チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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24、ダンジョン再び【前】

「わざわざ装備の新調迄してくれなくても良かったのに――」

「何言ってるのよ!」

 

 暢気な声を上げるアンジェの言葉を遮り声を上げたのはクラリス。

 

「そりゃ装備品も消耗品だから多少の傷破損綻びは予想してたわよ。でもあんなボロボロだなんて誰が予想出来て!?」

 

 クラリスの剣幕にアンジェは視線を逸らし、それを眺めていたリオンも乾いた笑みを浮かべる。

 

「ダンジョンに潜る前にチェックしといて良かったわよ……」

 

 決闘の時観客席で交わした会話から出たダンジョン探索の話。

 そして今、その約束を果たすべく一同はダンジョンの入り口に来ていた。

 先日、ダンジョンに潜る前に打ち合わせした時に折角だからと装備も纏って見せたのだが、あまりの傷や綻びの多さにクラリスを呆れさせたのだった。

 

「姉御も大袈裟すぎなんだよ。あれぐらいの傷や綻び――」

「限度ってものがあるでしょ!」

「でも新調代まで出してくれなくても――」

「私が嫌なの! アンジェの活躍見たいとは言ったけどボロボロの装備じゃ安心して観れるわけないじゃない!」

「そうだぞアンジェ。姉貴分の言う事は素直に従っておくものだぞ」

 

 クラリスの言葉に乗っかる様にリオンも口を挟むとアンジェも観念して頷く。

 

「スマン姉御。新調代まで出してもらって。代金は今回の探索で魔石とかが出たらそれで――」

 

 言いかけたアンジェにたいしクラリスは手をかざし言葉を遮る。

 

「そういう時はスマンじゃなくてありがとうでしょ。妹分なんだからもっと姉貴分の好意は素直に受け取っときなさい」

「でもいつも世話になりっぱなしでは――」

「それに、今回の探索が終わった後は、故郷に顔見せに戻るんでしょ? 折角の長期夏季休暇の里帰りなんだから、今回見込める収穫はそのお土産代に取っておきなさい。ね?」

 

 言ってクラリスはウィンクしてみせるとアンジェも笑顔で返す。

 

「そうだな。ありがとうクラリスの姉御。ならばご期待に応えるべく特等席で私の活躍御覧に入れよう!」

 

 アンジェが気合を込める様に拳を握ってみせると、クラリスも「期待してるわよ」とアンジェの肩に手をやるのだった。

 

 

「張り切るのは良いけど程々にな。って言ってもお前のことだからまた無茶しそうだがな」

 

 リオンはアンジェの肩に手を回しながら釘を刺す。

 

「だ、大丈夫私だってそんなに無茶ばかりと言う訳じゃないから」

 

 言いながらも視線が微妙に泳ぐ。

 リオンは溜息一つ吐くとアンジェの正面に向かい合うとその頬に両手を添わせ顔を真っすぐ見詰める。

 その視線にアンジェは観念し頷くとリオンは互いの額と額を軽く当て「良し」と口にしたのだった。

 そんな二人の恋人同士ならではに近い距離間にクラリスとその取り巻き達は頬を染めながら微笑ましげに見守ってると、集団から離れたところから「あの~」と遠慮がちな声が上がる。

 声の方に向かい一同が視線を向け、誰?と言わんばかりに揃って首を傾げる。リオンを除いて。

 視線の先の声の主――マリエに向かいリオンが手招きする。

 

「今回の探索でヒーラーとして助けてもらう為に来てもらったんだ」

 

 言いながらリオンが促す様に目配せすると、マリエは口を開く。

 

「マリエ・フォウ・ラーファンと申します。この度はお誘いいただき――」

「ラーファン?」

 

 マリエの家名を聞いた途端クラリスの片眉が上がり、あからさまに不快感や警戒感を露にする。

 その仕草にリオンは怪訝に思いながらも直後察する。

 マリエから聞いた彼女の家族のあまりの酷さ。実の娘に対しあまりに無体なその様子を思えば周囲からも評判の悪い家なのも納得。

 とは言えリオンはマリエがそんなラーファン家の連中から虐げられてた身だと知っており、そんな家族と一緒にされるのは哀れとばかりに声を上げようとする。

 

「クラリス先輩。実はその事についてはお話が――」

「いいわよ。私から話すから」

 

 だがマリエはそんなリオンの助け舟を手を上げ遮り断った。

 二人の様子を見てクラリスは溜息を一つ吐き警戒を緩める。

 

「分かったわ……。ラーファン家の悪評は聞き及んでるけど、少なくとも信用してるバルトファルト男爵が連れてきた子なんだから話も聞かず訝しんだりしたのは失礼だったわね。あと、貴女も子爵令嬢なら上級貴族の令嬢の名前は知ってると思うけど一応名乗っておくわ。クラリス・フィア・アトリーよ」

 

 クラリスの言葉にマリエは応えるように頭を下げると、リオンに視線を向け「アンタ信用されてるのね」と感心した様に呟く。そしてクラリスに向き直り口を開く。

 

「いえ、お気になさらずにアトリー先輩。ウチの家の、ラーファン家の悪名については私自身が誰よりも自覚してますから……。えぇ、そりゃもうアイツらクソッぷりときたら……!」

 

 言いながらマリエの顔が険しくなり、声もまるで地の底から響いてくる様に低く。

 

「え、えっと、差し支えなければ伺ってもよろしくて……?」

 

 マリエの重い雰囲気に押され思わず口調が丁寧になるクラリス。

 そして語られるマリエの重すぎる身の上話にその場に居た一同をドン引きさせたのだった。

 

 

 

 

 

「ごめんね~~! 貴女がそんな悲惨な境遇だなんて知らずにラーファンの家名だけで訝しむような目で見ちゃって!」

 

 クラリスは目に涙を滲ませながらマリエの手を取り謝罪の言葉を口にする。そして当惑し恐縮するマリエに向かい続ける。

 

「で、どうなの!? 今もお腹空いてたりしない!? 何なら持ってきたお弁当食べる!?」

 

 クラリスは目配せすると、荷物からバスケットを取り出す取り巻きも目頭を押さえていた。

 

「い、いえ、大丈夫です。未だそんなにお腹空いてませんから……」

「そう? じゃぁ途中お腹空いたら言いなさい? 沢山持ってきたから遠慮はいらないからね?」

「あ、ありがとうございます。でも……私が本気で食べたら先輩たちのお弁当全部なくなっちゃいますよ?」

 

 マリエが遠慮がちに言ったその言葉にクラリスは一瞬きょとんとした顔を見せ、直後吹き出す。

 

「貴女面白いわね。重くなった雰囲気和ますためにそんな冗談言えるなんて。いいわよ。遠慮なく全部食べちゃっても――」

 

 言いかけたクラリスの肩をリオンが叩く。

 

「先輩。コイツの胃袋を甘く見ちゃいけません」

「またまた男爵まで……って、え? その眼、本当なの?」

 

 クラリスがリオンの顔を見ればマジだった。そして視線をマリエに向けると僅かに頬を赤らめ視線を逸らしていた。

 

「貴女、本当に面白いわね。いいわ、流石にお弁当全部食べられちゃ困るから探索が終わったらレストラン行きましょう。勿論私の奢りよ。そこで貴女の自慢の食べっぷりを見せて頂戴!」

「いえ、あの、別に大食い自慢って訳じゃ……」

 

 言いながら視線をリオンに巡らせると、気付いたようにリオンが口を開く。

 

「面倒見の良い頼れる先輩だから素直に甘えとけ。とは言え多少は加減しろよ?」

 

 リオンが笑って言うとマリエも頷きクラリスに向き直る。

 

「ありがとうございます。では今回の探索、ヒーラーとして頑張らせていただきます。怪我等負ったら直ぐ言って下さい」

「頼りにしてるわよ。でも多分一番怪我しそうなのは私達よりアンジェよね。そういう訳だからアンジェもしっかりお願いしときなさい」

「ああ、そうだな姉御」

 

 そしてアンジェはマリエに向かい歩み寄る。

 

「アンジェリカだ。今回の探索、よろしくお願いする。えっと、ラーファン令嬢?」

「こちらこそよろしく。あと呼び方マリエで良いわよ。私自分の実家嫌いだからそっちの名であまり呼ばれたくないし」

「承知した。よろしく頼むマリエ」

 

 そして手を差し出すとマリエもそれに応え握手するのだった。

 

 

「それぞれ挨拶も無事済んだみたいだな。で、アンジェ。怪我した場合のヒーラーが用意されてるのと怪我してもいいってのはまた違うからな?」

 

 言いながらリオンはアンジェの肩をがっしりと掴み、もう片方の肩に顎を乗せ語り掛けた。

 

「わ、分かってる。さっきも言ったが私も無駄に怪我をこさえたりしない」

 

 言いながら若干目が泳いでるアンジェに、リオンはやれやれと言った感じで軽く溜息を吐くのであった。

 

 

「前にダンジョン潜った時は授業の一環で、あの時はオリヴィア様に回復魔法掛けて貰えたからな。あの時と違って今回のダンジョン探索は完全に個人的な理由だから当てに出来ないから。それに公爵令嬢ともなれば夏季休暇でも忙しそうだし。代わりのヒーラー見つかって良かったよ」

「ああ、あの時はリビアのお陰でモンスター相手に負った傷も綺麗に治してもらえて本当助かった。私もあの子も……」

 

 言いながらアンジェの顔が僅かに曇る。

 その表情からリオンは察し思い出す。前回のダンジョン探索の時鉢合わせたあの一行のことを。

 

「気になるのか? あの取り巻きの子が」

 

 リオンの言葉にアンジェは頷く。

 

「大丈夫かなカーラ……。あの性悪令嬢にまた酷い目に遭わされてないかな……」

 

 心配そうな顔を見せながら呟いたアンジェ。そして遠い眼をしながら続けて言葉を紡ぐ。

 

「なぁリオン。私はこの学園に入学するまでお貴族様ってのは皆何不自由なく贅沢な暮らししてる人ばかりだと思ってた。でも違うんだな。カーラも、マリエも、下手すりゃ平民の私より苦労してそうな子が居るなんて思いもよらなかった。いや、彼女たちに比べれば私のなんか苦労なんて言えないな。リオンやクラリスの姉御と言った良い人たちに恵まれて助けられてる私のなんか……」

 

 リオンは呟くアンジェの肩を優しく抱く。

 

「優しいんだなアンジェは。でも今ここで心配したって仕方ない。前にも言ったけどオリヴィア様も心配して下さってるんだ。きっと何とかしてくれるさ。それに同じ学園に通ってる同士なんだ。多分縁は繋がってる。この先また会うことがあるかもしれない。だったらせめてその時無事な姿で再会できるよう元気に毎日過ごそう。差し当たって目の前のダンジョン乗り切ろう。折角クラリス先輩も乗り気なんだから」

「そうだな。今ここで悩んでも仕方ない。先ずは今を乗り切ろうか」

 

 そうして気持ちを、目の前にダンジョンに向け意識を切り替えるのであった。




と言う訳でダンジョンにやってきました。

次回後編に続きます

カーラの再登場は未だもう少し先ですが、忘れてないよと言う。忘れようも無いですが。
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