チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

16 / 51
16、決戦の場へ

『どうしました浮かない顔されて。まさか臆されたので?』

「莫迦言え。アイツ等ごとき束になろうと物の数じゃねぇ。お前の用意した鎧の前では、だろ?」

『仰る通りです。私がマスターのために用意した鎧、アロガンツの前では恐るるに足りません』

 

 此処はリオンの自室。

 アンジェとオリヴィアの話し合いが済んだ後、アンジェを彼女の部屋に送り届けた後リオンはルクシオンと他愛無い会話を交わしていた。

 だがその表情は浮かない。

 浮かない表情の理由は決闘についてではない。学園最強と呼ばれる五人であったが、彼らと相対することに恐れの気持ちなど微塵もない。

 

「本当に怖ええのはあんな世間知らずどもなんかより……」

 

 リオンが王子たち五人より気になってる事、それはアンジェとオリヴィアとの会話で見たもの。

 アンジェとオリヴィアとの話し合いから、そして紡ぎ築いた絆。

 駆け引きなどなく真っ直ぐ体当たりでぶつかり絆を紡いでみせたアンジェのその姿にリオンは惚れ直す思いだった。

 だが――

 

「なぁ、あの時のオリヴィアの――」

 

 言いながらリオンは背筋に冷たいものを感じ、そしてよぎる思いを振り払うように頭を振る。

 だがどうしても頭から離れない。オリヴィアに垣間見た心の闇。そして人形のような無表情な貌、ガラス玉のように冷たい瞳。アンジェの頬に添えられたその手が指が――

 あの時若しもリオンが声を掛けなかったら――

 そこまで考えリオンは再び頭を振る。

 そんな訳無い、そんな事する訳がない。

 だがリオンの心に巣くった疑念は晴れない。

 

 若しあの時アンジェが傷つけられるようなことになってたら――愛する人が傷つくとこなど見たくない、誰にも傷つけられたくない。

 そして万が一そうなってしまった場合、果たしてそうなった時、自身の気持ちを制御できただろうか。

 そして、オリヴィアを主人公と信じて託して大丈夫なのだろうか、と。

 

 

『やれやれ情けないマスターですね。王子達や多くの生徒達の前で大見得切って見せた勢いはどうしたんですか。衆人環視の前で愛の告白までしてみせていながら』

「ちょっ! おまっ! ぶり返すんじゃねぇよ!」

 

 言いながらリオンは赤くなる。場の勢いとは言え大勢の生徒達の前での告白は冷静になって振り返り思い出すと途端に恥ずかしさが込み上げてくる。

 

『何を恥ずかしがることがあります。誰はばかる事のない一世一代の見事な告白ではありませんでしたか』

 

 言いながらルクシオンは音声データを再生させる。

 

《好きだ。愛してるアンジェ》

「やめろおぉぉぉぉっっっ!」

 

 リオンは顔を真っ赤にしルクシオンに掴みかかるが、ルクシオンはひらりひらりと身をかわし捕まらない。

 そして逃げながらルクシオンは次々と音声を再生させていく。

 

《アンジェ。お前の為なら俺はお前を傷つける者から護る盾にも、お前の前に立ち塞がる敵を打ち払う剣にもなろう。お前が望むなら俺がお前の騎士になってやる。お前の為にならどんな強敵だろうと叩き潰してやる! だから言え! お前の望みを!》

「ちょっ! お前ふざけんなっっっ!」

《イエス、マイレディ。約束しようアンジェ、お前に勝利を捧げると。お前の騎士として、身命を賭してその願いに必ず応えてみせると!》

「ぎゃああぁぁぁっっっ!」

 

 リオンは自分の告白諸々を再生させられるという羞恥プレイ染みた行為に真っ赤になった顔を押さえごろごろ転がり悶えるのだった。

 

 

「……いっそ殺せぇ……」

 

 悶え転がりまわった後、恥ずか死にしそうに真っ赤になった顔面を両手で押さえながら呟いたリオン。

 そんなリオンの元に近寄ってきたルクシオンが話しかける。

 

『でも心の中の靄は晴れたのでは?』

 

 言われて確かに心の中に巣くっていたオリヴィアに対する恐れや疑念は霧散してた。

 

「……ったく、他にやりようがねぇのかよ」

 

 言いながらリオンはルクシオンを軽く小突いたのだった。

 

 

 

『それより生徒たちが面白い事やってますね。マスターと王子たちの決闘で賭け事をはじめようとしてる生徒たちがいます』

「人の決闘を出しにお祭り騒ぎかよ。暇人かよ、ここの生徒どもは」

 

 ルクシオンからの報告にリオンは呆れ顔で答える。

 

「ちなみにオッズはどうなってる?」

『圧倒的に王子達に賭けてる生徒たちが多いです』

 

 言いながらルクシオンのレンズアイから円グラフが投影されるが、ユリウス達を示す比率が圧倒的に多い。

 

「こりゃまた笑っちまうぐらい圧倒的大差だな」

『マスターではなくあの五人に賭けるとは度し難い愚かしさと見る目の無さですね』

「まぁそう言ってやるな。相手は学園のアイドルの王子様たちだからな。しかも5対1。事情を知らなきゃそっちに賭けるのが普通だろ。だがこの状況、大いに利用させてもらおうか」

『と、仰られますと?』

「白金貨を五百枚用意してくれ。全部俺に賭ける」

『態々賭け事など利用せずとも私の力を用いれば資金などいくらでも容易に調達出来るものを』

 

 ルクシオンの本体は航空戦艦、そして宇宙を航行する移民船としての力も備えている。航行に不便が無いようにありとあらゆる物質を変換作成するロストテクノロジーの力も持っていた。

 故にそこら辺に転がってる石や土くれから金や白金を作り出すことも可能。

 

「銭金ってのは出所が不明瞭だと使いにくいんだよ。今回大穴である俺自身に賭けてドカンと儲けた金なら疑われることなく堂々と使えるからな」

『その割には随分悪い顔されてますね』

 

 ルクシオンが指摘したようにリオンの顔は眼を弓なりに細め口元に三日月のような笑みを浮かべる。一言で言えばまるで悪役のような笑顔。

 

「想像するだけでも楽しいぞ。王子達の勝利を信じて疑わず賭けた連中から根こそぎ金を奪う様は」

 

 言って増々顔に浮かぶ笑みを濃くするリオン。

 そんなリオンを見詰めながら呆れたようにルクシオンは声を発する。

 

『やれやれ本当に酷いお人だ』

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた終業式翌日の決戦当日。

 

「バルトファルト男爵。本当に一人でいいのか? 言ってくれれば今からでも俺たちも――」

「お気持ちだけで十分嬉しいですよ先輩方」

 

 リオンに語り掛けるのはクラリスの取り巻き達。

 決闘への参加が認められるのは五名迄。なのでリオンは他に四人仲間を加えることが出来るので、クラリスの取り巻き達は自分たちも共に戦うと申し出てくれていたのだ。

 だがリオンは丁重に断っていた。

 口には出せない理由としては、身も蓋もなく言ってしまえば足手まといになるから。

 これから戦う相手は学園内どころか国内でも屈指の特注の高性能鎧達。並の鎧では歯が立たない。

 

 とは言え非情な選択を取れるのなら捨て駒にして相手の戦力を削るなり計るなりも出来る。

 そう言った選択も含め固辞したのは、彼らがリオンとアンジェに対し好意的で協力的なの同様、リオンもまた彼らに好感を持っていた。

 主であるクラリスの為に体を張れる心意気も、アンジェをクラリスの妹分と認め丁寧に接してくれる対応にもとても好感の持てるものだった。

 そんな彼らを危険なことに巻き込みたくなかった。

 更に言えばここで彼らがリオンに協力すれば彼らの実家に迷惑が及ぶ可能性も。

 何せ対戦相手は王太子はじめとしたこの国の有力貴族の令息たち。

 そう言う相手と戦えば勝っても無事では済まされない。そうした危険性はリオンも同様だが、彼は最悪の場合アンジェを連れて二人逃げ落ちる覚悟もしていた。

 

 

「ほらほらアナタたち。あんまりしつこいとかえって男爵を困らせちゃうわよ」

「お嬢様」

「私の可愛い妹分が信じて全てを託した無敵の騎士様なんだからあなた達もドーンと信じて見守りなさい!」

 

 クラリスの言葉に取り巻き達は「分かりました!」と力強く頷く。

 そしてリオンに向き直ると「バルトファルト男爵の御武運を願って!」と背筋を伸ばし拳を胸に当てる。

 

「ありがとうございます先輩方。その思いだけで百人力です」

 

 リオンもそれに応え拳を胸に当てた。

 

 

「さてそれじゃあ最後はお姫様から騎士様への一言を」

 

 言ってクラリスはアンジェの手を引きリオンの前へ立たせる。

 

「茶化さないでくれ姉御」

 

 アンジェは照れくさそうにしながらも満更でもない感じでリオンの前に。

 

「リオン。我が最愛にして最強の騎士よ。信じてるぞお前の勝利」

 

 言ってアンジェは拳を突き出す。

 

「アンジェ。任せろ。必ずお前の為に。お前とお前の大切な人たちの為に勝利をもぎ取って見せる。我が最愛の姫君よ」

 

 そうしてリオンは突き出されたアンジェの拳を手に取り口付けした。

 アンジェはてっきり拳を合わせて応えてくれると思ったので、想定外の口付けに頬を染める。

 

「あらあら、やるじゃない男爵ったら。でも折角のキスなら唇じゃない?」

「そうですね。でもそれは勝った時の御褒美ってことで。な、アンジェ」

 

 リオンがそう言い目配せするとアンジェの顔が更に赤く染まる。

 

「じゃっ、男爵。試合の方は観客席から観戦させてもらうわね」

「クラリス先輩、アンジェの事よろしくお願いします。アンジェ、俺の勇姿しっかり見てくれよな」

「ああ! リオンの勇姿! この目にしっかり刻ませてもらう!」

 

 リオンに応えるようにクラリスはウィンクして見せ、アンジェは両拳を握って見せた。

 取り巻き達は一名がセコンドとしてリオンに付き添い、残りはアンジェとクラリスに付き添って行ったのだった。

 

 

 

 ゲートをくぐり闘技場に出る。

 リオンの前世の中世のコロッセオの様な円形の闘技場。だがその規模大きさは人間の数倍の体高の"鎧"同士の戦いに合わせてより広大なもの。

 リオンの反対側コーナーには既に王子たち五人が愛用の鎧と共に待ち構えていた。

 白緑水色赤紫と其々の髪色に対応したようなカラフルな出で立ちの、すらりとした八頭身体型の鋼の巨人たち。

 ユリウス王子の髪色は紺だが、王族ならではの高貴さを感じさせる純白の鎧で、王子と言うイメージには合致している。

 見映えの良さと知名度、それに加え賭けの対象として勝って欲しいのか王子達に向かい黄色い声援が飛び交う。

 

 

「男爵。貴方の鎧は?」

 

 セコンドにと付き添ってくれた取り巻きの先輩がリオンに声をかける。

 

「大丈夫です。丁度到着しました」

 

 リオンが上空を見上げると巨大なコンテナが降ってきた。

 見るからに重そうな金属の塊だったが着地寸前、ふわりと減速し僅かな砂ぼこりだけ立てて降り立つ。

 コンテナが開き中からリオンの鎧――アロガンツが姿を現す。

 

 

 

「あれがリオンの鎧か! がっしりとした重厚なフォルムで強そうだな! あれならボンボンどものヒョロヒョロのブリキ人形など一捻りだな! なぁ姉御もリビアもそう思うだろ!? ってあれ?」

 

 観客席からオリヴィア、クラリスとその取り巻き達と共に居たアンジェはアロガンツの姿に興奮を露にしてたが、クラリスとオリヴィアはどことなく渋い顔。

 

「ねぇ、アンジェ。殿下達の鎧見てどう思う?」

「ん? さっきも言ったがひょろっとしてて強そうには見えないな」

「他には? 男爵の鎧と見比べて気付いたこととか」

「そうだな。リオンの鎧ががっしり強そうなのに対し、アイツ等の鎧は色とか装飾こそ派手で個性的かもしれんが、どれも体格は似たり寄ったり――」

 

 アンジェの言葉にクラリスはビッと人差し指を立てる。

 

「それよ。何でどの鎧も同じようなスマート体形か。それが今の時代の鎧にとって最適解だからよ。鎧ってのは体格を大きくしたり装甲を厚くすればいいってものじゃないのよ。

そんな事すればたちまち動きが鈍ってしまうわ。パワーとスピードのバランスに最も秀でた最適解が殿下達の様な鎧なのよ。

昔は重厚な――丁度男爵の鎧みたいなのが主流を占めた時代もあったけど、スピードに秀でたスマートな鎧に駆逐されて行ったわ。忌憚なく言わせてもらうなら男爵の鎧はそういう昔の旧式の鎧に見えるのよ。

それが私もオリヴィア様も男爵の鎧に眉をひそめた訳よ」

「で、でもリオンは殿下達の強さも鎧のことも十分に把握してただろ? 姉御だって聞いてただろ! リオンの殿下達への的確な戦力分析を! だったらリオンは勝算があってあの鎧を選んだはずだ!

私はリオンを信じている! だからリオンが選んだ鎧も信じる!」

 

 アンジェの力強い言葉にオリヴィアも同意する様に言葉を紡ぐ。

 

「そうですね。アンジェが信じてるのだから私達も信じましょうアトリー嬢」

「ありがとうリビア! そうだ! だから姉御も信じてくれリオンを信じる私を!」

「わ、私だって信じてるわよ! 何よ、オリヴィア様ったらちゃっかり美味しいとこだけ持って行っちゃって……」

 

 言ってクラリスは口をとがらせる。

 

「なんだ、拗ねてるのか姉御?」

「悪い? 私の方がアンジェとの付き合い深いのに……」

「いや、悪くはないが……。と言うか姉御もそんな可愛らしい反応みせるのだなと思って」

 

 言って思わず笑みを零すアンジェ。そんな彼女にクラリスが肩に手を回しヘッドロックでもかけるように絡んでくる。

 そんな二人のじゃれ合いをオリヴィアは微笑ましげに見詰める。

 

「本当に仲がよろしいのねお二人とも。まるで本当の姉妹みたい」

 

 その言葉にクラリスは気をよくして笑顔を浮かべ、アンジェは少々照れくさそうな苦笑を浮かべるのだった。

 

 

「しかし王子達への応援は兎も角、リオンへのヤジが酷いな。一体どういうことだ?」

「どうも賭けが行われてるみたいなのよ。で、残念なことに王子達に賭けてる方が圧倒的に多いわね。だからみんな王子達に勝って欲しくて応援してて、それと同時に男爵には負けて欲しくてヤジ飛ばしてるのね」

 

 アンジェの問いにクラリスが呆れ溜息をつきながら答える。

 

「賭けだと? リオンは真剣に戦おうとしてるのにふざけた真似を……」

 

 恋人の真剣な戦いを出しにされることにアンジェが不機嫌を露にする。

 

「ちょっ!? アンジェ落ち着いて!?」

 

 アンジェの不機嫌な様子にクラリスが慌てて肩を掴み宥めるとアンジェは「大丈夫だ姉御」と返事をする。

 そして席から立ち上がると大きく息を吸い込み口の両側に手を添える。

 

「頑張れー! 負けるなリオンー! そんなブリキ人形ども蹴散らしてしまえー!」

 

 アンジェは力の限り声を張り上げリオンに声援を送った。

 そんなアンジェにクラリスとオリヴィアは顔を見合わせ微笑みを交わしそしてアンジェに続くように声援を送る。

 

「男爵ー! コテンパンにやっつけてしまいなさーい!」

「頑張ってくださいバルトファルト男爵ー!」

 

 声援を送った後クラリスは後ろを振り向き取り巻き達に視線を送る。主の視線を受け意を汲み取ると取り巻き達も声を張り上げる。

 

「「「「バルトファルト男爵の勝利を願ってー! フレー! フレー! バルトファルトォォーーー!」」」」

 

 アンジェ達の力強い声援を受けリオンは満面の笑みを浮かべ、声援に応えるように力強く拳を突き上げるだった。




ルクシオンさんによる愛の言葉の音声再生羞恥プレイ(笑
カーラifの修羅場でも書きましたが書いてて楽しいんですよ

次回からようやく決闘始まります
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。