チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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18、決闘 その2

 リオンの快勝にアンジェ達は大喜びだったが他に湛え拍手を送る観客は数えるほどだった。

 その中にリオンが敬愛するお茶の師匠であるマナー講師もおり、その姿を見つけリオンは顔を綻ばせるのだった。

 

『マスターの勝利に肩を落としてる生徒が圧倒的多数ですね。祝福してくれてるのはアンジェリカ達と――』

「十分だ。師匠を始めとした信を置ける人たちが、何よりアンジェがエールを送ってくれたんだ。それだけで今の俺には十分すぎる」

 

 リオンは感謝の思いを嚙みしめるように言葉を紡ぐ。

 

『マスター……』

「それに今静まり返ってる生徒どもが王子たち五人全員が敗れ去るころには阿鼻叫喚の声を聞かせてくれるかと思うと今から楽しみだ」

『私の感動を返してください』

 

 意地悪く笑うリオンにルクシオンは抗議の声を上げた。

 リオンとルクシオンのそんなやり取りしてる間に静まり返った観客席からさざ波の様にざわめきが広がっていく。

 リオンの圧倒的強さに言葉を失っていた観客たちは事態を飲み込み始める。

 

 入学前にダンジョン踏破しロストアイテム入手し男爵位を賜ったリオンの活躍は知れ渡っていた。

 それでも多くの生徒たちの認識はこの国の王太子と肩を並べ最強との誉れ高い五人に及ばないだろう、良くて互角。

 互角であれば一人二人ぐらいは抜く程度の善戦はしても数の前に敗れるであろう程度の認識。

 油断や驕りの隙をついてのまぐれ勝ちぐらいはあるかもと踏んでたが、文句のつけようもない圧勝。

 王子側の先鋒、ブラッドは切り札で奥の手のスピアの性能をいかんなく発揮しきったと言うのに、その上で捩じ伏せての勝利。

 

 

「ブラッドの軟弱野郎を倒した程度でいい気になったんじゃねぇぞ! 次は俺だ!」

 

 観客たちに広がる雰囲気を払拭しようとするかのように威勢よく声を上げたのはグレッグだった。

 

「お~、威勢がいいねぇ。でも一人で良いのか?」

「あん? 何だと?」

「いや、先鋒のナスビがあまりにも弱かったからさ、この調子じゃどうせ残りも似たようなもので、このままじゃ一方的すぎるつまんねぇ試合だらけになっちまいそうだなって思ってさ。

もういっそお前ら残り全員まとめてかかって来いよ」

 

 言ってリオンは挑発的な言葉を投げかける。

 その言葉にグレッグが怒りで顔を真っ赤にしていく。

 

「な、な、舐めんじぇねぇぞゴルァ! てめぇ如き俺様一人で十分だ! その減らず口――」

「グレッグ!」

 

 怒りに逆上しかけたグレッグを嗜めるようにジルクが遮り声を上げる。

 

「挑発に乗せられてどうするんです! そうやって貴方を煽って冷静さを失わせる作戦だったらどうするんです! いやむしろそれなら未だマシな方……」

 

 ジルクはリオン駆るアロガンツの見せた性能に戦慄の気持ちを隠せなかった。

 作戦として煽ってくるのなら未だ良い。最悪なのは、本当に残り四機の鎧を纏めて叩き伏せる自信を持っての発言だった場合。

 アロガンツにそこまでの力は無いという希望的観測は持つべきでないとジルクの勘は警鐘を鳴らしていた。

 少なくともまともな一対一で勝てる相手とは到底思えなかった。

 そして思い起こすのはリオンが先ほど言った"まとめてかかって来い"と放った言葉。

 

「バルトファルト君! 先ほど言ってましたね。まとめて掛かって来いと。いいでしょうその言葉に乗ってあげます!」

「「「なっ!?」」」

 

 ジルクの言葉に彼以外の三人が同時に驚きの声を上げる。

 

「てめぇジルク! 何勝手に決めてやがる! 次は俺が出るって言ったろ! ブラッドの野郎がやられたぐらい何弱気になってんだ!? あいつは俺たちの中じゃ最弱――」

「それは! 剣戟のみを用いた純粋な白兵戦に限った話でしょ! 魔力操作に長けた彼のスピアを操る技術は決して侮れるものでは無いのは貴方も御存知でしょ! そして彼は先の戦いその力を余すことなく披露してみせた! その上で完膚なきまでに叩き潰して見せたバルトファルトの鎧の力見抜けないわけではないでしょ!?」

 

 ジルクの言葉にグレッグは押し黙る。

 

「け、けどよ、四対一なんて情けねぇ真似……」

「グレッグ! 普段から実戦派とか言ってる癖に何型通りの決闘にこだわってるんですか! そんなんでよく実戦派などと言えましたね!?」

 

 尚も食い下がるグレッグだったがジルクに詰め寄られ言葉を次げずにいた。

 

 

「ジルクが警戒する気持ち解らんでもない。だがそれほどの力を秘めていると言うのなら尚のこと正面から切り結んで――」

「クリスも! そんな事に拘る視野の狭さだから何時まで経っても御父上を越えられないのですよ!?」

「なっ!? ジルク貴様!」

 ジルクの言葉にクリスの顔に怒りの相が浮き上がる。

「貴方! 勝ち負けは二の次などと思ってるんじゃないでしょうね!? 勝たねばならないのですよ! 私たちは! 殿下が敗北するなどあってはならないのです!」

 

 四対一というジルクの提案に抗議の声を上げたグレッグとクリスであったが、ジルクはそれ以上の剣幕で思わず押される。

 ジルクの形相は完全に追い込まれ追い詰められての緊迫感がありありと浮かんでいた。

 反対に事の深刻さを理解できてないかの様にユリウスが口を開く。

 

「ジルクがそこまで気に掛けるほどの相手か? 確かにブラッドは手も足も出ないまま敗れたが、四人同時にかからねばならぬ程の相手とは――」

「殿下も何を甘いこと仰ってるんです! そんな甘い認識で勝てるとお思いですか!?」

 

 ジルクの気迫にユリウスもまた面食らう。

 

 

「お前がそこまで言うほどとは……分かった。今まで機知に富んだ言で俺を支え続けてきてくれたお前の言葉だ。そういう事ならジルク、お前の言葉聞き入れよう」

 

 渋るユリウスだったがジルクのその気迫に受け入れの言葉で応じる。

 

「殿下が受け入れるとあっちゃ俺が断るわけにもいかねぇか」

「分かりました。私も殿下に従いジルクの案を受け入れましょう」

 

 王子が折れたのなら、と二人も折れることにした。

 

「ありがとう。俺たち四人力を合わせ必ず奴に打ち勝とう!」

「いえ、戦うのは私とグレッグ、クリスの三人です。殿下はお下がりください」

「何故だ! 今共に戦おうと――」

「殿下ともあろうお方が多対一の戦いと言うのは外聞が悪うございます。どうかご了承願います」

 

 ジルクは頭を下げ、そして続ける。

 

「つきましてはこの先の事ですが、首尾よく倒せれば問題ありません。ですが問題は倒せなかった場合です。倒せずとも幾何かのダメージを与えることが出来たのなら殿下の手でとどめを。

ですが、若し仮に奴が無傷かそれに近い状態で我々に勝ったのなら、その時は殿下は戦いを御辞退なさってください」

「な!? 馬鹿を言え! お前たちにだけ戦わせて俺に尻尾を巻いて逃げろと言うのか!?」

「殿下! 貴方の体は貴方一人のものでは無いのです! この国の明日を担う大事な御身なのです! 若し万が一にも取り返しのつかないことになってはならないのです!」

 

 ジルクは強い思いを込めユリウスを真っすぐ見詰める。その視線を受けユリウス黙らざるを得なかった。

 

「大丈夫です。私達も戦う以上むざむざ敗れるつもりはありません。その為に装備も見直します。しかしくれぐれも肝に銘じおいてください。今私が申しあげたことを」

 

 そうしてジルクは整備スタッフを呼び鎧の装備武装をより強力な物への換装指示を行うのだった。

 

 

 

 

『ジルクは他の三人よりは多少は見る目があるようですね。マスターとアロガンツの脅威に気付く辺りは。とは言え少々遅きに失した感もありますが』

「それに一応殿下の側近としての一端の自負はあるみてぇだな。出来ればソイツは殿下がアンジェに懸想した時諫める方向で見せて欲しかったんだがな」

 

 アロガンツのコックピット内で収音マイクで拾ったユリウスやジルク達の会話に対し言葉を交わすリオンとルクシオン。

 

「やっぱりあの中じゃ一番厄介なのはあの陰険緑――ジルクだな」

 

 単純な武力で言えばクリスとグレッグではあるが、そちらはそんなに恐れてはいない。

 反面ジルクは前世でのゲームでも腹の底が読めず、今世においてもアンジェが嵌められかけた。

 その時を思い出してかリオンの表情が若干険しさを増す。

 

『でしたら3人組ませるよう仕向けたのは悪手だったのでは?』

「逆だ。ああいう手合いは下手に考える時間与えすぎたり追い詰めすぎると何しでかすか分からねぇ。さっさとまとめてこの場に引きずり出した方がマシってもんよ」

 

 そうこう話してると自コーナーから自分を呼ぶ声が聞こえる。

 見ればセコンドにと残ってくれた取り巻きの先輩がドリンクとタオルを持って此方に向かっていた。

 

「向こう側は装備点検で時間かかるのでインターバルにするようだ。男爵もこの間に水分補給などして休まれては」

「ありがとうございます先輩。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 アロガンツはリオンが乗り込んだ時同様片膝を着きハッチを開く。

 リオンが下りようとすると取り巻きの先輩は「そのままで」と言ったので、リオンは「では此方の手に」とアロガンツの手を差し出す。

 アロガンツの手を足掛かりに先輩がドリンクとタオルを渡すとリオンは礼を言って受け取る。

 そうしてあらためて先輩とその主であるクラリスに感謝の思いを抱くのであった。

 

 その後、談笑などしながら待ってる間にジルク機の装備換装も済む。

 

「次の試合も頑張ってください男爵」

「ありがとうございます先輩」

 

 向こうの準備が整ったのを確認し先輩は空になった容器とタオルを持って自コーナーへと戻るのであった。

 

 インターバルが終わると王子を除く三機の鎧が闘技場の中央に歩を進めてくる。

 三対一と言う形式に審判は困惑してたが、不利であるはずのリオンが了承したので受け入れることに。

 また、観客の多くが王子達に賭けており、先程ブラッドの圧倒的大敗にこのまま残り四人も全敗かと消沈してたところにこの変則的勝負。

 自分が賭ける王子達に勝って欲しくて「当人たちが納得してるんだからやらせろ!」と言った多数の声もあって。

 

「アハハハッ! 一対三とは豪胆な! 流石リオン! それでこそ我が最愛最強の騎士だ!」

 

 リオンの強さに全幅の信頼を寄せてるアンジェは変わらず元気な声で声援を送る。

 

「リオンの強さを持ってすれば三体掛かりで掛かってこようと恐るるに足らずだな! リビアもクラリスの姉御もそう思うだろ!? って姉御……? あっ……!」

 

 アンジェはクラリスが顔を強張らせてるのに一瞬疑問を抱き、だがすぐにその理由を理解する。

 対戦する三人のうちの一人のジルクはクラリスの婚約者――いや元婚約者と言うべきか。

 無礼な婚約破棄を突き付けてきた相手ではあるが、それでもやはり割り切り難いものがあるのだろう。

 

「大丈夫か、姉御? 辛いならこの試合は見ない方が良いのでは?」

 

 クラリスの膝の上で固く握られた手の上に、アンジェは自身の手をそっと重ねた。

 アンジェの気遣いにクラリスは寂しげな申し訳なさげな笑みを浮かべる。

 

「ありがとうアンジェ。でも大丈夫よ。最後まで見るわ。それが、今回の当事者としての義務だから」

「姉御……」

「ゴメンね気を遣わせちゃって。そうよね私達のために戦ってくれてるんだもんね。うん」

 

 クラリスは瞼を閉じ頷くと、顔を上げ大きく息を吸い込む。

 

「バルトファルト男爵ー! ジルクの事! 遠慮なくぶっ飛ばしちゃってー!」

「頼んだぞリオーン! 姉御の無念を晴らしてくれよーっ!」

 

 クラリスに続きアンジェも声援を送ると、リオンはアロガンツの手を振り応えるのだった。

 

 

 

 

 そして試合が始まる。

 審判の開始の掛け声がかかると、三機の中から率先して飛び出す影が。

 

「オラァ! 俺様の槍捌き! とくと拝みやがれ!」

 

 威勢の良い掛け声とともに開始直後から槍を振りかざし襲い掛かってきたのは赤い機体を駆るグレッグだった。

 メチャクチャに振り回しているような乱雑な攻撃は動きが読みづらく、それでいながら急所を狙った的確な攻撃。実戦で培われた経験に基づく攻撃。

 また彼の鎧に刻まれた無数の傷からもそれは伺えた。

 

『なるほど。実戦派というのもあながちハッタリではないようですね』

「あぁコイツは強いよ。強いんだけど……さぁ!」

 

 言いながらリオン操るアロガンツがスコップを振り抜くとその一撃を受けグレッグ機が揺らぐ。

 無数の連続攻撃の乱打がたった一発で崩される。あまつさえその槍は今の一撃で柄に歪みが生じている。

 そこに更に一閃、スコップの一撃を加えると柄は完全に折れてしまう。

 

「ちったぁ道具に拘らんか!」

 

 言いながら蹴りを喰らわすとまともに受けたグレッグ機は後方に吹っ飛ぶ。

 リオンはグレッグを決して低評価してない。だが武器に拘らない――いや拘らないことに"拘る"という面倒臭い性分には前世でのゲームプレイの頃から辟易していた。

 

 

「グレッグばかりにかまけて貰ってては困るな」

 

 グレッグを蹴飛ばしたリオンの耳に届く声。声の方を向けば剣を振りかざし向かってくる水色の機体。

 

「クリスか。わざわざ声など掛けず不意打ちで斬りかかってくれば良いものを、いやそれ以前に同時にかかって来いよ。ったく……」

 

 言いながら迎え撃つアロガンツ。

 凄まじい剣の連撃をスコップで捌きながらリオンは呟く。

 

「流石剣豪だけあって大したものだな。積み重ねた修練が伺える大した太刀筋だ」

 

 そして受け続けること数合。

 

「そろそろ剣筋のデータも十分か? ルクシオン」

『ハイ、マスター』

 

 ルクシオンの返答に応えるようにリオンはクリスの剣撃に合わせる。

 

「確かに大した剣の腕だよ。だが、その分太刀筋が真っ直ぐで綺麗すぎて読みやすいんだよ」

 

 正面衝突した剣とスコップが互いに弾かれる。衝撃でクリス機はバランスを崩すがアロガンツは安定して踏ん張ってる。

 アロガンツはスコップを半回転させて持ち手の側をクリスに向け打突を放つ。

 バランスを立て直そうとしてたクリス機はその隙をつかれ後方に吹き飛ぶ。

 直後今度は弾丸が立て続けに飛んできた。だがアロガンツの装甲の前にはダメージにならない。撃ったのは緑のカラーリングのジルク機。

 

「クリス! グレッグ! 今の内に此方へ!」

 

 速射性に優れる分威力は低めのサブマシンガンだったが、なるほどアロガンツを倒すためではなくクリス機とグレッグ機の体勢を立て直す時間を稼ぐためらしい。

 クリス機とグレッグ機はその声に従うようにジルク機の元へ。

 二機が自身の側に来たのを確認したジルク機が弾倉が空になったサブマシンガンを投げ捨てる。

 

「速射性重視で威力は低めとは言えあれだけ喰らって無傷とは何てヤツ……」

 

 無傷のアロガンツを睨みながらジルクが歯軋りするのだった。




1対3の変則バトル
原作との差別化を模索した結果こうなりました

次回、その3に続きます
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