チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり 作:julas
名前被りがちょっと心配です
原作のメイン処とは被ってない筈ですが、端役と被ってないかどうかが……。
「ありがとうなリオン。わざわざ船まで出してもらって」
「気にすんな。俺もアンジェの家族に会ってみたかったからな」
リオンの所有する飛行船、パルトナーの甲板で会話を交わすリオンとアンジェ。
夏季長期休暇と言う事で、実家への里帰りにと育った孤児院に向かうアンジェをリオンは自前の船で送り届けていたのだ。
「しかし改めて凄いなリオンは。こんな立派な船まで持ってるなんて! こんな大きな船初めて見たぞ!」
この世界では群を抜いた大きさにアンジェは大いにはしゃいでした。
「パルトナーと言ったか? 今まで見たどんな船よりも立派で、しかも人員を必要としないなんて凄いなロストテクノロジーと言うヤツは! そしてそんなロストアイテムを冒険の果てに発見したリオンはやはり凄いな!」
リオンの船パルトナーは厳密にはロストアイテムではなく、真のロストアイテムであるルクシオンの手により建造された船。
何せルクシオン本体である航空戦艦――いや宇宙戦艦としての力と外観は、ロストアイテムと言う事を差し引いて尚異質過ぎる存在。
その代替としてある程度馴染む範囲内でロストアイテム"らしい"力と説得力を持った飛行船として作られたのがパルトナーであった。
アンジェは船内をリオンに案内してもらってる間も存分に楽しみ、今甲板に上がり空の景色を楽しんでいた。
そうしてアンジェの故郷に到着するまで空の旅を楽しんでいたのであった。
「どうだ? 何もない田舎で驚いたか?」
アンジェは育った浮島に降り立つとリオンに向かい語り掛ける。
彼女の言う通り見渡す限り草原と畑の占める比率が高く建物はまばらに見える程度。
「いや、長閑で良いところじゃないか。俺の実家の領地も似たような感じでさ。学園のある王都の賑やかなのよりこういう所の方が好きかな」
「そうなのか? なら、今度リオンの実家にも連れて行ってくれ」
「そうだな。夏季休暇も長いし、アンジェも夏季休暇中ずっとこっちに居る訳じゃないんだろ? こっちである程度過ごしたら俺の実家の方にも来るか?」
「ああ! 是非お邪魔させてもらおう!」
そして船が停泊する港を後にしアンジェが育ったという孤児院に二人連れ立って向かうのであった。
「ただいま、わが弟妹たちよー!」
「「「「「アンジェ姉、おかえりー!」」」」」
育った孤児院の門をくぐったアンジェを待ち受けていたのは年もまばらな弟分妹分になる子供たちによる熱烈な歓迎であった。
下は3~4歳ぐらいから上は12~13ぐらいまで様々な年齢の子供達。
アンジェが笑顔で手を広げると子供達は飛び付き抱き付き再会の喜びを全身で表す。
「私がいない間ちゃんといい子にしてたか? 院長先生の言う事ちゃんと聞いてたか?」
「大丈夫だよちゃんとしてたよ」
「本当か? それより院長先生は?」
「今用事で出かけてるー。夜には帰るって」
「そうか」
「それより王都の話聞かせて―!」
「あぁ! たっぷり聞かせてやるぞ」
「お土産はー?」
「勿論あるぞ! 洋服にお菓子に、あとお肉も持ってきたから今夜はご馳走だぞ!」
「「「「「わーーーい!」」」」」
そんな幼い兄弟分たちの歓迎から一拍間をおいて一人の少年が姿を現す。
「おかえり。久しぶりアンジェ姉。元気そうじゃん」
「おぉ、テオか。ただいま、久しぶり。お前も元気そうだな。私が居なくなった後の長兄としての纏め役上手くやってるか?」
「あぁ。何ならアンジェ姉より上手くやれてるぐらいだぞ?」
「ハハッ、生意気言いおって。ん? それより若しかして背が伸びたか?」
「アンジェ姉が王都の学園に入学するって出ていった時から三ヶ月以上経ってるんだぜ? そりゃ背も伸びるさ。今じゃアンジェ姉より上だぜ?」
「男子三日合わざればと言うヤツだな。暫く会わんうちに立派になりおって。最後に会った時は未だ私より少し低かったくせにすっかり抜かされてしまったな」
会話が示す通りアンジェより僅かに上背で上回るテオと呼ばれた少年。他の子たちが一目で幼い年下と分かるのに比べ彼は見ようによってはアンジェと同い年かもと思わせる背格好。
彼女を姉と呼ぶところから一つか二つ下と伺える。
アンジェに次ぐ年長者で、彼女が去った後の孤児院の子供たちの纏め役を継いでいた。
アンジェとテオ。アンジェにとって彼は他のどの兄弟分たちより年が近い分距離感も近そうに見え実際に近いのだろう。
お互い気兼ねなく話す距離感は、姉弟の様に気の置けない間柄。少なくともアンジェはテオを実の弟の様に思い気を許してるのが伺える。
そうしてお互い再会を喜び話に花を咲かせている中、テオの表情と声のトーンが変わる。
「アンジェ姉。実は話したい事が――」
その時外から声がかかる。
「おーい、アンジェ。そろそろイイか?」
「おお、スマンなリオン。待たせてしまって。弟妹たちとの再会に夢中になってしまってて。再会に水を差すまいと気を遣っててくれたんだな。ありがとうな」
アンジェがリオンの方に向き口を開くと、子供たちが「誰―?」と疑問と好奇の声を上げ視線を向ける。
そんな子供たちにアンジェは笑顔を向けるとリオンに歩み寄り手を掴み引き寄せ、そして腕を絡ませ口を開く。
「紹介しよう! 私の恋人で未来の旦那様のリオンだ! リオン・フォウ・バルトファルト、なんと男爵様だぞ!」
次の瞬間何か崩れ落ちるような大きな音が。音のした方向に一同視線を向けると、テオが崩れ落ち膝を着いていた。
「テ、テオ!? どうした顔が真っ青だぞ!?」
アンジェが慌てて駆け寄ろうとすると、接近を拒む様にテオは手の平をかざす。
そしてフラフラと立ち上がりながら絞り出すように声を発する。
「だ、大丈夫だアンジェ姉……。大丈夫だから……」
言いながらテオは目元を拳で覆い部屋を飛び出して行った。
その様子にアンジェは状況が把握できないとばかりに狼狽えていると子供たちが一斉に溜息をつき、リオンも悩まし気に手の平で目元を覆う。
「あ~あ、だから言ったのに」
「テオ兄、さっさと告らないから」
「アンジェ姉の背を追い越したらなんて悠長なこと言ってたから」
「アンジェ姉、美人だから学園の貴族様に目ぇ付けられても知らないよって言っといたのに」
憐れむ様に次々と口を開く子供たちにアンジェは驚きの声を上げる。
「ま、待て! 若しかしてテオは私のことが好きだったのか!?」
アンジェの声に子供たちは一斉にジト目で視線を向ける。
「気付いてなかったのアンジェ姉だけだよ?」
「アンジェ姉、マジで気付いてなかったんだ」
「テオ兄、かわいそー」
子供たちの反応にアンジェは益々その顔に浮かべる狼狽の色を濃くする。
そんな表情のままリオンに目を向けると困ったような呆れたような表情をして口を開く。
「俺でも分かったぞ?」
そのリオンの返事にアンジェは頭を抱える。
ややあって我に返ったように頭から手を放し顔を上げたアンジェが駆けだそうとするとその手をリオンが掴む。
「どうするつもりだアンジェ?」
「……それは。でも先ずは会って話さないと! テオは私の大切な弟分……いや、同じ屋根の下ともに育った弟なんだ! 放って置けるわけ無いだろ!?」
「弟、か……。でもあの子がアンジェに求めているのは弟扱いじゃなかったみたいだけど?」
「……ッッ! それは……!」
リオンの言葉にアンジェは口籠る。
そして思い起こされるのは先ほど知ってしまったテオの本心。自分を姉貴分ではなく異性として見てたという事実。そして自身がその事に全く気付いていなかったという。
「アンジェ……この一件、俺に任せちゃくれねぇか?」
「リオン!? いや、これは私達姉弟の話で――」
「アンジェにとって大事な弟なら俺にとっても弟みたいなもんだ。アンジェを嫁として迎え入れると決心した以上は俺が向かい合わなきゃいけねぇ問題なんだ」
リオンの真剣な言葉にアンジェも頷く。
「リオン……。分かった。テオを、私の弟を頼む」
リオンは頷くとテオを追いかけるのであった。
「テオ君と言ったかな? 少し話をしないか?」
追いついたリオンはテオの背中に向かって話しかけた。
「こっちは……アンタと話すことなんか無いです……!」
「気持ちは分からんでもないけどな。君から見れば、俺は君の大事なお姉さんを奪う悪者に見えるだろうから――」
「姉じゃない……! 俺は! 俺はアンジェ姉を……! アンジェを姉だと思ったことはない! ずっと……ずっと一人の女の子として好きだった! 俺の方がアンタなんかよりずっと前から好きだったんだ!」
リオンに向き直り叫んだテオの顔は悔しさで歪み目には涙が滲んでいた。
「そうか……。でもアンジェはずっと君の気持ちに気付いていなかったんだろ?」
「だ、だから今日告白しようと思ってたんだ! 告白しようとしたのに……」
「でもアンジェの隣にはもう俺がいた」
リオンがそう言い放つとテオは悔しそうに俯きながら奥歯を噛みしめる。
「まぁ、その何だ諦めて認めてくれないか? 分かるだろ? 君がどう思おうとアンジェにとって君は――」
「うるさい! 諦めるなんて出来るわけ無いだろ! 渡すもんか! アンタにも、いや他の誰にもアンジェを渡してたまるか!」
言ってテオは感情のままに拳を振りかぶるが、直後鎖に縛られたかのように硬直する。
「どうした? その拳は飾りか? 振り上げただけじゃ何にもならないぞ?」
「……殴れるわけ……、殴れるわけ無いだろ!? 平民の俺がお貴族様のアンタを殴れるわけ無いだろ!」
テオは悔しさを滲ませた声で叫んだ。振り上げた腕を下ろしながらもその拳は未だきつく握られたまま。
「安心しろ。身分を笠に着た様な横暴な真似はしないよ。それとも笠に着て欲しかったのかい? そうすれば身分を理由に一方的に被害者を気取れるからか? 何だ思ったより情けない男だな? アンジェの弟だって言うから少しは骨のあるやつかと思ったのにがっかりだよ」
「う、うるさい黙れ!」
リオンの言葉の挑発に乗せられたテオの右拳がリオンの左頬にめり込む。だが拳を受けたリオンは平然と立ったまま。
「どうした? それで終わりかい?」
「う、うるさい! 黙れ黙れ黙れ! うわあああああっっ!」
テオは感情のままに何発も何発もリオンに向かい拳を叩き込んだ。だがリオンはそれらの拳に対し反撃どころか身じろぎ一つせず全て受け止めていた。
「何で……! 何で殴り返さないんだよ!」
「君がアンジェの弟だからだ。俺の恋人の弟に手なんかあげられるわけないだろ」
「気安くアンジェの名前を呼ぶな!」
リオンの言葉に激昂した様にテオはまたも拳を振り抜く。だが何発拳をリオンに叩き込もうと、精神的優位性はリオンに握られ劣勢に立たされてる気分だった。
感情のままに拳を振るうテオと、一切反撃せずその拳を受け続けるリオン。それはまるで駄々をこねる子供とそれを諭す大人の様で、それをテオ自身が何より実感してた。
だが頭で理解しつつも心では認められなかった。認めてしまえば完全に屈してしまうようだったから。
一方的に殴り続けるテオと殴られ続けるリオン。その二人の間に割って入る人影が。
「いい加減にせんか!」
見かねたかのように割って入ってきたのはアンジェだった。そしてテオに向かい平手打ちを放つ。
殴り合いなら手も口も出すつもりは無かった。
だが一方的に殴りつけてる様子には黙っていられなかった。
「それ以上リオンに手を出すのならテオ! 幾らお前でも許さんからな!」
リオンを信じて待つと言ったアンジェであったが、それでも心配で辛抱しきれず追いかけてきてしまったのだった。
「リオンもリオンだ! 反撃もせず一方的に殴らせおって! こんなに顔を腫らして!」
言いながらアンジェはリオンの頭を手繰り寄せ自身の豊満な胸に埋めるように抱きしめる。
そんな二人に向かいテオが声をかける。
「アンジェ……」
「テオ! 何時私が弟のお前に呼び捨てを許した!? それよりも! 殴り返してこない相手を一方的に殴り続ける様な真似して恥ずかしくないのか!?」
「わ、悪い……アンジェ……姉」
テオがアンジェを姉と付けず呼び捨てたのは姉ではなく異性として思ってるという気持ちを表したつもりだったから。
だがその剣幕に圧され再び姉と付けて呼んでしまう。
「アンジェ。テオ君を責めないであげてくれ」
「リオン! お前も一方的に殴られっぱなしとかどういうつもりだ!? お前の強さなら普通に喧嘩すれば勝てたはずだろ!?」
「……出来ないよ。アンジェの大事な弟を殴るなんて。いや、そんなのただの言い訳かな。アンジェの大事な弟に怪我でもさせて嫌われるのが怖かっただけかもな。ハハッ……何とも弱くて情けないな俺は……」
「そんな事は無い! リオンは強い! 本当に強いから、優しいから力だけに頼ったりなんかしなかった! さっきは殴られっぱなしのお前を非難するような物言いしてしまったが訂正する! 一切殴り返さなかったお前の選択を私は誇りに思う!」
リオンを抱きしめるアンジェの瞳からは涙が溢れていた。
「アンジェ姉……そんなに、ソイツのことが好きなの……?」
テオが問いかけるとアンジェはリオンを抱きしめ黙ったまま、だが力強く頷く。
「俺よりも……十何年も一緒に過ごしてきた俺よりも?」
「テオ……確かに私たち二人は物心ついたときから誰よりも近しい間柄だったさ。だがそれはあくまでも姉弟として、姉と弟としてだ」
「でも、姉弟じゃない……! 血の繋がった姉弟なんかじゃないだろ俺たちは! 俺はアンジェ姉に姉になって欲しかったんじゃない! 俺はアンジェ姉の弟になりたかったんじゃない!」
言い放ったテオの目には涙が滲んでいた。
「テオ……悪かった。今までお前の気持ちに気付いてやれなくて。だけど私にとってお前は大事な家族で弟なんだ。この気持ちは変わらないし変えるつもりもない。お前が私に姉ではなく女を求めるのなら応えてやれない。だから私に女を望むのは諦めて――」
「諦められるかよ! ずっと、ずっと好きだったのに! アンジェ姉のこと……アンジェのこと好きだったのに!」
テオはその目に涙を溢れさせながら拳を振り上げる。
「ソイツさえ! ソイツさえ現れなければ!」
「テオ!」
アンジェはリオンを抱きしめたまま庇うようにテオに背を向ける。
目の前のアンジェの背にテオは振りかざした拳を振り下ろせず固まる。
「テオ……! 先ほども言ったがこれ以上リオンに手を出すことは許さん……! どうしてもと言うのならここから先は私が相手になる!」
言い放ちアンジェはリオンを抱きしめる腕を解き、拳をテオに向ける。
「どうした? 無抵抗な者しか殴れないか? 暫く会わない間に腰抜けになったな?」
アンジェの問いにテオは俯きながら声を絞り出す。
「出来るわけ……出来るわけ無いだろ! 大好きな女の子を! アンジェを殴れるわけ無いだろ!」
テオは叫び涙を拳で拭いながらその場を走り去ったのだった。
走り去るテオの後姿を見詰めるアンジェの瞳から涙が溢れる。
「テオぉ……! 私だってお前を殴りたくないに決まってるだろ……! お前だって大事な家族なんだ……! 私は……お前とずっと姉弟でいたいだけなのにぃ……」
次回も引き続きテオ君の失恋話にお付き合い願います。