チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり 作:julas
「目が覚めたか? リオン」
「アンジェ……?」
意識を覚醒させながらまどろみの中リオンは状況を整理する。
自身の姿勢は寝入った時のまま仰向け。だが頭の下に程よい柔らかな感触。視界の先には豊かな双丘とその先に見知った最愛の少女の顔。
自分が今アンジェに膝枕してもらってることに気付く。
アンジェが戻ってきたら起こしてくれとルクシオンに言い渡しておいたはずなのにどういう事だと視線を巡らせルクシオンを探すと先んじる様に声を掛けられる。
『お目覚めですかなマスター』
一体どういうことかとルクシオンに問いかけようと、そもそもリオンと同じ転生者であるマリエを例外とし常に姿を隠していたルクシオンが姿を晒してるのがどういうことかと。
そう思いを巡らせてるとアンジェが口を開く。
「ルクシオンと言うそうだなお前の相棒。リオンが寝てる間に自己紹介もしてもらった。自然と目が覚めるまで寝かせてやってくれと頼まれてな。主思いの気の良い奴じゃないか」
どうやらリオンが寝てる間にアンジェに自己紹介も済ましていたらしい。
普段から憎まれ口の絶えないルクシオンだが、リオンの健康などに対し気遣いを欠かさない彼らしいともいえる行動。
「そうか。気を遣わせたなルクシオン。あとアンジェもサンキューな膝枕」
その言葉にアンジェは気にするなと言わんばかりに微笑んで見せる。
「それで……テオ君とは仲直り出来たのか?」
「ああ、お陰でまた元の姉弟に戻れたよ。ありがとうなリオン。コレもお前が体を張ってくれたお陰だ。痛かっただろうテオの拳は?」
「効いたぜ。流石アンジェの弟だ」
「すまなかったな、私の弟が迷惑をかけて」
「いいよ、こんなの迷惑の内に入んねぇから。アンジェの弟なら俺にとっても弟同然だからさ」
「リオン……。改めて、私の想いに応えてくれてありがとう。私だけでなく私の家族も大事に想ってくれてありがとう。そんなリオン、お前が好きだ。何度でも伝えたくなるくらい愛してる」
目を潤ませながらリオンを見詰めるアンジェの顔には溢れんばかりの愛情と感謝と信頼が現れていた。
「だから……その……この気持ち、とても言葉だけじゃ表しきれないと、あの時思ってな……」
言いながらアンジェの顔が朱に染まっていく。
「それで……そのさっきは感極まって……」
アンジェの言いたいことが先ほどテオに話し合いに向かう前に、リオンと交わした口付けのことだと理解したリオンの顔も朱に染まっていく。
「うん……その……不意打ち気味だったんで吃驚したけど……気持ちは伝わったよ。その……嬉しかった……よ」
言い終わるとリオンは黙ってしまう。
アンジェも黙ったままで、二人して顔を赤くして黙りこくったまま。
「な、なぁ……次は、俺からしてもいいか?」
「それは当然構わないが……。っと、もう体起こしても大丈夫なのか?」
「ああ、ルクシオンにも軽く治療してもらったからな……ってあれ? アイツの姿――」
「そう言えば見当たらんな?」
またいつも通り姿を消しているだけなのか、それとも本当に気を利かせてどこかに行ってるのか。
お互いきょろきょろとその姿を探してると不意に視線が合う。そして思わず互いに吹き出す。
互いが互いに愛しい相手の顔を視界一杯に収めながら自然と顔を近づけ唇を重ねる。
そして初めての時よりも長い時間をかけ確かめる様に、互いの唇から伝わる感触を味わう。
「その……よく考えたら、唇も口の中も切れてる状態でキス……なんて痛くなかったか?」
アンジェが気付いたように問いかけるとリオンは優しく微笑み返す。
「逆だよ。アンジェの唇の感触のお陰で痛みも吹っ飛んじまった。正直どんな特効薬よりも効いてるのかもな」
「そう……か。それなら、私も嬉しい、かな」
リオンの答えにアンジェはホッとした様に、そして嬉しそうにはにかむ。
「アンジェの方こそ良かったのか? 俺もそうだったけどアンジェも初めてだろ? 初めてにしてはもっとこうムードとか――」
リオンの答えを遮る様に再びアンジェが唇を重ねてくる。
「そんな事は無い。あの時程、今この時しかない、そう思えたんだ。言葉で表せないほどのこの愛しい気持ちを伝えたい、繋がりたいって……」
アンジェの溢れんばかりの愛情いっぱいの笑顔にリオンも満足気に微笑みを返すのだった。
その後二人して草原に寝転がったりアンジェの幼い頃の話など他愛無い会話を交わしたり、暫しのんびりした時間に身を委ねるのだった。
「ただ今戻りました」
「院長先生おかえりなさい」
「アンジェ姉も来てるよー」
「アンジェが? そう言えば今日でしたね手紙に書いてあった日は」
この孤児院の長である院長が帰ってくると子供たちが出迎え、アンジェの帰郷も知らせる。
「ただいま、院長先生」
「おかえりなさいアンジェ。王都の学園でも元気に過ごしてたみたいですね。顔色も良いみたいですし」
「ハイ。お陰様で怪我も病気もなく! それで今日は院長先生にも是非会って欲しい人が居るんだ」
アンジェの言葉に促されるようにリオンが姿を現す。
「お初にお目にかかります。リオン・フォウ・バルトファルトと申します」
「はじめまして。お名前はアンジェの手紙で伺ってます。学園ではアンジェが世話になってるようで御礼申し上げます」
リオンと院長は互いに会釈し挨拶を交わす。
アンジェはじめとした院の子供たちから院長先生と慕われてる中年の男性。柔和な笑みを湛えながらもそれなりに良い体格をしてる。垂らした前髪の隙間からは古傷の痕も見え、決して平坦な人生を歩んでたわけではなさそうなのが伺える。
そんな院長が気付いたように口を開く。
「ところで、お顔を随分怪我されてる様ですが?」
ルクシオンの指示のもとロボットに治療を受けたとはいえテオに何十発も殴らせたのだ。そう簡単に腫れが引くものではない。
どう説明したものかとリオンもアンジェも思案を巡らせるとテオが名乗り出る。
「院長先生その事については俺から話します。あと、その前に……」
テオはリオンに向き直ると勢い良く頭を下げる。
「リオンさん! 一方的に殴りつけてしまって申し訳ありませんでした!」
テオの言葉に院長の纏う空気が変わる。
「……どういう、ことです?」
瞬間空気が軋む様な感じを受ける。
「テオ、あなたアンジェの御友人に手を上げたのですか?」
「待ってくれ院長先生! この件に関しては私の話も聞いて欲しい。そしてリオンが友人と言うのは過去の話で今はその……恋人で婚約者なんだ!」
テオを庇うように割って入ったアンジェの言葉に院長は目を見張る。そしてテオとアンジェと、更にはリオンにも視線を向けると状況を察したように目を伏せ軽く溜息をつく。
「食事の前にする話ではないみたいですね。いいでしょう先ずは晩ご飯を済ませましょう。そして食事が済んだらテオとアンジェは私の部屋に来なさい。あと出来ましたら……」
言いながら院長はリオンに視線を向けると、リオンは察したように口を開く。
「その話し合い、私も同席させていただけますか? 私も当事者ですので」
「お気遣い助かります。申し訳ありません。折角遠いところまでアンジェを送り届けて下さった方にうちの子が御無礼してしまったようで」
院長が頭を下げるとリオンも気にしないでくださいと言わんばかりに頭を下げる。
そしてそれぞれダイニングに向かうのだった。
向かいながらアンジェが何か言いたげにリオンに目をやる。
「何だ?」
「いや、何時もと口調が違ってたから。一人称も俺じゃなかったし」
「そりゃな。目上の人と話すときはそういうもんだろ。アンジェは相変わらず敬語苦手みてぇだけど」
その言葉にアンジェは頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「全く……院長先生は目下に対してもあんなに丁寧な話し方なのに」
リオンの言葉にアンジェは益々気まずそうに視線を逸らす。
そんな会話を交わしながら二人は、ふと視線を感じる。
見れば院長が此方を見てた。それは僅かな呆れと、それ以上に微笑ましげに見守るそんな表情だった。
そんな表情を向けられた二人はアンジェは苦笑いでリオンは会釈と微笑みで返すのだった。
大きなテーブルをこの院に住む全員で囲んでの、賑やかな食卓。
テーブルの中央に大皿に乗って出されたメインの料理をアンジェが仕切って取り分け子供たちに配る。
食べ盛りの子供たちをしっかりと面倒見て取り纏めて見せる様子は正に大家族の長姉と言った貫禄。
本来はテオがその役を継いでいたが、今日は久しぶりの帰郷と言うのもあってアンジェが張り切っていた。
「思った以上にちゃんと姉してるんだな」
「まあな。私が幼い頃は巣立って行った兄や姉の振る舞い見て育ったのもあるからな。それにこの子たちも何れ大きくなった時には兄や姉になって更に下の子たちの面倒見る時が来る。その時の為にも私達がしっかり規範を示さないとな」
リオンが感心したように声をかけると、アンジェは答えながらも手を止める事は無く子供たちの相手を続ける。
「ん? おかわりか? 一杯あるから沢山食べていいぞ。肉も良いが野菜もしっかり食べるんだぞ」
学院では周りは皆同い年か年上ばかりなので、こうして姉としてふるまうアンジェの姿はリオンには新鮮に映った。
「騒がしくてスマンなリオン。夕飯時で特に御馳走が出た時とかはいつもこんな感じでな」
「いや、全然構わないよ。飯は皆で賑やかな方が美味いし」
「そうか、そう言ってくれると助かる」
「ああ……それに」
言いながらリオンが思い出すのは自身の姉。あまり仲が良好ではなく、また学園の女尊男卑の風潮にも染まってて今一つ姉としても尊敬できない存在。
年上の実姉よりも同い年のアンジェの方がよっぽど姉らしい様子に思わず苦笑いがこぼれそうになる。
「何だ?」
「いや。アンジェみたいに面倒見のいい姉を持ってここの弟妹たちは幸せだなって」
言いながらリオンは賑やかな晩餐を楽しむのだった。
食事が済み、一同皆満腹になり一息つくと後片付けを始める。
「さて、後片付けは子供たちに任せて、テオは私の部屋に来なさい。アンジェも。男爵も立ち会いお願いします」
院長の言葉にテオは神妙な面持ちで頷くと、弟妹たちが「どんまい」と手を伸ばし背中を叩く。
アンジェも「私も一緒だから」と肩を叩く。
リオンもまた苦笑いを浮かべながらテオに温かな視線を送り、院長に会釈する。
そして4人は院長の部屋に向かうのだった。
応接間としても使われる院長の部屋。
そこでロ-テーブルを囲む様に四人それぞれ椅子に腰かけてる。
テオの口から事のあらましを一通り聞いた院長は手の平を額に当て軽く溜息をつく。そして真剣な面持ちでリオンに向き直り頭を下げると、テオもまた深く頭を下げる。
「うちのテオがご迷惑おかけして本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、気にしてませんから頭を上げて下さい」
「そう言う訳には参りません。ましてや平民の身で貴族の方に手を上げるなどあってはならない事です。そして子供の不始末は親代わりである私の不始末でも――」
「その事についてですが、この件に身分問題は持ち込みたくないのです。既にお話してますが私はアンジェと添い遂げるつもりです。そうなればアンジェの育ての親である貴方や弟のテオ君は義理の家族同然になります。なので今回の件はあくまでも身内の揉め事として納めていただきたいのです」
「ですが――」
「それに、妻になる女性の男兄弟との衝突というのは言わば通過儀礼の様なものですから」
言いながらリオンが微笑んで見せると、院長もそれに応えるように微笑みを浮かべる。
「寛大な処置に感謝します。とは言えけじめも必要ですので……」
「あまり重くしないであげてください。テオ君も頭を下げてくれて私はそれで十分ですので」
「そうですね……」
言いながら院長は視線をリオンからテオに移す。
「しばらくは掃除や家事雑務は多めに担ってもらいましょうか。詳しい話はまた後程……。あと、テオ。バルトファルト男爵の御配慮に感謝忘れないように」
院長の言葉に促されるようにテオは頭を下げる。
「ありがとうございますリオンさ......バルトファルト男爵」
「いいよリオンで。あと、出来れば院長先生もそう呼んで頂けないでしょうか」
「解りました。リオンさん」
そう言って院長はリオンに会釈し、そしてアンジェに視線を移す。
「アンジェ。とても好い人と巡り合えましたね」
「ハイ! 自慢の恋人で婚約者です!」
アンジェが嬉しそうに答えると院長は満足げに目を細める。
「リオンさん。アンジェのことくれぐれもよろしくお願いします」
「はい。責任をもって幸せにしてみせます」
リオンの言葉にアンジェは益々嬉しそうに顔を綻ばせるのだった。
そうして話も一段落つくと院長がドアに視線を送る。
「どうやら子供たちも痺れを切らしてるようですね」
院長の言葉に促されるようにドアが開かれると子供たちが顔を覗かせる。
「アンジェの久しぶりの帰郷に子供たちも話を聞いたり遊びたいのでしょう。此方の話も一段落ついたので相手してあげなさい」
アンジェは「わかりました」と答えながらリオンにも視線を送ると笑顔で返してくれたので二人に会釈し子供たちの方へ向かうのだった。
リオンはアンジェを見送ったあと「院長先生」と声をかける。
その様子に院長は察する。
「テオ。私はもう少しリオンさんとお話しすることがあるので、あなたもお行きなさい」
院長の言葉に頷きテオもまた部屋を後にするのだった。
多分次でアンジェの帰郷編終わりです
……多分
総文字数で、カーラif越えてましたね。お陰様で思った以上に長く続けさせていただいてます。ありがとうございます。