チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり 作:julas
「さて、とうとう殿下一人になってしまいましたね。で、どうします? やりますか?」
「答えるまでもない! ジルク達が全力を尽くしたのに俺だけ戦わずおめおめ引き下がれるものか!」
闘技場中央。五機あった王子側の鎧も大将機であるユリウスを残すのみとなりリオンのアロガンツと対峙している。
「それに男は愛を勝ち取るためにはたとえ勝ち目が薄くとも挑まねばならぬ戦いがあるのだ!」
「それって殿下が言っていいセリフじゃないと思うんですけどね。愛の為と言うのなら、この俺の戦いこそ恋人との愛を護るための戦いだと思うんですけど?」
そしてアロガンツの首を観客席のアンジェ達の方に巡らせる。
「アンジェもそう思うだろー!?」
「ああ! まったくもってその通りだ! 愛してるぞリオーン! 私たち二人の愛……と私の敬愛する女性たちの為にも必ず勝ってくれよー!」
元気よくエールを送るアンジェの隣でクラリスがジト目で見つめる。
「今一瞬私とオリヴィア様のこと忘れていたでしょ」
「ス、スマン姉御、調子に乗りすぎ――」
「冗談よ。真に受けなくていいから。それよりも私なんかより……」
クラリスが視線を向けたのはオリヴィア。その表情は硬く重い。
これから戦いを繰り広げるうちの一人は自身の婚約者、いや破棄を言い渡されたから元婚約者であるユリウス。そしてこの戦いにはその撤回が掛かっている。
撤回が成されるためにはユリウスの敗北を望まねばならず心穏やかでいられるわけがない。
アンジェはそれに対し自身がリオンの活躍に心躍らせていたことに申し訳ない気持ちになってた。
オリヴィアはアンジェの視線に気づき申し訳なさそうに気遣うように物憂げな笑みを向ける。そして真剣な面持ちを見せると闘技場へ視線を戻した。
その顔は覚悟を決めたかの様に見える。
「さすが公爵令嬢様。覚悟は決まったみたいね」
言いながらクラリスはアンジェの肩に手を置く。
「そういう事だからアンジェは私達の事なんか気にせず自分たちの幸せだけ考え男爵の応援だけしてなさい」
アンジェはクラリスと、そしてオリヴィアに向かい其々お頷いてみせるとリオンに向け声援を送る
「頑張れリオーン! 私達も最後まで見守り応援するぞー!」
アンジェと達の声援にリオンはアロガンツの手を振り応えるのだった。
「しかし殿下も片思いの横恋慕でよく恥ずかしげもなく愛とか語れますね。まぁ略奪愛って言葉もありますが王太子ともあろうお方がそんなんでいいんですかね」
「ええい黙れ! 先ほども言ったがジルク達が男を見せてくれたのだ! ならばこの俺も死力を尽くさねば奴らに会わせる顔がない!」
「逆だと思いますけどね」
「何だと?」
「ジルク達が三人がかりでも敵わないってのを身を持って知らしめてくれたのに、それを無碍にするなんてそれこそあの三人が報われないな~って」
「ああ、確かにジルクには棄権しろと言われた。だが最後には俺の意を汲んでくれた! ならば最後まで戦ってこそその想いに報いるというもの! 分かったら武器を拾え!」
ユリウスの乗る鎧は地面に転がるアロガンツが使ってたスコップを指さす。
アロガンツが投げ放ちジルク機の腕を落としてからそのままになってたスコップ。
ユリウスの声に答える代わりとばかりにアロガンツからリオンの盛大なため息が聞こえる。
「……殿下、俺たちの戦いの何を見てたんですか? 俺があの三人を下したのは結局のところ武器を用いずの素手。このアロガンツの腕と足ですよ? その状態ですらアイツ等は俺に勝てなかったのに武器を持て? やる気あるんですか?」
「黙れ! 素手の者を斬る剣など持ち合わせてはおらぬわ!」
ユリウスの返答にリオンはまた溜息をつく。
そして思い出すのは先ほど戦った三人の、特にクリス。こちらが無手でもその上で力量を把握し全力で斬りかかってきた。
それは相応の実力あればこそ相手の強さも測れたことの現れ。相手の力量も見抜くのもまた実力。そう言う意味でも目の前のユリウスは現実が見えていないと言える。
「素手、ねぇ。そもそも俺の得物がスコップだけなんて思うのが楽観的で見通しが甘すぎなんですよ」
リオンの声に合わせる様にアロガンツは親指を立て背中に背負ったコンテナを叩いて見せる。
「何だと?」
「言って分からないようですし。お見せしますよ」
次の瞬間アロガンツのコンテナが開き、様々な武器が飛び出し地面に突き刺さりズラリと立ち並ぶ。
アックス、ブレード、ハルバード、ライフル……更には宙を浮く複数のドローン。
言うまでもなくそれらはスコップなどと違い純粋に戦闘に特化し、敵を屠るための洗練された威容の見紛う事なき武器。
更に言えばそれらはアックスを除けば先に倒した四機の得意武器と同系統、いや何れも上位互換に見える。
本来戦闘向きでないスコップでさえあれほどの力を見せたのを考えればどれだけの力を秘めてるのか。
つまり全く力を温存した状態であの四人を倒してのけたと言う証左。
目の前に並んだ武器に思わず息を飲み黙り込むユリウス。
沈黙するユリウスに向かいリオンが声をかける。
「そうだ、折角ですからこの武器、どれでもいいですからお貸ししましょうか?」
「な!? 貴様! 舐めるのも大概にしろ!」
「舐めるなんてとんでもない。単なる親切心ですよ?」
そう言ったリオンの声には完全に嘲りの思いが見て取れる。
「要らん! 俺にはこの王家の! この国の粋を尽くして作られた最高傑作の鎧と! 合わせて作られた最上の剣と盾がある! 分かったら貴様も武器を取れ!」
ユリウス機は自機の剣と盾を掲げて見せる。
「武器を取れって……だからさっきも言ったように、ってああ、負けた時の言い訳が欲しいんですね?」
「何だと……?」
「同じ負けるにしても素手相手に負けたとあっちゃ立つ瀬がないですものね。いやいやこれは失念してました。ただ此方としましてもただでさえ圧倒的戦力差なのに強力な武器で叩きのめしちゃ寝覚めが悪いんですよね~」
アロガンツから聞こえる笑い声交じりのリオンの声に対し、ユリウス機からは「お、おのれ~!」と怒りに震える声。
「だったら好きにしろ! そして後悔するがいい! この俺相手に武器も持たず立ち向かったことを!」
「ハイハイ。じゃぁそろそろ始めますかね。審判の方も観客もしびれを切らしてるみたいですし」
リオンはコックピット内でルクシオンに武器を格納する様に命じるとドローンたちが離れた場所のスコップも含め武器類をコンテナに仕舞い、最後にドローン達自身もコンテナに収まって行った。
そして始まる最終試合。
ユリウス機は盾を前面に構えながらリオンの出方を伺っている。
先ほどのやり取りで頭に血が上ってるかとも思ったが案外慎重な判断。
「口では威勢のいいこと言ってたけど割と慎重だな。とは言え何時までもお見合いって訳にもいくまい。そうだな、アンジェにも協力してもらうか」
リオンはアロガンツの首をアンジェの方に向け「アンジェ!」と呼びかけアロガンツに投げキッスの仕草を取らせる。
リオンのアロガンツのソレにアンジェは思わず顔を赤くすると、隣に座るクラリスが悪戯っぽい笑顔を浮かべ肘で小突きながら「お返ししてあげなさいよ」と。
クラリスに促されたのもあってアンジェは恥ずかしそうにしながらもリオンのアロガンツに向かい返礼とばかりに投げキッスを返す。
そんな二人のやり取りにユリウスが切れる。
「キッサマァッッ!」
叫びながらユリウス機は盾を突き出しながらの突撃。所謂シールドバッシュ、シールドチャージという戦法。並の鎧相手であれば吹き飛ばせそうなほどの突撃だったがアロガンツにはびくともしない。
リオンは突き付けられた盾に向かいアロガンツの拳を繰り出す。凄まじいパワーにユリウス機が吹き飛ぶ、かと思いきや上手く力を流し体を反転させ剣撃を放ってきた。
ユリウス機の剣撃をアロガンツは腕の装甲で受け止めると、反対の腕で再び盾を殴りつける。
ユリウス機はその一撃を今度は受け流さず、逆にその勢いを利用し後方に大きく跳び距離を取ると、バックパックから肩に装備されたキャノンを発射する。
砲撃を受けアロガンツが爆炎を上げるとユリウスは「未だ未だぁ!」と声を上げ続け様に砲撃を浴びせる。
砲撃に砲撃を重ね凄まじい爆炎が上がりアロガンツを包む。
その様子にさすがにやりすぎではとの声を上げる生徒もいたが、王子達に賭けてた生徒たちの殆どは、やれ!やってしまえ!と殺気だった声援を送っていた。
何発放ったか分からないほどの砲撃を放った後、弾が切れたのか砲撃が止む。
未だ収まらぬ爆炎に包まれたアロガンツに観客たちは歓声を上げ、睨みつけるユリウスは「やったか!?」と声を上げる。
だが煙が晴れると再び姿を現したアロガンツの全くの無傷の姿に歓声は落胆の声に代わる。
反対にアンジェ達は歓声を上げるのだった。
「いやいや、中々容赦ないエゲツない攻撃してくれますね。ま、それだけ本気ってのは分かりましたけど」
リオンの声とともにアロガンツは埃でも払うように自機の装甲を撫でてノーダメージをアピールして見せる。
「フン! 俺もこの程度で終わるとは思っておらん」
ユリウスはそう言って弾切れになった背中のキャノンをパージさせる。
「行くぞ! ここからが本当の勝負だ!」
キャノンを捨て身軽になり速力が増したユリウス機は剣と盾を構えかかってきた。
「仕切り直しだとでも言いたい感じだな。まぁ丁度良いタイミングだし質問いいですかね?」
リオンはアロガンツを操りユリウス機の鎧の剣と盾による攻撃を捌きながら問いかける。
「質問だと?」
「婚約者の、オリヴィア様のことですよ。どう思ってらっしゃるんで? 未来の王太子妃としてとても頑張ってらっしゃると聞きますのに。俺の恋人だって褒めてましたよ?」
リオンがアンジェのことを名前ではなく恋人と呼んだのが気に食わなかったのユリウスは歯噛みする。
「……よくもアンジェリカを誑かしおって……! 相変わらず外面だけは良い女だな! 忌々しい、反吐が出る!」
「随分酷い物言いですね。そこは人望あるとか人当たりが良いとか社交的とか言うものじゃないですかね。未来の王太子妃様として御立派じゃないですか。オマケに次期聖女との――」
「貴様なんぞに何が分かる! ああ、傍から見れば完璧な婚約者だろうさ! 公爵令嬢で未来の王太子妃で聖女候補! それこそ王太子である俺なぞより立派な程さ! 婚約者だけじゃない! 俺の周りにあるものは、与えられるもの全てが完璧さ! そんな境遇がどんなに虚しいか! 貴様に分かるか! そしてその完璧さを俺にも求めてくる! 完璧な王太子を!」
「オリヴィア様がそう仰ったんですか?」
「言わずとも分かるわ! アイツだけじゃない! 王宮の女も、学園の女生徒たちも! 皆、俺を王太子としてしか見ない! 俺自身を見ようともしない! そんな中初めて出会った……俺自身を王太子としてではなくただの男として見てくれた女……それがアンジェリカだった」
言いながらユリウス機はアロガンツに盾を叩きつけ距離を取ると、その首をアンジェの方に向ける。尤もアンジェの視線が注がれる先は依然リオンが乗るアロガンツだったが。
それもお構いなしとばかりにユリウスは続ける。
「初めてだった。幼い頃から望むと望まざると一方的にあらゆるものを与えられてきた俺に何かを欲すると言う気持ちはなかった。初めて本気で欲しいと思った。
俺を王太子でなく一人の男として接してくれたのも本気で手に入れたいと思ったのも、どちらも初めてだった。そして思った。彼女こそ運命の女だと」
熱っぽく語るユリウスだったが、それに対しリオンは呆れたように口を開く。
「運命って……アンジェに拒絶されまくってたでしょうが殿下」
「……ッッ! それも含めて運命だと思った! 容易に手に入らないからこそ手に入れる価値があると! 障害を乗り越えて手に入れてこその愛だと! 与えられても与えられても満たされない虚しさを渇きを埋めてくれる存在なのだと! アイツを手に入れて初めて俺は一角の男になれると思ったのだ!」
「ふーん。一人前の男になる為にアンジェが欲しかった、と?」
「ああ、そうだ! 理解したか俺の気持ちを! 理解したのならこの戦い引け!」
ユリウスの言葉にリオンはあからさまに不機嫌な声を漏らす。
「ハ!? 今、何つった!?」
「引け、と! 譲れと言ったのだ! 王太子たるこの俺に見初められたのだ! 女にとってこれ以上の栄誉があるか!? お前がアンジェリカを愛してるのなら幸せを願うのなら言わずとも分かるだろう!?」
「ひとっつも理解出来んわ!」
アロガンツが前蹴りを放つとユリウス機はその蹴りを盾で受け止めるもそのパワーに押され後ずさる。
「ってか譲れってなんだ! モノを扱うみたいに言うんじゃねぇつったろが! そもそも平民のアンジェが王太子妃に迎えられてそれで幸せになれると本気で思ってるのか!?
右も左もしきたりも分からないのに王室になんかに放り込まれてそんなの苦労するのが目に見えてるだろうが! そんなことも分からんのか!?」
「た、確かに苦労させるかもしれん! だが愛があればそんなもの克服――」
「そっちの一方的な横恋慕だろうが! そんなものを恥ずかしげもなく愛とかほざいてんじゃねぇ! アンジェと愛を育んでるは俺だ! 現実を見んか!」
「い、今はアンジェリカの恋人はお前なのだろう! だがこの戦いに勝って俺は――」
「今は、じゃねぇ! この先未来永劫俺の恋人だ! いや、未来だったら結婚して嫁か。とにかくこの戦いに勝つのも俺で、この先もアンジェの隣に立つのは俺で譲るつもりはねぇんだよ!
そもそもさっき王太子として見られるのが嫌だとか言っときながら、王太子妃の座で釣ろうってのが矛盾して破綻してんだよ!」
リオンが捲し立てる間もアロガンツの拳と蹴りは止まらず、受け続けるユリウス機の盾は破損歪みが増していく。
「王宮での苦労も愛があれば乗り越えられる!? 殿下がそれを言うんじゃねぇ! それを常日頃から行なってみせてた婚約者に! オリヴィア様に婚約破棄を突き付けた癖にどの口が言ってんだ!
殿下の為のオリヴィア様の努力も顧みなかった殿下が言っていいセリフじゃねぇんだよ!」
リオンはアンジェからの又聞きとは言えオリヴィアが幼い頃から未来の王妃たらんと厳しい躾や教育を受けてきてたのを聞いていた。
それを無碍にするユリウスの言葉は腹に据えかねるものだったのだろう。
「オリヴィアが努力だと!? 仮にその通りだったとしてそれが俺の為だと!? あんなもの公爵家に言われるままのただの操り人形だろうが!」
「だったらそっちは王家の一員としての務めを投げ出す王族失格の放蕩息子だろうが!」
「黙れ! そもそも望んで王太子に生まれたわけではない! こんな不自由な身分捨てられるのなら捨てたいわ! いや、アンジェリカの為なら捨ててみせる!」
「自分の我が儘にアンジェを出しにしてんじゃねぇ! そもそも横恋慕の略奪愛のくせに偉そうにほざいてんじゃねぇってさっきから言ってんだろ!」
ユリウス機の盾は、度重なる猛攻を受け続けてきた結果とうとうその限界を超え、アロガンツの拳に貫通されてしまう。
盾を貫いたアロガンツの拳を頭部に受けたユリウス機は吹き飛ばされる。
アロガンツは拳が突き刺さった盾から拳を引き抜くと、既に原形を留めていない盾を紙でも破くようにあっさりと引き裂いて見せる。
「殿下を護ってきた盾もご覧の通り。で、未だやりますか?」
リオンが問いかけるとユリウスは答える代わりに雄叫びを上げ斬りかかってくる。
だがそんな渾身の一撃もアロガンツの腕の装甲にあっさり阻まれ、更にそこにアロガンツが一撃加えるとその刀身は真っ二つに折れる。
アロガンツの頑強な装甲を打ち続けた刀身は耐久限度を超え、そこに止めの一撃を貰い折れたのだった。
「弾は撃ち尽くし、盾は壊れ剣も折れ。あらためてお聞きしますがそれでも未だやりますかな殿下?」
アロガンツに乗ったリオンは、武装を全て失ったユリウス機に向かって語り掛ける。実質降伏勧告の様なもの。
「……未だだ。未だこの両の拳が残っている! お前も素手、俺も素手! ここから仕切り直しだ!」
言ってユリウスは自機に拳を構えたファイティングポーズを取らせる。
「はぁ~。俺と殿下、双方とも素手で条件は五分? 本気で言ってるんですか?」
リオンは大きく溜息をつきながら無造作にアロガンツの歩を進める。
その行動にユリウスは「舐めるな!」と叫びながら拳をアロガンツの頭部めがけて繰り出す。
だがユリウス機の拳を受けてもアロガンツはビクともせず、むしろユリウス機の拳はマニピュレーターに歪みが生じてる。
人間で言えば殴った方の拳が指が骨折したようなもの。
続けて今度はアロガンツが拳を繰り出す。ユリウス機は咄嗟に左腕でガードするもガードごと吹き飛ばされる。
かろうじて尻餅こそつかなかったものの強烈なパワーで殴られ受け止めた左腕は歪み態勢も崩れかろうじて倒れず立っているよう。
「この戦いの最初の方でも言いましたよね? このアロガンツは武器無しの状態でジルク達三人を降して見せた、って。そっちの素手とこっちの素手は訳が違うんですよ。もういい加減勝ち目無いの悟って諦めて降伏してくれませんかね」
「ふん! 確かにこの俺の、王家の鎧をもってしても貴様の鎧に勝てぬだろう。だがそれで勝ったとしてその後どうなるか理解しているのか!?」
「何が言いたいんです……?」
「王太子たるこの俺に地を舐めさせ、それで済むと、どうにかなると思ってるわけではあるまい!? 未来の王に敗北と言う恥辱を味合わせタダで済む訳がないと、それが分からぬ訳ではあるまい!? そんなことしてこの学園に残れると思っているのか!? いや学園だけではない! そんな者にこの国に居場所があると、末路は追放だと分からぬわけではあるまいな!?」
ユリウスのあまりの往生際の悪さにリオンは呆れ言葉を失う。しかしそんな横暴な言葉に黙って居られるわけがないと口を開こうとした時観客席からアンジェの声が上がる。
「いい加減にしろこの馬鹿王子が! リオンをこの国から追放するだと!? リオンを追い出せば私を手籠めに出来るとでも思ったか!? やれるものならやってみろ! その時は私もこの国を出てリオンについて行くまでだ! たとえ地の果て海の果てだろうとリオンの行くところにどこまでも着いて行く! そこがどんな場所だろうと、私の居場所は愛するリオンの隣だけだ!」
アンジェの、席から立ち上がり発した、何処までもリオンについて行くと言う力強い言葉にユリウスは衝撃を受け、パイロットであるユリウスの気持ちを示す様に鎧の首がガクリと項垂れる。
「そ、そこまで俺を拒絶しこの男を選ぶと言うのか……」
そしてユリウスの鎧は崩れ落ちる様に両膝を着く。
これは流石に勝負ありかなと思ったリオンは審判に目を向けようとした時、アンジェの声が上がる。
「俯くな! 膝を着くな! 顔を上げろ前を見ろ! 確かに私が心に決めたのはリオン一人だ! 殿下を選ぶことは天地がひっくり返っても無いと断言する! だが! 闘技場に立ったのならば最後まで戦い抜いて見せろ! 責務を果たせ! 矜持を! 王族の誇りがあるなら見せてみろ! 今の情けない貴方に告白されたなど恥ずかしくて誰にも言えぬわ!」
その言葉に反応する様にユリウス機が首をもたげアンジェの方に視線を向ける。
「言いたい放題言われて悔しいか!? 悔しかったら将来立派な王になって見返してやるぐらいの意地を見せてみろ! いつか私とリオンの間に授かるであろう子にあの王様に告白されたこともあるんだと胸を張って言える立派な王になってみせろ!」
アロガンツのコクピットの中でリオンは、アンジェの言い放った言葉に思わず赤くなり口元に手をやる。
「……間に授かるであろう子、ってアイツ意味わかって言ってんのか?」
『マスターの方こそ口元が緩んでますよ』
ルクシオンの突っ込みにリオンは思わず目を逸らす。
アンジェの言葉を顔から火が出そうな思いで聞いたリオンであったが、同じ言葉を耳にしたユリウスはまた違った心持であった。
「間に授かる子……か。アンジェリカ、お前はそこまであの男を、バルトファルトと添い遂げる覚悟を決めているのだな……」
アンジェの言葉にユリウスがポツリと零す。
ユリウスはあらためてアンジェを真っすぐ見詰める。
「アンジェリカ……。お前の何物にも、たとえ王侯貴族相手にも屈しない気高さ。その強い意志を秘めた深紅に輝く瞳。誰より眩しく輝いているお前に俺は惹かれた。
決められた道などなくとも己の力で切り開き突き進まんとするその気概に心底惚れた。全てをかなぐり捨ててでも手に入れたかった。
だが、そんなお前だからこそ決して俺になびくことは無いのだな。今頃になってやっと気づくとはな……」
ユリウスの声は何処か悟った様な落ち着きを取り戻したものだった。
そしてユリウスは鎧のコックピットハッチを開き生身の姿を晒し真剣な眼差しをアンジェに向ける。
決闘の最中だと言うのに生身を晒す危険な行為に審判が慌てて駆け寄ろうとするとリオンはアロガンツの手の平を突き出し制す。
そのままアロガンツの首をアンジェの方に向けると頷いて見せる。
リオンの意を察するようにアンジェも頷き、そしてユリウスの方に向き直る。
ユリウスはアンジェに真っすぐ向き合い口を開く。
「アンジェリカ。お前が好きだ。心から愛してる。どうか俺の伴侶となって人生を共に歩み支えて欲しい」
ユリウスの告白。そこには王族としての驕りなどはなく一人の男としての真摯で真っ直ぐな想いを乗せた言葉だった。
それに対しアンジェも真っ直ぐな瞳で見つめ返し答える。
「すまない。その思いには応えられない。私の様な田舎者の小娘には勿体ない真剣な告白、光栄に思う。だが私にはもう心に決めた人がいるから。リオンを心の底から愛しているから。私は、生涯リオンただ一人を愛し抜くと決めたから」
そして丁寧に真っ直ぐ頭を下げる。
ユリウスの告白とアンジェの断りの返事。
暫し場は沈黙に包まれる。
やがて沈黙を破りユリウスが口を開く。
「振られてしまったな……。だがコレで気持ちにケリを付けられる。ありがとうアンジェリカ俺の告白に真剣に答えてくれて。お前を好きになって良かった。実らぬ恋だったがそれでもこの出会いは掛け替えのない素晴らしいものだった。青春の痛みとして思い出として胸に深く刻みつけよう……」
言い終わるとユリウスはハッチを閉めリオンに、アロガンツに向き直る。
「バルトファルト! 先ほどは見苦しい姿を見せてしまった! 王族として……いや、人としてあるまじき恥ずべき行為だった! 撤回して心から詫びよう! この勝負! どのような結果に終わろうとも誰にも文句も手出しもさせん! だから、決着を付けよう!」
意を決し拳を構えて見せるユリウス機。
そんな姿にリオンはマイクを通さず独り言をつぶやく。
「失恋を乗り越えて一皮むけたか? 少し見直したぜ王子様」
リオンはユリウスの思いに応えるようにアロガンツにファイティングポーズを取らせる。
「良いでしょう。お受けします。決着を付けましょう殿下」
「感謝するぞバルトファルト!」
ユリウス機は大地を蹴ってアロガンツに向かい拳を突き出す。
迎え撃つアロガンツも拳を繰り出しユリウス機の拳にぶつけるとユリウス機の拳が砕け散る。
片方の拳が砕けてもユリウス機は怯まず続けて残った方の拳を繰り出すとアロガンツは額で受け踏み込むとその拳も砕ける。
両の拳が砕けたユリウス機の頭部めがけて繰り出されるアロガンツの拳に、ユリウス機の頭部が砕け散る。
拳と頭部が砕け散ったユリウス機はそのままアロガンツにもたれかかる。
「完敗だ……。お前の勝ちだ。バルトファルト……」
「最後の最後、良い根性見せて貰いましたよ殿下」
アロガンツは崩れ落ち地面に倒れそうになるユリウス機を受け止める。
勝負の確認をするように審判の乗った鎧が駆け寄ってくる。
審判に向かいユリウスが口を開く。
「見ての通りだ。バルトファルトの勝利を宣言してくれ」
ユリウスの言葉に審判の鎧が頷く。
「最終試合、勝者、リオン・フォウ・バルトファルト! よって、アンジェリカを決闘の勝者とする! 両者の健闘を湛え拍手を!」
決闘、決着です。
ユリウスの株は一度落ち切ってしまえば後は上がるだけ? 頑張れ王子様。
次回は決闘後の後始末的なお話になります