普通に考えればそうだろう。鎧を持った相手に碌に伝手もないであろう平民が決闘に応じられるわけがない。

 

 

「何を勘違いしている……!」

 

 だがアンジェの眼光は全く戦意の衰えは見えずむしろやる気に見える。

 そしてポケットに手を突っ込み抜いたときにはその手にはミスリルフィストが嵌められていた。

 

「ア、アンジェリカさ――」

「ハアァッッ!」

 

 アンジェが気勢と共に声を発すると全身から深紅のオーラが迸る。やがてオーラは拳に収束し炎へ転化し――

 

「――アァッッ!」

 

 そしてその拳をアッパーカットの様に天に向かって突き上げると巨大な火柱が立ち昇る。

 

 

「鎧を持ち出せば怯むとでも思ったか!? 見くびるのも大概にしろ! 鎧がどうした! 貴様らのブリキ人形など消し炭にしてくれる!」

 

 そうして炎を纏った拳をジルクとユリウスに向かいつきつける。

 ユリウスの方は相変わらず場違い見当違いにアンジェの炎の輝きに魅せられているが、ジルクの方は予想を超えた展開に焦りの表情を浮かべる。

 決闘に鎧を使った勝負を持ち掛ければアンジェは勝負を降りざるを得ないとジルクは思っていたので完全に想定外。

 アンジェの炎がいかに凄まじいとはいえ鎧相手に脅威とは――確かに安価な量産型の鎧程度なら打倒してしまえるのではと思わなくもないが、自身や王子の最高級ワンオフの鎧相手に恐れる程ではないはず。

 だが想いを寄せる相手の生身の状態相手に鎧で戦いを挑む訳にはいかない。

 何せ想い人を手に入れたいとは言っても傷つけたいわけではないのだから。

 黙って睨み付けるアンジェに対し、ジルクは戸惑い硬直し、場は緊迫した沈黙に包まれる。

 

 

「ハハハッ! 鎧相手に生身で挑むとか、やっぱサイッコーに面白れー女だなお前!」

 

 沈黙を破る声を発したのは筋肉質な体躯と赤毛を短く刈り込んだ野生味のある二枚目の男子生徒。

 

「だけど流石に無謀が過ぎるぜソイツぁ。鎧が必要なら俺が代理人になってやってもいいぜ」

 

 言ってアンジェが二人に向かって叩きつけたグローブを拾う。

 

「なっ!? グレッグ! 貴方何を言ってるのか分かってるのですか!?」

 

 話に割り込んできた赤毛の男子生徒――グレッグに向かいジルクが声を上げた。

 

「おうよ! この決闘でお前と殿下をぶっ飛ばせばアンジェリカをモノにできるんだろ? だったらやらねぇ手はねぇよな!?」

 

 突如割り込んできたグレッグにアンジェも抗議の声を上げる。

 

「勝手に割り込んできて話をややこしくするな! これは私と私の敬愛する女性達を冒涜したそこの二人と――」

「一対二では分が悪かろう。この話、私も噛ませて貰おう」

 

 アンジェの言葉を遮る様に言葉を発し、もう片方のグローブを拾ったのは水色の髪を襟足で刈り込んだ、眼鏡をかけた精悍で整った顔立ちの男子生徒。

 

「クリス……! 貴方迄」

 

 ジルクがこれ以上ややこしくしないでくれと言わんばかりに水色の髪に眼鏡の男子生徒――クリスを睨む。

 その時一陣の風が吹きグレッグとクリスが手にしたグローブを吹き飛ばし、それはまた別の男子生徒の手に収まる。

 

「僕も仲間外れにしないで欲しいな? 僕だってアンジェリカさんに思いを寄せる一人なんだよ」

 

 風を魔力で操ってグローブを奪ってみせたのは紫の長髪に甘いマスクの男子生徒。

 

「ケッ! 相変わらず気障なヤローだなブラッド!」

 

 グレッグの悪態に紫髪の男子生徒――ブラッドは涼やかな笑みで流す。

 

 

「ええい! 色ボケ王子と陰険クソ緑だけでも頭痛いのに、脳筋赤毛に自分語り眼鏡にナルシスト紫までだと!? 一体どうなってる!?」

 

 続け様に表れた三人もまたアンジェに想いを寄せ言い寄り、だがアンジェにとっては纏わりつかれてる厄介極まりない迷惑な上級貴族令息達。

 図らずもアンジェにとっては一方的に言い寄られてる苦手な相手が一堂に会してしまった状況に思わず頭を抱える。

 

 

「ってかよぉ折角二対二で纏まりそうだったのにブラッドの野郎もしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ」

「だったらバトルロイヤルでどうだ? 先程は成り行きでグレッグ、お前と組むと言ったが、私は最終的にはお前も含め全員切り伏せるつもりだったからな」

「いいだろう。全員打ち倒しアンジェリカに相応しいのは俺だと証明し后に迎えてみせよう」

「殿下がそう望まれるのなら」

「どうやら僕も同意せざるを得ないようだね。僕も構わないよそれで」

 

 

 話を纏めようとする五人にアンジェは怒りの声を上げる。

 

「勝手に話を纏めるな!」

 

 その声にジルクは何かに気付き閃いたような表情を見せる。

 

「成程、ではアンジェリカさんどうされますか? 我々五人相手に戦いますか?」

 

 

 冷静に考えれば鎧二体相手でも十分無茶であるがまだその場の勢いで挑んでしまうのも……それでも十人中九人――百人中九十九人迄も挑まないだろうが一人ぐらいは挑みかねず、アンジェはその一人であったようだ。

 それでも鎧五体となると流石に無茶が過ぎると解る。解ってしまう。

 アンジェの浮かべた悔しそうな顔にジルクは勝ち誇った顔を見せる。

 そしてアンジェの訴えてきた婚約破棄を有耶無耶に出来た上に、誰がアンジェを射止めるかの問題にも蹴りを付けられると満足気に口角を上げる。

 

 

「では、アンジェリカさんを賭けて我々五人で決闘と言う事で――」

 

 その時、ジルクの声を遮り響き渡る声が。

 

「アンジェの言う通りだ! 勝手に話を纏めないでもらおうか!」

 

 響き渡った声の主、それは――

 

「リオン!」

 

 アンジェはその顔に喜びと希望に溢れさせ声の方を振り向いた。




最後の最後で登場とはリオンってば、まるで主人公みたい(主人公です

今回ラストで登場するも実質二話続けて出番無しだったリオン
満を持して次の話からは彼のターン

次回「My Lady」
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